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あなたが世界を愛さずとも  作者: 甘
春日野について
11/43

岐路⑵




満を持して、春日野の出番だ。


アイルに「がんばって」とエールをもらい、かわりばんこに着席する。



アイルとは対照的に、春日野のアクセサリーは華奢なものばかりだ。


花柄のブラウスの上に申し訳程度に輝きを放つ、小さなブローチ。おろしたストレートロングに隠れた、草花をモチーフにしたイヤーカフ。


プラチナで合わせたそれらは、あくまで縁の下の力持ちとしてコーディネートを引き立てていた。




「お願いします」


「うん、妃希ちゃん、早速いくよ」


「はい」




位置についての合図。スタートを切るのは、お決まりのシャッター音。ひとたび始まると、規則的な間隔で少女に光を浴びせる。


春日野は一発目から、寒暖差を微塵も感じさせない笑顔を向けた。あまり大きく動かず、微妙な変化をつけてカメラと対峙している。


基本、服を持ち上げブローチを際立たせるか、笑うかのどちらかだった。



さっきの、アイルのほうが上手ではないだろうか。


もしや、表情やポージングのレパートリーが少ないのか? 専属モデルに昇格するのに?



遅咲きの違和感が芽生えていく。


春日野には悪いが、ビジュアルもモデルとしての意識も、アイルのほうが上だろう。年齢、芸歴ともに負けている春日野を、先立って成り上がらせるのはなぜなのか。そんな春日野と仲良くできるアイルの気持ちもわからない。


俺だったら悔しくて、苦しくて、目も合わせられない。実際、同期の選手仲間とは疎遠になった。俺のほうから離れたのだ。それしか自尊心を保つ術がなかった。




「イイッ! いいよ! いいね、妃希ちゃん! 最高だよ!」




スタジオ内に熱気がこもった。カメラマンの興奮が伝染し、スタッフ、モデル、そして俺にまで伝わってくる。


今日イチのテンションだ。いきなりどうしたんだ?


気になってパソコンのモニターを盗み見た。



ブローチを持ち上げていた指が、悠々と下がっていく。長いまつ毛が下を向き、涙をたたえるようにまばたきを1回、2回。


指どおりのよい髪の毛が、はらりと肩からすべり落ち、輪郭を覆う。



――カシャッ。



指がまた上がってきた。細い指先が、顔にかかる髪の毛をさらった。数本取りこぼした黒髪と、まつ毛の影がかぶさる。



――カシャッ。



髪を耳にかけた。顎から首にかけての角度が開け、理想的な骨格をあらわにする。ゆらり、澄んだ瞳がカメラのレンズを捕らえた。


きっと、この場にいる誰もが、どきっとした。



――カシャッ。



背筋をぴんと張る。イヤーカフのなめらかなラインをなぞりながら、うしろ髪を巻きこみ、宙に払った。カメラのライトによって、髪がいっそう艷めく。


ブローチを一度見つめると、赤とピンクのグラデーションに彩られた唇が、まあるくほころんだ。



――カシャッ。



絶好のシャッターチャンス。



ドキドキした。


シャンプーのコマーシャルのような清らかなきらめき。90年代のフランス映画のようなレディのたしなみ。英語のバンド名のイカしたミュージックビデオのような描写の数々。新進気鋭のアート作品のような唯一無二の存在感。どのカテゴリーにも自然とあてはまってしまう力があった。


息を吸うのも忘れていた。完全に囚われていた。蝶も花もたぶらかす、この異世界に。



これは……プロも興奮を抑えられないわけだよ。


春日野。なんてやつだ。



うまいどころじゃない。もちろんさっきの、アイルの画もうまかった。ちょっとした仕草で、アイル自身とアクセサリーの魅力を惜しげもなく披露していた。


しかし、ちがうのだ。春日野はそうではない。


アイルとはまったく異なる魅せ方で、まんまと引きずりこませたのだ。


といっても、素人にはその“魅せ方”とやらが何なのか、具体的には言語化できない。ただ、一挙手一投足から目を離せなかった。離してはいけないと、本能が告げていた。



ああ。この際、はっきり言おう。


俺は春日野に――中坊のガキに、見惚れていたのだ。




「わあ……!」


「すてき! なんてきれいなの……」


「これは決まりだね」




画面に大きく春日野が写った。


最後のシャッターでおさめられた写真に、スタッフの視線が集まる。カメラマン、他のモデルの子までもがそそくさと見届けに来ていた。



引き立て役だったブローチとイヤーカフは、画の中央で光り輝いていた。まごうことなき、主役級の輝きだ。


きれいな体のラインの邪魔をしないよう、黒髪が舞う。気品あふれるお嬢様の風格ある微笑みに、あどけなさをプラスするメイク。それらは陰るどころか美麗さを増しているにもかかわらず、自然とアクセサリーを注目させていた。



モデルというより、名女優を彷彿とさせるオーラがあった。雑誌の1コマではなく、映像の1シーンを切り取ったような。


そっちのほうが春日野は活きる気が――って、マネージャー1日目の分際で、芸能人を推し量るなんて何様だ。アマチュアがプロを語ってんじゃねえ、俺!




「妃希ちゃん! 今のすっっっごくよかったよ!」


「ほんとうですか? よかったです」


「よし! この流れで次もいいの撮っちゃおう!!」




カメラマンのテンションが上がり続けている。春日野は引くことなく大人の対応をし、別室へ移動した。


全員上半身とヘアスタイルを様変わりさせ、またスリーショットをきめる。あと5着だよ、とスタッフに声をかけられ、女の子たちはやる気を出した。かくいう俺は、5着もあるのかと肩を落とす。そろそろ忍耐力が尽きてきた。




「女子会コーデだって」


「妃希ちゃんのキャミかわいいね」


「アイルはポニテにしたの? 似合ってる!」


「ありがとう! あたしも気に入ってるんだあ」




女子会……?


テーマは、かわいいとかっこいいは共存できる。らしい。脳内に疑問符が足された。



アイルは高い位置でポニーテールをつくり、ショートパンツとジャケットのセットアップで着飾っている。


そんな彼女のポニーテールをいじる、キョウカという名の女の子は、三つ編みをし、全身ベージュ系統の古着を身につけている。


そして春日野は、頭に太めのカチューシャを乗せ、首元のしまったシャツにニット素材のキャミソール、下はスキニーでシンプルにまとめている。



これが女だけの集会に参戦するための、イマドキの一張羅なのだという。


かわいい、おしゃれ、良い。それくらいしか判断つかない。知識の乏しい俺には、ファッションはむずかしい。



好みでいえば、身内贔屓なしに春日野だろうか。なんとなく写真の中で目にとまったのが、春日野の恰好だった。


ひとりショッピングコーデも、家族でお食事コーデも、春日野の服装に惹かれた。3人のうち春日野だけが目立っているわけじゃない。逆に控えめなほうだ。



単純に、春日野がタイプ、とか……?


いや。いいや。それはない。と、思いたい。



俺はロリコンではないし、付き合うなら断然年上派。なんなら胸より尻派だし、パンツスタイルよりタイトスカートのほうが個人的にうれしくなる。


だからタイプとはちがう。断固として反論したい。とはいえども、他に理由が見当たらない。



そうこうしているうちに、着回しコーディネート企画は最終局面を迎えていた。最後を飾るのは、意中のカレとのデートコーデだ。




「いよいよ彼ウケコーデだね」


「キョウカ、デコルテきれー!」


「ダイエットがんばってるんだ。聞いて! 今朝測ったら、2キロ痩せてたの!」


「ええ! すごおい!」




俺の好みのタイトスカートは、アイルが履いていた。すらりとした長い足に、ピンヒールがよく似合う。


カメラが光った。




「タイトスカート、いいんだけどな……」




けど。それでも。


なぜか、やっぱり、目につく。引力に誘われるように、視線を奪われる。


カメラを見て笑う、春日野のコーディネートに。



デザイン性のあるフリル付きのリブニット。ビンテージのデニム。ユニークな靴紐が見え隠れするスニーカー。ゴールドの装飾が施されたショルダーバッグ。



好ききらいは、もはやあと付けに近い。どうしてもまず彼女の服が気になってしまうのだ。彼女が、ではない。彼女の服が、だ。


それからじわじわと、好きかもなあ、と思い始める。



タイトスカートもいい。好きだ。けどなあ、なんだかなあ……。


催眠にかかっている気分で、もやもやした。




「あの……いつもこうなんですか?」




たまらずスタッフの一人に問いかけた。


ファッション誌と画面を見比べていた女性は、首を傾げ、愛想よく応える。




「こう、とは?」


「あの、ええっと……春日野の服が……」


「……ああ、なるほど。マネージャーさんもですか」


「も、って」


「ほとんどの方が同じ気持ちですよ。妃希ちゃんの着ているコーデに感心を持たれるんです」


「毎回ですか?」


「そうですね……。先月、先々月ともに、妃希ちゃんに用意したお洋服が群を抜いて売れています。ですが、妃希ちゃん自身の人気とは比例していないんですよ」


「それは……」


「ふしぎですよね。わたしたちにもよくわからないんです。……でも、妃希ちゃんはいつか人気も手にすると思っています。編集者の間では、次期ホープと勝手に呼んでいて。期待、してしまっているんですよね」




次期ホープ。どでかい期待値。


少し前の俺そのものだ。



春日野は俺みたいに堕ちるなよ。せっかく実力があるんだ。だから。どうか。



カメラに向かってかわいらしくほほえんでいるモデルたちを、ぼんやりと見据える。


スタッフからの重圧ある羨望に気づきもせず、春日野は軽やかに動いては、いとおしげに頬をローズピンクに咲かせている。


治ったはずの右半身が、ひりひりと痛み出した。スーツの繊維を縫って冬風がほのかに触れる。妙に生ぬるく感じた。





「――マネージャー? 雪マネージャー」




はっ、と喉を引き締めた。


目の前には春日野の顔があった。目の焦点が合うと、心配そうな表情が力なくほぐれていく。



いつの間にかシャッター音は止んでいた。


腕時計を見やれば、正午を回っている。


スタッフは片付けの作業に取りかかっていた。殺風景になりつつあるスタジオ内で、俺だけがあの焦がれるような衝動から抜け出せずにいた。


春日野も、衣装から私服に戻っていた。白のニットに、チャコールグレーのオーバーオール。ボーイッシュな服装だ。あ、これは、メンズライク、と呼ぶんだっけか。




「どうかしましたか?」


「い、いや……」


「撮影終わりましたよ」


「そ、そう、ですか。では次の現場に移動しましょう」




はい、と春日野は返事をし、スタッフとモデル仲間に会釈をしながらスタジオをあとにする。


前を歩く黒髪に、巻き跡が残っていた。ふわふわとやわらかくなびいている。光は焚かれない。撮影は終わったのだと、ようやく実感できた。



地下駐車場に停めておいた車に乗りこんだ。事務所から支給された、最新型のハイブリッド車だ。傷のないシルバーの外装に、若葉マークを貼り付けるのはなかなか胸が痛い。


慣れない手つきでエンジンをかける。助手席では、春日野がスケジュールを確認していた。ナビを操作しながら俺は尋ねる。




「次は、六本木でしたよね」


「はい。ウェブドラマのオーディションで……ですが、あの、マネージャー」


「なんですか?」


「敬語じゃなくていいですよ」


「いや、しかし」


「年下に敬語は使いづらいでしょう?」




図星だった。苦笑する彼女に、あー、えー、と声を詰まらせる。うまい言葉のひとつも出てこない。


少し迷った末、お言葉に甘えることにした。




「えっと……で、どんなことをするのか聞かされてるのか?」


「ひとことふたこと言うだけだそうです」


「セリフは? 自由?」


「なんとなくは決まっていますよ。自分を好きになれるとか、隣にいたいだとか。主役の方に自分の思いを切実に伝えるシーンみたいです」




彼女にとって、これがはじめてのオーディションだ。


うちの事務所にスカウトされ入所し、読者モデルとしてデビュー、その後トントン拍子に進んできた。


演技自体、ほぼ未経験。事務所のレッスンを積んでいるとはいえ、春日野自身にも若葉マークが付いている。



緊張しているようには見えないが、さすがにしてはいるんだろう。初挑戦というのは誰でも緊張するものだ。


俺もはじめての大会はそうだったな。スタートからミスしたのが苦くもなつかしい。もう昔の話だ。あのころは、スーツを着て運転することになるとは思わなかった。



そもそもこのドラマのオーディションは、社長から勧められたものらしく、受けるだけ受けてみろと、至って気楽な考えで資料をもらったと聞いた。


スポンサーを持ち上げる企画とうわさされているからこその考えなのだろう。何事も経験だ。受からなくても、その経験が活きるときがいつかきっとやってくる。アレだ、失敗は成功のもとってやつだ。



アクセルをぐっと踏んづけた。おっと、まずい。すぐに足裏の力を抜いた。そうそう、これも経験、経験。冷や汗をかきながら駐車場を出た。




「どんなふうに演じるのか、プランはあるのか?」


「そうですね……」




オーディションで春日野が受ける役柄は、一度自信を失った、健気な少女。趣味を見つけたことを機に、明るさを取り戻し、あらゆる「好き」と出会っていく。


そんな子が自信を持って思いを告げるとしたら。


その子が、春日野だったなら。


きっと……10代ならではの、等身大の気持ちをありのまま届けてくれる。


痛くもやさしい純粋さを武器に、潤いのある眼差しを送り、ひかえめにはにかむ。まぶしいくらいきらきらして、どきどきして、そしてこう言うのだ。



――自分を好きになれる気がした。


――これからも隣にいたい。



と、そこまで想像し、先ほどの撮影にだいぶ引っ張られていることを自覚した。我ながら影響を受けすぎだろう。


くすりと笑う声がした。




「たぶん」


「ん?」


「マネージャーが想像しているとおりの演技になると思いますよ」


「え」




あれ? 俺、今、声に出していたか? いや、出てなかった、はず。


心を読まれた? 顔に出てたか? 運転に集中していたし、とりわけわかりやすいタイプでもないと思っていたけど……。



彼女はただ口角を上げ、オーディション資料に視線を落とす。車窓に反射するその横顔に、色はなく、考えを読み取れない。


ふしぎだ。すべてを見透かしているふうなのに、いやな気はまったくしない。


気づけば意識せずとも、タイヤをすうっと静かに滑らせていた。



途中でコンビニに寄り、昼食を買った。ゲン担ぎにかつ丼を2つ。車に匂いがきつく染みついてしまったことだけが誤算だった。


食べ終えてから車を走らせること30分。六本木にあるテレビ局に到着した。


ここの一室でオーディションが実施される。今回はヒロイン役のみだそうで、規模は思ったよりも小さかった。


書類選考で選ばれし者が、ここに集う。ざっと10名以上はいた。参加者以外はオーディションに立ち会うことはできない。マネージャーたちには別に、待機室が用意されてある。


春日野にはとにかく「がんばれ」とだけ伝えた。それしか言えないのか俺。



1時間半ほどして参加者が戻ってきた。落胆している子、満足気な子、泣いている子までいた。


そのなかで、ひとり、明らかに異質な子がいた。――春日野だ。


周りとは顔つきがちがう。淡々としているようにも、ふてぶてしいようにも見える。しかし、やはり、読めない。いい意味で浮いていた。




「ど、どうだった?」




どうして俺のほうが緊張しているんだ?




「わたしなりにがんばれたかと」


「そ、そうか! よかった! け、け、結果は……?」


「今はまだ。1週間後あたりに連絡がくるそうです」


「そ、そうか……」




よかった、と同じ単語を繰り返しかけ、はっと口をつぐむ。


なんもよかねえだろ。どんだけテンパってんだ。




「マネージャー、行きましょ?」


「っ、お、おう」




これじゃあどっちがサポートしてんのかわかんねえな。


胃がきりりとした。かつ丼が脂っぽかったせいか、それとも……いいや、それしかないだろう。


車に戻ると、油の匂いがむわっと漂った。




「これで今日の仕事は終わりだな。お疲れ様」




窓を半分開けながら、スケジュールに再度目をとおす。


俺の担当はまだ春日野ひとりだけのため、自動的に俺の仕事も終わりということになる。あとは事務所で報告書を書くだけだ。




「家まで送ってくよ。家どこだっけ?」


「あ、いえ、事務所で降ろしてもらえれば」


「遠慮するな。送迎もマネージャーの役目なんだから」




と、マニュアルに書いてあった。


今朝は現場に向かう前に新人研修があり、迎えにはいけなかった。次からはきちんと送り迎えするつもりだ。それが今の俺のすべきことなら。




「本当に大丈夫ですよ?」


「いやいやいや! 最近暗くなるの早いし、もうすでにちょっと暗いし、危ないから」


「……そう、ですか?」




春日野は恐縮そうに折れてくれた。


今までは送迎はなく、電車で行き来していたようだ。小さな事務所で、彼女もまだまだ新人だからか、俺みたいにちゃんとしたマネージャーがついたこと自体はじめてなんだそう。



素直にうれしい。けど、ちょっと怖い。


1日同行しただけでも、彼女がどれだけすごい人なのかわかった。そんな子の初代マネージャーに俺なんかがなってよかったのだろうか。


地に足をつけて間もない、この俺が。




「あ、次は右です」




その声にあわててハンドルを切った。住宅街に入っていく。


夕焼け空がうすく陰り出す。公園では小さな子どもたちが元気よく走り回っていた。


都会すぎず、田舎すぎず。庭の凝った家もあれば、時代を感じる古民家もある。いい町だ。ここで彼女はすくすく育ってきたのか。


うらやましい。すごく。ものすごく。




「あそこです。あの、青い屋根の」




曲がり角の手前、きれいな外観の一軒家。表札に「春日野」と彫られてある。いかにも春日野が住んでそうな家だなと、なんとも語彙力のない感想が浮かぶ。


車を停めると、彼女はお礼を告げ、シートベルトを外した。




「一応ご家族に挨拶したほうがいいか?」


「そんな、そこまでしなくてもいいですよ。それに、まだ親は帰ってきていないでしょうし」


「ああ、それもそうか。じゃあ、明日また迎えに来るから」




彼女は軽くうなずき、車を降りた。窓ガラス越しにわざわざ一礼してくれる。通りかかった近所のおばさんにも一礼し、ようやく家へ入っていく。


開かれた扉から、一瞬、玄関が見えた。赤い陽が差しこむ。



……ん?


玄関に何か物陰がある。空き缶らしき物がいくつか転がり、空の弁当箱らしき物が積み上げられていた。



バタン。扉を閉められた。



今の……そう見えただけで見間違いだった、かも。物陰が変に伸びてただけ、かも。はっきり見えたわけじゃないし、たぶんそうだよな。うん。


あの子の家に限って、んなわけがない。


油としょうがの混ざった匂いが、脳を翻弄している気がした。




「はあ、俺、疲れてんな」





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