Episode 9 熊
短いけど何度も書いて消しちゃって心折れたので許して下さい
…………それから草刈りと山の木の間伐を始めて一週間が過ぎた。
「もうこの山には切る木も草もないな……」
除草作業も間伐もやり尽くし手入れされた山を見上げて思案する。
切った木は50本超えたし、雑草はトラック何台分あるのか分からない。
「木は売れないって言ってたから、枝は落として粉砕機で粉々にしてチップにして雑草は肥料にでもするか……」
間伐と草刈りをしていると意外と廃棄する品が増え、廃棄に必要な金額を聞くと身が震えた。
「木も何かに使えれば良いんだけど」
異世界なら柵やら物見台やら使い道も多いのだが……。
「とにかくテリトリーを増やさないとな……確か南の山は良いって言ってたよな」
山下さんは自分の山を好きにして良いというだけでなく、周辺の山の持ち主の入山許可や間伐、除草の許可を取ってくれていた。
「確か増え過ぎた竹林は可能な限り全て伐採希望だったな。他は好きにしてくれて良いか……取り敢えず下見だな」
山を移動して一時間。
「くっ、熊だ!」
背の高い雑草の向こうから叫び声が聞こえたと思った瞬間、
ズドォオォォォォン!
突然鳴り響いた発砲音と共に脇腹辺りへと強い衝撃が加わる。
「ぐへ」
妙な声が漏れた。
「へっ?人間?マズい、警察を呼ばなければ!」
「普通先に救急車だろ!って違う!」
草むらから飛び出してきたおじさんの手から携帯電話を取り上げる。
「ひぃ……生きてる!?」
人を撃っておいて酷い反応である。
「死んでたらおじさん人殺しになるよ」
「はっ、そうだった!?」
何?わざと撃ったの?
「それよりこの山には熊出るの?」
地元の山に熊が出るなんて聞いたことないが……まさか異世界に行っている間に……。
「えっ?熊……この辺りの山では聞いたことないなぁ……」
「じゃあ何で撃ったの!?」
「熊だと思ったんだよ」
とんでもないおじさんだった。
「実はわたし、街でジビエ料理の店を経営してまして」
渡された名刺には、
「ジビエ料理専門店くまにく?熊肉が食べれるの?」
「いや、さっきも言ったけど熊はこの辺りにいないから」
名前が……熊田プー……痛い名前付いてるな。
「店にはだいたい猪の肉だね」
「猪は確かにこの一週間たくさん見たな」
「よく無事だったね君……」
猟銃で撃たれるよりは安全なんだよね!
「それで君は何をしにここの山に?」
「山下さんの伝手でこの山の間伐とか除草しに来てるんですよ」
「君が夢咲くんか、竹林の方宜しく頼んだよ」
満面の笑みをしているけどこの人は人を撃ったの忘れてるな。
「じゃあ、その散弾銃でズタボロになった服の請求書だけ回しておくんで宜しくッス!」
プーおじさんの顔は盛大に引きつるのであった。