Episode 7 木樵は……。
あれから頬をぶん殴られた俺はなんとも無かったのだが殴った晃は拳を痛め病院に戻っていき、走って帰宅する事になった。
その道中、
「それにしても山の草木が繁り過ぎてないか?」
良く言えば自然豊か、悪く言えば手入れが出来てなくて人が住む場所としては調和が取れていないのだ。
「にいちゃん、そこで何をやってんの?」
「おっ、山下のおっちゃんじゃんか!久しぶり!」
山下さんはこの辺りで相談役みたいな立場だった人だ。
「あんた夢咲さんとこの倅じゃねぇか、死んだって聞いてたんだが……」
「色々あってね。それよりこの辺り昔はもっと手入れされてたなって見てたんだけど」
「そりゃ、仕方ねぇ。若いもんがいないし儂ももう出来んけぇの」
異世界に行く前に見た山下さんは高齢ながら若い人以上に動き、周囲の草刈りなんかを率先してやっていたがそれから15年も過ぎているのだ。
「役場にお願いしても年1回しか出来ないとか言ってやってくれんしの」
「こんな人が通る山道でも年1回しか草刈ってくれないの?」
「役場ってのはそんなもんだ。予算ってのもあるしの」
木々が大きくなり過ぎたり増え過ぎると光が地面に入らなくなるし、木々が干渉しあって形質不良になるのだ。
勿論、光が入る山と入らない山では動物や昆虫、その他の植物の生態系にも関わるので間伐など人の手が必要なのである。
「ここ誰の山か分かる?」
「ここらは儂の土地じゃ。相続する者もおらんけぇ儂が死んだら終いじゃ」
「じゃあ、俺が草刈ったり木を切ったりしていい?」
「好きにせぇ、なんなら土地ごとやるわ。金にはならんのに税金ばかり要るけぇの」
それも悪くないし使い道も無い事はないのだが……。
「土地に関しては今度にして、適当に木も草も切らせて貰うね」
「あんまり期待せず待っとるわ」
普通に考えれば1人でどうにかなるものでは無い。
「ははは、期待せず待っててよ」
と山下さんを見送った。
「どうせ無職どころか社会的には死んでるんだ、少しやらかしますか!」
空間魔法から一本の斧を出す。
「道路の周りは全部抜いて低い別の植物でも植えるかな……ふん!」
と慣れた手付きで斧を振る。
ガガガガガガガッ……。
1振りで斧は木の幹を上下に切り裂いて、静かに音をたてながら倒れていく。
「まずは一本!」
木々の間隔は5メートル以上とし間隔の狭い木は曲がりの多いものから適当に切っていく。
「木樵は木〜を抜く〜♫へいへい……どりゃあ!」
と叫びながら切り株も抜いていく。
一時間後。
急に後ろからドンと強い衝撃を加えられ驚いて振り返った。
「ぶふぅ!」
俺にぶつかってきたのは1メートルを有に越える非常に大きな猪だった。
「驚いただろ、近くに巣でもあるのか?」
別に痛くはなかったので斧をひとまず近くの木に持たれ掛けさせる。
「ぶふっ!」
猪に見向きもせず斧を置いた事で更に猪は突撃してくる。
「ええ加減にせぇよ?」
俺はがしっと猪の頭を掴み目を合わせて睨みつけた。
「っっ!!」
猪は必死になって頭を左右させて俺から逃げようとするが、しっかりと頭を掴んでいるのでビクともしない。
「…………猪って美味かったよな」
ちゃんと処理した猪の肉は結構美味なのだ。
「向こうで魔物の解体とかやってたし自分で処理出来るな」
なんて独り言を言っていると、今は見たらいけないものが目に入る。
「ぷひっ!ぷひぷひ!」
と子供の猪たちが鳴きながら寄ってきていた。
「うり坊が5匹……人が入らない山なら天敵もいなかったんだろうな」
流石に親猪を食べ物に困っている訳でもないのに殺すのは躊躇われる。
「仕方がない……逃がしてやろう。もう人に近付くなよ」
親猪の頭を握っていた手を離してやる。
「ぶひっ!!」
ガフっと俺の手を噛む親猪……。
「何をしてくれとんじゃあ!」
噛みつく手を振り解こうとしても離そうとしない親猪を横殴りにして吹き飛ばした。
「次に会ったら覚えとけよ」
と気絶した猪に捨て台詞みたいな事を言い放って放置して木樵を再開したのだった。
猪は雑食です。
危険なので近付かないようお願いします