Episode 6 病気を治そう
「治しなくないってどういう事?」
晃の娘の真理の返答に晃が信じられないといった表情で我が子を睨みつける。
「落ち着け馬鹿」
凄む晃を抑え真理に向き合う。
「でも……」
「いいから俺が話をするから冷静になれよ」
複雑な顔で縋るように俺を見る晃。
「君は病気だね?」
俺の言葉にコクリと頷く真理。
「病気を治したくない理由を教えてくれないかな?」
「………………」
黙り込む真理。
「ちゃんと答えなさい!」
晃が話に割って入ってきた。
「晃、部屋の外に出てろ」
「なんでよ、私はこの子の母親よ!」
「母親だから冷静になれないんだろ?心配は分かるがちゃんと話が聞けないなら今はこの場にいらない」
はっきりとそう言うと晃は鞄を掴み部屋をそっと出ていった。
「飲み物でも買ってくるね」
病室の戸が閉まると改めて真理に向き直った。
「……お母さんと付き合ってるの?」
「それは無いな。勘弁してください」
真理の突然の質問に俺は即答する。
「お母さん美人だよ?」
「おいおい、君のお父さんは?」
「君じゃなくて真理だよ。それにお父さんはわたしが赤ちゃんの時に出ていったって……お母さん気が強いから」
否定は出来ないが口に出して肯定もしにくいな。
「じゃあ、真理ちゃん。さっきの話だけど病気を治したくないっていうのはどういう事かな?」
「………………」
表情を見る限り言いたくないというよりは何と言ったら良いか分からないといった感じだ。
「難しく考えなくてもいいから思っている事を言って欲しい。お母さんに話さないでというなら適当にはぐらかすし」
「じゃあ、お母さんには言わないで欲しいんだけど……」
そう言って真理が語ったのはこの一年、入院してからの話だった。
「入院して検査が続いて何度もなんでわたしがって落ち込んでいた時期があったんだ……でも、わたし以外にも病気と戦っている子供がここに沢山いるのを知って、自分より小さい子供たちもたくさんいて……」
「そんなに子供がいるのか?」
「小児やってて大きい病院ってあんまり無いから」
これも子供が少なくなった事が原因なのだろう。
「そう言えばおじさん、どうやって病気を治すの?」
「ぐはっ……おじさん……」
「そんなにショック?でもお母さんと同じ歳なら40……」
自分では忘れがちだが世間的には40歳、実際は30歳、更に肉体は25歳なのだ……複雑。
「その話は止めよう。それより話を続けて」
ふふふと笑って真理は話を続ける。
「やっぱり病気の子供が集まるって事で七夕とかクリスマスとか色んなイベントの時に他の子たちと合うの……それで仲良くなって……」
つまりは自分だけ治るのに負い目を感じているのだろう。
「それなら何とかなるかも知れないな」
「何とか?って……どうするつもり?」
「さっきどうやって病気を治すのかって聞いたよね?それはこの怪しい薬を使います」
「怪しいって言ってるし!」
何もないところからマジックのように瓶を出したのにそれは無視である。
「この怪しい薬は生きたまま全身が石化する病気や化け物になる病気まで完全に治すヤバい薬なのです!」
どや!っと薬を掲げる俺を恐怖の顔で見る真理。
「そんなヤバい病気聞いたことないけど!?」
「いやぁ、俺って他の世界に神様に拉致されて色々やらされてたんだよね。ほらお母さんと同じ歳なのに妙に若すぎるって思わない?」
「色々ぶっちゃけましたね……」
よし、混乱しているうちに叩き込むとしますか。
「よし真理ちゃん、ここの子供たちに一服盛りに行こうぜ」
「この人本気でヤバいんだけど……」
「病気が治るんだから良いんじゃない?」
そうやって真理を連れ出すと小児病棟の子供たちの全員のところを回り、薬をジュースに混ぜて飲ませるのだった。
「じゃあ、俺は帰るから」
「えっ?わたしの治療は?」
「仲の良い子と話してる時に飲んだジュースに一服盛ったから」
酷い話である。
「えっ?」
「身体の調子はどう?」
「なんともない」
まさか効いてないのか?と一瞬焦るが、
「身体に違和感が全くないの!気怠さも何もかも!」
どうやら効果はあったようで安心した。
「じゃあ、お母さん通してでいいから他の子たちもどうなったか教えてね。宜しく!」
それだけ言い残して病室を出ようとするが、
「待って!これから病院大騒ぎになるよね!?」
脱出失敗か!?勘の良いガキは……いや何でもない。
「大騒ぎ?……なるね!じゃあ逃げます!」
なんか呼び止められた気もするが早足で逃走する……。
「あっ、恵吾!真理は何て言ってたの?」
「今はその話は出来ない!逃げるぞ晃!」
「ちょっ!何をやらかしたの!ちょっと答えなさいよ」
晃が軽トラに乗るまで黙秘を貫き通すが事情を話すと晃は俺の頬に貫かんばかりの左ストレートを繰り出すのだった。
良い子の皆さんは決して
人に一服盛ったりしてはいけません。
お兄さんとの約束だよ。