Episode2 家族会議
天気悪いですね。
背中の汗疹が痒い……(泣)
「……という訳で異世界に行ってたんだ」
と今までの経緯を家族である祖父母と両親、そして妹へと説明したのだが……。
「そっか、異世界へ行ってたのね」
と即座に妹が納得し、
「世の中には不思議な事があるのだな」
と両親も疑う素振りすらない。
そして祖父母は、
「たまにくらいは帰ってこれなかったの」
と理解した様子は無い。
「なんで皆んな納得してんだ?」
普通に考えて異世界へ行っていましたなんて言って、そうですかなんて言える訳がないと考えていると、
「そりゃあお前が異様な程若いからだ」
父からそう言われて鏡を渡されて自分の姿を帰還後初めて見る。
「そりゃあ俺は5年、皆んなは15年経っているんだから……あっ!」
自身の姿を見た途端、俺は異世界でやらかした重大な事件を思い出していた。
「そういえば向こうで若返りの薬を使って5歳くらい若くなったんだった……」
「「「若返り!」」」
その言葉に即座に反応したのは妹、母、祖母の3人だ。
「お兄ちゃん?それでその薬はどこ?」
「あんた素直に出すならそれで良いのよ?」
「贅沢は言わないけど、10歳くらい若返れるかの?」
……目がとても怖い。
「若返りの薬なんて持って帰ってないからね?だいたい荷物は空間魔法に収納していたから回収出来ないし……あれ?」
服が異世界に喚ばれた時の物になっていたので所持品は回収されたのだと思っていたのだが……。
「……空間魔法がまだ繋がってる?」
俺の右手は何も無い虚空に肘まで入っていて、そこから腕が無いように見える。
「………………(全部ありそうだな)」
中身を確認すると入れた物はそのまま入っているようだ。
「持ってる顔してる……」
「いや、持ってないよ!?」
時々鋭い妹に慌てて答えたがこれが良くなかった。
「あんた持ってるわね。わたしを誰だと思ってるの?あんたの母親よ」
執念なのかそれとも別の何かなのか、異世界で遭遇した魔物より怖い。
「いや、持ってないし……」
あくまで持っていないと主張する俺。
「恵吾、これはあくまで仮定なのだが聞いてもいいか?」
不毛な争いになろうかと思ったその中、突然話に参加したのは父だった。
「もしもの話でだが本当に恵吾が若返りの薬を持っていたとする」
もしもを強調して冷静に話す父に、妹も母も少し冷静になってきたようだ……祖母は……寝ているようだ。
「それを使うとどうなるのだ?」
「どうって……肉体が若返る。簡単に言うとそうなるけど副作用も当然ある」
「「副作用!?」」
妹も母も本当に使う気だったのか本気で引いている。
「具体的に言うと副作用はどんなものだ?」
「俺が飲んだのは1週間くらい剥げそうなくらい頭が痛い」
少し……いや、それなりに髪の毛が後退してるの父が悲しそうな顔をする。
「急に身体が若返るんだホルモンバランスも崩れるし脳にも負荷がかかるみたいだな」
「お兄ちゃん……そんなに危ないの?」
妹よ、まだ止める気にならないのか?
「腹を槍で突かれて穴空いた時の方がまだマシだったな」
治癒用ポーションがあったから大丈夫だっただけなのは秘密である。
「それだけじゃないぞ、2人がその薬を使うと本気で嫌な思いをする」
「どういう事なのよ」
「間違いなく整形を疑われるな」
自身でさえもデリカシーゼロと思える最低の1言に表情が凍りつく妹と母、しかしそんな2人に敢えて追い打ちをかける。
「ただでさえ田舎は毎日のように顔合わせる人も多いし距離感が近いんだ、だから見慣れた顔が急に変わるとどう思われるかは考えるまでもないよね」
そうだ……俺のようにずっと居なかった人間なら変化にまだ寛容だろうが。
「お前は自分だけは大丈夫だろう、姿を消していたんだからとか考えているんじゃないか?」
父は見通したように俺の目を見て言った。
「そうだけど……だって15年だよ?」
「そう、15年経っているんだ……25歳で恵吾は突然消え、今は40歳なんだぞ?」
「あっ」
言われて俺は父の言っている事に気付いた、
「25歳から薬で5歳若返って5年を異世界で過ごした……つまりプラスマイナスゼロだけど、こっちでは15年経っているのか!」
「それに恵吾、お前はどう鍛えたのか身体が凄く引き締まっているように見えるな」
確かに俺は太ってはいなかったがスポーツなどは特にやっていなかったよで、それなりの体型をしていたのだが……。
「今はお兄ちゃん細マッチョだもんね」
「細マッチョの童顔の息子40歳……ぷぷっ」
妹と母は俺をいじって吹き出している……。
「お前ら、そんな事より大事な事があるんじゃないか?」
それまで黙っていた祖父は至極真面目な顔で言った。
「恵吾は世間様では死んだ事になってるし、葬式もしたんだぞ」
「「「あっ」」」
両親と妹は固まった。
「俺が死んだ事になってるって……葬式!?」
「行方不明になって7年経つと死亡した扱いになるんだぞ」
「という事は戸籍も免許証も何もかもが無いって感じ?」
頭が痛くなってきた……。
「つまりは役場に生きてましたって話をして色んな手続きしないと駄目って訳か……」
トラブルの臭いしかしないな……。
「まぁ、控えめに言って大騒動じゃな」
祖父はいたずらっぽく笑いながら言った。
「それでも恵吾が生きていてくれただけで些細な事じゃよ」