Episode 11 市長のとある1日
一竜市長の視点です
「晃くん、ちょっと」
役場に到着したわたしは部下が例の男の幼馴染だという女性職員を呼び出しているのを横目に執務室へと向かう。
「えっ、どうして……」
訴えるようにわたしを見る彼女の顔色は悪い……確か40歳とか言っていたが未だに受付嬢をしているだけあって若く見えるし優秀そうだが、
「急いで来なさい」
取り敢えず話は聞かないといけないので親指で執務の方を指して早く来いとアピールした。
「失礼します」
と件の彼女がわたしの執務へと入ってくるが今回は少し踏み込んだ話をせねばならないだろう。
「君たちはもういい、下がってくれ」
彼女を残し他の人間は部屋の外へと追いやる。
「あの本日は……」
居心地悪そうな彼女を待たせわたしは部屋の隅にある冷蔵庫からミネラルウオーターのペットボトルを2本取り出す。
「座りなさい」
ソファへと恐る恐る座る彼女の前に水を置き、自分も座る。
「杉屋晃くんだね。上司の評価は上々……娘さんが1人、ご両親とは別居……色々苦労しているね」
そこまで話すと先程までとは打って変わって眼光鋭く肝が座った態度に変わる。
「なんのご用でしょうか?市長にわたしの家族の事をとやかく言われるような事をしましたでしょうか?」
明らかな敵対の目をした彼女、しかし引くことは出来ない。
「夢咲恵吾くんと会ったよ。なにやら1人で山の木を切り、そこらじゅうの除草作業をしているのを耳に挟んでね」
「それであの通勤途中の道路の草が刈られてたんですか?」
山道は草が伸び放題で車道の車に草が触れる程になっていた。
「通勤するだけで車が傷だらけになるとクレームがあったのだが、じゃあ自分で刈れと言っておいたんだが」
「確かにそうですが無茶苦茶ですよ」
「どうせ役場なんか暇で昼寝休憩とかやってんだから社会奉仕すれば良いんだ」
人口が減った為に役場の職員は本当に暇になっているようで、わたしが市長就任する前から3時に昼寝休憩が存在していたのだ。
「まだ非公開だがわたしは職員の大幅カットを考えている。税金で働かない職員に給与をくれてやる訳にはいかないんだよ」
「部長や課長たちから切りましょう。あの人たち給与はわたしより多い癖に1日中囲碁とか将棋うってんですよ!わたしが娘の為に治療費の為に家で内職までしてるってのに公務員は副業は禁止だよとか言ってきて、本気でムカつく!!」
なかなか鬱憤がたまっているようだがそれよりも気になる話を聞いた。
「今の話は本当かね?本当なら後で報告書を作成して貰う事になる」
「証拠の動画付きで差し上げますよ。その他も全部告発しますので若い子を雇って下さい。仕事が無いから外にみんな出て行って過疎化が進みます。役場勤務なら他所に異動も無いですし給与も安定していますし」
この女……過激じゃね?
「また大々的にニュースになるな……」
「市長が調べて摘発した感じにしたら良いじゃないですか」
顔を見ると称賛はくれてやるが面倒も全部こちらで処理しろという事みたいだ。
「それで対価は夢咲の手続きこっちでやるって感じでええか?」
「良いんですか?」
夢咲にやると言ったがこれでこの女への貸しがチャラになるなら面倒にならなくて良い。
「取り敢えず、杉屋お前は昇進させるから役に立たない職員洗い出せ全部消しちゃる」
「残すのも選んで良いんですか?」
「仕事回らなくなくなると市民に迷惑や、適当にせえ」
いい加減に市の財政を立て直さないと何の為に市長やってるのか分からない。
「ところで娘さんの方は大丈夫なのか?」
「あっ、大丈夫です。治ったので」
「はっ?ちょっと待て!お前んとこの娘は癌だっただろが」
はい治りましたという病気ではない。
「あっ」
「あん?」
杉屋はしまったという顔をしてすぐに真顔に直る。
「で、なんの話でしたっけ?」
「お前の娘の……」
「いやぁ、不思議な事ってあるもんですよね」
「あるか!……これも夢咲案件か?」
「何も言えません」
という事は夢咲案件で間違いなさそうだ。
「じゃあ、夢咲くんと話をしても構わないね?」
「………………」
「問題ないみたいだね。話は以上だ」
と席を立とうとすると、
「待って下さい。彼に……恵吾に話を聞くなら1人で話すのをお勧めします。あと恵吾から馬鹿みたいな話を聞かされると思いますが本気です、信じてください」
「分かったよ。肝に銘じておこう」
彼女はその言葉を聞くと一礼して出て行こうとしていたが、
「あと1つだけ、わたしの娘のいた病院の小児科ですが……原因不明なのですが全員の病気が治ったとの事です」
「ちょ……それは……」
「原因が分からないので公表しないからと病院から口止めもありました。まぁ、我が子の病気が治ったのですから文句は何処からも出てないそうですけどね」
しかし人の口はそんなに堅いわけではない。
中からか外からかは分からないが絶対に情報は表に出るものである。
杉屋くんが部屋を出ていくとわたしは思案した。
「まぁ、あの病院はわたしの管轄じゃないから良いか」
前市長の頃に強引に金にモノを言わせて建てたらしいし、病院という役割以上に地域に貢献していないらしいのでわたしは来たる日を楽しみにする事にしたのだった。




