Episode 10 市長さん
「夢咲恵吾さんですね?」
気が付くと俺は突然車から降りた黒いスーツ姿の男4人に囲まれていた。
「何でしょうか……っていうかどなたでしょうか?」
ただ自動販売機でジュースを買ってただけなのだが……
「失礼しました。わたくしこういう者です」
差し出された名刺を見ると、
「市長の花形一竜?……って市長さん!?」
風貌は白髪交じりのオールバック、いかついサングラス姿である。
「組長じゃなく?」
「誰がヤクザだ、おどりゃあ!」
いや、ヤクザにしか見えないけど……。
「今どきは日本にもマフィアが……」
「そんなもんおりゃあせん!」
岡山弁でまくしたてるその姿は何故選挙で当選した?としか思えない。
「本当にく……じゃなくて市長さん?」
残りの3人に尋ねると無言で頷く男のたち。
「今、組長って言いかけただろ?」
どうなってんのこの国!?
「それでし……じゃなくて組長さん、何のようでしょうか?」
「市長でおうとるわ!なんでわざわざ言い直した!?」
「組長、話が進まないんで」
「おう、すまんかっ……お前も組長って言うたろが!」
部下の静止も本題へと戻す事は出来ず暫くコントのような会話が続いた。
15分後……。
「もう組長でええ……話はなんやったかの?」
「なんか声枯れてるで組長」
「お前らのせいや……そうそう道の話や。兄ちゃんがここの道沿いの草刈りやったってホンマか?」
言葉使い直せないのかこの市長は……。
「あぁ、草刈りですね。間違いなく俺の犯行です」
「………………」
ヤクザだのマフィアだのって話をしてたからなかなか話がそこから離れない。
「まぁええ、草刈りやってくれたんなら礼をせんとと思ってな」
お礼参りという言葉が頭を過ったが口には出さない。
「お礼参りは願掛けが叶った時に神社とかに行って神様にお礼する事やからな」
心読まれてる!?
「取り敢えず道路沿いの草刈りは市からの依託って事にして安いけど金銭発生するようにしとくから口座教えてくれんか」
「いや、口座無いッス……っていうか身分証も無けッス」
「は?どういう事や?」
なんか変わっているけど面白そ……ではなく信頼は出来そうなので少し力になって貰おう。
「実は15年前に行方不明になって最近ここに戻ってきたっていうか……法的には死んでます」
こういうのって何て説明すれば良いんだろうね?
自分の事ながら分からない。
「そうか、ならそっちは何とかしとくわ」
「なんとか出来るんですか?」
「おう任せときや、自慢じゃねぇけど昔バリバリいわせてた時に借りてた金返さねぇ奴を蟹漁船に乗らせてたら7年過ぎて死んだ事になってたヤツがおっての」
「く……市長、それはここでは」
「おぅ、そうやな」
部下の制止に大人しく従う市長……本物やんけ!いや、今はきっと引退しておられるのでしょう。
「役場にいる幼馴染が対処しようと動いているので助けて貰えると……」
「おぅ、分かった。後で連絡するけぇ携帯の番号教えてくれんか」
「いや携帯も無いので」
市長は驚き、部下らしき人を手招きする。
「足のつかん携帯電話あったろう?持って来いや」
そう言うと部下らしき人は車からアタッシュケースを取り出し中から真新しい携帯を持ってくる。
「なんぼ使うても構わんけぇ持っとれ」
と俺の作業服のポケットに携帯電話をねじ込まれたのであった。
「じゃあ、また詳しい話は近いうちに聞かせて貰うわ」
と言葉を残し車で去って行った。
「なんでアレで捕まらないんだ?」
世の中には気にするだけ無駄な事があるだと思い俺は草刈りへと戻っていくのであった。
岡山弁読みにくいとか意味分からないとかあれ教えてくださいませ。
感想頂けると助かります。




