幕間 五十嵐さんの気持ち
「ど、どうしよう……!」
男子の友達、坂上くんに家まで送ってもらっちゃった。
絶対に無理させちゃった。私が黙ったままになったりしなければ彼だってここまでついてきてくれなかったはず。
でも――
「うれしかったなぁ」
坂上くんはいつも紳士的にしてくれる。
私に優しくしてくれる。
それに勘もよく、私が言葉足らずでも察してくれる。
それが何より心地いい。彼はきちんと私のことを見てくれる。
そんな男子は今まで一人も私に近づいてこなかった。
坂上くんと話すのは楽しい。からかっても怒らないし、むしろ話に乗ってくれる。
仕事の話も真剣に聞いてくれる。男女関わらず読者モデルの話をすると嫌がる人が一定数居ることを私は知っている。
嫉妬だ。皆芸能界に憧れを持っているんだ。
その視線が怖かった。
嫉妬や、男子のまとわりつくような視線。
他の人からしてみれば、いわゆる『調子に乗っている女子』ってやつなのかな?
「でも、坂上くんは違う」
私が勉強で困っていることを知ると、助けてくれた男友達。
悩みも真剣に聞いてくれる、大切な友達。
料理ができる家庭的な一面があることも今日知った。
私が彼の家にお招きされて緊張していると分かれば、勉強は後回しにして一緒に遊んでくれるような心づかい。
彼はいつも私に『優しさ』を分けてくれる。
それがたまらなく嬉しかった。
もしあの時あの場所で彼がナンパから助けてくれなかったら?
私が咄嗟に友達だとマネージャーにいわなかったら?
――そうしていたら今の関係性はなかった、はず。
いや、なかったよ。
私も彼のことを他の男子と一緒なんだろうなーって思っていたはず。
私は嫌な女だ。
この綺麗な容姿をくれたのは両親だけど、だからといって私自身の内面まで綺麗かといわれるとそれは断言はできない。
人のことは疑うときだってあるし、嫌なタイプの人だっている。
それでも坂上くんなら『そんなの普通だよ』って私のことを肯定してくれる、気がする。
彼と一緒にいると本当に心地がいい。
彼のことを考えるだけで幸せになる。
でもこれって、友達としてだよね?
たぶんそう。うん、そうだよ!
恋とかまだよくわからないし。
「よくわからないなぁ。うん、そうだよ――」
考えすぎて疲れちゃった。
もう夜も遅いし寝る準備をしよう。
そもそもなんで私は途中から一人で帰らなかったんだろう?
――わからないなぁ。