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愛(めぐ)し人  作者: 暁紅桜
7/23

7話

その日もまた、シュテルンはお店に運んでこられと話をしていた。

いつもと同じ、何気ない話。その中で彼女が時より「羨ましい」と書く事があった。

この店に通い始めてから、お店の外でシュテルンがコラレとあった事がなかった。昼間はもちろん、彼女が出歩いてるかもしれないと思う日の沈んだ時間。

偶然を装うために何度も何度も街の中を歩いたが、彼女の姿を店の中以外で見ることはなかった。


「あのさ、コラレ」


話にひと段落がついた時、シュテルンはコラレに切り出した。

一か八かの賭けのような、そんな気持ちで。


「外に、出かけない?」


優しい海風が窓から流れ込む。

二人の髪がなびき、視線が交じりあう。

シュテルンは心臓の鼓動を激しく鳴らしながら、コラレの返事を待った。

だけど、彼女の表情はどこか寂しそうで、そして申し訳なさそうだった。

しばらくして、コラレがいつものようにキャンパスにペンを走らせて、答えを出した。


《ごめんなさい》


その返事と同時に、彼女が一緒に外に出ることはなくなったと思った。

考え過ぎかもしれないが、それほどまでに、シュテルンにとっては強すぎる答えだった。


《人前に出るのはあまり好きじゃないんです》

「えっと、人の少ない時間は?」


また、コラレは謝罪した。

シュテルンは小さく呟くように「そっか」と口にした。

別に行きたいところがあったわけじゃない。小さい頃から住んでいるこの町で、もう行きたいところなんてものはなかった。だけど、コラレとなら行った場所でもきっと楽しいだろうと思った。


ーー ずっといるんだから、行くとこなんてないでしょうに

ーー そうだけど、一緒にいるだけでいいんだよ


前にミリヤと話した会話をシュテルンは思い出した。

あの時、きっと彼女もこんな気持ちだったのかもしれない。行く場所なんてなくても、好きな人とだったら一緒にいるだけで幸せで、嬉しくてたまらない。

だから、無理に外に連れ出す必要なんてない。


「わかった。ごめんね無理なこと言って」

《家、こちらこそごめんなさい》

「いいって!謝らないで。それに、別に外に出れなくても、お店の中でも全然いいしね」


シュテルンは側にあった椅子を手に取り、彼女がいるカウンターと向こう側へと行き、隣に椅子をおいた。


「外には出れないけど、一緒にこうやって、海を見るのはいいでしょ?」


お店に背を向け、窓の外の海を見つめる。

なんの障害もない、ただ一面に海が広がっている光景は、手を伸ばしたら触れられそうな感覚に襲われるほどに美しかった。

シュテルンの姿をじっと見ていたコラレは、彼女もまた椅子を回転させ、お店に背を向けて窓の外の海を眺める。

それが嬉しくて、シュテルンは思わず笑みをこぼした。


「ねぇ、こうやって椅子の上で膝を抱えると、まるで砂浜にいるみたいにならないかな?」


落ちないギリギリまでお尻を後ろに下げ、シュテルンが膝を抱える。それを見て、コラレも真似るように膝を抱えて海を見つめる。

よく見ている景色のはずなのに、シュテルンが言ってるように、まるで一緒に砂浜の上に腰を下ろして、海を見つめているような感覚がした。


「ねぇコラレ。無理なのはわかってるけど、でも私諦めないよ」


隣にいるシュテルンは、悪戯顔で、コラレを見つめる。


「いつか一緒に、外に出ていろんなところに行こう」


そう言うと、シュテルンはまた窓の外を見つめる。

彼女の横顔をじっと見つめた後、コラレはそのまま抱えた膝に顔を埋め、窓の外から顔を背けた。


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