7話
その日もまた、シュテルンはお店に運んでこられと話をしていた。
いつもと同じ、何気ない話。その中で彼女が時より「羨ましい」と書く事があった。
この店に通い始めてから、お店の外でシュテルンがコラレとあった事がなかった。昼間はもちろん、彼女が出歩いてるかもしれないと思う日の沈んだ時間。
偶然を装うために何度も何度も街の中を歩いたが、彼女の姿を店の中以外で見ることはなかった。
「あのさ、コラレ」
話にひと段落がついた時、シュテルンはコラレに切り出した。
一か八かの賭けのような、そんな気持ちで。
「外に、出かけない?」
優しい海風が窓から流れ込む。
二人の髪がなびき、視線が交じりあう。
シュテルンは心臓の鼓動を激しく鳴らしながら、コラレの返事を待った。
だけど、彼女の表情はどこか寂しそうで、そして申し訳なさそうだった。
しばらくして、コラレがいつものようにキャンパスにペンを走らせて、答えを出した。
《ごめんなさい》
その返事と同時に、彼女が一緒に外に出ることはなくなったと思った。
考え過ぎかもしれないが、それほどまでに、シュテルンにとっては強すぎる答えだった。
《人前に出るのはあまり好きじゃないんです》
「えっと、人の少ない時間は?」
また、コラレは謝罪した。
シュテルンは小さく呟くように「そっか」と口にした。
別に行きたいところがあったわけじゃない。小さい頃から住んでいるこの町で、もう行きたいところなんてものはなかった。だけど、コラレとなら行った場所でもきっと楽しいだろうと思った。
ーー ずっといるんだから、行くとこなんてないでしょうに
ーー そうだけど、一緒にいるだけでいいんだよ
前にミリヤと話した会話をシュテルンは思い出した。
あの時、きっと彼女もこんな気持ちだったのかもしれない。行く場所なんてなくても、好きな人とだったら一緒にいるだけで幸せで、嬉しくてたまらない。
だから、無理に外に連れ出す必要なんてない。
「わかった。ごめんね無理なこと言って」
《家、こちらこそごめんなさい》
「いいって!謝らないで。それに、別に外に出れなくても、お店の中でも全然いいしね」
シュテルンは側にあった椅子を手に取り、彼女がいるカウンターと向こう側へと行き、隣に椅子をおいた。
「外には出れないけど、一緒にこうやって、海を見るのはいいでしょ?」
お店に背を向け、窓の外の海を見つめる。
なんの障害もない、ただ一面に海が広がっている光景は、手を伸ばしたら触れられそうな感覚に襲われるほどに美しかった。
シュテルンの姿をじっと見ていたコラレは、彼女もまた椅子を回転させ、お店に背を向けて窓の外の海を眺める。
それが嬉しくて、シュテルンは思わず笑みをこぼした。
「ねぇ、こうやって椅子の上で膝を抱えると、まるで砂浜にいるみたいにならないかな?」
落ちないギリギリまでお尻を後ろに下げ、シュテルンが膝を抱える。それを見て、コラレも真似るように膝を抱えて海を見つめる。
よく見ている景色のはずなのに、シュテルンが言ってるように、まるで一緒に砂浜の上に腰を下ろして、海を見つめているような感覚がした。
「ねぇコラレ。無理なのはわかってるけど、でも私諦めないよ」
隣にいるシュテルンは、悪戯顔で、コラレを見つめる。
「いつか一緒に、外に出ていろんなところに行こう」
そう言うと、シュテルンはまた窓の外を見つめる。
彼女の横顔をじっと見つめた後、コラレはそのまま抱えた膝に顔を埋め、窓の外から顔を背けた。