5話
アイリスから受け取った絵画を手に、シュテルンはコラレの店の扉をくぐる。
扉の迎え、カウンター席に座っているコラレはシュテルンの姿に気づくと、いつものようにキャンパスに「いらっしゃいませ」と書かれたページを掲げる。
それに、いつものように「こんにちは」と返し、シュテルンはカウンターに絵画をおいた。
《これ、どうしたんですか?》
「あぁうん。バイト先の人がね、お店に飾る用で持ってきたの。でも、周りの額縁も装飾したいって言ってたから、その……」
かなり図々しいお願いとはわかっていたが、シュテルンはコラレに手を合わせ、彼女にお願いをした。
「ここに装飾する材料を少し分けて欲しいの。もちろん、お金は出すから」
ぎゅっと目をつぶり、合わせた手のひらにぐっと力を込めて頭を下げる。
わずかにペンの走る音が聞こえ、彼女が今返答を記載していると気づく。ペンの音が止まり、恐る恐る目を開ければ、そこに書かれていたの《いいですよ》という言葉だった。
体に込めていた力が一気に抜け、シュテルンは「よかったぁ」と安堵する。そんな彼女の様子に、コラレがくすくすと笑う。
《もしかして、私がダメって言うと思ってましたか?》
「だって、かなり図々しいお願いだからさ。そう言われたら諦めようと思ってた」
《材料はたくさんありますし、好きなだけ使ってください》
《すぐにとってくるので、ここで待っててください》
椅子から立ち上がり、普段開かれることのないお店横の扉が開かれる。
あの扉の向こうは、コラレの生活スペースが広がっている。もちろん、シュテルンが興味がないはずもなく、じっとその扉を見つめていた。
しんと静まり返った店内。だけど、わずかに聞こえる物音。コラレが家の中にいると言うのがわかり、シュテルンの心が満たされる。
しばらくすれば、コラレが材料を手にして戻ってきた。
「わぁ、綺麗……」
カウンターに並べられた装飾品は、どれもキラキラと輝いていた。
珊瑚に石、砂、貝や海藻に魚の鱗。中には鳥の羽や魚のヒゲなどもあったりする。
海のものに害にも、使えそうなリボンや紙、針金なんかも用意してくれた。
《好きに使っていいですよ》
「ありがとう。じゃあ隅でやるね」
《家、ここで構いませんよ。どうせ、お客さんもきませんし》
キャンパスを掲げるコラレはニコッと笑みを浮かべた。
珍しく自虐ネタを記載して少し驚いたが、シュテルンはお言葉に甘えてその場で作業をすることにした。
道具も用意してくれ、尚且つコラレにデザインのアドバイスを受けながら、一つ、一つと額縁が絵画を彩るように装飾されて行く。
集中して作業をしており、シュテルンが一息ついたのは完成したときだった。
《お疲れさまです》
「いいのができたー。コラレがいろいろアドバイスしてくれたおかげだよ。ありがとう」
《いえ、シュテルンさんが頑張った結果ですよ》
「それにしても、こう言うの作るの楽しいね」
今まで、こういったものを作る作業は授業でしかやったことがなかった。その時ももちろん楽しかったが、今日は目の前に好きな人がいて、その好きな人と何か作業をしていたから、シュテルンはより一層楽しさを感じていた。
「あ、そうだ。コラレ、もう少し在行もらってもいいかな」
《構いませんよ。何か作るのですか?》
「うん。これのお礼作りたくて」
シュテルンは横髪を書きあげ、自分の耳を見せた。そこには、以前彼女からもらったイヤリングがつけられている。
もらったことはすごく嬉しかった。だけど、シュテルンもこう言ったものをコラレにあげたいとずっと思っていた。
《いえ、大丈夫です。私があげたくてあげたので》
「んー。じゃあコラレと一緒。上げたいからあげる」
付け加えるように「どんなに否定しても、私は作るからね!」と言い、シュテルンは材料を品定めする。
あれもダメ、これもダメと考える彼女の姿をじっと見つめ、コラレは自身の顔はキャンパスで隠す。
ほんのり顔は赤く、恥ずかしいが嬉しさもあるため、うっすらと笑みを浮かべていた。
シュテルンはコラレのために一生懸命にプレゼントを作る。しかし、初めてのことな上に、当然作り方の説明書がない。本当なら送る相手に聞くべきではないが、わからないところはたじたじと言った感じで目の前にコラレに教わった。
「で、できたー!」
おおよそ額縁の装飾と同じ時間を費やし、無事にコラレに送るプレゼンを作ることができた。
彼女が作ったのはペンダントだった。
彼女の瞳と同じ、海を閉じ込めたような大きな石をぶら下げ、その左右に小さな石を花の形に装飾し、少し色のついたサンゴをつけて完成。特に石を花の形にするのにかなり苦戦してしまった。
「ちょっと、歪かな……」
《そんなことありません。とっても綺麗です》
「……そう、かな」
《つけてもいいですか?》
「え!?あ、そうだよね。ペンダントはつけなんぼだもんね。うん、いいよ」
シュテルンからペンダントを受け取り、コラレは自身の体に身につける。銀髪の下にペンダントの紐が隠れ、彼女の胸元で彼女と同じ瞳の石がキラリと輝く。
コラレとシュテルンの瞳がマジ割合、キャンパスには書かなかったが、彼女の目が「似合ってますか?」と尋ねているように見え、息を飲みながら「似合ってる」と答えた。
《ありがとうございます、シュテルンさん》
「こちらこそ、材料使わせてくれてありがとうね」
その後、店を後にしたシュテルンはそのままバイト先へと戻った。
ちょうど閉店するところで、中に入って額縁の装飾を見せるとオーナーも絵画を持ってきたアイリスもとても喜び、店の一番目立つところに飾られた。