4話
その日、深い深い眠りについていたシュテルンは、寝返りを打った瞬間にベッドから落ち、その衝撃で目を覚ました。
床から体を起こして、大きなあくびを一つすれば、ゆらゆらと立ち上がって部屋を出ていった。
ベットから落ちる衝撃は大きかったらしく、朝食の準備をしていた母の耳にも聞こえていたらしく、顔をあわせるなりそのことをいじられた。
本日のシュテルンの予定はバイトだった。
仕事自体は午前中で、終わった後はオーナーの作った賄いを食べて、そのままコラレの店に行くという予定ができていた。
少しぼんやりとする頭を動かしながら朝食を口に運んで行く。
「おはようございます」
朝食を食べ終え、寝癖の酷い髪を必死に整え、少し急足でバイト先に向かったシュテルンはギリギリ間に合う事ができた。
「おはよう、シュテルンさん」
「おはようございます。あ、私やりますよ」
田舎町ということもあり、このお店で働く従業員の人数はそれほど多くない。
シュテルン以外で働いているのは3人で、その全員が子持ちのママさんたちだった。
たまに子供のお世話だったりでお休みする事があり、その時はシュテルンが代わりに入ったりなどして、サポートをしている。
「午前中は、私とオーナーだけですか?」
「あぁ。午後からアイリスさんがこられるよ。ラルトさんも入る予定だったんだが、お子さんが熱を出したらしくてね」
「そうなんですね。私、午後もいた方がいいですか?」
「大丈夫だよ。いつも通りだろうから、私とアイリスさんで回せるよ」
テキパキとお店の開店準備を行い、開店時間になってお店の扉を開く。
すぐにはお客さんが来ることはないが、数十分もすれば、ポツポツとお客さんが足を運ばれて来る。
「いらっしゃいませ、ジェムさん」
「やぁシュテルンちゃん。いつもの席は空いてるかね」
「はい。ご案内しますね」
いつも通り、お客さんは老人ばかり。一人できたお客さんはのんびりと一休みをされ、複数でこられた方は井戸端会議に花を咲かせていた。
「あーらシュテルンちゃん。可愛いアクセサリーつけてるわね」
「あらホント。可愛いわね」
「シュテルンちゃんがそんなのつけるだなんて、もしかして恋人でもできた」
コラレからもらったイヤリングは、嬉しさのあまり常に身につけていた。
からかわれるように言われるのはあまり好きではないが、コラレが作ってくれたイヤリングを褒められるのは嬉しく、思わずにやけてしまう。
その様子に、彼女たちの乙女心が刺激されたのか、恋バナをしたそうにシュテルンに詰め寄る。
たじろぐが、注文が入ったため、その場はなんとか逃げ出す事ができたい。
「シュテルンちゃん、そろそろ上がりだよ。賄いの準備できてるから、今日はもう上がっていいよ」
「え、でもまだアイリスさんが……」
「すぐに来るさ。それに、今は客足も少ないし大丈夫だよ」
オーナーさんに言われ、一瞬だけ店内を見た後に「それじゃあ」と言い、店の奥に戻って行く。
着替えを済ませ、オーナーが用意してくれた賄いを口に運びながら、空いたお腹を満たしく。
「あら、シュテルンちゃん。お疲れ様」
ガチャリという扉と共に、一人の女性が顔出し、食事をとっているシュテルンに手を降る。
もぐもぐと口の中に入っているものを飲み込み、シュテルンは女性に挨拶をする。
「お疲れ様ですアイリスさん」
「今ホールはオーナーだけ?あらら、ちょっと急いだ方がいいかな」
「……それ、どうしたんですか?」
「ん?あぁこれ?ふふっ、素敵でしょ」
アイリスが掲げたのは一枚の絵画だった。
昼間の砂浜と海。そして、少し小さく白いワンピースを着た情勢が描かれている。
「前にオーナーから、お店に飾る絵を探してるって聞いてね。海も近いし良さそうだと思って持ってきたの」
「そうなんですね」
「でもね、せっかくなら額縁もちょっと装飾したいのよね。何もないのもいんだけど、海っぽくしたいわよね」
口元を尖らせながら、絵を少し掲げて見つめるアイリス。
シュテルンは彼女の発言した「海」という言葉から、頭の中にコラレの姿が浮かび、アイリスにある提案をした。
「あの、アイリスさん。よければ、その額縁の装飾、私がやってもいいですか?」
「え?まぁいいの?」
「はい。なるべく閉店に間に合うように持ってきますので」
「別に急がなくてもいいわ。でもありがとう。本当は私の方でやりたいけど、ここの仕事と家の家事とかでなかなか手が出せなくて」
「任せてください。素敵なものにします」
「ふふ、楽しみにしてるわ」
アイリスから絵を受け取った後、賄いのお皿を開始に行くときにシュテルンはオーナーに事情を話した。
その後、二人に「お疲れ様でした」と声をかけ、当初の予定通りそのままコラレの店へと足を運んだ。