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遥か異界の地より  作者: 富士傘
臥薪嘗胆暗黒就労編
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(閑話4-3)

部屋に入ってきた3人のヒトに、俺の目は釘付けになった。彼らは部屋に入ると、横に並んで俺の目の前に立った。3人は室内にも関わらず白いポンチョのような外套?を羽織り、その隙間から鎧のような護身具がチラチラと見え隠れしている。


俺の目が釘付けになった理由は、日本では見慣れぬその目立つ外観と、この世界に飛ばされて来てから初めて見た俺たち以外の人間ということもあったが、眼前に立つ人物が女性だったということも大きい。しかも、間近で見るとその女性は物凄く整った容姿をしていた。俺は思わずまじまじと目の前の女性を観察した。


彼女の髪は日本人のような黒髪で、それをストレートに伸ばしている。サイドと前髪を切り揃えた姫カットの様な髪型だ。そして、青っぽいグレーの瞳で俺を真っ直ぐ見据えている。肌の色はやや白色人種に近い褐色で、見た目のエキゾチックな雰囲気は地球の北インドのアーリア人系の顔立ちに近い。高く通った鼻筋と細い顎、長い睫毛とやや目尻の上がった大きな目、そしてちょっと厚めの桜色の唇。まるで地球のファッション雑誌のモデルみたいだ。

そして、年齢は見たところ俺よりは上だろうが、日本基準ではまだ若輩と言えそうだ。精々20代半ばと言った所だろうか。身長は170センチくらいはありそうだ。


綺麗な女性は地球で見慣れている筈の俺だったが、その容姿に思わず一瞬見惚れてしまった。だが良く観察してみると、その顔には薄っすらと傷跡のような跡が何か所も走り、僅かに見える首は女性のものとは思えないくらい太い。素人目でも一目で尋常ではない経験を潜り抜けた猛者であると分かる。


続いて向かって左隣に立つ男性を見ると、長身で190センチ近くありそうだが、外套の上からでも熊のようなブ厚い体躯をしているのが分かる。

頭には鉢金のような金属製と思われるの額当てをしており、栗色の髪と髭をゴツい顎に無造作に伸ばしている。年齢は30半ばくらいか。その荒々しい外見と、髪と同じ色の眼光鋭い瞳を見て、以前読んだ三国志の小説の張飛の挿絵にそっくりなのを思い出した。蛇矛を持たせたら良く似合いそうだ。ただ見られているだけなのに威圧感が物凄い。


右側の男性は、俺と同じくらいで身長180半ばくらいか。灰色の髪を後ろで束ねており、細目に細面で一見優男に見えなくも無いが、外套の隙間から見えるそのぶっとい首がそれを真っ向から否定している。肌に皺などが殆ど無いので、年齢は外見からは良く分からない。若くも見えるし、年長にも見える。ただ、その分額に横一文字に走った傷跡が良く目立っている。細目なのでどう見られているかは良く分からないが、油断のならない雰囲気を全身から感じる。


壁に背を預けて座り込む俺は、彼女らの姿を見上げるような体勢であったが、灰髪の

男性が何事か声を掛けてきて、俺の背中を抱えて抱き起してくれた。だが、弱り切った俺の身体は言うことを聞いてくれず、俺は身体を彼に預けたまま、半ば引き摺られるように別室へと連れていかれた。


取調室のような小さな部屋に連れて来られた俺は、黒髪の女性と向かい合わせで粗末な椅子に座らされ、彼女から何度も言葉を投げ掛けられた。どうやら、幾つかの言語で俺に何らかの尋問をしているようだ。だが、俺には彼女が何を言っているのかサッパリ分からなかった。聞いた限り、俺の知っている地球の言語はどれも当てはまらなかった。


俺は分からないと日本語で答え、首を横に振った。

また、俺からも何度か彼女に問いかけてみたが、日本語も英語も中国語も彼女らには理解できなかったようだ。


俺達は暫くの間、不毛な質疑応答を続けていたが、此のままでは何の成果も得られそうにないと分かったのか、黒髪の女性は尋問を中断して隣に立つ灰髪の男性に何事か話しかけた。

すると男性は俺に近寄って来て、俺を椅子から立たせようとしてきた。


だが、俺は彼の手を抑えると、丁寧に振り解いた。

例え言葉が通じなくても、どうしても彼女らに言っておかなければならないことが俺にはあったからだ。俺は震える足に力を込めてどうにか自力で立ち上がると、彼女らに向かって深く頭を下げた。


「俺達を助けて頂いて、本当にありがとうございました。」

そして俺は、心の底から感謝の言葉を紡いだ。

顔を上げると、言葉は通じなくても俺の思いが届いたのか、彼女が小さく笑った気がした。


その後、俺は元居た部屋に連れ戻された。他の仲間たちはまだ眠ったままだ。額に手を当てて体温を確かめる。極度に衰弱していたので心配で仕方ない。だが、今の俺にできることは皆が意識を回復するのを待つことだけだ。


部屋の外から聞こえる物音から察するに、どうやら俺達は見張られているようだ。先ほど俺を尋問した人達の武装した身なりから推測すると、俺達は他国からの密偵や斥候と疑われているのかもしれない。

確かに森の中を歩く俺達は怪しすぎる風体だったろう。でも、飢えと疲労で殆ど死にかけだったのは却って幸いだったのかもしれない。森の中で丸腰で餓死するような間抜けな密偵や斥候なんて、流石にそうは居ないだろうから。

もし本気で疑いを掛けられていたら、見張りどころか拷問の一つや二つ覚悟しないといけなかったのかもな。


疲労と倦怠感により、程なく床に寝転がった俺は今後の事を考える。

どうにか今だけは命が助かったようだけど、此処は一体どこなんだろうか。

それに、この世界にも俺達と同じような人間が居て、文明があったんだな。

その事実は、俺の心に希望を与えてくれた。

もし、あのまま文明の痕跡すら発見できずに行き倒れることを考えると、今でも身体が震えてくる。偶然かどうかは分からないけど、彼女らに見つけて貰えてもらえたのは望外の僥倖だった。本当に紙一重だった。


とはいえ、何時までもこの部屋で缶詰と言うワケにもいかない。食料や飲料水は分けてくれるんだろうか。便器などは見当たらないが、排泄はどうすれば良いんだろう。

一応助けてくれたんだから、俺達をそう無碍には扱わないと思いたいけど、それも相手の胸先三寸だ。何時までも此の部屋でタダ飯を食わせて貰えるような甘い考えは即刻捨てるべきだろう。役立たずと判断されれば、何時放り出されてもおかしくはない。下手すりゃ不審者扱いで、このまま処刑されないとも限らない。


それに、助けてもらった恩は返さなくてはならないと思うけど、もし見返りとして無理難題を吹っ掛けられた時に俺達はどうすべきか。俺達は何の力も無い中学生だ。特別な知識や技能なんて持ち合わせていない。誰かと命のやり取りをするような戦闘能力や覚悟も無い。しかも、この世界の文化や一般常識や言葉すら分からない。結局のところ、取ることのできる選択肢は殆ど無いのかも知れない。


何にせよ、あまりにも情報が足りなさすぎる。

それに、今後の事は仲間の皆にも相談しなきゃならないだろう。

早く目を覚ましてくれるといいんだが。


色々と考えているうちに、何時しか俺の意識は深い眠りに落ちていった。


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