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遥か異界の地より  作者: 富士傘
臥薪嘗胆暗黒就労編
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48話

「おらぁ!」

俺は罠で足を拘束された獲物の額に新調した石斧を叩き込んだ。


ゴッ

ニブい音と確かな手応えを腕に感じる。目の前の毛の長い狸のような動物は、伏せのような姿勢のまま動かなくなった。念のためもう何発かぶん殴ってトドメを刺しておく。


俺が此処に来てから1か月の歳月が流れた。

俺は今、ファン・ギザという大きな町の近くにある森の中で生活している。簡易拠点は巨大樹の樹上に建設中だ。完成にはもう暫く時間がかかるだろう。

血抜きの為に獲物を木に吊るすと、俺は薬草の採取と増産に取り掛かった。


俺の今の立場は町の狩人ハンターギルドの見習いである。見習いは基本常設依頼しか受注できないため、俺は一番実入りの良さそうな薬草の採取を主な業務としている。そして俺は今、原始人スタイルで狩りをしている。原始人スタイルと言っても以前とは微妙にファッションが異なる。上半身は以前のままだが、この森ではズボンの木が見つからなかった為、腰蓑には巨大葉ではなく乾燥した草を焚火で燻して束ねたものを巻いている。愚息が隙間からチラチラ見える事も無く中々具合が良い。石斧もビタの集落に置いてきたので新調した。良い石を探すのに苦労したぜ。


なぜ俺はこんな森の奥で独りで生活しているのか。勿論それには理由がある。

まず薬草の採取についてだが、町から森まで歩いて往復して採取までする時間を考慮すると、森の浅層までしか入ることが出来ない。そして、森の浅層の薬草は殆ど採り尽くされているか薬師ギルドの管理下にあり、そこは無断採取厳禁である。

となると、俺の目指す利益を確保するためにはどうしても森の深い所まで探索の手を広げる必要がある。また、町から往復しているだけでは森に関する十分な情報が得られない。此処を俺の縄張りとするにはやはり住み着く以外に無い。

さらに、ここに住めば食料の確保はさほど難しくないし、宿代も飯代もかからない。生活費が抑えられて一石二鳥だ。


唯一危惧していたのは、俺と同じことを考える町の住人が居るかもしれないということだ。ただ、今の所この森の深層で先住民に遭遇したことは無い。尤も、この辺りになると度々魔物が出没するし、夜になれば以前住んでた森のように危険な野生パラダイスとなる。町の住人であえてこんな所に居を構える変態は中々お目に掛かれないかもしれない。

森の住人は俺以外まだ見たことは無いが、森を歩き回る同業者と思われる集団はたまに見かけるので、鍛え上げた隠形の技でやり過ごしている。勿論拠点は見つからないように念入りに偽装している。


俺はポーション草が自生しているポイントに向かった。まだまだ狭い範囲ではあるが、俺の縄張りの地形や水源、薬草の分布などは全て把握済みだ。


ボーション草A、Bが自生しているポイントに着くと、俺は手際よくポーション草の実を捥いでゆく。そしてある程度の数の実を回収すると、俺は集中してポーション草を手で摘んだ。程なく、俺の手が発光し始める。そして・・・ポーション草の実がジリジリゆっくりと再生し始めた。


クククク・・。思わず顔がニヤける。俺がワザワザ薬師ギルドに恥をかいてまで情報を仕入れに行った理由はこれだ。

俺の回復魔法は人体の欠損は基本治せない。だが、植物ならどうだろう。地球の事を思い出すと、植物は剪定してもしっかり枝が生えてくる。樹齢数千年なんて怪物も居る。種類にもよるが、基本植物は動物なんぞよりずっと生命力が高いのだ。

そこで俺は、集落に居る時に何度か植物の欠損治療の実験を試みた。結果は部分的に成功。根を分離したり茎や幹を切断した場合は再生不可能だったが、実や葉、細枝程度なら欠損の再生が出来たのだ。当時はフ~ン程度で済ませたが、こんなところで役に立つとはな。

薬師ギルドで採取方法を確かめたところ、傷草や解毒草は株ごと採取せねばならんが

ポーション草は実だけ採取すれば良いことが分かった。その後、森に入った俺はポーション草を見つけると早速実験開始。その結果は御覧の通りだ。魔力はかなり消耗するが、1日で20個以上の実を量産できる。魔力切れが危険なので量産の限界は試していない。

俺はポーション草A Bそれぞれ5個ずつの実を回収すると、拠点へ立ち戻った。


拠点へ戻った俺は、狸もどきを手早く解体して近くの小川に沈めておく。あの皮は冬に使えそうだな。そして、採取した薬草を納品する準備をする。

今日の納入品は傷草10株 解毒草10株 ポーション草A Bの実10個だ。

それぞれ縄草の袋に丁寧に詰め込んで背負い籠に入れる。普通に歩くと町までは半日かかるので、軽量化の為に荷物は基本背負い籠だけだ。

おっと危ない。

俺は着慣れた毛皮と腰蓑を脱ぎ捨てて、貫頭衣を着込んだ。

そして背負い籠を担いだ俺は、駆け足で町へ向かった。




俺は今、狩人ギルドの納品カウンターで小太りのおっさん職員に納入品を検品してもらっている。報酬としては傷草銀貨2枚 解毒草銀貨1枚 ポーション草銀貨4枚てところだ。

だが、実は此処に来る前に、俺は人気のない所で納入品に回復魔法を染み込ませておいた。お陰で薬草たちはもぎたてのようなプリップリの鮮度抜群の状態である。俺が納品した鮮度抜群の薬草ははどうやら薬師ギルドにも大変覚えが良いらしく、前回納めた時は報酬に銀貨1枚色を付けてくれた。

納入品を検品したおっさんはニッコニコで報酬を渡してくれた。今回も状態が抜群ということで、銀貨1枚色を付けてくれた。有り難い。


その気になればポーション草は回復魔法でもっと大量に量産することは出来るだろうが、俺は勿論そんなことはしない。カウンターにそんな非常識な量の獲物をズドンと置いてドヤるなんて只の阿呆のすることだ。そんな真似したところで悪目立ちするだけだし、下手をすれば薬師ギルドにも不審がられて目を付けられるかもしれん。監視なんぞ付けられて日常の暮らしが脅かされたら目も当てられんしな。

かといって、ショボい量を持ち込んでも金は稼げない。そこで、俺はギルドの職員からさりげなく情報収集をして、ギリギリ常識的な範囲の量を持ち込むことにしている。これなら俺の優秀さをアピールもできて一石二鳥である。


俺は2日に1回はギルドに薬草を持ち込んでいるため、すでにギルドの加入金を払うだけの金は稼いでいる。最近は職員達がさっさと教育実習に申し込みしろよとやかましいので、俺は遂に見習い卒業の為の教育実習に申し込むことにした。


その結果、教官のスケジュール調整と実習を受ける見習いの人数確保の為、俺達の教育実習は7日後、地球換算で丁度1週間後に開催されることになった。

ちなみに実習期間は10日間である。その間は森の拠点は留守にして、以前泊った安宿に宿泊することにした。


そういえばヴァンさん達は、10日ほど前にこの町から旅立っていった。この世界は連絡手段が乏しい上、森の中で暮らしていた俺がそれを知ったのは出発のまさにその日であった。慌てて掻き集めた餞別の燻製肉を受け取ったヴァンさんは、笑顔で旅立っていった。彼は別れの言葉は言わなかった。またな、と軽く手を振っていた。

少し寂しいけど、彼の隊商は目立つからな。俺もヴァンさんとはまた会えるような気がする。今はお世話になりっ放しだったけど、再びヴァンさんに会う時にはもっと大きくなって彼と少しでも肩を並べられるような俺でありたいものだ。


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