2話
教室の昼休み。俺は自分の席に座ってぼんやりと考え事をしていた。
耳には先日行われた模擬試験の結果のことで盛り上がる(あるいは盛り下がる)クラスメイト達の騒めきが飛び込んでくる。
俺達の学年は既に中学3年の半ばを過ぎ、周りの連中は受験勉強モードである。
対して俺はといえば、先生の勧めの進学先を断り地元の高校へ進学することを決めたので、特別勉強に励む必要は無い。部活も引退したので暇なのだ。
「おい加藤。」
突然背後から名前を呼ばれた。
唐突に思考を中断させられた俺はちょっと不機嫌になって背後を振り向く。
すると、背後にはクラスメイトの山下が座っており俺を睨み付けていた。
「ボケっとしやがって。随分余裕じゃねーか おい。」
「・・・お前だってそうだろ。」
こいつはサッカー部のレギュラーで推薦での進学が決まっている。運動神経は抜群。顔面偏差値も高い。その為、以前は女子にかなりの人気があった。だが2年生の時、サッカー部のマネージャーに告白し盛大に振られた場面に偶然居合わせた俺が、その様子を撮影して速攻でクラスSNSに拡散した所為でその人気は地に堕ちた。
なぜならその時こいつには、すでに後輩の彼女が居たからである。
それ以来、こいつはやたらと俺に絡んでくる。尤も俺はさほどこいつを邪険にするつもりは無い。あの時のことは深く反省している。なぜなら天誅だと意気込んで、得意満面で実行した俺の行為は下衆だと認知され、危うくクラスメイト全員からハブられそうになったからだ。その後、山下を含めクラスメイト達に誠心誠意謝罪することでどうにか事無きを得た。すまなかった山下。山下は全然納得して居ないようだったが。
「見た目雑魚のくせにスカしやがって。 ムカつくんだよお前。」
あまりにも理不尽な言い掛かりである。あと自分で言うのも情けないが、俺はスカせるようなイケメンではない。
「まあ落ち着けよ。 これやるから。」
俺は胸のポケットから取り出したファストフードのクーポン券を差し出した。
「あ?舐めてんのかお前。」
山下の目が剣呑なものになった。
いや沸点低すぎだろ。というかなぜ怒るんだよ。俺なら喜んで受け取るのに。
俺の誠意が空振りに終わり、山下と睨み合っていると横から声が掛かった。
「お前らいい加減にしろ。 教室で殴り合いの喧嘩でもするつもりか。」
振り向くとそこには驚くべきイケメンを擁する男子が俺達を見下ろしていた。
クラスメイトであり、サッカー部キャプテンでもある才賀である。この男、超絶イケメンで更にスポーツ万能であり学年、いや学校カースト最上位に君臨する男である。勿論女子にも恐ろしくモテる。傍から見てるだけで劣等感を激しく刺激される男だが、人当たりも良いのでクラスカーストやや低めながら、物怖じしない性格の俺とはたまに絡んだりする。勿論山下とは別の意味でだ。
「でもこいつが俺に絡んできたんだぜ。」
「ウルセエな部外者は引っ込んでろよ。」
俺と山下はそれぞれ才賀に反論を試みるが
「お前推薦決まってるのに問題起こしたらマズイだろ。それにお前らが喧嘩したらクラス代表の俺が先生に怒られるんだから部外者じゃねーよ。」
ぐうの音も出ない山下は
「ちっ うっせーな。」
と捨て台詞を吐いて席を立った。
「そう怒んなよ。 気に食わないんなら謝るよ 悪かったな。」
別に山下と仲違いしたい訳ではない俺は奴の背中に声を掛けるが、山下は振り向きざま俺を睨んで自分の席に戻っていった。なんなんだよこいつは。
「悪かったな才賀。」
「気にすんなって。 あいつもお前が絡まなければいい奴なんだけどなあ。」
才賀にも謝罪をすると、気さくに笑って立ち去って行った。性根も顔も相変わらずイケメンである。
再び一人になった俺はぼんやりと考え事に戻る。
自分の将来のことだ。
俺の人生設計はぼんやりしたものではなく、将来は叔父が経営している建築事務所で働きたいと考えている。そのため具体的な進路もすでに決めてある。
そしてご近所に住んでいる幼馴染の理沙と結婚して幸せな家庭を築こうと考えていたのだが、あっけなく振られてその方面のプランは崩壊した。
理沙は才賀のことが好きらしい。幼馴染だから無条件に惚れるなんて奇跡はネット小説の中にしか存在しないのだ。現実は真に非情である。空欄になった俺の将来の結婚相手の項目には今は「美人の嫁」が入っている。更新される予定は無い。
とりとめのない思考に身を委ねていると、姿の見えなかった担任の先生や他の生徒が教室に戻ってきた。もうすぐ昼休みも終わりか。俺の後ろの席である俺の親友で悪友でもある大吾はまだ戻ってきていない。
すると突然
凄まじい悪寒が俺を襲った。