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遥か異界の地より  作者: 富士傘
摩訶不思議魔技修道編
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第152話


俺が新たな装備を発注した鍛冶師のトト親方の工房にて。

オーダーした一通りの防具を身に付けた俺は、銅板を磨いた等身大の姿見で自身の姿を確認してみることにした。ネックウォーマーを口元を覆うようにズリ上げて、姿見の前に立ってみる。因みにネックウォーマーは毒や針を飛ばしてくる魔物や猛獣が結構いるので、併せて作って貰った。カラーはベストと同色で、他に此れと言った特徴は無い。続いて忘れる事無く、Front Lat Spreadのポージングをガンギメる。そして姿見に映った、その姿は・・・。


う~む、どう見ても地球の特殊部隊崩れ。銃こそ装備していないが、何処ぞのPMC(Private Military Company)の社員にしか見えんな。そして、


「改めて見ると、何とも珍妙な格好だな。」 と親方。


「何だか暗殺者みたいだ。」 とホザくのは小坊主。


え~い喧しいわっ。結構イケてると思ってたのに。どうやら異界の連中には、此の見た目の評価は余り芳しく無い様だ。


確かにこの世界では相当に異質な格好なのかも知れん。だが外套を身に付けていれば殆ど覆い隠せるし、そもそも此の迷宮都市では其れとは桁違いにぶっ飛んだ外見の連中が至る所で闊歩しているのだ。例えば蜥蜴人間とか。なので、この程度の珍妙さは問題にはなるまい。ちょっとした傾き者みたいなモンだ。


「それで親方、俺の新しい得物は何処に?」

周囲に其れらしき物が見当たらない為、俺は気を取り直して親方に訊ねてみた。


「おう、得物は裏庭の試し場に置いてある。付いて来な。」

親方は俺の問い掛けに応えると、工房の奥に向かって歩き出した。


漸く俺の新たな相棒を手にする時が来たか。武器と言えば、先日小坊主に借りた魔法が付与された棍棒があったな。其の特殊な効果は、敵を殴り飛ばす際に衝撃波?で相手が更に吹っ飛ぶという代物であった。アレはアレで魔物を殴った際に実に気持ち良く、実用性も充分であったのでかなり気に入っていたのだが、そもそも魔法付与の武器なんて俺の予算では到底手が出せない。いや、実はそこらで売ってる魔法武器なら手が出ない事も無いが、あの棍棒のレベルの魔法武器ともなると、下手すりゃ金貨三桁では効かないかもしれん。


それに、俺が己の武器に求めているのは、魔法の付与だの特殊な力だのそんな代物では無い。と言うよりは、もっと先に優先すべき事が有るのだ。其れは折れず、曲がらず、毀れず、そしてメンテフリーとまでは言わずとも整備が容易な事。そんな飾り気の無いシンプルな性能を突き詰める事こそが、俺の武器にとっては何よりも重要なのだ。何故なら以前、戦車の装甲の如き異常な強度の外殻を有するハグレと殺り合った結果、俺の大切な相棒が、予備も含めて原型を留めない程にぶっ壊れてしまったからだ。それもたった一度の戦闘でだ。なので、今後あのレベルの相手と殺り合う事を想定した場合、並の強度の武器ではお話に成らない。そして更に、俺が武器に求めるモノはもう一つある。それは・・。


色々と考えを巡らせながら親方の後を付いていくと、工房の建屋から外に出た。すると、一面拓けた更地が広がっていた。其処は管理されたちょっとした広場のような場所であり、小さな窯に屋根を掛けた小屋も見受けられた。手前に炭材のような木材が積まれているので、恐らくは炭焼き小屋であろうか。


「ホレ、あそこだ。」

親方は工房の建屋の裏側の一角を指差した。


親方の指した指の先には建屋から屋根が張り出したちょっとした作業スペースが設けられており、幾人かの工房の弟子達が何やら作業をしている。そして、その脇には一振りの長い棒が無造作に立て掛けてあった。その棒は遠目に見れば、或いは唯の農器具と見間違えてしまうかもしれない。だが其の形状は確かに、俺がオーダーした武器で間違い無さそうだ。


確かに俺が親方に要求した得物の外観は飾り気が一切無く、兎に角質素である事だ。とは言っても、俺は別に派手な武器が嫌いとか、質実剛健のみを信条としているとか、そんな訳では無い。いや、むしろ派手な武器や拵えは大好物である。では何故装飾の類を排除したのかと言えば、ひとえに盗難対策である。無論、職人たる親方は渋りまくったが、其処は俺も頑として譲らなかった。立派な家持ちの貴族だの豪商だのを相手にしてるんじゃねえんだぞ。手間暇と命賭けで稼いだ銭を惜しみ無く捧げて漸く手にした相棒を早々にパクられた日には、俺は人目も憚らず号泣するわ。尤も、もしそんな不届き者が居やがったら、例え相手が何処のどいつだろうが地獄の果てまで追い詰めて鬼の制裁を敢行してやるがな。


俺は親方に促されるまま、立て掛けてある武器の傍まで近付いた。逸る気持ちを抑え、先ずは仔細に眺めてみる。


鞘の寸法から見て、刀身の長さは優に4尺(凡そ120cm)を越えるだろうか。そして黒色の柄は4尺3寸(凡そ130cm)てところか。その圧巻の刀身の長さから、槍と言うよりは長巻と言った風情である。いや、柄の形状は槍なので薙刀の方が近いか。だが、長巻や薙刀とは決定的に異なる部分もある。刀身を見れば分かるだろうが。


実は仕上がった刀身に関しては、拝ませてもらうのは此れが初めてである。拵えと細部の調整については、似たような重量比の代替の刀身を組付けて行ってきた。


俺は立て掛けてある武器の柄に手を掛けると、鞘の腹の部分の留め金を外してそのまま鞘を取り外した。鞘は留め金を保持したまま引き抜くことも可能だが、柄も含めて刀身がこれ程の長さとなると、造作無く引き抜くには少なからず練度が必要になってくる。なので、鞘は留め金を外して速やかに落とせるようにして貰った。


「むうっ。」

剥き出された刀身を目の当たりにして、俺は思わず唸った。


これは、ヤバいな。

目の前の刀身にもまた、装飾の類は一切施されてはいない。だが、此れが機能美の極みと言う奴なのだろうか。紺碧に鈍く輝くその刀身は、まるで魂が吸い込まれるような、総毛立つような凄まじい()()を放っている。武具に関してはズブの素人である俺が見ても、この刀身の造りが尋常ではない水準であると分かってしまう。流石トト親方、と言いたい処ではあるが。


俺は横目で、非難の籠った視線を向けて親方を睨め付けた。地味な外観を要望した理由は、以前散々説明したというのに。


「クックック、良かったな小僧。久方振りに心躍る仕事だったんでな。ちぃとばかし気合が入っちまった。そのひと振りは、俺の此の十年の間でも会心の出来だぜ。」


親方は俺の視線などどこ吹く風で、ニヤニヤと笑みを浮かべながら実に楽しそうに言い放った。


「そんな事言って 良いのか親方。そんな出来栄えの武器だが、俺に死ぬ程 使い倒される事になるぞ。」


「グハッ!良いねえ。寧ろ望むところよ。ソイツの強靭さは半端じゃ無いからな。使い潰せるもんなら使い潰してみやがれ。」


「・・・。」

いやいや、そのニヤケ面は俺の視線の意味を絶対分かって言ってるだろ。


ハァ、仕方ねえな。俺は一つ息を吐くと、頭を一つ振って気持ちを切り替た。


「ああ。いや、良い出来だ。ありがとう親方。」


親方には別に悪意がある訳じゃないし、出来が良いのは悪い事じゃない。此れがもし小坊主なら、間髪入れずリバースインディアンデスロックの刑に処す所だけどな。取り敢えず街中では常に鞘に入れておくか、場合に依っては厚めに油でも塗って置けば左程目立たないだろ・・多分。


そんな事を考えつつも、俺は新たな相棒を手に取って、改めて刀身を眺めて見た。刀身には僅かに反りがあり、反りの形状は中反りである。そして故郷の長巻や薙刀との最も大きな違いは、其の刀身の身幅は長巻や薙刀よりも更に広く、そして重ねはとんでもなくブ厚い厚重ねである事だ。なので、其の見た目は長巻や薙刀と言うよりも、滅茶苦茶刀身が長くてゴツい青龍偃月刀に近いのかも知れん。気分は乱世の美髯公である。まあ、青龍の装飾なんて無いけどな。


そしてその刀身の刃付けは、前の相棒と異なり片刃である。峰は平らでは無く、三角屋根のように中央部分が尖っている。両刃にするか片刃にするかは正直かなり迷った。確かに殺傷力なら両刃の方に軍配が挙がる。だが、汎用性なら片刃の方が優れていると考えたのだ。俺は戦闘でチャンバラをする気は無いが、其れでもどうしても受けに回らざる得ない場面が出てくるかも知れん。そんな時、出来れば刃で相手の攻撃を受けたくは無い。それに片刃なら所謂峰打ちによる、打撃としての攻撃も可能だからな。そんな訳で、新しい相棒には片刃を採用した。加えてその刀身は、主に希少金属である輝碧鉱によって鍛えられている。その為、その鍛えの水準次第では、親方の言うように途轍もない強靭さを発揮する筈だ。


筋骨隆々な力自慢の木樵が、輝碧鉱を鍛えた斧を用いてありったけの力で大岩を叩き割っても、其の刃には砂粒程の刃毀れすら生まれ無かった・・とは輝碧鉱の武具に纏わるこの世界の有名な逸話である。


因みに刀身だけじゃなく、柄の方の素材も生半可な代物では無い。使用されているのは木材なのだが、無論唯の木材じゃない。魔物領域の奥地に自生するらしい、魔喰樹とかいう化物樹の芯から削り出した代物である。そのデンジャーな肩書から想像は付くが、この素材も凡そ非常識な強度と素晴らしい撓りを誇る。因みにその樹が自生する一帯は超危険地帯なので普段は滅多に市場に出ない素材なのだが、幸運な事に最近市場に結構な量が流れて値崩れを起こしていたらしい。


「小僧、早速試してみろ。」


親方がクイと親指で裏庭の端を指すと、其処には丸太の杭が立ち並んでいた。そしてその内の人間の胴ほどの太さの1本には、古ぼけた金属鎧が装着されていた。


「ん?親方。試しであの金属鎧を 斬れと。」


「おうよ。」


「断る。」

俺は即答した。


「ああああ!?何でじゃああ小僧っ!」

すると親方は何時ぞやのようにみるみるこめかみに太い血管を浮かせ、まるで茹蛸のような有様になって叫んだ。


「いや金属鎧なんて斬って、もし刃が欠けたら どうするのだ。」


当たり前だろボケッ。漸く新しい得物を手にしたのに、大事な大事な相棒に初手からいきなり固ったい金属鎧なんて斬らせんじゃあねえよ。常識的に考えんかい。


「小僧っ俺の腕が信用できねえってのか!」


「信頼はしているが、嫌なものは嫌なのだ。」


その後暫くの間、俺と親方とでひたすら不毛な押し問答が続いた。だが結局、万が一破損したら無償で研ぎ直すことを条件に、気の進まないまま贅沢にも金属鎧で試し斬りすることに相成った。因みに試し斬りの鎧はどうせ後で溶かして再利用するので、遠慮無くブッた斬って良いそうだ。いや斬りたくないんだけどな。その代わり試し斬りをしてあげるもう一つの条件として、事前に丸々一刻の間ウォームアップをさせて貰うことにした。


暫くの間実戦で使用した魔法付与の棍棒を除けば、鍛錬における武器の使用は悉く封印してきた。何時しか異常に向上してしまった身体能力に、取り残された意識と技術を再び重ね合わせる為である。


俺は新しい相棒を構えてみる。半身になって中段。形は薙刀に近い。得物の重心は以前と同じ前掛かりだが、その形状は大きく異なる。そして何より。


其処には、俺が新しい得物に求めていたもう一つのモノが確かに有った。


其れは、重さだ。


思わず頬が緩んでしまう。この手に掛かる確かな手応え。此れが欲しかったのだ。其の重量は、恐らく10kgを優に越えているだろう。だが、今の俺の膂力ならば些かの問題も無し。軽量化?とんでもねえ。例えばあのハグレの悪夢のようなブ厚くて頑丈な外殻をブチ抜くには、紙の模造刀の如き頼り無い武具なんぞではお話に成らぬ。だが新たな得物の刀身のサイズに加えて、一撃に此の重さを十全に乗せる事が出来たのならば。例え相手が大型の魔物や猛獣であろうが、確実に致命の一撃をブチ込むことが叶うはずだ。


一文字。先ずは一閃。だが、唯其れだけで俺は驚きの余り瞠目する。指先に感じられた大気を斬り裂くという感触。これ程に明瞭に感じるのは、故郷に居た頃も含めて恐らく初めての体験である。半端ねえぞコイツは。


その後、夢中になった俺は、新しい相棒を止め処無く振り続けた。



____この世界における一刻の後。(一刻は夜明けから昼までを4分割した時間である)俺は試しの古寂びた金属鎧の前で構えている。構えは上段。特に勿体付ける理由も無いので、疾く斬って捨ててみせようか。


邪魔な強張りは息吹と共に溶かし、気構えは其のままに程良く身体を緩める。


「シュッ」


そして呼気と共に、一歩踏み込む。意識せずとも、身体が思い描いた描いた通りの軌跡を描く。良いぞ。軸のブレ、身体の熟し共に一切の淀み無し。


サンッ


まるで草を刈る様な他愛も無い音と共に、金属鎧は丸太ごと袈裟懸けに両断され、ゆっくりと地面に落下した。此の手に僅かに感じた冗談のように希薄な手応えは、早くも霞のように薄れて消えつつあった。


俺は、少し恐ろしくなった。

此の殺伐とした異界で生きる限り、俺にも何時か来るのだろうか。この背筋が凍るような刃を、人に振り抜くその時が。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 剣と魔法の異世界でPMC装備! キャー!カッコよくない? 素敵〜。 でも武器は刃物ですね。 銃ぽっい武器を魔法で作って装備して下さい! [一言] 素敵な装備で女子にモテ始めたらどうしよう。…
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