表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遥か異界の地より  作者: 富士傘
摩訶不思議魔技修道編
168/265

第145話

「ぬっぬぐ・・ぬぐぐぐぐぐっ。」


「ほれほれほれほれ。そんなザマじゃチーチクの尻尾すら引っ張れんぞい。」


丸い木製のテーブルを挟んで足を組んで横向きに座る婆センパイが、俺に向けて厭らしい笑みを浮かべる。俺は机の縁に手を掛け、半立ちの体勢で絶賛硬直中だ。そして、お互い向かい合った体勢で手の甲を相手に向けて人差し指をおっ立て合っている。要するに此れが故郷で人差し指ならぬ中指ならば、見た目完全にファアア〇アアック!な一触即発状態な見た目である。


勿論、俺達は実際に一触即発な状態と言う訳では無い。目の前のムカつく笑顔を一発張り倒したい俺の心中は置いておくとしてだ。互いに突き出し合った俺達の指先はブッ太いトコロテン、或いは水飴のような透明な物体で繋がっている。実は何とこの物体、唯の水である。摩訶不思議なことも有るモノだ。我が事ながらビックリだよ。そして俺が何故こんな脳の血管が大量にプチプチと切れそうな程集中しながら婆センパイと戯れているかと問われれば。実はこの状況、水属性の魔力に拠る水の掌握の絶賛修練中なのだ。


が、しかし。ぐおおおっ此のババアに、勝てん。何度やっても・・・!


そして間を置かず、俺の奮闘を嘲笑うかの如く指先からトコロテ・・じゃなかった水の中へと伝わっていた魔力の確かな手応えが消失し、俺の指先から水の紐がスルリと擦り抜けてしまった。同時に集中力と精神的疲労が限界を越えた俺は、ゴガンと派手な音を立てながら机の上に頭を叩き付けて突っ伏してしまった。糞ぉ。脳が茹で上がったみてえにクソ熱い。それにぶん殴られた時のように視界がチカチカ明滅する・・。


俺は味噌まで茹った蟹のような気分のまま気力を振り絞って顔を上げると、其処には煙管のような筒を口に咥え、プカリと煙を吐き出す婆センパイの姿があった。その指先には俺から奪い取ったソフトボール大のサイズの水の塊が出来上がっている。ぐぬぬぬ余裕綽々じゃねえか。俺は息も絶え絶えだっつうのに何てババアだ。果たして此のババアは本当に人類の枠に入るのだろうか。いや、少なくとも地球人じゃないしあのビビりな魔術師のおっさんの言っていた通りワンチャン魔物の親類て線もあり得なくは無いな。


「は~未熟じゃのう。貧相じゃのう。凡骨じゃのう。あの程度で早くも音を上げよるとは。あたしゃ未だ全然身を入れてすら無いんじゃが。」


「ぐう・・次こそ・・は。」


「ほ~う。ええじゃろ。じゃあ次やるかい。ホレ小僧。何時まで寝とるんじゃ。今直ぐ立たんかい。」


センパイはニタニタと実に楽しそうに俺の頭髪をむんずと掴むと、半ば強制的に立ち上がらせようとグイグイ力を込めて来た。だが、しかし。


「いや、待ってくれ。直ぐには 無理だ。」

俺は速攻でセンパイに泣きを入れた。


リアルは漫画や小説じゃないからな。蓄積した疲労は直ぐには回復なんてしねえし、疲労困憊のまま無理に続けたとしても却って修練の効率は悪くなるだろう。確かに俺には回復魔法が有るので、ヤバいお薬の如く肉体を無理矢理再起動させることも一応可能ではある。だが、今回は少々事情が異なる。今、一番疲労している箇所は首から上なのだ。俺は未だ自分の脳に回復魔法をぶっ放した事は一度も無い。強烈な快楽と共に、記憶やら何やら諸共吹っ飛びそうで怖いからだ。そんな訳で、今は何時ものように回復魔法で強制的にゴリ押す事が出来ない。


「フンッ即泣き言かい。大の男が、情け無いのう。」

などと言いつつも、結局センパイは掴んでいた俺の頭を机の上に放り出した。




てな感じで。俺はほぼ毎日早朝から魔術師ギルドへと足繁く通い詰め、婆センパイと魔法の修練に明け暮れている。尤も、トト親方の所にも顔を出さなければならぬ為、流石に毎日センパイと戯れるという訳にはいかないけどな。しかしこんなザマだと俺の魔法教育は停滞しまくっていると、一見勘違されてしまうかもしれない。だがさにあらず。実は此処に至るまで、魔法の習得はすこぶる順調に進んで来ているのだ。


最初は婆センパイの助言の下、最も適正が高い日属性の修練から始めた俺である。だが早々に発火の魔法を習得したことにより、次いで日属性に加えて水属性の魔法の修練も併せて進めてゆくことになった。


具体的に何をしていたかと言えば、初めは小さなコップに満たされた水に人差し指を突っ込んで中の水をゆっくり回転させる処から始まり、次いで魔力だけで水滴を指先に引き寄せたり、濡らした指先から水滴が落ちないように留めてみたり、己の魔力で微量の水を動かす段階から徐々に進めていったのだ。


特殊な魔石による試しによれば、俺は日属性程水属性の適性は高く無い。だがしかし、俺は此処まで思いの外順調に水を段階的に操る事が出来ている。その理由は回復魔法で魔力の操作に慣れていたという事は言うに及ばず、水は火などと違って触れることが出来る為、婆センパイが操る水に手を突っ込む事で其の魔力に触れさせて貰った事や、更には日属性で掴んだ魔力に拠る掌握の感触が非常に助けになったのだ。お陰で水属性の魔力の模倣は、何と日属性よりも幾らか容易に達成する事が出来た。


その際、センパイは日属性の時と同じように魔力に拠って今度は水の精に働き掛けるなどと言っていたが(因みに水や火の精は意思疎通が可能な所謂精霊程に高等な存在では無いらしい。)無論そんな謎生物?を地球の現代人たる俺が認識できるハズもない。なので俺が操るイメージは謎生物では無く水分子である。水分子は水素結合で緩く繋がる事により液体の状態になっている。その為、掌握した魔力にイオンのように電荷を帯びさせて結合の仲立ちをさせることにより、水を操る事が出来ているのではないかと考えたのだ。


試しにチョロチョロと水瓶から垂らした水流に対して、婆センパイに頼んで水属性の魔力を帯びさせた指を近づけて貰うと、その水流は指に触れても居ないのにそれを避ける様に曲がったのだ。その事により、水属性の魔力に対する俺のイメージは凡そ固まったと言って良いだろう。


其れからは婆センパイの鬼畜生な指導の下、兎に角水の中に水属性に変質した魔力を流し込んでは掌握する。そしてその範囲を僅かずつでも広げてゆく。その事に血道を上げて来た。日属性にせよ水属性にせよ、魔力に拠る掌握は魔法を操る上で基本となる技術であると共に、根幹と言って良い要素でもある。例えば炎の飛沫の魔法を構成する収奪の魔法も此れが出来なきゃ話にならないし、俺が渇望する湧水の魔法でもコイツの練度がその要となってくるのだ。そして苦労を重ねた末、今ではコップ一杯程度の水ならかなり自由に操れる段階まで漕ぎつける事が出来た。


他には風や土属性その他に関してだが、最早俺は習得する気なんぞサラサラ無い。例え習得可能だったにせよ、そんな代物に手を出すような余裕は全く無いのだ。其れどころかセンパイから教わる魔法も、恐らくは数種類までに絞られることに成りそうである。理由は単純に、時間が幾ら有っても全然足りないのだ。


というか、実の所この世界の魔法って奴は滅茶苦茶奥が深い。例えば炎の飛沫の魔法一つ例に挙げても、唯単に火を飛ばせたら終わりって訳じゃない。先ず必要なのは触媒探しである。炎の飛沫の魔法の一部が収奪の魔法で構成されているのは周囲から可燃性物質を掻き集める為だと思われるが、実は触媒無しでは碌に収奪の魔法は機能しないんだそうだ。いや正確には出来なくは無いのだが、その場合には桁違いの魔力を消耗するらしい。因みに婆センパイの触媒は両手に嵌ったあのゴツい指輪である。そして基本魔法の触媒は高価な物程効果が高いのだが、必ずしも高価な物が最良と言う訳では無い。個人により相性があるからだ。なので触媒一つ取っても自分に最適解なブツを見つけ出そうと思うのならば、其れこそ年単位、下手すりゃ十年単位で探し回らなければならないのだ。


更に炎の飛沫は威力を高めようとすれば当然収奪と発火の威力を高めれば良い訳だが、そうなると熱量が上がるので当然手を火傷し易くなる。となれば耐火により魔力を注がねばならないのだが、すると射出の威力が弱まってしまう。何故なら一つの魔法に注げる魔力のリソースは限られているからだ。無暗に一つの魔法に大量に魔力を注ぎ込み過ぎると、その分制御が困難になってしまうらしい。その為、威力を上げる為には火力を可能な限り高めても自身にダメージを負わず、尚且つ十分に飛ばせる塩梅を見極め、制御する必要がある。


更には場合に依っては多少火傷してもとにかく威力を上げたり、より火を遠くに飛ばすことを重視したり、或いは加減して小さな火を飛ばしたりと状況により様々な魔力リソースの割り振りが要求される。此れを十全に身に付けようと思ったら、一朝一夕の修練ではとてもじゃないが不可能である。婆センパイの言に拠れば、天才と凡夫の違いは此処に最も現れる。凡夫は魔法を身体で覚えた感覚のみで制御をしているが、才人は其々の魔法の制御を完全に理解した上で行使している為、魔法の精度が凡夫とは比べ物にならないのだそうだ。無論、俺は敢えて言うまでも無く絶賛凡凡凡夫君である。尤も、魔法が使えるだけでも普通の人類からは逸脱しまくってるかもしれんが。因みに炎の飛沫は手でブン投げても飛距離を伸ばせる為、肩を鍛えるのも修練の選択肢に入る。


此のように、日属性の炎の飛沫の魔法。コレ一つだけでも、其れを使い熟すには滅茶苦茶奥が深いのだ。婆センパイがイキった半端者の日属性魔術師を馬鹿にしまくってた理由が良く分かったぜ。てな訳で。今の俺は熱望するものと絶賛修練中である幾つかの魔法を除けば、下手に数を習得するよりも婆センパイから様々な魔法の知識を得る事を重要視している。敵対者の魔法に対して別に魔法で対抗する決まりなんて無いしな。正しい知識さえ身に付けて置けば、例え自身で魔法を身に付けて居なくても、幾らでも対処の仕様があるというのものだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ