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遥か異界の地より  作者: 富士傘
異界転移編
14/265

(閑話1)

俺の名は来栖 大吾

何処にでもいる中学3年生・・・とは言えねえな。

中学1年の時、俺は親父の仕事の都合で転校することになった。入学したばかりの私立の進学校だった為、お袋は酷く反対したが俺にはどうでも良かった。何の刺激も無いガッコウ生活とやらには三日で愛想を尽かし、同級生の奴等は救いようがない程退屈な凡愚だったからだ。


転入の手続きはあっさり終わった。公立なので転入試験も無い。

そして転入初日、登校途中の俺の目の前で子供がトラックに撥ねられた。幸い子供の命に別状はなかった。だが、俺は外傷と出血の状況を鑑みて、咄嗟に医大生の甥に教わった患部の固定と間接止血を行い、動転して要領を得ないドライバーに代わって警察と救急車を呼んで状況説明を行った。俺が血がベットリ付着した学ランとシャツを身に付けたまま教室に駆け込んだのは6限の終わる間際であった。


俺にとっては極些細な出来事であったが、其のせいか俺は早速クラスで浮くことになった。尤も、そんなことは全く気にならなかった。転入先でも俺は酷く退屈していた。授業は独創性の欠片も無い画一的な内容だったので、俺は全て無視して面白味の欠片も無いカリキュラムを手っ取り早く進めていった結果、中学1年の終わる頃にはすでに高校の一般的な履修科目の学習を一通り終えようとしていた。滅多に話しかけてこない同級生は転校前の連中よりさらに退屈な奴らだった。


ある日、イキった上級生共が唐突に俺に絡んできた。退屈凌ぎのお礼代わりに軽く〆てやったら無駄に騒ぎが大きくなり、俺は停学になった。後遺症にならないよう綺麗にへし折ってやったのにピーピー泣きやがって。情けねえ奴らだ。

・・・そして、程なく俺はクラスでアンタッチャブルな存在となっていた。


教師からも腫物扱いされていることを利用して、俺は度々学校をサボって親父と山へ狩猟に出かけたり、学外でコネ作りに勤しんだり、ヒキコモリの兄のアカウントを使って金を稼いだり、学校とは関係のない場所でそれなりに充実した学生生活を満喫していた。


そして、いい加減学校に通うことに疑問を感じていた頃、俺はアイツと出会った。


奴の名は加藤 雄馬。一見してどこにでも居る唯の中学生に見えた。

中学2年に進学して数日後。俺はアイツと些細なことで喧嘩をした。ヒートアップした俺たちは取っ組み合いになり、俺は速やかにアイツの腕をへし折った。


俺は再び停学になった。腕をへし折られたにも拘らず、アイツは涙一つ見せなかった。歯を食い縛りながら即座に俺の鼻に膝蹴りをぶち込んできた。


停学明け、三角巾で腕を釣ったアイツはいきなり俺に話しかけてきた。悔しいから俺に関節技を教えろと言ってきた。その代わり菓子折り持って頭下げに来るのは勘弁してやると。


アホなのか此奴はと思った。だが、それ以降何故かアイツとは度々ツルむようになった。話してみるとなぜか妙に馬が合った。ちなみに喧嘩の原因は、目玉焼きにかけるのが醤油とソースのどちらが美味いかでの口論だ。本当に糞くだらなくて後に二人でバカ笑いをした。



あの日、俺は加藤と二人で行く予定のキャンプの事を考えながら教室へ向かって歩いていた。

(まずは加藤にパスポートを作らせないとな。あと誓約書も。)

そして教室が目前になった時、それは起きた。


「なっ!?」


俺の目の前で突然。教室が幾つにもブレたように見えた。一瞬、俺の目か脳が異常を来したのかと思った。幾つにもブレた教室の中には、生徒の姿が見えなかった。

そして、分裂したように見える教室の中で唯一つ。中に生徒達の姿が見える教室が何処かに吸い込まれるように消えていく。


「おいっ!」


余りに現実離れした出来事に数瞬の硬直の後、俺は咄嗟に人が見えた教室に向かって手を伸ばした。だが、教室の扉に掛かるはずのその手には何の手ごたえも無かった。そして、次の瞬間には何事も無かったかのように教室は元の状態に戻っていた。俺の手は教室の扉を掴んでいた。


だが、教室の中に居る筈の生徒の姿は忽然と消えていた。




あれから3週間。

俺は傍受した警察無線に耳を傾けながら、モニターに写ったロシア人とカナダ人のフリーのジャーナリストからの提供情報に目を通している。

彼らとは親父の仕事の関係で以前から面識があり、集団失踪事件の現場に居合わせた俺のレポートと引き換えに情報提供に協力してもらっている。

さらに俺は、他にも何人かのフリーの情報屋をカネで雇って情報を集めている。

不確定な情報ではあるが、海外でも同様の集団失踪事件が起きているとの情報を耳にした。ただし、その案件は一般には公表されていない。裏取りがされていない為、まだ信ぴょう性の薄い情報ではあるが。


マスメディアはこぞってこの集団失踪事件を大々的に報道している。海外でも未だにトップニュースだ。俺や残ったクラスメイト、またその家族などはマスコミの執拗な取材に晒された。俺自身や他のクラスメイトはどうでも良かったが、加藤の両親や妹の由香ちゃんにまで執拗にカメラを向けるマスコミにイラついた俺は、全世界に10か国語の解説付きで強引な取材の様子を動画サイトとSNSに公開して拡散してやった。俺達への執拗なストーキングは一時的に鳴りを潜めた。


学内は勿論騒然となった。教師たちは、行方不明者達の親族から連日糾弾され憔悴し切っている。いくら責められたところで連中には何も分からないだろうに、気の毒な事だ。俺も教師や親族などから連日詰問されたが、適当にはぐらかした。物証など何もないし、当時俺が見たありのままを語ったところで、彼らの中で信じる人間など誰も居ないだろう。


警察は第一通報者の俺の行動を内偵した結果疑いを持ったのか、俺は任意同行を求められ執拗な取り調べを受けた。当たり前だが何も出てくるはずがないんだけどな。

その後、警視庁と奈良県警は、合同で特別捜査本部を設置して必死の捜索に当たっているが、今の所何の手掛かりも得られていない。



俺は後悔していた。あの時、もっと早く手を伸ばしていれば。いや、いっそ教室に飛び込んでいれば。


加藤。お前生きてるのか?今何処で何をしてるんだ。

俺に初めてできた同じ歳のたった一人のダチ。

何もかも詰まらねえと冷めきった目で周りを見下していた俺に思っても見なかった絆をくれたアイツ。

決して諦めねえ。何があっても必ず助けてやるからな。



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― 新着の感想 ―
[良い点] この子はお話がお話なら主人公だったでしょうね!
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