表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遥か異界の地より  作者: 富士傘
異界転移編
12/262

12話

怒りと絶望の夕餉から一夜明けて。

俺の目と鼻の先では、クラスメイトの何人かが床で藻掻き苦しんでいた。どうやら昨日食った中の何かが当たったらしい。一瞬ざまーみろと思ったが、こんな状況で食中毒など起こしたら文字通り命にかかわるので直ぐに思い直した。嘔吐してる男子の背中をさすってやる。嘔吐してしまうのは仕方ないが、口のほうはまだしも尻の方はもっと離れたところで出せよ。後が大変だからな。


その後、才賀の呼びかけで昨晩皆が食べたものをそれぞれ検証してみると、どうやら他のグループが採取してきた木の実が原因だったようだ。良かった。芋虫は何ともなかったなようだな。多分。


ともかく食あたりで苦しむ連中はベースで休ませて、本日もグループごとに分かれて食料探しだ。そして今日も俺はボッチである。仕方ないので昨日と同じように孤独に苛まれつつ川の場所まで歩いて行くと、他のグループが川辺で何かを洗っていた。

此のまま顔を合わせると面倒なので、俺は連中に見付からないようにそっとその場を離れた。その後、連中が居る場所の下流で水分補給をしたくなかった俺は、更に上流に向かうことにした。



今日は水辺を徘徊して、体長5cmほどの蟹っぽい甲殻類を何匹か捕獲した。但し此の蟹モドキ、鋏が見当たらない。一体どんな生き物なんだよこのカニモドキは。それと、木の幹にくっついてた芋虫を見つけた。お前昨晩喰ったのと同じ種類の奴じゃねえか。遠慮なく今日もいただきます。俺は手を合わせて芋虫を採取した。


それなりの収穫があったので、俺はベースへ戻ることにした。ベースに帰る途中、目の端に猪のような獣を捉えた。心臓がドキンとしてタマがヒュンとなった。だが相手も相当警戒してるのか、すぐに俺の視界から居なくなった。助かった。


ベースに戻ると、昨日と同じように捕まえた蟹モドキをひったくられた。あと芋虫も。こんなことなら川の辺りでそのまま食っとけば良かったと一瞬思ったが、流石にに沢蟹モドキは寄生虫が怖すぎる。大人しく火を通されるのを待つか。


・・・そしてその日の夕方。今日の夕餉はなんと鍋っぽい汁ものが調理されていた。昨日と入れ替わった居残りメンバーがなんと木の皮で鍋を作成したらしい。生木の皮って直ぐには燃えないのな。勉強になる。


俺は鍋の味への期待に胸を膨らませていたが、よくよく考えたら俺には汁物を受け取るお椀がない。どうしようかと思っていたら、他の皆が即席のお椀に入れた汁物を回し飲みしていた。以前、学校行事でキャンプをした時の思い出が蘇る。こういうのも悪く無いな。


・・・そして俺にお椀は回って来なかった。


此れには流石に俺もキレた。空腹に対する我慢も殆ど限界寸前だったからだ。


「おい、俺はまだ何も食ってないんだが。」

凄んだ低い声を上げたつもりだったが、普段あまりキレたことの無い俺は想像以上にテンパって声が震えてしまい、更には裏返った。恥ずかしさの余り怒りが少なからず萎んでしまう。


「おい加藤に 「あんた何の役にも立ってないんだから食べる資格なんてないでしょ。」

才賀の声に被せて香取が俺に言い放った。

えぇ・・そういう問題なのか?それを言うなら香取よ。今日探索に出てたお前のグループは獲物を何も取ってきてないぞ。


そして、どうやら俺がサンショウウオモドキや蟹モドキを取ってきた事は他のクラスメイトには全然認知されていなかったようだ。そういえば俺が一番早くベースに戻って来たからな。俺から獲物をひったくっていった居残り組は、俺が色々と収穫して来た事を黙っていたようだ。


「いや、その蟹っぽいの俺が取ってきたんだけど。」

「嘘ついてんじゃねーよ。」

即否定された。何の根拠があって嘘と断定してるんだ此奴は。ムカつく。


「とにかくもう空腹が限界なんだ。何か食わないと保たない!」

俺は必死に訴えた。だが、周りのクラスメイトは冷酷な視線で俺を睨み付けるだけだ。余りに理不尽なハブられ具合に、俺の沸騰した頭は嫌でも急速に冷えてゆく。俺は内心怒りより怖くなってきた。此奴等ヤバいな。


「お前らいい加減にしろ。何か加藤に食べさせてあげようぜ。本当にキツそうだ。」

その様子を見かねたのか才賀が訴えると、竈の後ろでもぞもぞと動いてた女子が葉っぱに乗せた食材を持ってきてくれた。よかった。助かった。


「サンキュー助かったよ。俺本当に腹が滅茶苦茶減っちまっててさ。馬鹿みたいにキレちまってごめん。」

俺はあえて大げさに謝罪して大きく頭を下げた。こんな危機的な状況でいつまでもギスギスしていても仕方がない。生き延びるためにみんなで協力し合わないとな。


俺は蟹もどきや芋虫など葉っぱの上の食い物をガツガツと平らげた後、腹は満たされていないものの心は悪くない気分で就寝した。





・・・そして、強烈な悪寒と腹痛に襲われて目を覚ました。




俺はガタガタ震えながらベースの外へ這っていくと、口から胃の内容物をリバースした。さらに咄嗟にズボンとパンツをズリ降ろすと尻穴からも盛大に噴射する。

強烈な刺激臭が鼻腔を刺激する。あああぁヤバかった。ギリギリ外に出られて良かった。


しかし・・・この症状。間近の記憶と合致する。まさか、まさかアイツラ・・・盛りやがったのか!?あの木の実を。


悪寒が収まらない。腹からありえない異音が鳴る。滝のように冷や汗を垂れ流しながらのたうち回る。常時尻から液体を噴出する。だがどんな体勢になっても一向に楽にならない。ぐおおおぁぁヤバい死ぬ。まぢでシャレにならんぞ。



俺は丸一日中藻掻き苦しみ続けた。高熱が出て、体力がガリガリ削られていく。クラスメイトの奴等は苦しみ転げまわる俺を完全に無視した。だが、才賀と何故か山下だけは苦しむ俺の背中を擦ってくれた。


俺は藻掻いていた。病気や怪我の時はえてして心も弱気になってしまうものだ。だが、この時は状況が特殊過ぎて、逆に俺のハートは燃え上がっていた。ぐぎぎぎ絶対死ぬもんかよ。アイツら絶対許さん。


俺は歯を食いしばって常時襲い掛かる発熱の苦しみと腹痛を耐えに耐えた。食いしばりすぎて奥歯が欠けた。だが、括約筋は俺の意思に反して耐えてはくれなかった。身体中から刺激臭を放ち、尻を盛大に濡らした俺はベースの中から放り出された。今雨が降ってきたら確実に死ぬなこれ。


・・・苦痛に耐え続け、衰弱し切った俺はベースの外でぐったりしていた。すると誰かが励ます声をかけて水を飲ませてくれた。クラスメイトにこんなことしてくれる奴いたっけ?才賀かな。

ぼんやりと考えた俺は、そのまま深い眠りに付いた・・・。



・・・翌朝。日の光を感じた俺はどうにか重い瞼を上げると、辛うじて腹痛は治まっていた。状態を確かめつつ、ゆっくり身を起こす。ヤバい。俺の身体、かなり衰弱してる。生命の危機を喉元まで感じた。


嫌な出来事ってのは立て続けに起きるものだ。どうにか起床した後、自分の鞄の中をまさぐった俺は愕然とした。俺は切り札の一つとして、鞄の中に高カロリーの飴を忍ばせていた。大吾とのキャンプに持っていく予定だったものだ。それが忽然と消えていたのだ。余りの悔しさに俺は思わず歯ぎしりする。


日本に居た頃なら窃盗の犯行現場を抑えた後、犯人の鞄の中に犬の糞でも放り込んでやるところだが、こんな場所ではどんなに訴えても犯人は出てくるまい。それどころか俺の立場がさらに危うくなるだけだろう・・。



今回の出来事は決定打と言って良い。俺は自身の今後を左右する重大な選択を迫られた。決断するのは早い方がいい。と言うかもう一刻の猶予も無いだろう。


俺は、念の為あらかじめポケットに何個か忍ばせてあった切り札の飴の一つを舐めて急場を凌ぎつつ、ひたすら夜が来るのを待った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
「ぐぎぎぎ絶対死ぬもんかよ。アイツら絶対許さん。」 そこまで思うなら、さっさと別れて別行動取ればいいのに、どう思って、共同生活してるんだろう。とても共同生活とは、思えないけど。むしられているだけだね…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ