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短篇集  作者: トリム
8/8

地球代表

「あなたは地球代表に選ばれました」

 

学校へ行かなくなってから2年半、家に来た黒い服の男達にいきなりそう言われて、僕は地球代表になった。

 

それから半年間、なんとか宇宙センターというところのでっかい部屋に住み込んで、宇宙へ行くための訓練を受けた。訓練といってもそれほど厳しいものではなくて、なんて言うか、体育の授業がもっとちゃんとした感じ。それも僕があまり乗り気じゃなければ早く終わったり、一日休みになったりした。ここでは皆良くしてくれて、居心地はいい。

とにかく僕にとっては地球代表だろうが、世界代表だろうが、なんでもよかった。学校へ行かなくていいし、行かなくても堂々としていいんだし、そしてなによりあの家から出て親の顔を見なくて済むし。


訓練だけでなく、世界中のいろいろな所へ連れていかれた。どこかの国の大統領とか、国王とかいう人たちと会った。みんな僕のことを知っていて、応援しています、とか、あなたは地球の誇りだ、とか言われた。大勢の人の前に出るのはちょっと嫌だったけど、歓迎してくれてるので悪い気はしなかった。でもそんなことより僕が一番うれしかったのは、大好きなデッドライダーズに会えたこと。メンバー全員が僕のファンだと言ってくれた。なんか変な気分。僕がデッドライダーズのファンなのに。


親?家を出てから両親がどうしてるかは知らないし、興味もない。別に、会いたいとも思わないし。


部屋に閉じこもっていた頃と正反対のここ半年。みんなが僕を見ていて、みんなが僕を頼りにしている。もう僕のことを悪く言ったり、いじめたりするやつはいない。

「オレは確かにここにいる」

て感じかな、詳しくはデッドライダーズの“炎のAマイナー”を聴いてみてよ。


今僕は、発射前のせまいロケットの中に一人ぼっちでいる。また半年前の家に戻ったような気もするけど、でもあの時とは違う。僕は地球代表なんだ。

 

結局最後まで、宇宙のどこに行って何をするのか、そしてなんの地球代表なのかは教えてくれなかった。僕も聞かなかった。というか、聞けなかった。僕は知らず知らずのうちに、この夢のような半年間と引き換えに何かを失う覚悟ができていたのかもしれない。


僕はこれから宇宙へ行く。でもきっと、帰って来ることはできない。

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