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1 まじめなやつほど病気になりがち

ひっそりと、自己満足を前提とした物語です。気に障ったらごめんなさい。ぶっちゃけ読者なのですが、なろうの使い方はよくわかってません。一応エンドまでの大まかな構想だけは存在するので、なるべく丁寧に描いていこうと思ってます。よろしくお願いします。

 都心にある中層ビルの一角に自分の職場があった。消音効果の高い固めの絨毯が敷き詰められ、部屋には数メートルにも及ぶ長いデスク。横に2メートルほどの間隔でパーティションが設置されている。それが両側に整列してる。12X12で合計24個。イスはキャスターと肘掛、背もたれがあるちょっと高そうなもの。

そのうちの一つの小さなスペースが自分の場所だ。机の上には23インチモニタが2枚並んでいる。1枚はメインの作業用、もう1枚には各種連絡用としてデュアルモニタで使用している。左側のモニタの上にある小さなランプが緑に点灯した。リーダーからメッセージが届く合図だ。


 (まだかかりそう?)

 (予定では1時間ほどで終了です)  


即レスする。ここからここからと自分に言い聞かせるように落ち着きを保つ。

そして ふっと軽く息を整えて相手の話を再度聞き始める。それに伴ってピアノでも弾くかのようにキーボードを叩いていた。


 「な、わかるでしょう。私の気持ちと御社の対応の差に開きがありすぎるってことが!」


 声のボリュームが結構な熱を帯びてきている。抑揚強いなーこの人。


 「お気持ちは察するところがないというわけでもございませんが、弊社の対応と致しましては先ほど申し上げましたことの繰り返しとなってしまいます。誠に申し訳ございません」


  都合1時間ほどこんな不毛なやりとりが続いていた。話の内容としては至ってシンプル。


1年半使用していたパソコンがある日いきなりブルースクリーンエラーを起こしたから初期不良の可能性が全くないわけじゃないので、ただで新品と交換しろと言ってきた。延長保証に未加入、修理対応不可、返金要求は今のところない。


 自分にとってはいつものクレームだ。でも飽きてきてる。毎日こんなのばっかりだから。


 最初の半年くらいは一生懸命に対応していた。使命感を持って。うん、がんばってた。

その甲斐もあってか、なにかの対応が見事だったとかで社長賞を下手にもらってから、おれの仕事はクレームの3次対応まであっという間に昇進してしまった。最初はめっちゃ喜んだよ!成果主義は素晴らしいと同期に自慢げに言ってたし、すごい勢いで時給まで上がっていくもんだからちょっと天狗になった時もあった。だが、砂漠なみに不毛な仕事だと気が付くまでは。


それなりに、そ、それなりに楽しかったよ!今も楽しいと言えば楽しいよ!と、毎日自分に言い聞かせている。


 そんな仕事を早2年も続けている。。。


一生懸命やった!昇進した!給与もあがった!でも体調はどんどんどんどん悪くなっていく!


なぜだ?


 ふと思った。人の経済的利益の獲得と健康は反比例する。正社員はかなりブラックだが俺たち派遣は時給の残業代がバカにならないらしいので定時で基本的には終わり。


だが、そこはクレームの坩堝。正式に対応完了するまではだいたい1か月くらいが平均かな。


パソコンのスケジューラーにはびっしりと星印(重要対応)が入っている。もちろん自分のシフト表に。

新規で直接の入電はなく2次職からメールで対応依頼がやってくる。中身を精査して、オンラインでミーティングをしてシナリオを作ってから全員共有の上でこちらから折り返しの連絡をする。


ミーティングはモニタの中のフォントだけというのが救いだった。同僚の顔を見るのがつらかったから。


どいつもこいつもメガネにうつろな真っ赤な目、クマ付、血色不良のどす黒い顔。一発で分かる不健康のオンパレードだ。俺もまだ20代だが人のことは言えなかった。市販の目薬では目の充血が引かないのと、顔がどす黒くなってきたので眼医者に行くことにした。そしたらとんでもない診断を受けた。


 極度の慢性眼精疲労、糖尿病のステージ2


は?なにそれ!甘いもんとか毎日浴びるほど酒飲んでませんが!


最初に聞いた時には思わず仕事をやめろと?とムッとして聞いてしまった。

だけど医者はそんなに冷静に受け止められるなら、開いている時間に散歩でいいんですよ言ってくれた。


どうも顔に表情がなくなっていたらしい。自分じゃわからなかったね。鏡を見る癖もないし。


そして医者からこれ以上病気が進行するようだと最悪失明のリスクがあると言われた。


げえええ!リアルに声が出た。


その声に驚いたのか医者が慌てて説明を追加した。まだインシュリン投与は不要だし、あくまで最悪のケースだから食事と運動療法で改善が見込めるのでのんびりとした散歩を勧めてくれたのだ。


散歩ねぇ、仕事の後に帰宅時の徒歩はだめなのかと聞いたら緊張が解けてないからだめらしい。仕事のストレスも自分じゃわからなかったが相当溜まっているんだろうな。


酒を飲んでストレス発散!は?と聞いても余計にだめ。散歩も休日にのんびりやるのがいいんだそうだ。

最初は1~2時間のゆるい散歩。慣れてきたらスポーツジムにでも通って健康的にストレス発散が将来につながると熱くも語っていた。


休日に体を癒して、すこし鍛えろと。休ませろと。


ふぅぅうーーーん。


納得できないし、いきなりの話で混乱しつつも一応は了解した体で帰った。


だがとても受け入れることが出来ない話だ。



なぜって・・・


休日は唯一の楽しみ、生きがいでもあるオンラインゲームがあるからなんですよ!(MMORPG)


のんびり散歩してる場合がないのですよ!寝てる暇なんてないんです!こっちのスケジューラーもびっしりなんですよ!


てか散歩ならゲームの中で散々やってますが?走ったりもしてますよ!


しかも!アイテム課金じゃないから財布にやさしい月額定額課金のみ!(だけどPCはハイエンド推奨)


やりがいの塊なんです。レベルがカンストしても次の新装マップ実装が迫っているので、ぬくぬくできないのです!


レアアイテム欲しさのレイド狩りでなんど休日申請を出したことか!(終わりのオークション含めると6時間はかかるからね)もうまる4年もやってるので、自分の日常がこれなんです。フレンド登録も100超えてます!全員カンストで半数がクローズドベータからやってる家族みたいな、いやもう家族です。毎日ログインボーナスがあるから一日も欠かしたことないし。。。それを今さら、なおさら。。。


 もんもんもんと悩む、凄く悩む。葛藤しすぎて頭がパンクしそうだ。


目をつぶるとゲームの色々な場面が即座に思い浮かぶ。ゲームで泣いたこともあったよな。

馬鹿笑いしすぎて腹が痛くなったこともあったよな。


クリスマスイベントの時に当時の女と喧嘩になった。

「私とゲーム、どっちを選ぶの!」と問われたから即答で「ゲーム」と言ってリアルゲームオーバーになったこともあった。


それを・・・とほほ。


ため息が100回くらい出た、時間にしてはわからない。いつの間にか夕方になっていた。リアルポカーンだ。


夕闇が迫ってきたころに、どうにかこうにか大人的な自分になれた。


さすがに糖尿病はまずい。


さらに失明はもっとやばい。つかヤバイ次元じゃない!

ゲームどころか仕事が出来なくなってしまう。あ、もう生き死にか!ダメだ俺、そんな判断も出来てない!


もんもんを30分さらに追加して、ようやく決心した。


じゃ、散歩してみるか。駅前まで!


だが心はまだ揺れている。悩んでいる。


ん!そうだ!


肝心なことを忘れていた。ギルメン(ギルドメンバー)に相談してみよう!


ここまで悩みながらもいつもの狩場で、マクロ使ってお手軽狩り(BOTじゃないよ!)はしてました。

はい、廃人です。すいません。


そしてバンジージャンプに挑むがごとく思い切って聞いてみた。


全員が即答でゲームやめるべし。 だった。 


・・・・ま、そうなりますよねぇー。オフでも付き合いあるしねー。付き合い長いしねー、ええわかってますとも!


しかも・・・約2名、全く同じ理由で引退した人いたしねー。


ギルドチャットで全員に聞いていたもんだからギルドマスターから直接スマホに連絡がきた。

オフ会で2度ほどあったことがある。

40代のおじさんで、ゲームのやりすぎで離婚(お子さん2人いた)した強者だ。その人生経験豊富すぎる方からまじめな説教を食らいました。反論の余地なんてあるわけないじゃないですか。でも、効いたなー。離婚してもよりは戻そうとしたら戻せるかもしれないけど、失明したら戻るの?って、反則じゃないですか。正論ですよ。なんも言えませんわ。とほほほ。


レイドボスのように攻撃を食らった感じがした。超強烈なの。俺はログアウトした。


ただそんな簡単に踏ん切りなんてつくもんじゃない。ふらふらと当てもなく部屋を出ていた。気が付くと駅前の居酒屋で1人なのにボトルで焼酎をストレートで飲んでいた。ガブ飲みだ!

タバコもなるべく控えていたけど、むせ込むくらい吸いまくってやった!

ちくしょー。ちくしょー。なんで、なんで俺は体が弱いんだ!と自分を責めた。


隣に誰かいたら結構な突っ込みくらいそうだけど、そんな気持ちしかわかなかった。いや、それしか頭がまわってなかったんだ。何回か店の便所で吐いた後、なぜか頭がさーっと冷めた感覚になった。でも不思議にまっすぎに歩けない。景色も揺れる。上着の胸辺りから胃酸の酸っぱい匂いが強烈に漂ってくる。

知らない間に店から出ていた。金払ったんだよね?


ふらつきながら歩いているとすれ違う人々が続けざまに俺をゴミでも見るかのように見下している。


なんとでもいえ!酔って悪いか!声には出ないが頭の中にはそんな言葉しか映っていなかった。


ん?文字が、擬音化して映像で見える?


とか気持ち悪いなと思った瞬間に口からぶしゅーっと酒を吐き出していた。

立ったままだったので、そのまま自分の顔に降りかかってきた。


 うわ、汚ったなー 

周りからもそんな声も聞こえるが屁でもない。だけど気持ち悪いから顔の汚物を腕で拭うようにしようとしたら、不思議なことに腕の感覚が肩から全くない。


え?腕が動かないよ?いや、腕がない!

息つく暇もなく今度は膝がガクっと崩れ落ちた。ゴンっと鈍い音が聞こえる。地面に強く打ちつけられたはずなのに痛くも痒くもない。


足も、いや下半身の感覚が全くない。そして地面がどんどん近づいて行ったと思ったらそのまま前のめりに倒れた。うえええ、ゲロ臭い。仰向けになりたいけど体が全くいう事を聞かない。体の感覚がない!


倒れた時の音が大きかったのか即座に周囲が反応した。


「大丈夫ですか!」

「誰か救急車をお願いします!」

「人が倒れています」


大きな声が響き渡った。目の前は真っ暗だけど、声や音はやけによく聞こえる。結構な騒ぎだ。たぶん倒れた人って俺なんだろう。酔っ払いが一人飲みすぎでぶっ倒れても、面倒みてくれるやさしい人って結構いるんだ。いや、運がよかったのかな。回らない頭でしんみりと思った。


ただ、だんだんと首から下がすーっと消え入るような感覚に襲われる。


最後はこんな感じになるのかよ・・・・


遠くからサイレンが聞こえ始めた。

周りがざわめきだし、人の声もわからなくなっていった。


そしていきなりガーーンっと頭に金属バットで殴られたような強烈な痛みが走った。


そこから先は全く覚えていなかった。








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