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サラキア冒険者になる

母、クリスファと迷いの森の南側の東西街道で別れ、東方の剣士シオイリと二人で最も深き迷宮がある迷宮都市サリアスを目指す。


東西街道は西は神聖帝国、東は東方絹の国まで延びている東西の物流の運搬する生命線である。


現在地からサリアスまでは、直線距離で約1,000キロメートル。

徒歩の旅で約1ヶ月だが、森を出て、次のミスタリカの国境までは、街道はあるものの、北に迷いの森、南に三連山脈に近い街道のため、人通りは少く、峠越えが多い難所であり、国が治めていない無法地帯である。


サラキアは、左足が不自由なので、浮遊した杖の上に乗って、シオイリの隣を電気自動車のように、音もなく「ツー」って感じで進んでいく。

冒険者、荷馬車の商人らとすれ違うたび、「ギョ」とされる。

すれ違う旅人に異形な者として認識されしまっている。

2、3組の旅人とすれ違った時、シオイリに、「目立ちすぎる。」とため息をつかれてしまった。

サラキアが、杖に乗って移動すると目立つという理由から、次の都市で馬を2頭購入することとした。

とりあえず次の都市までは、自分達は旅人達とすれ違うたび、立ち止まる作戦を取った。

人とすれ違うたびに、立ち止まっていては時間が掛かりすぎる。

ちょうど昼時、 (先が思いやられる。)と思っていたところ、後方から4頭引きホロ付き荷馬車が自分達を追い越していく。

また、歩みを止めて、荷馬車が通りすぎるを待つ。

通りすぎる荷馬車に乗っていた、御者の中年男性と隣の若い女性と目が合う。

(乗せて欲しいなぁ)という気持ちを込めて、万勉の笑みであいさつしてみる。

馬車が通り過ぎ、15メートルくらいのところで止まる。

女性の方が手招きしながら、「途中まで乗っていく?」と便乗することを勧めてくれた。

多分女性二人ということで乗せても大丈夫だと安心したのだろう。

サラキアが大声で「お願いします。」と更に万勉の笑みで、杖をつき左足を引きずりながら、ゆっくりとホロ荷馬車に近付いていく。

(なんて健気なんだろう。)とホロの中の人達が思ったかもしれない。

弱々しいものを見て可哀想と思うのは、この世界の人達も同じだし、挨拶と笑顔はどこの世界でも良い方向に話を進められる。

シオイリは、サラキアと同じ歩調で左隣を歩いてくれる。

荷馬車の中にいた人達が親切に後ろのアオリを下ろして乗りやすいようにしてくれる。

ホロの幕が開いて、中から金髪の少年と少女が手を差し伸べてくれる。

右手で取りやすかった少年の手を取ると、力を入れて引き上げてくれる。

同時にシオイリが左側に来て、右手でサラキアの左膝裏を持ち上げて、荷台の上にリフトアップしてくれた。

右足が荷台に乗ると、そのまま左足が荷台のところに来るが、サラキアの体重が軽かったことと、少年の手を引く力が思ったより強かったことから、少年は態勢を崩して、後ろにひっくり返る。

少年は手を放せば、少年だけがひっくり返ったが、サラキアの手を放さなかったので、サラキアも少年に覆い被さるように、前に倒れた。

杖を放して、両手を突き出し、ファーストキスを奪われるのは免れたが、お互いの顔が10センチの距離まで近付く。

サラキアの翡翠の瞳に少年の姿が、少年の蒼玉の瞳にサラキアの姿が映る。

「引っ張ってくれてありがとう。ケガはない?」とサラキアがひきつった笑顔で少年に声をかける。

「うん。ゴメン。君は軽いね。びっくりした。」と姿勢そのままで、ボリボリ顔をかきながら照れ笑いで答える。

少年の隣で手を差し出してくれた少女が「お兄ちゃん。顔が赤くなってるよ。」と言いながら、サラキアを起こして、荷台の長椅子に座らせてくれた。

サラキアは、少女にも「ありがとう。」とお礼

を言う。

少年が起き上がって、サラキアの反対側の長椅子前に立ち、場所を空けると外にいたシオイリが一跳躍をして飛び乗った。

少年は、アオリを戻して、荷馬車の後ろ側の幕を閉じた。

御者は、それを確認すると再び荷馬車を走らせる。

荷馬車の中を見ると、中には、木箱、宝箱、樽が並べて積まれていて、その上には、大量の寝具が畳まれていた。

荷馬車の中には、乳児を抱いた女性、引っ張ってくれた少年と座らせてくれた少女の4人が乗っていて、男性の御者とその隣にいる女性が乗っていた。

話を聞くと彼らは商人の一家らしく、心境一点、別の都市に引っ越すところであった。

御者が、旦那さんのエイデン・スリマリーで、その奥さんは、リーナという名前であることが分かった。

エイデンの顔をジッと見るとどこかで見覚えがある顔だった。

御者の隣に座っているのが長女リオーナ。

次男ルキア、次女シエナ、乳児は、女児でキオナという名前だった。

他に長男ジェルドがいるそうだが、迷宮都市で親戚の店で商人をしているらしい。

ちなみにこの家族は、その親戚を頼って、西方レイド王国であった首都ネレイバーンから引っ越している最中とのこと。

(このサラキアちゃんがレイド王国の王子レイ・ファン・ド・レイドの忘れ形見だと知ったらビックリするだろうね。)と自分はサラキアに伝えた。

((知られると大事になるから、亡国の王女の肩書きはいらないよね。))とサラキアが答えてくれる。

サラキアは、にこやかに「迷宮都市サリアスまで旅する予定のサラキアです。」とシオイリも「東方絹の国の剣士シオイリと言います。」と自己紹介をした。

子供達に、年齢を聞かれ「10歳です。」と答えると、シエナが「私と同じだね。」と私をまじまじと見ながら答え返してくれた。

ルキアは13歳、リオーナは17歳、ジェルドは20歳になるそうだ。

「サラキアは、風の小人族なの?」

とルキアから、尋ねられる。

自分で鏡を見ても、欠点のない人間の離れした美しい顔だなと思う。

それに髪も少し緑が入ったプラチナブロンドなので、小人族じゃないかと思われるだろう。

「うん。ちょっとだけ。」と眼の位置に親指と人差し指をくっつきそうに近付けて「ニコリ」と笑顔と手で合図した。

同年代の少年に興味を持たれて、サラキアは美しい気持ちになるのかなと観察してみると、まあまあ悪い気はしないとのことであった。

(ショタコンになったか。まあサラキアの精神年齢は30歳オーバーだからしょうがないよね。早く外見が16歳にならないかな。)

それからルキアの質問責めが始まった。

(任せたサラキアちゃん。)

「足はケガしたの?」

「ううん。生まれつき。」

「サリアスには、何しに行くの?」

「遺跡の探索」

「冒険者なの?」

「ちょっとだけ、そうかな。」

「まだ小さいのに。」

「足を治す薬を探しているの。」

「お父さんとお母さんは?」

「お父さんは、私が生まれる前に死んじゃった。」

「お母さんは足を治す薬の研究をしてる。」

「サラキアは、足が不自由なのに冒険できるの?」

「うん。ちょっとだけ魔術が使えるから。」

ルキアは、冒険者、魔術という言葉に眼を輝かせらる。

「兄さんも冒険者になりたいんだもんね。」

とシエナは付け加える。

「いずれは迷宮で冒険して有名になりたいから、僕も剣の練習してるよ。」

とルキアは、剣を振る手つきをしながら答えた。

「お前はその前に読み書きと算術をしなければいけないよ。」

と今度は、キオナを抱いているリーナが口を挟む。

「うん。分かってるよ。」

とバツの悪そうな顔をしながら、相づちをした。

シオイリは、おおかたお互いの自己紹介が終わった頃に、リーナに対して、西方の情勢について尋ねてみた。

西方の国々は、レイド王国の滅亡で均衡が崩れたため頻繁に戦争が起きていて、住んでいた町を追われて避難民になる者が多いそうだ。

避難民が多くなる。

その者が、盗賊に身を落として生きるために人を襲うようになり、物騒になったとのこと。

10年前に滅んだレイド王国は、王家は滅び、王国の領土は、神聖帝国が領土の西側半分を支配し、その他は、南側をマルタ王国、東側をリベニア王国、北側をルーダニア王国に切り分けられたが、神聖帝国がちょくちょく軍事行動を起こし、版図を広げている。

この家族は、リベニア王国に占領された元レイド王国の地方都市レディウスから出て、東へ1ヶ月、馬車で旅をして、現在のところまで来ているとのことであった。

リベニア王国の地方都市レディウスは、今神聖帝国に狙われているそうだ。

とリーナやエイデンが教えてくれた。

最も深き迷宮がある迷宮都市サリアスは、中央国家同盟に所属しているが、国王はいない通商連合の商人達が治めている。

王様がいない最大の理由は、最も深き迷宮の最奥に悪神がいるとされているのだが、200年間、地上に魔物流出による災害は起きていないし、それどころか迷宮で発掘される武器防具、マジックアイテム類の売買で人が集まり、町が栄えている。

なので神聖帝国が狙っているレディウスより、安全なのである。

そして迷宮のある冒険者はたくさんおり、ギルドは世界一の大きさを誇る。


荷馬車に乗せてもらってから、しばらくすると日が傾き始め、すぐ辺りが真っ暗になった。


この辺りには村はなく、山深い街道なので、少し開けた土地を見つけると、荷馬車を街道から道端に出し、この地点で野営をすることになった。

家族達は、野営をするため、それぞれの仕事をテキパキとこなしている。

野営慣れしている。


リーナ、シエラは、ランタンに火を付け、その明かりで食事の準備、リオーナは、腰に長剣を帯剣し、弓矢を背負って、ランタンから火を着けた松明を持って、ルキアも短剣を帯剣して、背中に木の根で編んだ籠を背負い、両手でバケツを1個ずつ持ち、付近に芝刈りと水汲みに出かける準備をした。


エイデンは、テントを張る準備をしていたので、シオイリはそれを手伝った。

サラキアは、何かお手伝いをしようと考え、リオーナ達が山の方へ行こうとしたところ、「ちょっと待って、魔法でお水を出すから。」と止めて、「バケツを持って来て。」とお願いする。

ルキアは、これからどんな光景が見られるのかドキドキしながら、バケツ2個をサラキアの足元に置いた。

そして杖を構えて、水魔法を唱える。

サラキアの魔法を皆が作業を止めて見守る。

サラキアの体から水色の、エフェクトが発せられると空気中から水が生成され、小さい滝のようにバケツに落ちていき、バケツを水で満たした。

ルキアが、「ありがとう、サラキア。」と魔法を近くで見られた興奮から、はしゃぎがちに、お礼を言った。

その後、サラキアは、「馬達にも水を出しましょう。」と言って、荷馬車から解放され、風下の木に繋がれた馬4頭の所に行き、馬達の目の前に滝を作った。

馬達が我先に滝に顔を近付けて飲み続ける。

馬達が満足した所で水を出すのを止めて、リーナ達の方へ戻って、何か手伝うかお伺いをたてる。

リーナは、軽いサラキアを馬車から降ろした木箱に座らせ、背負っていたキオナを預けた。

女児を抱いてあやしていると、転生する前、生まれてきただろう自分の娘の事を思い出して泣いてしまう。

((大丈夫ですか?))

とサラキアは心配しながら涙腺を止めてくれる。

芝刈りから帰って来たリオーナ達は、集めてきた薪と付近にあった石を使って、簡単な釜戸を作って、火を起こす。

その回りに集めの敷物を引いて、7人分の座るところを準備した。

リーナ達が料理の下ごしらえを済ませると、マイスリー家が、家長が座ると、いつも座っていると思われる位置にそれぞれが座った。

エイデンは、「一緒に食事を食べましょう。」勧めてくれた。

シオイリ、サラキアは、「ありがとうございます。」とあいさつをして、家長の対面に座った。

パン、スープ、チーズ、燻製肉が、家族の手渡しで回ってくる。

シオイリは、エイデンに荷馬車に乗せてもらったことについて、謝意を述べると、エイデンから、

「あなた方は、剣と魔法が使える冒険者だよな。私達とあなた達は、行き先はサイリスで同じだ。サイリスまで一緒に行かないか?」

と勧められた。

「我々は、女子供を連れたひ弱な旅人。道中の護衛をしてもらえば助かるんだが。」

と付け加えた。

シオイリは、サラキアと見て、表情を確認した後、「とりあえず、この先のミスタリカの都市までは、不法地帯ですので同行しましょう。その先は、いずれ話し合いましょう。」とシオイリは即答は避け、濁しがちに返答した。

サラキアは、予め用意してた、500円玉くらいの金貨1枚を入れた小袋を「足の不十分な私を馬車に乗せてもらう代金として、こちらを受け取ってください。」と言って隣に座っていたシエナに手渡した。

エイデンは、シエナに「返しなさい。」断っていたが、自分もこの一家といつでも別れられるように貸しを作りたくなかったので、「この後も何かと入り用になるでしょう。」と無理やり受け取らせた。

それから食事をしながらの団らんを終え、分担して後片付けをした後、寝るまでの間、前々からシオイリにお願いしていた剣の使い方について、レクチャーを受けた。

シオイリから教えてもらう都度、時間を止めて、何回も繰り返して練習した。

特に体をよじって剣先を避ける「一寸見切り」と体の小さいサラキアは、剣を打ち合えば分が悪いので、剣を合わさない剣術、抜刀術「秘技真空斬」、「霧斬り」、抜いた後に使える「四段死突」を指南してもらった。

秘技真空斬は、ドラゴン退治の時、シオイリがブレスを斬った技である。

これらなら小柄な小人族でも使える。

ちなみにこの4技を、習得するため1年間、時間を止めてしまった。

シオイリから見れば、サラキアに、この技を教えて直ぐに会得されたことに驚き、東の絹の国にいる師匠に剣術を直接習うことを勧めてきた。

シオイリは、サラキアをサイリスに送り届けた後、国に帰省するので、国許に戻ったらサラキアの体に合った、抜刀術に適した細身の太刀を作ってサイリスに送ると約束してくれた。

代金は「貸し一つ」。タダより怖いもなはないよ。

でも元日本人としては、刀は欲しいよね。

そして足が治ったら、日本に似ている「絹の国」に是非、行ってみたい。

サラキアは、シオイリから2時間ほどレクチャーを受けた後、釜戸のところの敷物の上で寝ることとした。

自分とサラキアは、火の番をするため、交代で寝ることとした。

シオイリは、木箱を背中の所に移動させ、太刀を左肩に立て掛け、木箱に寄りかかって寝ている。

一家には荷馬車で寝てもらった。

寝ながら、片目を開けて、右手で薪をくべるサラキア以外、何事もなく夜が明けた。



リーナとリオーナが荷馬車の中から出て来て、体の身支度を整え、釜戸の近くまで来て、「おはよう」とあいさつをしてくれた。

「見張り、ありがとう。朝ごはんの支度をするから、出来るまで寝てていいわよ。」とリオーナが声を掛けてくれた。

シオイリは、「周囲を見回る。」と言って山の方に入っていった。

サラキアも眼を擦りながら、固まった体を伸ばして、アクビをして空気の入れ換えをする。

起きたサラキアを見て、リオーナは、支度をしながら

「サラキア達がいなかった時は、エイデンとリ

オーナ、ルキアが、交代で見張りに着いていた

らしいので、二人がいて大分楽になった。」

と嬉しそうに話してくれた。

サラキアは、「うん。見張りは得意。」と料理の支度を風景を観察しながら、ボソッと答えた。

食事の準備が終わるまで、シオイリが寄りかかっていた木箱の上に座り、土ボコリで汚れた髪を櫛で梳かした。

((お風呂に入って、髪洗いたい。))

と呟く。

30分くらいして、シオイリが戻ってくる。

「近くに川があります。行きますか?」とサラキアにだけ聞こえるように伝える。

リーナとリオーナに、「ちょっと用を足しに行ってきます。」と伝え、必要な荷物を背負い、杖を付きながら、山の中に出かけた。

皆の姿が見えなくなると、杖に浮遊の魔法をかけ、左足を杖に乗っけて、教えてもらった川の方に向かう。

10分くらい移動すると、奥入瀬渓流のようなきれいな水辺が現れる。

辺りに人がいないのを確かめた後、魔法で見えない風の御手を操り、猫耳ローブを脱いで、革製の胸当てを外し、白色ワンピースを脱いでいく。

下着姿になると、左膝に装着している矯正具を外し、下着も脱ぐ。脱いだ衣類を丁寧に畳んだ後、裸の状態で杖に乗ったまま、極寒の水の中に入っていく。

川の深いところまで行くと、浮いて杖から手を放し、頭まで水に浸かり、髪の毛や体を洗っていく。

ちなみに泳ぎは、元職業のおかけで溺れることはなかった。

泳ぎながら、洗い終わると、魔法で杖を呼び寄せて、それにつかまると、畳んだ衣服の所に戻る。

寒暖差から体から湯気が立つ。

魔法で乾いた風を呼び出して、体と髪を乾かしていく、乾かし終わると、風の御手で新しい下着、矯正具、ワンピース、胸当て、ローブを順に装着していく。

身も心も清められ、満足したサラキアは、再び杖に乗って皆のところに戻った。


朝食の支度は整っていて、各々が釜戸を囲んで座る。

パンとスープが手渡され、団らんをしながら皆で食べる。

その後、出発の準備を整えた後、荷馬車が出発した。

リオーナが御者を務め、エイデンがその隣に座る。

2、3時間おきに休息を取り、日が落ちる頃に、荷馬車を止めて野営をして、次の朝出発するという日程を繰り返し、9日後には何事もなくミスタリカ王国最西端の西砦の城塞都市までたどり着いた。

城壁には沢山の兵士が立直している。

城門前で入国審査をしているので、別々に受けるためシオイリとサラキアは荷馬車から降りて、城門の衛兵達が来るのを待った。

この街に入るには、通行税を納めなければならない。

衛兵達は、慣れた様子で、人、家畜、関税品を見定めていく。

スリマリー家は、人間6人で銀貨6枚、馬4頭で銀貨4枚、荷馬車の中のワイン3樽と木箱に収められた武器、防具等で銀貨15枚、合計25枚の銀貨を支払っていた。

自分達は銀貨1枚ずつ支払った。

ここでまた金貨、銀貨の価値について話しておくと、500円玉の大きさの金貨、50円玉くらいの大きさの穴あき銀貨がある。

多少相場の変動があるが、金貨1枚と銀貨100枚が等価である。

銀貨1枚で人間1人の1日分の食事程度。

日本では、銀貨1枚は1,000円くらいになる。

ですから、エリクサーのために里に金貨1万枚置いてきたが、10億円ということになる。

西方、中央、東方とそれぞれが、同じくらいの金貨、銀貨を鋳造している。


スリマリー家と自分達は、衛兵と揉めることなく、入国することが出来た。


ここまで来れば、治安も比較的に良くなるので、「この街で、馬を買って旅路を急ぎたい。」旨をスリマリー家に伝え、ここで別れることにした。

スリマリー家は、この街では泊まらず、先に進むことにしたので、サリアスでまた会う約束をし、手を振って彼らの乗った荷馬車を見送った。

衛兵達に常宿を聞いて、その宿に銀貨10枚で1部屋取る。

食事をする前に、馬2頭と馬具一式を購入するため、一等地にある何でも取り扱っていそうな商店に行く。

シオイリには、

馬に乗るなら白いワンピは、よくない。

剣をちゃんとレクチャーしてほしけれ

ば、一振持ってたほうがよい

貴重品を分けて持てるようにしたほうが

よい

等と言われていたので、この街で一通り揃えることにした。


「そういえば、シオイリさんは、稼いだお金どうしたんですか?」

と尋ねたことがあった。

ドラゴン退治の報酬が1人当たり、金貨5,000枚が取り分になっていた。

日本円に換算すれば5億円になる。

金貨5,000枚は、1枚7グラムなので、35キログラムになってしまう。

ちなみに銀貨は4グラムです。

まず旅に持ち歩いているバカはいない。

大金を手にしたアンガスもウルファンも、賢く冒険者を引退してしまった。

シオイリは、風魔法(矢無効)、呪い(斬撃無効)が付与されている鎖帷子を金貨3,300枚で購入して、装備を新調した。

また東方では、入手困難な宝石を100個を金貨1,000枚で買って軽くした。

残り4.9キログラム相当の金貨700枚を背負い袋と腰の袋に分けて持っていた。

ちなみにサラキアと自分達は、金貨500枚を持ってきた。

店に入ると、暇そうにしていた細面な中年店主が、「いらっしゃいませ。」と声をかけて2人に近付いてくる。

店の中には、棚いっぱいに武器、防具、日曜品、服、ブーツから色々と置いてある。

「何か要りようで?」店主が尋ねる。

「馬2頭と馬具。それに彼女の服と装備と武器を整えてほしい。」とシオイリが店主に説明する。

それを聞いたとたん、店主が笑顔になり、テンションがあがる。

「それはそれは。では私がお手伝いします。」

と言って、物を選ぶ手伝ってくれる。

「まずは、馬を選びましょう。」と言って、店裏にある、離れの馬小屋に行く。

馬舎には、10頭の馬がいる。

「ここにいる馬以外にもいるので、お気に召さなければ別の馬をお見せすることもできます。」

「馬の相場はいかほどですか?」とシオイリが、店主に尋ねると店主は、

「馬の相場は、金貨5枚から20枚くらいですね。」

馬を買ったことないから、シオイリに任せる。

シオイリは、乗馬も出来るそうだ。

騎馬武者だね。

馬2頭、馬具一式で合わせて金貨20枚で契約した。

次の朝に宿屋の前に連れてきてくれるように手配した。

次にサラキアの剣を選ぶ。

身長140センチなので、あまり長い刀剣は、扱いにくいということから、刃渡り70センチの片刃で細身のカード付きのカトラスを銀貨70枚で購入した。

鞘と剣帯を銀貨30枚で購入した。

装備品は、

若草色の長袖シャツ銀貨8枚

若草色の膝上の短いキュロットパンツ銀貨5枚

黄土色の膝下のレザーブーツ銀貨25枚

軽量の魔法が掛かった左の肩、胸、胴を守る黒がね色のミスリル製鎧金貨80枚

頭に同じ素材のカチューシャ金貨3枚

ブーツの色に合わせた黄土色の防水魔法が掛かったマント金貨5枚

総額金貨88枚と銀貨38枚になったが、前から持っていた胸当てとマント、革靴は、値引き交渉により、おまけで金貨3枚と銀貨38枚で引き取ってもらい、差額、金貨85枚で購入した。

里から持ってきた金貨500枚から、スリマリー家に渡した金貨1枚を引いた499枚から

馬、馬具一式を金貨10枚

鞘、剣帯付きカトラス金貨1枚

装備一式金貨85枚

で総額金貨96枚を支払った。

それとこの商店で金貨1枚を、銀貨100枚に換金してもらい、シオイリに立て替えてもらっていた、宿代銀貨5枚、通行税銀貨1枚を支払った。

残金金貨402枚と銀貨94枚を、背負い袋に350枚を入れ、カトラスと反対側に、装着した革製のウエストポーチに、残りの金貨52枚と銀貨94枚を、金貨と銀貨に分けて入れておく。


一通りの買い物を済ませた後、宿屋に戻り、借りた2階の部屋に装備、荷物等を置いて、鍵を掛けて、1階の食堂に降りた。

一応、防犯対策として、水圧でドアが開かなくなる事象を空気圧で応用して、魔法で部屋の中の空気を圧縮してドアが開かなくなるようにしておく。

食堂内は、アイリッシュパブのような雰囲気の内装で、旅人、冒険者風の者がカウンターやテーブルに4グループほどいた。

女性給仕が階段で降りてきたシオイリとサラキアに気付くと、空いているテーブルを勧めてきたので、そこに座り、1人銀貨2枚程度の料理を適当に注文する。

シオイリは、料理が来る間に、今後の道のりについて話し始める。

「ミスタリカ王国の西砦の街から東西街道を真っ直ぐ東に進み、王都ミスタリカを通り、エキドナ王国に入り、王都エキドナから北西に向かう道のりが迂回はするが、安全な道のりになります。」と指でテーブル上に左角、右角、上角の順に正三角形を描くように説明する。

「王都ミスタリカから、北東方向に平野、山を越えてサリアスに行く道のりもあります。」

と今度はその正三角形の左角から上角を描くようにテーブルを指でなぞる。

シオイリは、「近道は、魔物、盗賊が出る可能性が高いですが、エキドナ王国に入るための税金を納めなくてもいいです。サラキアがどの道のりにするか選んで下さい。」と言って、選択させる。

サラキアと自分は、どっちの道にするか、相談する。

((ネコにゃん先生は、どっちがいいと思う? ))

(途中で乗せたもらった家族が心配だよね。)

((私も彼らは危険なルートを通る気がするよ。))

(エキドナ王国に入るための税金が高そうだし。)

(エイデンさんには安全マージンをとって、安全なルートを選択してほしいけどね。)

((余計なお世話かもしれないけど、私達も危険な道のりで行って、陰ながら護衛してあげたい。))

(うん。サラキアの言うとおりだね。助けてあげよう。)

二人の会議で、危険な道のりを選択した。

「危険な道のりで行きたいです。」サラキアは、シオイリにそう答えると

「分かりました。」とシオイリは、頷いて返事をした。

女性給仕が、湯気が出ている料理皿を持ってきて、テーブルに置いていく。

女性給仕に銀貨4枚を渡す

シオイリに料理を取り分けてもらい、小さい口に少しずつ入れて、モグモグと食べていく。

((早く大きくなれよ私の体))

(早く大きくなれ)

と2人とも心で念じながら食べる。

この体は小さいが、育ち盛りなので、食欲はある方で、残す事なく食べた。

食べているところを、周りの人達にじろじろ見られていたのは、なんとなく分かっていたので、そうそうに部屋に戻ることにする。

部屋の前まで戻ると、部屋の中の空気を元に戻そうと魔法を唱えようとすると、シオイリが手で制して止める。

何かしらの危険を感じたのかなと、杖を握りしめる。

シオイリは、ゆっくり鍵を開け、扉を両手で押し開けようとする。

「うーん。本当に開かない。反対側から誰かに押されているみたい。」

「本当に開かないんだね。」と不思議そうに尋ねた。

おそらくどういう理由で開かないのか理解していないらしい。

それに対してサラキアは、「風の流れは、空気の重い方から軽い方に流れるんです。重い方から風が軽い方に流れる風を壁で塞き止めたら、壁は、どうなると思いますか?」とシオイリに問題を出すと、シオイリは、「風に押されて壁が倒れるのかな?」としどろもどろに、答える。

「そうそう。つまりこの扉は、部屋側から常に強い風が吹いて、扉を押さえ続けている状態なので、その風より強い力でないと開かないのです。」とシオイリに説明する。

「なるほど。なんとなく分かった。」

まだ完全にシオイリは、理解していないようだったので、分かりやすく実験をしてみる。

「今から部屋の空気を徐々に減圧していきますので、扉を押し続けてみてください。」

と扉を押し続けるように指示するとシオイリは、「分かった。」と体重をかけて両手で扉を押す。

サラキアは、扉に手を当てて、眼を瞑り呪文を詠唱すると、サラキアの体から緑のエフェクトが発する。

不意に扉に掛かってた負荷が一瞬にして消え、扉を一生懸命に押していたシオイリが、扉が開いたと同時に、力余って前のめりに倒れる。

ドーンという音と同時に一階天井の埃がパラパラと落ちる。

「いたた・・・」とシオイリが呻くと、「あちゃー」とサラキアが横を向いて惨状から眼を背ける。

すかさず「ゴメンなさい。力の加減ができなくて。」と言い訳を言って右手を差し伸ばす。

シオイリは、「そうですね。」と言いながら、状態をうつ伏せから仰向けに変えて、目の前にあったサラキアの右手をわざと力一杯引っ張った。

「あっ」という吐息を漏らすと、シオイリに覆い被さるように倒れる。

シオイリは、「ゴメンなさい。力の加減ができなくて。」とサラキアの可愛い口調を、真似して真面目に答える。

「もうシオイリさんのイジワル。そんなイジワルしていると婚期逃しちゃいますよ。」と言いながら、自力で立ち上がろうとする。

「結婚よりサラキアをサリアスまで送って行こうとしている私がイジワルなわけないでしょうに。」と笑いながら、立ち上がり、サラキアを引っ張りあげて立たせる。

「それは、そうですね。」とこれ以上、楽しい言い争いをするのを止める。

「サラキアと話をしているとたまに、姉上と話をしているように思えてしまう。」とポツリ呟き、「それはそうと、サラキアは、人助けで潰れてしまう体質のようだから、気を付けなさい。」と助言してくれた。

「はい。」と素直にサラキアが素直に返事をしたものの、自分はサラキアに(国民の負託に答えすぎないように気を付けます。)と呟くと、((人助けは止めません。))とサラキアが呟き返した。

そんな風に答えるサラキアに(良い子に育ったね。ネコにゃんは嬉しいよ。)と30代の精神年齢になってしまったサラキアさんに嬉しい気持ちを伝えた。

二人とも部屋に入り、シオイリは、燭台を持って、一度下に降りて、ろうそくの火をもらいにいき、戻ってきたところで扉に鍵を掛けて、寝間着に着替えそれぞれのベッドに潜り込んだ。

今後の予定について、1時間ほど語り合った後、シオイリが先に眠りに落ちたので、ろうそくの火を消して、サラキアと自分でベッドの上を浮遊しながら、重力を制御する土魔法と空気の摩擦を制御する風魔法の練習をしてから就寝した。


次の日の朝、旅支度を整えて、朝食を摂り、商店の人が馬を届けてくれるのを待っていると、しばらくして、15、6歳の少年二人が馬具を装着した馬2頭を連れてきてくれた。

シオイリは、その馬を受け取ると小さい方にサラキアを乗せ、大きな方に自分が乗り「サラキア。行きますよ。」と言って馬をゆっくりと走らせる。

サラキアも軽く拍車を掛けて、シオイリについていく。

西砦の城塞東門をくぐって、この街を出ると整備された東西街道を東に進む。

この道は、整備が行き届いており、平坦なので、1日50キロペースで進むことができた。

仮に、スリマリー一家の荷馬車が1日30キロペースで進めそうなので、分かれた初日も30キロ進んでいれば、我々が出発した2日目の夕方に、約90キロ手前で追い抜く計算になる。

ミスタリカ王国の王都ミスタリカまでは、およそ300キロメートル。

1日50キロ進められれば、6日ほどの旅程となる。

ミスタリカの領内は、街道の他にも宿場村が整備されていて、50キロ感覚で村宿があったので、1日目は、名もない村の宿に宿泊することができた。

部屋は、二人部屋、夕朝食付き、馬管理込みで宿泊料金は、銀貨20枚だったので、1人10枚を支払った。

シオイリとは、旅の途中で会話を交わしていくうちに、徐々に仲良くなっていた。

その会話でシオイリから聞いた身の上話は

東方絹の国の騎士の娘で本名は、シオ

イリ・シオリであること。

兄弟は、3男5女の大家族で上から、カ

メタロウ、ナギサ、キクジロウ、オト、

シオリ、ナズナ、サブロウ、サクラと言

い、シオリは、3女であること。

剣術の師匠に才能を見いだされ剣術を

修得したこと。

家計を助けようと冒険者になったこ

と。

家に6年は帰っていないこと。

今までどおりシオイリと読んでほしい

こと。

ということらしい。

シオイリの話を聞くと、絹の国の文化は、ひじょうにあっちの日本のサムライ文化に似ていることが分かった。

そして当初、シオイリとは、サラキアをサリアスに送った後、国に帰る予定であったが、一度故郷に戻ってお金を置いてきたら、サリアスの最も深き迷宮でのエリクサー探しの手伝いをしてくれると約束してくれた。


ただし、サリアスから東方絹の国までは、約5,000キロもあり、往復10,000キロの旅となる。

日程で言えば、最短でも200日は、掛かってしまうので、しばらくは、期待できない。

サリアスでは、迷宮攻略のための仲間を集めたいところであるが、こんな10歳の子供に力を貸してくれるベテランがいるか疑問である。

ロスオトエールの里に残ったアンガス、ウルファン、それに欲を言えば、ルゲオ先生、ウォーター先生がいれば、かなり深いところまで潜ることができるだろう。

信頼できる代わりの人材を探すしかない。

ダメ元でになるけど、「助けてほしい。」4人に手紙を書いてみよう。


その日の夜は、また、シオイリが先に就寝したので、サラキアと自分で浮遊と摩擦の魔法の練習をした。


2日目の朝、旅支度を整えて、朝食を摂り、名もなき村を出発した。


午後3時頃、馬を進めていると前方を走っているスリマリー一家の荷馬車を視認した。

徐々に近付いていき、荷馬車に追い付くと、御者をしていたリオーナに挨拶をする。

さらにシオイリがリオーナに近付き、王都ミスタリカからサリアスまでの道のりについて尋ねてみると、リオーナの隣に座っていたエイデンが「エキドナ王国には入らず、王都ミスタリカから北東に進む間道で行くよ。」と答えてくれた。

「ならば王都ミスタリカで宿泊は、お考えか?」とシオイリがエイデンに尋ねると「必要な物を買った後、宿には泊まらず、通り抜けようと思ってます。」と話してくれた。

その話に対してシオイリは、「サラキアの考えで、王都ミスタリカからサリアスまでの間、我々が護衛しようと思います。あなた方がミスタリカに到着したら、是非、商人街にある宿屋「羽屋」に寄って下さい。」とシオイリが提案するとエイデンは、「ご厚意、感謝します。」と頭を下げ、「では、ミスタリカに到着したら、羽屋に伺います。」と続けた。

「店主には、話を通しておきますのでよろしく。では、ごきげんよう。」とシオイリは、拍車を掛けて、馬のスピードをあげる。

サラキアも同調し、スピードを合わせる。

荷馬車を横切る時、荷馬車の中から顔を出したルキアが「サラキア、随分西凛々しくなったね。」と服装を誉め、手を振ってくれた。

サラキアも「気を付けてね。」と言って笑顔で手を振り返した。

ルキア以外にも、エイデン、リオーナ、シエナが手を振ってくれた。


王都ミスタリカまでの旅路は、順調ですべて村宿に泊まることができた。

4日分の宿代として銀貨40枚を使った。

いずれの日も寝る前には、魔法の修行を繰り返し行った。

6日目の夕刻、無事、王都ミスタリカの西門にたどり着いた。

王都は別名水の都と呼ばれており、南から北に流れるククル川の中洲に作られていて、王城を中心に、外壁半径1キロ、内壁半径500メートルの円形を全て城壁で囲んだ堅牢な城塞都市になっている。

外壁には、東西街道に沿って西門と東門がついていて、警備兵により守られている。

また、南北には、人が徒歩で入る門はないが、川の流れを通す水門があり、物流の要となっている。

外壁の2門は、24時間開門しているが、内壁は、夜になると閉門する。

南の水門付近が商人街、北の水門付近が職人街、東西街道に沿った道は、2階建ての商店が連なっていて賑わっている。

宿屋「羽屋」は、3階建てで外壁内、南水門に近い水路沿いにあった。

羽屋は、この近辺の冒険者を取り仕切ってるギルド本部があり、1階は酒場、冒険者ギルド受付、宿受付があり、2階は売店、3階は宿屋の部屋になっている。

どこにも人がいて、とても繁盛しているように見えた。

1階の酒場には、50人が入れる広さがあり、たくさんの冒険者たちが酒を飲みながら、騒がしく団らんしていた。

冒険者ギルド受付にも、依頼文書を張り出しているところにも、多くの人がいた。

2階の売店には、冒険者に必要な武器、防具類やマジックアイテム、魔法図書が販売してあるので後で見てみたい。

そしてエリクサーが売っていたら、即購入したい。

シオイリ曰く、「ロスオトエールの冒険者ギルドの規模はDクラス。この冒険者ギルドはCクラス。サリアスの冒険者ギルドは、Aクラスで規模は、ここと比べ物にならないよ。」と教えてくれた。

「スリマリー一家が到着するのは、3日後になるので、それまでの間、宿を取り、のんびり王都の中を散策して待ちましょう。」と、シオイリが提案してきた。

宿屋の、受付で3日2名分、銀貨60枚の半分を金貨1枚で支払って、鍵をもらい3階に上がって荷を解く。

それから、いつもどおり部屋の空気に圧力を掛けた後、鍵を掛けて、2階の売店を散策した。

お望みの物はさすがになかったが、楽しむことができた。

1階に降りると、酒場の空いている。テーブルに座り、チップ込みで、銀貨6枚を支払い、2人分の食事を注文した。

シオイリの分もサラキアが、ご馳走した。

ここの料理は、香辛料の効いた鶏肉を使った料理が有名で元日本人の舌にもよくあった。

シオイリは、サラキアがご馳走してくれたことが嬉しかったらしく、ワインを気分よく注文していた。

女給仕が、ワインの入ったボトルとコップを持ってきたので、サラキアがボトルを持ってお酌をした。

シオイリは、コップゆっくりと口にあて、一口飲むと、サラキアにコップを差し出して、「味見してみる?」と勧めてくれた。

サラキアは、コップを受け取り、中の液体の色を確認するとゆっくり口にワインを含み、「ゴクン」と飲んだ。

そして、すぐにコップをシオイリに返した。

久しぶりに味わったお酒の味は、子供の舌には苦かった。

ワインが通ったところから、熱を帯びていき、顔が、真っ赤に染まった。

「サラキアには、まだ早かったみたいだね。水を飲んだ方がいい。」とシオイリは、サラキアにわざわざ水を注文してくれた。

この街は、水の都という別名があるだけあって、品質のよい水が無料で飲むことができた。

シオイリは、「明日は、旅の疲れを癒すためにも1日休みましょう。」と提案してくれた。

確かに、お酒の効き方からしてもサラキアの体は、疲れているのかもしれないと思い、シオイリの提案に賛成した。

シオイリは、旅慣れして、元気そうだったので、「明日、私は部屋にいますので、どうぞ外出してきてください。」と気晴らしするように勧めた。

食事と飲酒が終わり、3階の部屋まで行き、部屋の空気を元に戻し、中に入ると、燭台を灯して、寝間着に着替えて、ベッドに入る。

シオイリは、ワインのせいで、会話をすることなく、すぐに眠りについたが、寝息はいつもよりうるさかった。

さらきあは、毎日の習慣としてる、土の浮遊魔術と風の摩擦魔法を練習してから、風魔法でろうそくの火を消して、目をつむった。


次の日の朝、習慣で早く目が覚めたが、ゆっくりベッドの上で惰眠を貪っていた。


シオイリは、ベッドから起き上がって服を着替えると、軽装な服装に太刀を着けて「夕方には戻る。」と言って出掛けていった。


今日一日は、体を休めるため、魔術の練習もしないことにした。

なので、じっくりとベッドに入りながら、サラキアとガッツリと頭の中でお喋りをした。

((ねこにゃん先生、私達は、土の浮遊の魔法と風の摩擦の魔法を練習してるけど、どうしてなのかそろそろ教えてよ。))

(浮遊魔法では、2つやりたいことがあって、1つ目は、左足の矯正器具に魔法を付与できる魔晶石に、浮遊魔法を入れて、左足を浮かして片足でも歩けるようにすることと、2つ目は、重力の自由落下の法則を使った移動術を習得することなの。)

((自由落下?))

(例えば、移動したい方向の先に重力の井戸を進行方向に設置して、自由落下で移動していくやり方で、例えば、10キロを落ち続けると、最終的に時速5,041キロになり、142秒で到達するんだけど、時速5,000キロは、空気抵抗の摩擦により、体が燃えるような負担がかかるでしょ。)

((うん。))

(そこで、風の摩擦を除去する魔法を体に掛ければ、摩擦によるダメージがなくなるはず。)

((なるほど、大気圏を突入する火球をイメージすればいいのね。))

(そうそう。その通り。)

((だったらスペースシャトルの船底の耐熱タイルがあればいいんじゃない?))

(というと?)

((例えば、体が空気に触れないような大きな盾に耐熱魔法を掛けて、その盾を盾にして落ちていけば、体の負担はなくなるんじゃないの?))

(たしかにその通りだね。でもそんな重い盾、常時持っていられないよね。)

((浮遊の魔法で常に自動で、目の前に浮いているのが理想だよね。))

(盾に自我を持たせて、勝手に動いてもらえるといいね。)

((盾の大きさは、核弾頭搭載型のMSが持ってる盾くらいがいいよね。))

(ギャ○の、盾だと、狭くて怖いよね。)

((形は果物を半分に切った形で可愛いけど。))

((10キロ先の人を落とせるだけの重力の井戸を発生させるのにどんだけ魔力いるのかな?それに他の物も皆そこめがけて落ちてしまうね。))

(ヴ・・。確かにその通りだね。自分だけ影響が出る方法がなければ無理だ。)

((要検討だね。))

(じゃあ、我々が同時詠唱できる魔法の口みたいな物か欲しいよね。)

((なるほど口が2つあれば、無敵状態だね。詠唱の首飾りというマジックアイテムは、あるらしいけど。))

(ほうほう。)

((じゃあ魔法の指人形とかはどうかな?))とサラキアが、右手で4指と親指でパクパクと、口を動かす動作をした。

自分もサラキアの左手を借りて、同じように呟くときパクパクさせてみた。

以後、二人の会話に合わせて、右手と左手が、パクパク動きます。

(左手が使えなくなるのが弱点だね。)

((指人形、可愛いじゃん。))

(じゃんて横浜弁かい。)

(冗談はさておき、マジックアイテムを売っている店を探し回ってみますか。)

((明日ね。))

(そう、明日。)

((今日はゆっくりくつろぎましょう。))

とシオイリが帰ってくるまでの間、ほとんどベッドで寝て過ごした。


次の日、シオイリに付き合ってもらってマジックアイテムが売っている市場を見て回った。

そして、肩に乗っかる魔法の人形を見つけた。

この人形は、サラキアの髪の毛に少し似た、美しい緑色の小鳥の形をしていた。

お店の店主曰く「これは、自分の体の一部に付いていれば、自分が頭にしている言葉を代わりに話してくれる人形だよ。」と説明してくれた。

「中にある魔晶石が砕けない限り使えるよ。」と言って、鳥人形の裏側を開いて、奥にある紫色に光る魔晶石を見せてくれた。

「試していいかな。」とサラキアが物欲しそうな目でおねだりすると、店主は、「いいよ。」と試させてくれた。

(じゃあサラキア何かしゃべってみて。)

((分かった))と呟くと、鳥人形を左肩に乗せる。

肩に乗った鳥人形が「お兄さんこれいくら?」

と喋りだす。

「金貨20枚だよ。」と店主が話すと、ついうっかり自分が(高いな。)と呟くと鳥人形がそれに反応して「高いな。」とその気持ちを代弁してしまう。

それに対して店主は、「心で思ったことを喋っちゃうから使う時は、気を付けた方がいいよ。」と笑って答えてくれた。

今度は、サラキアが、自分の口から「もう少し安くなりませんか。」と店主にお願いすると、店主は、「お嬢ちゃん可愛いから金貨18枚で売ってあげるよ。」と負けてくれる。

((同時に詠唱してみるよ。3,2,1,0))と鳥人形がサラキアの代わりに喋ると、右手に指輪、左手に杖を構えて、同時詠唱を試してみた。

サラキアの口から風魔法、鳥人形は自分が使い水魔法を唱えると、体から緑と青のエフェクトが、同時に発生する。

指輪からそよ風、杖から水が同時に発生した。


店主がびっくりして、「お、おもしろいことするな。」と唸る。

シオイリも「同時に詠唱するって・・・」と言って呆れた顔をする。

サラキアは、「お兄さん、これ買います。」と言って、腰のウエストポーチの中から金貨18枚を取り出し、店主に渡した。

ここでの買い物を済ませると、シオイリと店を後にする。

次の店では、左膝の矯正器具に魔晶石を埋める作業を、明日までの突貫工事で頼んだ。

魔晶石の値段は、ピンキリだが、工賃込みの値段、金貨6枚でお願いした。

他にも掘り出し物があるか探し回ったが、流石に宙に浮く盾はなかった。


次の日、左膝の矯正器具を受け取り、左膝に装着してから、空っぽの魔晶石の浮遊魔法を付与してみた。

左膝が少し上方に上がる。

杖をシオイリに渡し、右足だけでバランスを取ってみる。何度が近くにいたシオイリを掴んだが、杖の支えがなくても立てるようになった。

(サラキア、ク○ラが立ったよ。)と肩の鳥人形が喋る。

サラキアがその言葉を遮るため、((ピーチク、パーチク。))と鳥の真似をして誤魔化そうとする。

シオイリは首を傾げるが、それには無視して、サラキアは、右足をゆっくり振り上げ、30センチほど前に着地させると、左足が多少引っ張られた感じで右足を追いかける。

例えるならスケボーに左足を乗せて、右足でキックして前に進む感じかな。

シオイリには、「大分、歩けるようになったね。杖に乗って移動されるよりは、目立たないから、いいんしゃないかな。でも剣を使うには、まだ不自由なので、剣で戦闘してはいけませんよ。」と指導されてしまった。

サラキアが「はい。」と返事をするのと同時に、うなだれた鳥人形が「はい。」と喋っちゃう。

「あははは・・まるで鳥人形が、生きているみたいだね。」とシオイリが珍しく白い歯を見せて、腹を抱えて笑った。

その後、羽屋に戻り、その日の夕方に到着予定のスリマリー一家を待つことにした。

宿屋の受付には、サラキアが金貨1枚を渡して、6人が泊まれる大部屋1部屋と馬4頭の馬小屋のスペースを借りれるように予め手配した。

羽屋エントランスにある椅子に腰かけて待っていると、見覚えのある荷馬車が羽屋前に停車した。

エイデンが御者台から降りると、羽屋に入ってきた。

サラキアは、玄関から、入ってきたエイデンに手を振って、「長旅お疲れさまでした。」と挨拶をした。

「サラキアも元気そうでなによりです。」とエイデンがぎこちない挨拶を返してくれた。

エイデンは、サラキアは、小さい子供だけど、これから警護をお願いするので、気を遣って丁寧な言葉で受け答えしてくれた。

「とりあえず、1部屋借りておきましたので、皆さんで旅装を解いて、休んでください。」

「後でご馳走しますから、みんなで食事をしましょう。」と付け加えると玄関から、入ってきたルキオが「やったぁ。」と歓声を上げた。

シオイリが、部屋から降りてきて、受付に荷馬車と馬の預ける場所を確認した後、外のリオーナに教えに言ってくれた。

荷馬車の後ろからキオナを抱いたリーナと次女のシエナが降りてくる。

家族が分担して、荷馬車の中の貴重品を部屋に移動させるため、荷物を荷馬車から降ろし終わるとリオーナが荷馬車を預け場所に移動させたる。

降ろした貴重品は、皆部屋に運び込むと、2時間後に酒場で落ち合うことを約束して、スリマリー一家と別れた。


2時間後、スリマリー一家と1階の酒場で合流して、楽しい食事をした。

お代は、銀貨30枚だったが、全てサラキアが支払った。

最初、エイデンは、宿代、食事代を支払おうとしていたが、サラキアは、受け取らなかった。

エイデンも引き下がらなかったが、最終的にレイド王家ゆかりの者であることを匂わせて、きっぱりとサラキアが断った。

それに無償でする護衛の件も「そういうことなら。」とエイデンを納得させた。

((レイド家ゆかりの者として、難民を黙って見過ごせない。))

というのが今回、サラキアがこの家族に加担する理由だった。

レイド王国滅亡した際の話は、エストリアからあまり詳しく聞いていなかったが、エストリア曰く

「王家狩りにあったが死にかけた。」

「サラキアが短剣で穴を掘ってくれたおかげ

で助かった。」

「でも、返り討ちにした。」

「しばらく反撃していたら、相手が諦め

た。」

とだけ聞いたことがあった。

自分達の記憶でも、馬車で逃げているところ、追っかけられて転落したことは、よく覚えている。

と考えているところ、エイデンの顔をぼんやり眺めていると転落した時の御者の顔と重なった。

「エイデンさんには、兄弟とかいますか?」サラキアが目を見開きがちに聞いてみると、エイデンは、「2人いたけれど、みんな10年前の戦争で死んでしまいました。」と答える。

その答えに対して、サラキアは、更に「兵士ですか?王家に仕えていた人もいたんですか?」と質問する。

エイデンは、「長男は、王家に仕えていたけど、馬車の転落事故で死んだらしいです。弟は、レイド王国の守備隊の兵士として働いていましたが、レイド城が陥落した時に戦死したそうです。」と教えてくれた。

(サラキア。エイデンは、あの時の御者の弟だよ。)今、鳥人形は、外しているので、この呟きは、外には漏れないが、二人の意見は一致した。

((私達が乗っていたことを話すべきかな?))

(たくさんの人の前で打ち明けるのは、やめよう。)とサラキアを説得する。

「そうですか。」とサラキアがエイデンの答えと自分への答え、両方に相槌を打つ。

((でも、この人達には、大きな借りがあったね。))

(いずれ、真実を話して、感謝の気持ちを伝えよう。)

((うん。そうだね。))

その日の食事会は、お開きとなり、それぞれの部屋に戻って休んだ。

次の日の朝、小雨の中、サラキア、シオイリとスリマリー一家は、羽屋を出立し、ミスタリカ東門を出て、東西街道から外れた北東の間道を進んだ。


























































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