試合でダンクシュート決めたら付き合ったげると煽られた話

作者：大貞ハル

背が低めの高校生がダンクシュートとか出来るのか分からないですが、なんとなくで

高校に入ってしばらく経った頃、同中の女の子に告白した。

付き合ってください、その言葉に彼女は呆れたような蔑むような顔でこう言った。

「そうだなぁ、試合に出てダンクシュート決めてくれたら付き合ったげる」

バスケを始めたのは小学校の頃からで、確かに、中2くらいで背が伸びなくなって、高校では明らかに体格が違う先輩たちに萎縮していたのは否定しないが、まさかこんな振られ方をされるとは思わなかった。

「約束って言うか、賭けだから、ね」

試合当日、彼女はそう言って同じく同中の女友達を連れて見に来てくれた。

が、俺氏、補欠ですた。

穴があったら入って自分で埋めたい。

まあ、試合に出てダンクを決められたから付き合いますって、そんなのおかしいし、それほど期待していたわけでは、いや、かなり期待していましたし、めっちゃ頑張って練習した。

居残りしてこっそり練習とか、今までに無いほど頑張った。

先輩に目を付けられてなんか無茶なこととかやらされたりしたけど、それも乗り越えて今日まできた。

けどまあ、なんだよ、かぐや姫も結婚する気なかったよね、あれ。

試合は進み、ほぼ2年生のうちのチームはその中でも何人かの飛び抜けて上手い選手が居て、付いていけない先輩が脱落、選手交代、俺氏

「え？」

2年の柿崎先輩、ぶっちゃけおっかないし、何かにつけて俺にボールをぶつけたりしてくる人。

ちょっとそれ俺に対するパスですよね？　投げる方向おかしくないですか？　つか、そんな無茶な威力じゃ怪我しますよ普通に。ゴリラですかあなたは。

まあ、普通に取れますけど、ええ。

そう、取れる。取れるよ、全然追いつけるし、ちゃんとキャッチできる…

背の高い先輩たちに上から責められ続けて身に付けた低いドリブル。

低く、低く、潜り込むように。

キャプテンと目が合う。

いつもやられているんだから、これぐらい無茶振りしても良いですよね。

ディフェンスの裏をかいて出したパスはおかしな軌道を取って逆サイドに。

走り込むキャプテン。

そのままシュートするかと思わせて、柿崎先輩にパス、そしてゴール。

なんだこれ、気持ち良いな。

相手も馬鹿じゃない、俺も油断ならないとなるとそれなりにマークされる。

まあ、1年のチビが相手をそれなりに引きつけてるって言えば、悪い気はしない。

でも、ボールが欲しい、ボールに触りたい。あわよくばシュートしたい。

俺は背が低いのが売りだ。低く低く立ち回ってきた。そこが狙い目じゃね？

柿崎先輩と目が合う。

「飛べ、翔太っ！！」

あれ？それ、俺の名前っすね。初めてじゃないですか？

柿崎先輩の力任せのボールがゴールにぶつかって跳ね返ってくる。

全身の筋肉がバネのように伸びていくのが分かる。

空中でリバウンドをキャッチ…

二階堂翔太くん。

中学の頃からずっと見てきた。

楽しそうにバスケする姿が眩しかった。

高校に入って、なんだかちょっと辛そうに見えて心配してたら告白された。

バスケが上手くいかないから？　だから私に気が付いたの？

そう思ったらなんだか辛かった。

突き放した。

その彼が、今、コートを縦横無尽に走り回っている。

一際輝いている。

凄く、生き生きしてて楽しそう。

助走を付ける姿に何かを感じた。

床を蹴って飛び上がる姿に思わず立ち上がってしまった。

ゴールに当たって戻ってきたボールに飛びつこうとしてる。

「っいっけえええええーーー！！」

思わず自分でもびっくりするほど大きな声が出た。

涙で目が霞んで良く見えないけど、間違いなくその手に掴まれたボールはゴールに入った。

「やった、入ったよ、ね、見た？」

一緒に来てもらった親友のともちゃんの手を取りぶんぶん揺する。

はっと我にかえった。

ずっと一緒に居たから、たぶん私が彼のことを好きだった事を知っている。

告白を断ったことも話している。

とても、とても悲しそうな顔で、震える声で言ってくれた。

「大丈夫、きっと大丈夫だよ」

試合の後、体育館裏。

「あの、ごめんなさい、あんなこと言って、あんな酷い態度とっておいて、こんなこと言うのもなんだけど、格好よかった、です」

涙が溢れてきて顔を上げられない。

「俺も謝らないといけない」

「え？」

「ごめん、あの時の告白はなかったことにしてくれないかな」

「う、うん…」

「格好悪いけど、あの時はたぶんバスケから逃げようとしてたんだと思うんだ、だから…」

「そ、そう、なんだ…」

「だから、あらためて。俺と付き合ってくれませんか？」

「あれ？」

「何て言うか、君のおかげで、またバスケが楽しいって思えた。から。その、バスケの練習とか忙しくてそんなに一緒には居れないかもしれないけど、その…良ければ…」

「…うん」

「えと、OKって事で良いのかな」

「はい、よろしくお願いします」

茂みの中から先輩とともちゃんが飛び出してきて腕で丸を作る。

そこかしこからチームの仲間から相手チームの選手から応援に来てた生徒まで飛び出してきてわやくちゃにされる。

「なーっ、何してるんすかーっ！！」

左腕を両手で掴んで耳元で囁かれた。

「ふふふ、また、ダンクシュート見せてね」

「え、ダメだったらどうなっちゃうの？」

「そういうんじゃなくてー」

「あははははは」

2人して半泣きで笑った。

終わり

まだ芸風が固まってないので、なんか自分で誰だよって感じですが