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二話目 前編

「北薗さん、今日新しい社員証を発行出来ましたので帰りに取りに来て下さい」

「分かりました」

あの高級ホテルに社員証を忘れた事に気付いたのは日曜日で。どんなに探しても見つからないそれに、あぁあそこに忘れたのかと検討つけたのがその数時間後。けれど残念ながら態々逃げたあの場所に取りに帰るなんて無謀な真似を出来るほどの強心臓は持ち合わせていなかった。それくらいならよっぽど新しいIDを発行した方が賢明なことは明らかで。そもそも申請して面倒な手続きを踏まなければいけないのは隣の経理の誰かだから。私は申請を即断した。それから受理されて発行が完了したのが今日の夕方。もう今週も週末に入ろうとした日だった。



どんなに歳を重ねようと過ぎ去る日々は変わることもなく。ただただ淡々と仕事をこなしていく時間は今日も変わらなかった。


けれど、変わった事も一つある。それは周りの態度なんかではなく、私の行動パターンだ。あの日、馬鹿みたいに酒に溺れて酔っ払い、挙げ句の果てにお持ち帰りなどというアホ丸出しのことをしてしまった私は十分痛い目を見たわけで。だからマスターには悪いけど、外でお酒を飲むことは控えるようになった。今までは週3ペースで一人、バーに赴いていたけれど今は真っ直ぐ家に帰っていた。するとまるで違う街を歩いているかのように街の風景が変わった。よく、耳にする事だ。


『行動パターンを変えるとある種の防犯になる』と


私はそれを、身をもって実践していた。もう、あんな事態が起こらないように。決して、顔すら覚えていないけれどその人と会うことなど無いように。側からみれば、“逃げ”なのだろうけど私はそれら全てを拒絶するかのように頑なに真っ直ぐ帰っていた。

まさか、それが裏目に出るとは思いもするまい。




今週一週間の疲れも溜まりふらりふらりと街を歩く私は大通りで足を止めた。


否、止めざるを得なかった。





「お前、どう落とし前つけてくれんだよ、あぁ?!このスーツ、いくらすると思ってんだよ?!30万だぞ、30万!お前これ、払えんのかどうなんだよあぁ?!!」

「ご、ごめんなさいねぇ。わざと汚そうとしたわけじゃないんだよ……」

「んなこた関係ねぇーんだよ!!払えんのかっつってんだよ、ババァ!」

大きな通りの交差点。人も車もごった返すそこでは一人の小さなおばあさんとどこの仁侠者だよと言いたいほどに“らしい”男が向かい合わせで話していて。というよりも、おばあさんに男が一方的に怒声を浴びせていた。

残念ながら、“らしい”見た目の男に関わりたくないと感じたのか誰もがその様子を見て見ぬふりをしていた。一方的に怒りの声を上げる男の言葉とスーツからして、おばあさんが男のスーツに何かを掛けてしまったらしい。別に私も、正義感の塊だとか偽善者だとかそんな性格、人間性じゃないから助ける気なんか更々ないと、言いたかったけれど。

私は、そのおばあさんに見覚えがあって。すこぶる知り合いで。私は彼女の人となりを十分に分かっていたから、彼女だと気付いてすぐにその二人に近寄った。

「どうしたの、百合子さん」

そう、声を掛けようとした私の足は二人から程近い距離でピタリと止まった。





「こんな人通りの多い道のど真ん中で何やってんだチンピラ。場所考えてやれよ、頭悪いのか」

誰も声を掛けようともしなかった、その光景に一人の男が割って入った。



否、こちらから顔は見えなかったが割って入った男は怒声を上げていた男にひどく低い声で非難の言葉を掛けていた。

「お前、この状況を理解できないのか。お前がくそつまらん理由でそこのばあさんに突っかかるから周りの人間もいい迷惑なんだよ。こんな場所で老人をカモろうとすんじゃねーよ」

但し、随分と口は悪かったけれど。




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