第6話 お願いだから、演目きめて!
映画に著しい不備があり緊急のクラス会にて試写会実施、賛否を問うも当然の否決。
まぁ、脳みそぶちまけた人が賛否を問うのだから、思い出し嘔吐する人もいた。
それだけでもアウトといえる。
放課後、僕と眞智子、マサやんだけがクラスに残って会議。
「確かに、今回はうちらの落ち度だったとしても、それにしてもみんな『お前らに任す。何でも協力するから』って逃げ出すの卑怯じゃない?」
「何言っているの、『意見出せ』と小野乃が睨む付けるからみんな萎縮しているんじゃないのか?」
確かに眞智子やマサやんの言うとおりである。だが、もうそんな悠長な時間はない。
だったら『僕らに一任を取り付けた方が早い』と画策し誘導したのは僕であるということは付け加えておこう。
さて僕は彼らに対して、
(1)眞智子の希望とおり(強調しながら)演劇にすること。
(2)高校生らしい演劇にするため、スプラッターにしないこと。
(3)手っ取り早くシナリオが組めて、みんなが分かりやすい物にすること。
であることを絶対条件として提示したところ、
「それならいいのがあるよ。」
と眞智子がすぐに食らいついてきた。
「『昔流行したゲーム』を元に演劇アレンジするものでいいんじゃないの。これならみんなに分かり易いし、シナリオもそれほど時間掛からないわよ。」
そういわれてもなぁ・・・僕はゲームやった事ないからわかんないんだけど。
今度はマサやんが
「そうだな。ゲームが元ならシナリオはしっかりしているし、健全な物を選べばすぐ演劇用にオマージュできるハズ。それなら大丈夫だわ。」
と眞智子の案に賛同した。
「確かにどこぞの血まみれ映画に比べれば雲泥の差だね。僕もそれでいいと思う。」
「じゃあ、これで決定ね。」
時間もないことからゲームシナリオの演劇という事で即決となった。
あとは元となるゲームである。
すると、眞智子が『アース(天空の女神)』をベースにしたらいいのではないかと推薦があった。
「どんな話?」
「魔物の巣窟となっている伝説のアースという地に向かった覇者エーデル=エンドルファが、女神達ヒロインの力を借りて宿敵を倒し、アースの平和を取り戻し去って行くという話よ。」
「まあ、よくある話だよな。」
「あのね、よくある話の『これが元祖』なの!その当時のパソコンゲームとしては伝説になっているんだから!」
眞智子がグイグイ前のめりになって語り出してきた。元々彼女は学園ものを希望していたが、これもやりたかったようである。
「小野乃の言うで良いと思う。それじゃあそれをベースに話を進めるか。」
よし、これで骨組みがきまった。
「あっ、ちなみにヒロイン枠あるから!」
眞智子がさらに前のめりになって僕の顔に鼻先を近づけた。美子がそれをみたら間違えなく『有罪』確定である。
「確かにヒロイン3人いたよなぁ。」
「そうなのよ3人もいるのよ。ホント、この主役はどこかのヘタレと同じだね。」
眞智子が不快そうに僕の顔をチラ見をする。どうせこちらから「何か言いたげだね」と返そうなら「別に~」とさらに機嫌が悪くなるパターンである。あえて素知らぬ顔でスルーした。
「神っち大丈夫、どうせ主人公は次なる世界へ旅立っていくんだもの。」
「そうなのよね、そこが切ないパターンよね・・・なんとかしなくちゃねぇ。」
眞智子は頭を両手で抱えるとなにやらブツブツと考え出した。
「だから、ヒロイン3枠を小野乃や神っちの妹だろうが地端ですらなんら問題はない。」
おぉ、なんてすばらしい話だろう!!こいつらチームヤンデレ(1人目はヤンキーヤンデレ、2人目はブラコンヤンデレ、3人目は頭がヤンデレ)から逃れられる主人公って!!そして新たな冒険の旅に出れるとは!!
・・・そう喜んでいたのだが、よく考えてみると主人公は『僕』なのか?
「一応聞くが配役は・・・誰?」
「この3ヒロイン起用して、お前なしってわけないだろ?3人が暴動起こすぞ。それにクラスの連中らに今から面倒役回したら恨まれるぞ。」
「確かに時間がないからな。とりあえず話を進めよう。マサやん、お前はシナリオと宿敵でいいな。美子達は僕が説得する。それと他の連中にも頼むとしよう。」
話はだいぶまとまった。すると、眞智子がそろりと挙手し質問してきた。
「それで、私は誰をやればいいの?」
「ああ、小野乃と地端は実際にお嬢様だから女神役でどうか?妹が町娘風だから主役をサポートする役。シナリオ概要はゲームかアニメで調べてくれ。」
「んじゃ、私は女神フィリア役ね!」
「いいなぁ即決かよ。僕はストーリー眞智子やマサやんみたいに知らんから、把握するまでちょっと掛かるなぁ・・・あっそうだ・・・」
僕は他の連中が、演じる上でストーリーとキャラの特徴を他の連中にも知らせようと思い、それを話そうとしたが、眞智子は僕の話を遮り
「ごめん、みんなに伝えるのはもう少し待って。」
と渋った。渋った理由を
「あたしは色々と感情を込めたいのよ。それには人より時間が必要なの。」
と付け加えた。
なるほど。ここは黙って認めるしかない。美子や眞智子みたいに『元ヤンなのに?』そう突っ込み入れた暁には間違えなくご機嫌斜めモードである。ここは声に出さず心にしまっておくとしよう。
まあ眞智子もやりたいヒロインをゲットしたからには、気合い入れたくなるのも当然である。
「とりあえず、みんなへの連絡は明日!明日までにはスイッチ入る様にするから。」
まず一つの予定これで歯車が動き出した。
あとは頃合いを見て、美子と佐那美に声を掛けるだけとなった。
それにしても、なぜ眞智子がプロみたいに感情移入したかったのか?
それが心に引っかかった。
さて、次の日。
僕も、マサやんからビデオアニメ借りて内容を把握したので、どういうキャラを演じれば良いか何となくわかった。
主役はエーデル=エンドルファ、ヒロインでアースの女神フィリアとマーナ、同じくヒロインで主役をサポートするリリン、宿敵がファルト。
これをベースにオマージュしたシナリオ・キャラクターを作り直す。
配役は既に決まっているが僕がエーデル役、眞智子がフィリア役。まだ連絡していないがマーナ役を佐那美、リリン役を美子、ファルト役をマサやんと決めた。あとは町民や魔物あたりはクラスメイトに頼むとするか。
朝一番、先にクラスに入っていた眞智子に声を掛ける。
眞智子は、沈んだ様子で大きくため息をつきながら、僕に顔を向けた。いつもならニコニコしている彼女の目は真っ赤に充血しており、何かあった様だ。
「あぁ・・・こりゃ、何度見ても、泣けちゃうわよね。」
昨晩、原作を再確認して涙がこみ上げてきたらしい。確かに切ない話ではある。
「シナリオ確認ご苦労様でした。」
「いやぁ。これって自分らが諸悪の根源を封印するんだよね、未来永劫。切ないよねぇ・・・」
「うん、さすが眞智子さん、感情移入完璧だね!それなら・・・」
この後、僕は『それなら、観客をガンガン泣かせてください!』と言おうとしたが、すぐに彼女が話を遮るように
「だから、その辺アドリブで何とかするから。それは昨日寝ないで考えたから」
と言ってVサインを出した。どういう意味だ?一体何に勝利するというのだろうか?
「まあまあ、礼君は、あたしが感情が高まった時、フォローしてくれればそれでいいから。任せてよ!!あとみんなにも話していいから!」
「はあ・・・」
一体、どんな演技をするつもりなのか・・・ちょっと不安になってきた。
ようやく眞智子のゴーサインが出たところで正式公表である。
クラスの方はスタンディングオベーションで承認を得た。まあスプラッター映画ではないので反対しないのも理由の一つであるが、何よりも『姉御』自ら面倒くさいのやってくれるのは大変ありがたいわけで・・・・・要はほっとした訳である。
さて、美子の方であるが・・・
「リリン?アース??あぁ、アースシリーズのキャラか。それのオマージュやるんだ。」
とすぐにキャラを理解していたようで、
「私、リリン役でいいの?礼君がエーデル役でしょ?ならいいよ。」
とニコニコしながら即決した。やっぱり彼女はそういう面に限っては楽勝である。
問題は佐那美か?もちろん対策は練ってある。
「ダメです!!何で神守君が演劇するんですか。事務所として許可した覚えはないわ!」
案の定反対された。
おいおい、お前はいつから地端プロダクションの正式な事務員になったんだ?
・・・と小さく突っ込みを入れつつ、こうなることは十分わかっていた。
前回、佐那美が許可出したのはホンの気まぐれである。
佐那美は賛成すると怖いほど振り回してくれるが、反対に回ると絶壁のような胸・・・じゃなかった絶壁のように立ちはだかる障害になる娘である。
そこで、お得意の回避術で、佐那美の言葉を回避するとしましょう。
「別にレインじゃないんだけど。」
「そんなことわかているわよ。」
「それに神守礼までプロダクションの縛りを掛けると、僕一生働かなくても生活できるくらいお金もらわなきゃならないんだけ。」
「そうじゃなくて、仮に神守礼で出たとしても、高校生の学芸会のお遊戯でプロダクションにキズを付けるような劇をされても困るのよ。」
ふん、ずいぶん上から目線である。ソレなのにあんなスプラッター映画を作ろうとしたわけですか。
「そこまでプロダクションを守りたいならプロ級の共演者が必要だな。」
「誰が、お遊戯に付き合ってくれるというのよ。」
僕は「ん」とだけ答え佐那美を指さした。
「はあ?」
佐那美は機嫌悪そうに尋ね返すが、
「佐那美さんがダメならサンディーに来てもらうけど。」
と呟いてみた。
「えっ!ふぁっきゅー呼ぶの?」
「ああ。本名のクリオだったら問題ないだろ。どうせ、僕がここにいる間はクリオも暇してるみたいだし。あぁ・・・でも、クリオの旅費が問題だなぁ・・・あぁ、困ったなぁ・・・でも佐那美さんがでてくれればなぁ・・・」
「だ、だって、この前みたいなセンセーショナルを起こすような映画じゃないですもの・・・」
「あぁ、でもこの前の映画の件で、うちのクラスの出し物が変更になったのって誰かの所為だし・・・何でもできる役者がいないと間に合わない。佐那美さんが嫌ならとりあえず地端事務所に役者を無償派遣してもらわなければならないって眞智子が騒いでいるんだけどなぁ。」
もちろん、眞智子はそんなこと一言も言っていない。
彼女の性格なら、佐那美をぶん殴らせれば簡単に許してしまうだろう。
もっとも、仮にこの場に眞智子がいたとなれば、戦略上協力してくれるので、粗方嘘にはならない。
それに佐那美の場合、地端のおっさんと比べて金にシビアである。頭の悪い彼女であろうがその言葉の意味は分かるはず。
「無償で役者だせって事?そんなことしたらお父さんに怒られちゃう。」
「大丈夫、親父さんなら出してくれるさ、『うちの娘が迷惑掛けたって』言って。」
「それじゃあ怒られるの確定じゃないの。」
佐那美の顔色が段々青くなってきた。佐那美は親父さんやお袋さんには昔から頭があがらないのだ。
さらに畳みかける。
「まあ、うちとしてはシャイニー佐那美・・・とまでもいかないが、地端佐那美に出演してもらえれば、手を打つんだけどなぁ。それで僕から眞智子に許しを請うことができるんだけどね。」
「す、ずるいわよ。わかった、わかったわよ。神守君の演劇を認めるわ。もちろん私も出るわよ!!」
まぁ佐那美程度なら、こんなもんでフィニッシュってところでしょうか。
問題は短期間にどれだけシナリオを整理できるかである。
頼むぞ、マサやん。
・・・・・それから本番当日。
僕は佐那美とマサやんから「できるだけ棒読みの素人で・・」という演技指示を受けた。 なんでも文化祭レベルで本気を出されると、僕がレインという事がバレてしまうか、他の事務所からのアプローチ(勧誘)が出てくるだろう。そうなるとうちの事務所が所属権を主張せざるを得なくなり、僕の高校生活が滅茶苦茶になるとの事であった。
「要はエーデルを演じる素人になりきる・・・ただそれだけいいんだな。」
「当たり前。あくまでも私らの引き立て役に徹してくれればいいのよ。」
まあ、主役やって目立ちたい訳でもないし、派手な殺陣もしなくていいのだから、ある意味では演劇の練習にもなるだろう。
ここは地味に演じて見せましょうか。
舞台の幕は開かれる。




