第5話 いつもの女子会
「――と言う訳」
美子はゲラゲラと笑いながら佐那美の部屋の隅でパジャマ姿で小さく項垂れている部屋主を指差した。
いつもならその姿を見て美子同様大笑いする眞智子であるが、これにはさすがに気の毒と思えたのか……
「おまえ……いつかは何かしでかすとは思っていたけど――まぁ、なんだ。頑張れ」
と佐那美の肩をポンと叩いて慰めた。
――ところで。
なぜ、舞台が変わっているかって?
それはその日の夜、僕は相変わらず女子のお泊まり会に連れ込まれたからである。
今回のお泊まり会場は回り番で眞智子の部屋の予定であったが、いざ当日――
「やっぱりおまえら絶対に騒ぐからうちではやらせない!」
――と急遽佐那美の部屋に場所を移し行われた。
まぁ、確かに一番騒ぐ人の家でするべきなんだよね。
そこで持参したゲーム機でみんなで遊んでいたのだが、肝心の佐那美はというと昼の件もあってイマイチ元気がない。
さすがに見かねてゲームを中断、そこで励まそうとするのだが……うちの美子がそのことを面白おかしく説明してくれるものだから余計佐那美が落ち込んでしまった。
その落ち込み様は眞智子ですら心配するレベルである。
でも彼女には敵が多い。脇にいる金髪美少女もその一人である。
「でも、その前に騒いでいた佐那美も悪いと思うけど。しかも相手が――ねぇ……」
彼女は佐那美の言動で迷惑被っている1人であり、直接的な攻撃は避けたものの、間接的に佐那美に『助け船は出さない』と言わんばかりに彼女に白い目で見ている。
では、佐那美がそこまでして推していた弊社のアイドルに1人は……と言うと。
「今回ばかりは私達の為にお願いしてくれた訳だし……」
……と口だけは佐那美の味方をしているが、視線は自分の指先のネイルに向いていた。
なお、あとのアイドル2人はというと自分の立場を理解しているようでこの様な怪しげな女子会を辞退した様だ。
まぁ、ストーカーである一美だけは鼻息荒く初参加となった。
それはさておき、僕からある程度その後の話を彼女らに伝えなければならない。
「それでTKBのテレビ出演のことなんだけど、とりあえずばあちゃんがテレビ局のお偉いさんに掛け合ってくれてばあちゃんの番組に御当地アイドル特集としてねじ込んでくれた」
「えっ、それじゃあうちらテレビに出られるんですね」
一美が目を輝かせながら僕の手を握る。
すると横にいたクリオがジトッとした目つきして彼女の手をペシッと叩いた。
「うちのスーパースターにおさわり禁止です」
「むぅう……私だってそこのアイドルなんですけどぉ!」
一美のブーイングに、今度は眞智子がギロッと睨み付ける。
「ここはホストクラブじゃねえっつうの」
そしてさらに一言。
「……あいつ見てみろ、今にも『ぶっ56す』って表情でおまえのこと睨み付けているぞ」
眞智子が指差した方向には、うちの美子が今にも噛みつかんとばかりに歯をむき出しにして拳を握り締めている状況である。
美子よ、そんな怖い顔をしないでくれないか。
マジで心霊写真よりおっかないんですけどっ。
その姿を目にした一美は手を震わせながら僕の手を解放した。
「それじゃあ話を続けるよ――ばあちゃんの話では、さすがにTKBだけ相手にするのは番組上成り立たなくなるので、今もっとも力をつけているアイドルを中心にすすめていくんだって。だからちょい出し扱いになるって」
まあ、御当地アイドルなので扱い的にはそんなもんだろう。
なお、その事についてはそこで項垂れているうちの上司が了承済みである。
――ただ、問題はここからだ。
「それで、条件付けられてしまったよ。条件というのは――」
そこまで話すと、美子が不機嫌そうにチッと舌打ちをした。
僕が話を止めると、美子が不機嫌そうに口を出してきた。
「うちのお兄ちゃんとそこにいる『ふぁっきゅうー』が事務所のマネージャー的な感じでTKBと一緒について行って、番組内でお兄ちゃんらに話しかけるからうまいように対応しろってさ……何で私じゃダメなんだろう……」
美子は不満そうに顔を顰めた。
うん、キミと僕が一緒だと、ばあちゃんが話しかけた瞬間『私たち今度結婚するんですぅ』なんて全国放送でホラ吹くにきまっているじゃん。
それじゃあ、ばあちゃんも含めうちら家族公開処刑されているのと同じだからね。
ナイス、ばあちゃん。
それにしても、美子は露骨に嫉妬するなぁ、佐那美ならず彼女までもクリオの事『ふぁっきゅうー』と言い出す始末……佐那美だけじゃなくて美子からもその言葉を言われてしまい、いくらか落ち込んでいる様にも見える。
「まあ、私も広報部長って肩書きあるから地端プロダクションの人間って言っても問題ないけど……レイと一緒に番組に出るっていうことは『オタク道2』の番宣しろってことなのかしら」
「いや、それはないみたい。TKBのことだけを売り出すようにって言われた」
「――本来なら、この馬鹿がするんだけど……ばあさんが……ねぇ」
美子は部屋の片隅で落ち込んでいる佐那美を指差し補足した。
「まぁ……じぶんちの孫が大人達の都合でダマされる形でスーパースターにされたのが面白くなかったんだろうね」
美子が佐那美を再び指差すと再びビクンと身体を引きつらせた。
でも、それは地端の親父と死んだ爺様の所為であり佐那美の責任ではない。
「とりあえず今回は佐那美さんがとばっちりを受けただけなんだけどね」
「そうそう。とりあえず湿気た話はもう終わり。みんなでおやつ食べよう」
僕はその場の空気を察した眞智子と共に話をその場で終わりにさせた。
皆も終わり終わりとそれぞれ持ち寄ったお菓子を袋から取り出し開封する。
美子はクッキー……と言っても例の劇毒物ではなくて美子お手製の別物。なんでそんなことを言い切れるのか、であるがこれは僕が彼女のお手伝いをしようとして「私を無意味な殺人者にさせるのはやめて」と断られたからである。
ちなみに僕は未開封のポテチや煎餅、チョコレートなどの市販品のお菓子。
眞智子はと言うと、アルコール以外の飲み物を取り揃えている。
なお、クリオはビーフジャーキーやナッツなどのおつまみ。一美に関してはお新香などの漬物とずいぶん訳の分からない食材の組み合わせである。
――実はこれ、闇鍋になるハズの食材だったりする。
だがこれも突然に却下された。
今回それを却下したのは眞智子ではなく佐那美。
そもそも女子会回り番は眞智子の部屋だったので、嫌がらせの一環として佐那美が提案したものだが、それが佐那美の部屋に変わり自分の部屋でそれを催すこととなった。
それ故に佐那美が却下したわけ。
その結果、行き場を失った食材の一部が女子会のお菓子として食すことになったのである。
「ほら、佐那美ビーフジャーキー好きでしょ? 食べなさいよ」
クリオがジャーキーを二袋開ける。そして一つは自分の口にしゃぶりつきもう一つを佐那美に差し出した。
「あぁ……うん……ありがとう」
佐那美はジャーキーをパクッとかみ始めるが……何かクビを傾げている。
一見すると普通のビーフジャーキーに見えるが、何か違和感を感じている様子だ。
「なんか……塩味が感じられないんだけど、それに香辛料も……」
「そうだね……健康食品なのかしら……あんまり美味しくは……ないわね」
差し出したクリオもクビを傾げている。
そして脇で一美もジャーキーの袋から取り出しムシャムシャと食べ始める。
「確かに野性味溢れる味しかしない……せめて味があれば違うのかしら」
3人揃ってクビを傾げている。
「レイも食べてみて」
そう言ってクリオはジャーキー袋を僕に差し出した。
とりあえず袋ごと手に取ってみる。
するとある言葉が記されていた。
その事実を告げるため、それを声に出して読み上げる。
「ペット用……わんちゃんにどうぞ……て記されているんだけど」
その言葉を聞いた3人はそれぞれ顔を見合わせ、それを理解すると口にしているジャーキーをぽろっとその場に落としてしまった。
さて、そういうときって佐那美は『あんたの所為でたべちゃったじゃないのよ、この馬鹿! あんたも食べなさいよ』等言ってクリオの口に強引に突っ込むリアクションを示すのだが……肝心のクリオも既にジャーキー口にしてしまった後であり、佐那美同様な表情をしている。
一方で完全巻き込まれた一美はと言うと『これってパワハラじゃないですか!』ってクリオに猛抗議すところであるが、差し出した本人も口にしてしまっていることから、文句も言えずに「うえぇ……」とアイドルらしからぬ表情で俯いている。
だが、不幸はコレで終わりじゃなかった。
再びジャーキーの袋を読む。
「あれ……これビーフジャーキーじゃない。鹿肉だ」
僕の脇にいた眞智子ももう一つの袋を手にすると同様に読み上げた。
「こっちはサクラ肉だって……」
美子がニコニコしながら統括をする。
「馬鹿がそろってよぉ……ほれ、私に御手してみろ」
――その後が大変だった。
一美は美子の背後から羽交い締めにすると、クリオと佐那美は息が揃った様に落としたジャーキーを拾い上げた 。
「ちょ、放せこのストーカー! それと馬鹿女2人、それをどうするつもり?!」
当然、美子は大暴れするが、意外に一美の力が強く逃げることが出来ない。
「犬が食べても影響がないって言うくらいだから塩味はなくて余計な添加物も入ってないわよ」
「思ったより美味しいハズだよ……うん、美子ならきっと!」
「や、いやめろおおおおおっ!」
クリオと佐那美は今までにない笑み……いや完全に目が笑っていない作り笑いで、美子の口をこじ開け手にしたジャーキーを一斉に美子の口に押し込んだ。
泡を吹く美子と馬鹿笑いをする3人……眞智子と僕はその様子を震えながらただただ見守っているだけしかできなかった。
閑話休題。
再び佐那美の部屋。
そのおやつ(※馬鹿肉含む)をつまみにして話を再開する。
「そうすると神守さんとクリオさんが私たちと一緒にテレビ局に行くんですね?」
「まぁ、そういうことになるね」
僕はそう言うと名前があがっていない彼女らに視線を向ける。
「あたしも行きたぁい……あたし役員なのにぃ」
「何で私がお兄ちゃんと一緒にいちゃだめなの……」
皆それぞれ一応に思うところがあるようであるが、眞智子だけは1人だけ表情が違う。
「ま、まあぁ私は一般人だし、そういうの慣れていないから緊張しちゃって声が出ないと思うから仕方が無いけど――」
彼女はチラリとクリオに視線を移し、「何か嫌な予感するんだよなぁ……」と言いながら顔を顰めた。
不穏な空気が漂う。
特にテブラテマンの後であったこともありジトッとした目が一斉に僕とクリオに向く。
「ちょっとそれ前の一件のこと想像しているんでしょ? それ私の所為ではないから!」
クリオは反論するが、眞智子が白い目で告げる。
「分かっているけどぉ~今一番要注意人物おまえじゃん!」
それに追従するように佐那美と美子がクリオを睨む。
「結局の所、おいしい思いしたのふぁっきゅうーだもんねっ」
「やっぱり、今度本物で始末しようかしら……」
もちろん美子の場合、得物を使って殺傷事件を起こすことでもなく、お手製クッキーをチラつかせていたことから例の危険物のことを指すのだろう。
散々食べさせられたクリオは身の危険を感じたのか真っ青な表情をしていたが、その件に全く関わっていない女子の一言が、彼女の表情を一変させた。
「もう寝ましょうよ。クリオ先輩は放っておいて……あっ、でもクリオ先輩は今回は神守さんの脇で寝ちゃダメですからねっ」
「「「えっ?!」」」
僕は勿論、佐那美、眞智子、美子は目が点になる。クリオに関しては「なんでよぉ!」と今度は顔を真っ赤にして怒りだした
「お泊まり会でしょ? 誰が神守さんの脇で寝るのかなって勝負するんですよね」
「ちょっと待って、今回もそのパターンなの?!」
「私、今日はなにもしていないのに何でよっ!」
背後から嫌な気配を感じチラリと彼女らに視線を移すと、血走った目つきで「私、私! 礼君の脇に寝るのはこの私」とか「まあ、こうなったのもあたしが原因だし……あたしと一緒に寝るか」、はたまた「お兄ちゃんの下で寝るぅ」などつかみ合いのバトルをおっ始める。
クリオはクリオでどさくさ紛れに「もうレイ、こんなバカ女共相手にしないで帰ろう」と僕を連れ出そうとするが――
結局の所、朝を迎える頃には皆力尽きて、佐那美の部屋は死屍累々の惨状と化していた。




