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神守君とゆかいなヤンデレ娘達  作者: 田布施 月雄
第4章 礼治のお買い物
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第4話 大御所参上


 「うるさいぞガキ共! ここは学校じゃねえ、静かにしろ!」


 豪快にドアを開けるなりこちらに怒声を浴びせてきた女性が一人。

 それは誰もが知るあの有名人であった。

 そんな中、美子が声を挙げる。



 「何だ、ばあさん。こんな所に何の様?」



 美子の一言でギロッとその大御所が睨み付ける。

 その状況を目の当たりにしてディレクターのお姉さんは顔面蒼白でフリーズ。そして失神したハズの佐那美が美子の一言で一発で目が覚め、狂ったように叫ぶ。


 「うわあああああ、何て事言うのよぉ! この馬鹿女なああああ!」


 佐那美はこの世の終わりのような表情でその場に崩れた。

 それは誰が見ようがあの大御所だったからに違いない。

 だから僕はこう声を掛けた。



 「あれま。どこぞのばあちゃんかと思ったら……控室はここじゃないよ」



 横で佐那美が「ぎやああああああ」と絶叫する。


 「あれまじゃないよ! あんた何て失礼なことを言ってくれちゃってるの!」


 「えっ、何が?」


 僕は首を傾げながら佐那美の方に顔を向けるが、佐那美はすかさず僕の両頬を両手で挟み込むとグギィと大御所の方に顔を向けた。


 「何馬鹿いってくれているのぉ、彼女は河・輪・田・秋・穂・様っ! あんたらが普通に話しかけていい人じゃないのっ!」


 佐那美は慌てふためいている。

 彼女は僕の顔を乱暴に振り払うと、腰を低く「うちの若い者達が大変失礼いたしました」と小者感を振り撒きひたすら頭を下げ始める。


 「ちょ、ちょっと佐那美さん、何か勘違いしていない? 僕は――」


 「五月蝿い、黙れ!」


 彼女は有無も言わさず僕の話を遮った。

 その脇でうちの美子が――


 「何媚び売っているの。その婆さんそういうの嫌いって売りなんだけど――」


――何事もなかったように佐那美の肩の上に手を載せる。


 「うるっさいわね。今、あたしがあんた達の粗相を謝罪しているんだから」


 美子の手を乱暴に振り払う。明らかに佐那美は青ざめパニクっている。

 どうやら佐那美は、僕らが河輪田のことを年寄り扱いにしたことで彼女の逆鱗に触れるのでは……と危惧している様だ。

 

 ――それは彼女の思い過ごしだ。多分、そうならないと思う。


 さてこれは面倒なことになりそうだ。

 そしていくら佐那美に説明しても聞く耳持たないからこのまま放っておこう。

 

 一方で、当の河輪田はムスッとした表情でこちらを睨み付けている。

 ……うーむ。

 彼女は何かの出番待ちなのか着物を着ており、髪の毛をカールを巻いたままの姿である。

 今の彼女の姿から察するに、仕事のことで集中していたところ隣の楽屋で騒いでいたからそれで文句を言いに来たのだろう。

 

 それであれば、僕らが怒られる理由は全くない。

 だから佐那美が悪いのである。


 

 さて、河輪田は僕らの顔見るなり「ハァ……」っと深いため息を付いた。



 「……たく、ホントに親の顔が見てみたいものだよ。こういう子の親って、大概母親の教育がなっていないのよ」



 ヒドい言われようである。

 こういうのって侮辱だと思うのだが、今そこを抗議しても仕方がない。あえてサラッと聞き逃すことにする。


 ――のだが、ここで美子が余計な一言をかます。


 「あのさ……そんなこといっているとみんなから嫌われるよ~」


 それのやり取りを目の当たりにして、佐那美の顔色が青色から真っ赤に変わる。

 彼女にしてみれば『折角あたしが宥めようとしているのに何地雷踏んでいるんだ、コラァ!』ってところだろうか。

 一方で河輪田は再び「ハァ……」とため息を付くと着物の袂からタバコを取り出しぷかりと吹かした。


 「……嫌われてなんぼよ」


 「いい歳してみっともないよ」


 河輪田はフンと美子から顔を背けてへそを曲げている。

 まぁ、可愛らしいと言えば可愛らしい。


 ……のだが、若干勘違いしている奴がいることを忘れてはならない。


 佐那美が茹で蛸の様な顔色をしてズカズカ彼女らの間に入ったと思うと、美子の頭をバシンとひっぱたいた。

 河輪田はビックリした表情で佐那美を見る。

 対して美子は頭を抑えながらギラリと佐那美を睨み付けた。


 「痛いな何するんだよ、この馬鹿!」


 「あんたいい加減にしなさいよ。少しは年長者を労りなさい! そして――」


 佐那美は振り返り河輪田に告げる。


 「河輪田様、うちの若い者が重ね重ね大変失礼いたしました。私、地端プロダクションの地端佐那美と申します。お初にお目にかかります」


 そう口上を始めるとぺこりとお辞儀をした。

 いつもは赤点だらけの彼女であるが、礼儀作法に関してはうちらの中では最も教養あるんだったっけ。

 だが結果的にこの一言が彼女の機嫌を一層損ねた。


 「――地端ぁ?」


 河輪田はその名前で声を荒げた。

 一瞬佐那美は怯む。


 「は、はぃいいいいっ、地端です」


 「――ふん、その地端が会話に割り込んで私に何の様だ」


 「あ……あのですねぇ」


 佐那美は顔を強ばらせながら言葉を選び選び彼女に伝える。


 「あのぉ、もしあなたにお子さんやお孫さんがいて、他人から『親の教育がなっていない』って言われたら如何だと思いますか? 確かにこの基地外美子を見ればその親やそのまた親がどういう人物なのか想像つくとは思うし、多分祖母辺りはしょぼくれたババアだと思うのですが、それを露骨に言葉にしてはいけない事だと思います……」


 それは佐那美なりの諫言であった。

 例えどんな立場であろうとも礼儀に反するのは許されないものだと伝えたかったのだろう。

 それは彼女らしい筋が通った正論である。

 ただ、河輪田もそんな彼女の心情を知ってか「――ふん、ガキを見れば親がどういう奴なのか分かるってもんよ!」と悪態をつくくらいで恫喝やウザがらみをせずに話を終わらせた。

 河輪田は再びタバコを吹かす。



 「でもさ、礼儀も大切なのはわかるんだけど……人の頭をひっぱたいたり、基地外扱いするのは良くないとおもうんだけどさぁ」


 そう言うと彼女は美子を指差し苦笑いをする。


 「それにこいつらの上司の様だから一応話しておくんだけど……」


 河輪田はタバコを深く吸い込みそれを静かに吐きだした後に、




 「私はその基地外美子のしょぼくれたババアなんだけどね」




とギロッと睨みを効かせた。

 それを聞いて何のことだか分からず「はい?」と声が裏返る佐那美。


 「ばあさんお久しぶり、元気そうで何より」


 美子はあっけらかんと河輪田――もとい牛久のばあちゃんに声を掛ける。

 ばあちゃん自体も何事もなかったかのように美子に話しかけた。


 「ったく。おまえらの所為で私が悪者扱いじゃないか。そもそも美和子さんや礼治が私のところに挨拶にこないで電話で事を済ませるスタンスが悪いっ」


 「えっ……えぇ……えええ?」


 佐那美は何が何だか分からなそうにバグっている。

 そして僕の顔を見て助けを求める。

 だから僕は彼女にとってもっともわかりやすく言葉で説明した。


 「『河輪田 明穂』本名は『神守 明穂』、正真正銘うちのばあちゃんだよ」


 ……チーン。

 その一言で佐那美はフリーズ。


 「ったく五月蝿い地端の娘だねぇ、となりでおちおちと台本も覚えられない……さすがは裕一郎のガキの子か」


 ちなみに地端の社長の名前は『地端 裕一郎』で、うちの父礼治とは親友関係にある。

 ただ、うちのばあちゃんは昔から地端の社長のことはあまり好きではなく『裕一郎のガキ』と呼んでいる。それは幼少期に父さんを巻き込んでロクなことをしなかったことや、僕を唆してアメリカへ留学させたことが原因である。

 その上、娘が隣の部屋でギャーギャーと騒いだ挙げ句、孫を基地外扱いでひっぱたき、自分の事をしょぼくれたババア扱いをしてくれたのだから、あながち佐那美も『裕一郎のガキ』の子で間違いない。


 そんなこんなことをしていると……


 「あ……あのぉ……神守君のお婆さま……恐縮なのですが……」


 佐那美が股下をモジモジしながらばあちゃんに話しかけてきた。


 「散々失礼な事を言っておいて何を今更恐縮しているんだ?」


 ばあちゃんは若干へそを曲げているのかそっぽを向いてタバコをぷかりと吹かした。


 「あの……あの……」


 佐那美の言葉がどうも歯切れが悪い。

 美子は彼女がどういう状況なのかすぐに察した様ですぐにその旨ばあちゃんに伝えた。


 「この馬鹿、事実を知って驚愕のあまりちびっちゃったみたい」


 「えっ?!」


 ばあちゃんはキョトンとした表情で美子から佐那美に目を移動させる。

 そこにいる佐那美は今にも泣き出しそうな表情で佇んでいる。

 

 ――可哀想に。 


 ただ、美子は彼女に頭をひっぱたかれたことを根に持っていたようで……


 「だからおむつが必要だと思うんだけど……ばあさん持ってない?」


とばあちゃんに確認する。当然、


 「そんなもん私が持っている訳なかろう」


との返答。

 美子はここぞとばかりに悪意ある笑みを浮かべてばあちゃんにこう伝えた。


 「いや、多分佐那美の事だからうちのばあさんが『介護用おむつ』持っていないかって聞きたかったんじゃないの?」


 ばあちゃんもこれにはさすがに驚くどころかあきれてタバコをその場にポトリと落としてしまった。

 


 「意味はあっているけど、そうじゃないぃぃぃ!」



 佐那美はそう叫ぶとその場で崩れてしまった。

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