第5話 お願いだから、ぐいぐいと迫らないで!
さて、そんな訳で緊急のクラス会でエチケット袋配布後試写会したわけであるが、冒頭のとおり嘔吐者続出、失神者も出た。
もちろん、さっきまで脳みそぶちまけていた人が賛否をとるのだから、彼女の顔を見て『思い出し嘔吐』したものもいた。
彼女は『後で佐那美覚えてろ・・・』と内心思いつつ、顔を引きつらせながらクラス会に臨むわけだが、こんな状況で『いいんじゃないですか、放映しましょうよ』という奇特な人はいないわけで、最終的に圧倒的多数でボツとなった。
そして新たなる出し物を早急に企画立案することになった訳である。
それについては明日まで持ち越しとなった。
僕は自宅に帰ると、美子に散々迷惑掛けた映画は中止になった旨告げると彼女に頭を下げた。
美子は「ああ、しょうがないよ。あれは私が出るって言ってた奴だから。」と、常識的に理解を示したものの、
「しっかし、あれ私殴られ損じゃないの。しかも首チョンパだし・・」
首チョンパって古い言葉知っているなぁ・・・
「あとでお返ししておかないと・・・」
とブツブツ言いながら自分の部屋に戻っていった。
他に、いいアイデア持っている人いないかなぁ・・・そう考えながらスマホを弄っていたら、間違えてバイト仲間の奴に国際電話を掛けていた。
「あっ電話掛けちゃった・・・」
そう思ってすぐ切ろうとすると、ワンコールで
『何、レイン!アメリカに帰る気になった?』
と速攻で電話が繋がってしまった。
「よぉ、サンディ。間違えて電話してしまった。電話切るね。」
『ちょ、ちょっと待ちなさいよ。真夜中に電話かけてきたんだから、ちょっとぐらいは話しなさいよ』
日本とアメリカのロサンゼルスとの時差は16時間あるそうだ。
日本の今の時間から5時間マイナスにして昼と夜を反転させた時間だとどこかのサイトに書いてあったっけ。海外に間違え電話すると相手に迷惑かかるな。
「寝てるところ悪かった。安心して寝てく・・・」
『いいから・・・何か話しなさいよ。』
さみしそうに強がるこの子はサンディ=クリストファー、またの名を『クリオ=L=バトラックス』。歴としたアメリカ人女性だ。
しかもその現地のアメリカ人に対して国際電話で日本語で会話しているというのが笑っちゃうところであるが、彼女がどうしても日本語覚えたいと言うので、日常会話は日本語となっている。
でもなぁ・・・彼女、ツンデレ特性を持っている上、教科書代わりに某声優さんのアニメばかり見て研究しているものだから、日本語もそれに限りなく近い。
彼女と話をするといつもどこかのキャラクターがつい頭をよぎるんだよな・・・
それに、この子は基本的に1人で過ごしている。
どうしても他人とは馴染めず距離を置きたいらしい。
そのくせ、無理して強がる。
その反動は、すぐメンタルに表れ、彼女のモチベーション上げるのに非常に苦労させられた。
気持ちが落ち込むと、気が済むまで泣き続けることもしばしばだ。
いわゆるメンタルツンデレアメリカヤンキー娘である。
・・・これもヤンデレに入るのか?
その彼女が唯一、心を開くのは僕とされている。これは地端の親父さんが言っていた事で、彼女の態度があからさまに違うそうだ。
当然、僕は意識しておらずあえて普通に仲間として友達として接している。
でも、彼女の事だから・・・このまま電話切ったら延々と折り返し電話掛かってきて最後には泣かれるんだろうなぁ・・・・
もう少し話しておいた方が穏便に済むだろうし、期待はしていないけど催し物のアドバイスはもらえるかもしれない。
「オッケー、サンディ・・・」
『サンディじゃない、本名で言いなさい・・・全く他人行儀なんだから。』
「わかった、わかったクリオ。相変わらず、くっだらない映画がんばっているか?」
『ちょっとあんた、挨拶がそれってどういうこと?!ちょっとはまともに会話しなさいよね!!』
ヒステリックっぽい声で反撃する。
『そんで、あんたが電話してきたって言うのはアタシをからかうだけじゃないわよね。』
「そうそう。本題に入るよ。今、うちの学校の文化祭で困ったことになってさ。」
『・・・たしか文化祭ってカーニバルの事よね・・・はぁ??あんた、そんなことでアタシに電話してきたわけぇ!もぉ信じらんない!!あんたホントに馬鹿でしょ!アタシはてっきり寄りを戻してまた一緒に映画やりたいっていうと思って期待しちゃったじゃないの!!』
ははは・・・寄りを戻すっていう意味はわからんが、そこまでアニメキャラかぶんなくていいぞ。
「まあまあ、怒るなよ。実は・・・」
僕はこれまでの経緯を彼女に話すと彼女は、『はぁ・・』っとあきれた感じのため息をついた。
『あんたねえ・・・・あのビッチに企画させるって言うこと自体が間違っているんじゃないのぉ・・』
実はサンディ・・・じゃなかったクリオは佐那美と顔を合わせたことがある。まあ地端プロダクションの看板女優でもある彼女が社長の娘とあうことも何ら不思議ではないのだが、佐那美の奴が初顔合わせの時に親愛の情を示す挨拶と勘違いして
「ふぁっきゅー」
って言ってしまったらしく、それ以来彼女は佐那美を敵視している。さすがに馬鹿佐那美である。
彼女は今でも敵視されているともしらず、クリオのことをマブダチと勘違いしている。
『あれはチバタのところのスクリュービッチなんだから、あんたもちょっとは考えて依頼しなさいよね。』
「まあ佐那美に頼んだ覚えはないのだが、僕もちょっとは考えてこうしてクリオにアイデアもらいたくて電話している次第なのだけどね・・何かいい考えないかなぁ。」
僕はちょっとばっかり彼女をおだてた。すると彼女はうれしそうな声を挙げ、
『やっぱりアンタはアタシのことわかっているじゃん!!』
と自分を褒め称えられることに喜びを覚えているようであった。
あはは・・・この子褒めると伸びるタイプなのよね。
ここから彼女のアドバイスに入るわけだが、至極当然の内容であった。
それでも『あたしが出たい。』とか『クラスなんだから学級委員の私達が出るのは当然。』、『礼兄さんの相手は私に決まりね。』など強引な要求は一切はなかったので話が素直に受け入れられた。
「ありがとう、参考になった。君に聞いて良かったよ、クリオ。」
『そう良かったわ。それじゃあ、折角だから・・・その劇に・・・・』
・・・おっと悪い流れになりそうだ。彼女が無理矢理こっちに来られても困るんで、ここは強引に
「ありがとう。じゃあまたね。」
・・・プツ
と、彼女が何か言いかけていたけど、お構いなしに電話を切った。
そしてスマホの電源をオフにする。
「電話終わった?・・・アメリカ版佐那美のアドバイスはどうだった?」
トラブルメーカーの電話を切ってすぐまたトラブルメーカーとは・・・
そのトラブルメーカーは勝手に僕の部屋に入り込み、無断で僕のベッドに横になり、そして断りもなく僕の教科書眺めていた。
一体いつの間に忍び込んだんだろう・・・
さて、それは置いておいても、美子はクリオのことをあまりよく思っていない。
それというのも彼女のことは『アメリカ版佐那美』と見なしているようで、まあ僕から見ても脳天気馬鹿素直かメンタルツンデレかの違いだけであって、基本的には地雷女には違いないのである。それ以外で違うところは頭ぐらいだろうか。僕はわずかながらにそっちの方を期待したのだ。
「とりあえず映画撮影はあきらめろってさ。」
「・・・ふーん、大したご意見ね。あまりにも普通すぎて驚いたわ。」
美子がつまらなそうにつぶやいた。
「でも、クリオが言うには、『サスペンスホラーなんかよりもホノボノとした間抜けな話で盛り上がったら?』だってさ。」
「それは確かなことね。私だって映画だと言っても礼兄さんをあのバカ共に殺されるのも嫌だし・・・勘違いメンヘラ女に『間抜け』って言うのはカチンとくるところだけど、ソレで手を打つか。」
そう言うと僕の教科書を鞄の中に戻すと、彼女は半身を起こすとそそくさと動き出した。 最初は全く気にもしていなかったのだが、彼女がせわしなく体を揺らしていたので、つい視界を彼女に移してしまった。
どうやら彼女は僕のベッドの上で服を脱いでいたようだ・・・って?!気がつくと彼女はすでに下着姿になっていた。
今度のトラブルはこっちか? 息つく間もない。
「さ、さあ、礼兄さん、ちゃちゃっと済まそう!!!!」
美子は鼻息荒く、手を震わせながらブラに手を掛けたので、美子が超えてはならない一線に立ち向かおうとしていたので、咄嗟に彼女の手を抑えそれ以上の動きを止めた。
「話がわからん!ちょっと待て。おまえ、さっき演劇で手を打つって言ったじゃん。」
「そんなこと言っていないもん。私が言ったのは『ホノボノとした間抜けの話』っていうソレであって、だから私はリアルでホノボノと間抜けな話を満足させてもらえばいいから。」
「いやいやいやいや、確かに間抜けな話だが、そういうのは如何なものかと思うぞ。」
「大丈夫、だーいじょうぶ。みんなに言わなきゃわかんないから。ちょちょっと先っぽ入れるだけでいいんだから。どうせ言わなきゃバレないし。」
とても妹だとは思えないようなお誘いである。
こういうときにほど『なんでこいつ僕の妹でこんなにかわいいのだろう』と恨めしく思うことはない。外見か性格かそれとも両方が不細工な妹だった方が僕としては心穏やかなのだが、ホンに神様は残酷である。
だが、本当の残酷はこれからであった。
ずるりと彼女を抑えていた手が滑り抜けた。そして何かが地面にハラリと落ちた。
僕は慌てて両手で自分の目を隠した。
「い・い・よ。手を放しても。」
彼女の声が妙に大人びて聞こえた。
ど、ど、どうしよう・・・・手を放すべきは放さないべきか。
散々悩んだ挙げ句、情けない一言を発するのが精一杯だった。
「ちょ、ちょっと冷静になろうよ。ねえ。」
「大丈夫よ。心配性ねぇ・・もうしないだろうから。」
「しないだろう・・・て人ごとみたいでいい加減だなぁ。でもまあ一応信じるぞ。嘘付いたらマジで怒るぞ。」
「ハイハイ・・どうぞどうぞ。」
ずいぶんハッキリと答える。開き直っているのか?
僕はゆっくり覆っている手を外しまぶたを開いた。
すると、見てはいけない光景を僕は見てしまう事になった。
下には美子のブラジャーが落ちており・・・ゆっくりと見上げると、ぶらん・・・とぶら下がるではないか。
・・・美子が。
「はいいぃ?!」
僕は裏返った声をあげ事態を確認すると、美子は僕に背を向け、宙に浮いている状態であり、その作用点を確認するに美子の額を鷲掴みアイアン・クローを決めている母、美和子がそこにいた。
「ねっ、母さん言ったとおり大丈夫でしょ。」
えっ?!さっき僕と会話していたのは母さんだったのか。道理で美子にしては大人びた声だった。
それにしても顔で笑いながらも目が笑っていないところがまた恐怖感をそそる。それにアイアン・クローで美子を持ち上げるとは・・すごい握力である。
「ぎ、ギブ・・ギブ!!」
美子が必死で彼女の手をトントンと叩いて許しを請う。
「ほお・・・おまえ、実の兄に胸をぽろりと見せつけて何するつもりだった?」
「お・・お医者さんごっこ。」
「うそつけ、この近親相姦妄想女が!!」
「ぎゃ・・ぎゃあああああ!」
何かミシミシときしむ音が美子の頭から聞こえた。
「母さん、美子死んじゃう、ストップストップ!!」
その後、美子は眞智子や佐那美が聞いたら大爆笑するほど気の毒な刑に処せられる事となった。




