第16話 そうだ、京都行こう?(恥はかきすて編)
僕と眞智子は隣のクラスの涼子と共に東京駅に到着。
僕と眞智子はクリオらと待ち合わせの関係もあり途中下車するのだが、涼子が土浦で切符を買う時点で「東京駅で駅弁食べたいから、私も一緒に降りる」と言い出して結局彼女も一緒に行動することになった。
――で、東京駅のおかしランド前で当然クリオが鬼の形相で僕らを睨み付ける。
「眞智子の馬鹿がやらかしてくれたと思ったら、この男はまた女引っかけてきたのか……」
完全にブチ切れている。
勝手について来た涼子は「あっ、エセ外人」とクリオを指差すものだから余計クリオが不機嫌になる。
ちなみにクリオは生粋の金髪白人アメリカ人である。
だが、流暢な日本語を話すことが出来るので、変な噂が立てられている。
例えば、日本人が金髪白人に整形しただの、日本人の霊が取り憑いているだの、はたまた彼女にはスピーカーが取り付けられ、どこかの日本人がマイクで喋っているだの……その結果、ついた渾名が『エセ外人』である。
「あ゛ぁん?」
クリオが赤鬼の様に力んだところで、ケタケタ笑う涼子。
「何怒ってるのよ。大丈夫、あんたの彼氏をとらないわよ」
そう言うと彼女は僕を彼女の方へと突き飛ばした。
彼女の力は恐ろしく強く、僕でさえふらつきクリオごと押し倒してしまうくらいだ。
「うわっ!」 「ちょ、レイ……」
僕たちは某卓球選手の様な叫び声(?)と共に床に倒れ込んでしまった。
僕はクリオのエアバッグのおかげで無事だったが、一方でクリオは床にゴチンと後頭部を強打し悶絶している。
その脇で、金切り声をあげ、涼子を羽交い締めにする眞智子。
そして、「大丈夫ですか?」と僕を引き上げ「そんなことよりお弁当、良いのありますよ」と我関せず、頭を抑えて悶えているクリオを放置して、僕を自分の世界に引き込もうとする一美。
無論、一美はクリオに襟首を掴まれ説教を受ける羽目になる。
相変わらず、好き放題の面子である。
とりあえず擦った揉んだで、10分後。
「……要はあんたは彼氏持ちだから、私のレイに――」
クリオがそこまで言いかけた時、眞智子と一美の視線が鋭く光る。慌ててクリオが言い直す。
「……おっと失礼、レイに興味がないと」
「ある訳ないでしょ。ただ、あんたらの京都までの道中、行き方が分からないから一緒に連れて行ってと言いたいだけ」
「ふーん……まあ、いいわ。それで――」
とりあえず
クリオがギロッとした目で眞智子を睨む。
「さて、この馬鹿はどう説明してくれるのかしら」
クリオは眞智子が僕を監禁まがいな事をして同衾したことについて説明を求めた。
すると、眞智子は「はて?」としらばっくれている……っておい!。
そのふてぶてしい態度にクリオが頬をヒクヒクと引きつらせ小さな声で「Goddamn」と苛立ち始めた。
「ちょ、ちょっと待って。眞智子さんはクリオの助けを求めるんじゃなかったの?!」
僕は慌てて眞智子の両肩を掴んで彼女を揺するが、ニヤニヤした状況ですっとぼけている。この子、何を考えているんだ?
案の定、クリオは怒りを通り越して呆れてしまった。
「レイ……私、この馬鹿の援護はしない。美子にぶっ56されればいいわ」
クリオは冷たい目を眞智子に向けた後、「一美、帰るわよ」と一美の襟首を掴み券売機の方へと歩み出す。
一方で、巻き込まれた一美は「えっ、私は京都に行きたいんですけどぉ!」とジタバタしている。
そんな状況でも涼しい顔をしている眞智子……何を企んでいるんだ?
「クリオ、気分を害させて悪い。あとで僕が埋め合わせするから」
「当然、それはレイ1人でお願いね。あとはいらないから」
「いらないと言えば……切符のことなんだけど。君達2人の切符……不要なら払い戻すけど」
「切符?」
「あっ、私は行きます! 行かせて下さい!」
首を傾げるクリオに対して必死に手を挙げて一美は行きたいアピールをしている。
「クリオさん、行きましょうよ! いいじゃないですか、京都に行くくらい。神守さんもそう言ってくれていますし」
一美の必死の説得で、ようやくクリオも少し冷静になったのか、一美の襟首から手を放した。
「……んじゃあ、京都は行こうかしら。でも、クソヤンキーの援護はする気はないけど」
クリオは眞智子を睨み付けてそう言った。
だが、眞智子は涼しい顔をして動じる様子もない。寧ろ。不敵に笑んでいる。
「何、なんか言いたそうね」
イラッとしたクリオは眞智子の元に詰め寄る。
だが、眞智子はとんでもないことを言い放った。
「あぁ、どうあってもおまえは私を援護する羽目になるよ」
「はぁ? あんた私を脅しているつもりなの?」
「いやいや、そういう強要みたいなことはしない――むしろ、あんたが必死に私の弁護をすることになるだけだよ」
「どういう意味?」
「いやぁ、何。あんたの天敵はなんで京都にうちらが行くんだろうなって思うのかなって」
「えっ……そ、それは……」
クリオが考え込む。そして南無三とばかりに頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。
「詰んだ……やられたっ!」
何が詰んだのか、僕には理解出来なかったが、それを眞智子が僕の耳元でボソリと教えてくれた。
「なあに……あいつの天敵はなんで私らが京都に行くんだろうなって考えればわかることよ。しかも自分が合宿参加させられて身動き取れないのに――まぁ、良い様に考えてくれれば、『普通に遊びに行く』って思うでだろうけど」
「なるほど。じゃあみんなで佐那美さん抜きで京都行って遊んでいたってバレると困るから?」
眞智子とそんな話をしている中、急に僕のスマホが鳴り出す。
相手は――その話題の人だった。
『ちょっと、神守君! なんで京都に行っちゃう訳?!』
陽気な彼女に似合わずヒステリックな声が僕の鼓膜に突き刺さる。
それは耳がキーンとする位響くもので、頭がクラクラする。
僕はスマホを耳から離し、スピーカーに切り替えた。
『しかもなんで眞智子を連れて、オマケにクリオと一美まで京都に連れて行っちゃうのかなぁあ! 私はまだ合宿終わらないのにぃ!』
スピーカーにしてもギャンギャンと叫び続ける佐那美。
正に、眞智子が予想していたとおりの展開になっていた。
その声を聞いて、慌ててクリオが僕の元に駆け寄る。
『ちょっとクリオ出してくれないかしら!』
「な、なんでクリオなの?」
『い・い・か・ら出す!』
かなりご立腹な様子である。横で眞智子がニヤニヤしながら「遊びか、イベントか……」と小声で呟くと――
『遊びいいい!? イベントォおおおお!?』
――と佐那美は絶叫した。
東京駅の改札口でその絶叫が響く。僕は慌てて音量を下げた。
それにしても……火に油を注ぐ、眞智子。何て事してくれるんだ。
こうなったら、もう大変だ。
このままでは佐那美は合宿を学校辞めてまで僕らの元に押し掛けてくるだろう。
クリオは泣きそうな表情で眞智子を睨み付けると僕のスマホに向かい必死に弁解を始めた。
だが、どれも佐那美を宥める材料にならない。
そして遂に――
「だから、眞智子の馬鹿がやらかしてくれたから、あの基地外のところにみんなでご機嫌取りに行くんだよぉ!」
――と眞智子の思惑に乗る羽目になった。
佐那美にそう説明すると、クリオ及び佐那美はお互いにグッ……と言葉を飲み込むように絶句した。
その後、佐那美は小声で眞智子に変わるよう要求、クリオから僕のスマホを受け取ると彼女はスピーカーから通常に切り替えて状況を淡々と説明し始めた。
時折、佐那美の金切り声が眞智子の鼓膜に直撃している様で、その度スマホを耳から遠ざけている。
一方、眞智子は電話先の佐那美に向かい
「とりあえず4万円頂くことになるけど――私だって鬼じゃない……」
とか、
「あぁ、だったらいいんだけど――礼君とクリオがいるんだイベントだって……」
等と佐那美を揺すぶっている。
ようやく彼女らの話はまとまり、そのスマホが僕に戻される段階になった。
眞智子は「計画通り……」と呟き、何とかノートの主人公みたいに悪い顔をしながら僕の手にスマホを渡す。
その際、彼女はすぐいつもの表情で「あっ、佐那美が用があるんだって」といいながら、スマホから手を放した。
――確かに、まだ通話中の画面になっている。
「もしもし――」
『かぁああっ……なんであんたは変な女に引っかかっちゃうのかしらあああっ、あたしまで巻き込んでえ』
――いや、全ては君がみんなに意地悪するからだろ……
僕のツッコミを音声に乗せると余計佐那美が大騒ぎするので敢えてそこは心に留めておく。佐那美は僕が沈黙し続けることで、いつもくらいの声の大きさでギャンギャンと責め続けていた。
しばらくは愚痴を聞いているしかないかな……そう思った時に、予想外の人物が、僕に話しかけてきた。
「……えぇっ、今のギャンギャン声って佐那美の馬鹿?! ……あいつ、こんなにギャンギャンと叫ぶ女だったっけ?」
涼子である。
その様子を見ていた眞智子とクリオが顔を青ざめる。
涼子、明らかに予想外のファクターである。
その涼子が通話先の佐那美に聞こえる様にを挑発する。
「まあ、私みたいなアホに負けたくなかったらあと2科目、必死に勉強頑張れや」
『ムッキイイイイイイっ!』
涼子の挑発は佐那美に届き、再びキンキン声が僕の鼓膜を直撃した。
『なんで涼子のアホまで一緒にいるのかなぁっ、わかったわよ! ちゃんと補習受けてくるわよっ』
涼子は意外と巧く佐那美を宥めるのに成功させた。
そして、佐那美は僕にある条件をつけて話を断とした――当然、彼女の要求は決まっている……
佐那美が京都で合流するまでは、まず一つはエロ厳禁。二つは、イベント禁止。最後に自分が到着するまで遊ぶのは御法度だそうだ。
『いーいっ、わかった?』
僕が「わかった」と答えると通話は断となった。
まずは一難が去った。
涼子は「借りは返したわよ」と淡々と僕に告げる。眞智子も佐那美の扱いが巧いが、彼女もそれ以上に巧かった。
ぐったりとする一同。
そんな中、お気楽なことを言ってくるのは一美である。
「ミルフィーユ弁当っておいしそうなものありますよ」
寿司のネタがミルフィーユみたいに層になっているちらし寿司弁当のことだ。
さすがは東京駅の地下街。正式に言うと駅の直通のデパートの弁当売り場である。
本来ならば、眞智子に奢らせるべきところなのだろうが、僕がみんなの分――もちろん涼子も含めて奢ることになった。
――さて、舞台は新幹線車内に移る。
席は3列と2列を抑えたので横一列を借りた状況だ。
席順は――2列窓側に涼子、同通路側に眞智子。
3列窓側に一美、通路側にクリオ。その間に僕である。
眞智子は不機嫌そうにこちら側を睨んでいるが、それをクリオが挑発するように僕に抱きついておどけている。
「あっ、いいなぁ……クリオさん私にも神守さん貸して下さいよ」
「ダメよ。あなたは売り子さんだから」
クリオは敢えて売り出し中のアイドルと言わず、売り子とうちの事務所の隠語を使った。
一美は頬をプクッと膨らませながら、「クリオさんだって売り子さんじゃないですか」と文句を言うが、クリオは知らん顔して「あれはいいのよ。すでにそういう噂になっているから」と悪びれる様子もなくしっかり僕を自分の胸に押し当て頭を撫でている。
「くっそっ……面白くない」
その様子を恨めしそうに眞智子が睨んでいる。
窓側にいる涼子に「おまえ、あの子に散々迷惑掛けたんだろ――今は諦めろよ」と宥められる始末。
さて、新幹線が東京駅を出発したところであと2時間10分くらいで京都へ到着する訳だが、今回は眞智子が色々やらかしたこともあり、その間ずっとこちら側を恨めしそうに睨んでいた。
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