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神守君とゆかいなヤンデレ娘達  作者: 田布施 月雄
第3章 進学の美子
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第15話 そうだ、京都行こう!(旅は道連れ編)

 眞智子と共に最寄りの駅に向かう途中、僕の家に立ち寄った。

 京都に行くのだからそれなりの準備が必要だ。

 まずは旅行費の確保、そして美子が忘れていったスマホを用意しなければならない。


 うちでの一番の問題は、母さんだった。


 美子に兄離れさせるため、眞智子を僕の嫁さん候補に担ぎ上げ、同衾までさせるくらいだ……流石はあの子の母親、あの美子をマジ泣きさせるポイントを抑えている。


 ――無論、母さんもまともな人ではない。


 だが、眞智子が躊躇して一線を越えなかったおかげで、母さんの思惑どおりとは行かず、美子の発狂をなんとか抑え込むことが出来そうだ。

 まずは美子が発狂する前に、彼女がいる京都に行って巧く宥める必要がある。


 当然、母さんは京都行きを反対だろう。

 だが、僕は今回ばかりは美子側に着く。


 とりあえず、こっそりと家の中に入る……幸いに、玄関に母の靴はなかった。

 家の中を確認するも、居間のテーブルに一枚のメモ紙が置かれている。メモには断片的にこう記されていた。


 『牛久』、『今すぐ来い』、『聞きたい事がある』


 これは僕宛てのメッセージではなく、電話の内容を記したものの様だ。

 うちの母さんに『今すぐ来い』と命じることが出来る人物は――牛久の婆ちゃんくらいだろう。


 ……なるほど、母さんは婆ちゃんに呼び出されたか。


 美子には天敵である美和子母さんがいるように、母さんにも天敵がいる……それは牛久の婆ちゃんである。

 彼女は父さんの母親であり、美和子母さんの姑でもある。

 牛久の婆ちゃんの話はまた今度話すとして――


 そうすると、母さんは今、家にいない。

 眞智子を居間に待たせると、僕は階段を駆け上がり美子の部屋へ。

 彼女のベッドの上に置かれていたスマホと近くにあった充電器を回収した。

 次に自分の部屋に戻り、宿泊用のボストンバックを用意して余所行きの服装に着替える。用件を終えたところで、眞智子を連れて家を後にした。

 市内の循環バスに乗車して駅に向かう途中、眞智子が自分の財布の中を確認しながら大きなため息を漏らした。


 「京都までいくら掛かるかなぁ……」


 京都までの往復料金と宿代となると、それなりの金額になる。

 眞智子が不安そうな表情で僕に尋ねてきた。


 だが、僕は彼女にお金を負担させるつもりはない。だから、その為にあのカードを持参したのだ。


 あのカードは僕のアメリカの口座に紐付けされたものであり、佐那美が婚姻届を握り締め僕の家を突した原因となる『映画のギャラ』がその口座に預けられている。


 ……まさか佐那美もそのギャラがこんなことに使われるとは思わないだろう。


 眞智子にそのカードを見せると、「それって――あとで佐那美に発狂されて怖いんですけど……」と苦笑いしていた。

 

 「僕だって怖いよ。あの子、執念深いし」


 本当は佐那美はとっても明るくて楽しい子なんだけど……あの子も僕が関わると輪を掛けておバカになるから困る。


 「――僕がいなければ、普通の子なんだろうけどね」


 僕は常日頃から思っていたことをぽろっと口にしてしまった。

 だが、眞智子は慌てる様に僕の呟きを否定した。


 「礼君、それは違う、違うよ!」


 彼女はいつになく真剣な表情で僕を見る。


 「礼君はヤンデレ娘のことなんかで責任なんか感じなくていいんだよ。勝手にやらかしているだけだから」


 「そう……なのかなぁ」


 「そうだよ。確かに礼君と絡んでいなければ、私もみんなとは関わりなかったと思うけど……」


 眞智子は少し考えているのか、しばらく沈黙する。そして、数秒後に――


 「今はなんだかんだで、馬鹿やっていて楽しいし。あのヤンデレ共もきっとそう思っているよ。だから気にしないで礼君も楽しんで」


――とニッコリ微笑んだ。

 まぁ、比較的常識がある彼女がそう言ってくれるのであれば、僕1人でみんなのことで責任を感じる必要はないのかもしれない。


 「――そう? ならそう考える様にするよ」


 でも、良いこと言った後で彼女はボソリとこう付け加えた。


 「あっ、でも……私に対して責任感じるのであれば、いつでも礼君の結婚相手として応じる覚悟は出来ているから!」


 「それって……」


 「だから、あいつらは責任感じなくても良いけど、私は結婚に応じます」


 前言撤回。オチはそこかい!

 眞智子とそんな馬鹿話をしているうちにバスは駅に到着した。

 急いで駅の券売機へと向かう。


 そこで切符を買う訳なのだが……


 「えっ、礼君……ちょ、それ金額おかしくない?」


 券売機で切符を買っていると横で見ていた眞智子が、慌てて券売機のタッチパネルの上部に手の甲でガードする。

 確かに2人で京都に行く金額にしてはちょっと多すぎる。

 それには理由がある。


 「東京駅のデパートでクリオと織田さんと合流する。だから東京駅までの僕らの片道切符分、それと合流した4人分の東京駅から京都までの特急指定席付の切符が必要なんだ」


 「クリオと織田さんの分も出すの? だから片道なのに6万円弱もするのか……でも、人間ドック代でも大騒ぎしそうなあの馬鹿が、このこと知ったら絶対に泣き喚くだろうなぁ……」


 眞智子がまた厭なことを言う。

 あの守銭奴佐那美だったら激怒を通り越して、ムンクの叫び同様、悲鳴を挙げている情景が脳裏に過ぎった。

 ……さて、今度は如何にして佐那美のご機嫌をとるべきか、が問題である。


 「ええっと……確か、帰りの分はそれに含まれていないわよね。私、やっぱり自分の分くらいお金出すわよ」


 急に眞智子は自分の交通費は出すと言い出した。

 しかも引きつった表情で「あの馬鹿、絶対に騒ぐだろうから……」と呟いているところからすると、明らかに佐那美に対する予防線を引いている――当然、逃がさない!


 「別にいいよ。そんなことよりも是非、佐那美さん対策を一緒に考えて欲しいんだけど……絶対に、発狂するだろうから」


 僕のお願いに対して眞智子は頭を抱え顔を顰めている。


 「え~っ、ヤダよぉ……あの馬鹿、『何であたしだけ除け者にしたんだぁ!』って絶対に怒るもん。しかも私を目の敵にしてに向かってくるし……そこで私が佐那美のことをぶっ飛ば――じゃなくて止めに入ったら、それこそ私が悪者になっちゃうじゃん」


 「いやいや、そこはぶっ飛ばさなくていいから。何とか頼むよぉ」


 僕は真剣に眞智子の目を見ながら話すが、彼女は引きつった笑みを浮かべながら「やっぱり私に求められている責任は美子に対するものだけだから――礼君に悪いから自分の分くらいのお金は出すから」とやんわりと断る。

 では、佐那美の件はちょっと置くとしよう……

 今優先すべきことは美子対策である。それにはクリオと織田さんが不可欠である。

 

 「しかたがない。当初の予定通りうちの美子対策を進めよう。そうなると、助っ人を連れ出すには地端プロダクションのイベントを京都で行うって力業を使うしかない……」


 僕はあまり使いたくない案を提案した。


 「うわっ……佐那美ナシでイベントするの? あの子、マジ泣きするよ! ……っていうか、あの馬鹿はアレでもイベントだけは真面目にやるから、もし自分が除け者にされたと知ったら、発狂通り越して憤死しちゃうかも」


 ――うん、確かにそうだろうなぁ。彼女の性格をよく知っている天敵眞智子があからさまにドン引きしている……


 確かにその案だと、佐那美に追い打ちを掛けることになる。それでは本末転倒、これはさすがに無理だな。


 「じゃあ、どうやって佐那美さんを宥めつつクリオと織田さんを京都に連れて行く口実を作る?」


 「クリオか……確かにハンバーグの件といい、佐那美の馬鹿に振り回されているからね――それじゃあ……」


 眞智子がここぞとばかりに救済案を提示した。


 「だったら、私が美子に詫びを入れるのにクリオが付き添ってくれるって形にする――て形にするのはどうかな?」


 確かにその方がイベントするより無難である。少なくとも佐那美の怒りはだいぶ抑えられる。

 だが、困ったことにクリオはそうするつもりはないだろう。

 

 「う~ん、クリオは、どちらかというと京都で遊ぶ気満々なんだけどねぇ」


 「大丈夫、何とかなるわよ」


 ――何か、眞智子が企んでいる様である。ちょっと厭な予感がする。

 ……そして、その予感が確信へと変わる。


 「じゃあ、まずは佐那美宛てに『今日中に追試終わったら、皆で京都で遊ぼう。とりあえず先に待っているから』ってSNSで連絡して」


 眞智子は、言った傍から佐那美を挑発する選択をするのである――って宥めるのではなかったの?!


 「えっ、それって逆効果じゃない?」


 「凄く怒るとは思うけど、多分必死に勉強すると思うから」


 『思う』くらいかい! 嫌な結末が見えてくるのは何故だろう。

 

 「必死にやって追試失敗したら?」


 「その時は自分の頭を呪うしかないわね――そこが落としどころなんだけどね」

 

 眞智子はそこで佐那美対策を打ち切った。

 本当に眞智子は佐那美に対しては容赦ない。

 とりあえず、頭の良い眞智子が言うんだ、何かの考えがあるハズだ。

 ……今の僕に出来る事は佐那美へのSNS連絡と切符を購入することだけだ。佐那美の件は眞智子に任せるとしよう。

  切符を買い、佐那美に連絡した後に眞智子と共に改札に向かう――のだが……



 「あれ……おかしいわね。これ、ちょっとどうなっているの?」



 隣の券売機で券売機にゴンゴンと拳を叩いている女の子がいた。

 彼女は美子よりも小柄で、セミロングの茶髪。目つきは悪く三白眼。

 けしてデブではないのだが、体付きはいい。

 彼女は僕らと同じ高校で隣のクラスの子である。


 「げっ、涼子すずこ!」


 眞智子があからさまに嫌そうな表情で彼女を指差すと、その彼女も引きつった表情で眞智子を睨んだ。


 「なんだぁ。ヤンキー眞智子か……まだパクられてなかったのかよ。久々に嫌なモノ見ちゃったわ。それに黒髪に戻したところで警察の目はごまかせないぞ」


 どうやら彼女は、昔の眞智子を知っている様だ。


 「私は元から真面目なんですぅ。そんなことよりもあんた、補習が嫌で逃げ出したんでしょ?」


 ――そう、彼女は佐那美と一緒に合宿する羽目になったもう一人の女子である。

 

 「はぁ? 速攻で終わらせたわよ。あの馬鹿とは一緒にしないで」


 おいおい、何を言うか。君はその馬鹿と蔑む佐那美の赤点仲間ではないのか?


 どうやら僕は自分勝手のようで、自分らでは佐那美の事を平然と『馬鹿』と言っているクセに、どうも他人からそう言われるのは腹が立つ……そこで僕はわざとらしく眞智子に尋ねることにした。


 「佐那美さんと一緒に合宿していた子?」


 眞智子もわざとらしく「そうそう! 追試の女その2よ」と彼女を指差し笑う。

 僕らの会話に、涼子が顔を真っ赤にして僕らを睨む。


 「うっさいなぁ……どうせ私も佐那美と同じおバカさんだよ」


 どうやらそこはしっかりと自覚はしている様だ。

 これってつまり、佐那美の頭のことを馬鹿にしているというより、一個人的に佐那美と相性が悪いだけということか。

 それなら、他のヤンデレ娘達との関係と差ほど変わらない。

 敵視しなくてもいいだろう。

 ――と、こんな感じで相手の様子を覗っていると、当然相手も同じように様子を覗っている訳で、彼女も僕のことをあまり知らない様で、僕のことを訝しそうに見ている。

 

 「ところでこの人誰? ……あぁ、この人があんたの今彼か」


 はいぃ?

 今、この子、何と言った?

 俺が眞智子の今彼?! すると、元彼もいるのか?

 ちょっと――いや、だいぶ衝撃を覚えた。

 僕は驚き、眞智子に目を向けたところ、眞智子は顔を真っ赤にして涼子の胸ぐらを掴み睨み付けた。


 「あのっ、私には元彼なんていねないからっ!」


 「よくいうわよ。でも手放してくれてありがとうね……あたしが美味しく頂きましたから!」


 「はぁ? 手放したって誰のことを言ってるの?」


 「何、しらばくれているんだよ。音也だよ音也のことだよ」


 「音也? 音也ってうちの従弟の音也のことなの?」


 音也? ――知らない名前である。

 僕が眞智子に尋ねようとすると顔を眞智子に向けるや否や、眞智子は乱暴に涼子を突き飛ばすと、今度は僕の両肩を両手でガッシリ掴み、今にも泣き出しそうな表情で「マジの従弟だから、しかも中学生のっ! それに、そういう関係じゃないから!」と必死に否定した。


 「い、いや……若干驚いただけだよ」


 「いやマジで!」


 必死に僕の体を前後を揺する半泣き眞智子、ちょっと怖い。

 それを涼子が見てニタニタと笑っている。


 「いやぁ、ゴメンゴメン。その様子じゃ、あたしが2番目の女てことはなさそうね。安心したわぁ~」


  涼子は満足そうに眞智子の肩をバンバン叩いた。

 ――ってそう言えば彼女、さりげなく凄いこと行ってなかった?!


 「あ、あんた……音也食っちゃったって言ったわよね……? ど、どういうこと?」


 「言って字の如くよ。でも食い殺した訳じゃないわよ」


 当たり前だ。

 眞智子がしばらく沈黙した後、思いっきり嫌そうな表情で彼女をにらみ返した。


 「うわっ……音也、とんでもない女に捕まったわねぇ」


 僕は涼子に「あなたは眞智子さんの従弟の彼女さん?」と尋ねると、彼女は勝ち誇った様子で答える。


 「まぁ、そんなところね。私はそこのヘタレヤンキーとは違って、彼を満足させてあげているから」


 その言い方、明らかに眞智子を挑発している。

 その挑発された眞智子は表情を変えず、彼女の挑発に乗らないで、逆に彼女を煽てる様に尋ねた。


 「まさか、あんたに男女交際で先を越されるなんて……で、音也とどうやって男女の関係になったのかしら、参考まで教えてくれる?」


 眞智子はたまにぶっ飛んだ事を聞く。

 彼女も彼女でぶっ飛んでいるのか、眞智子の言葉に眩惑されてしまい「一緒にお風呂で洗いっこしていたら――ってなんであんたに初体験の話をしなきゃらないのよ!」と駅という公共の場所で猥談を晒す羽目になった。

 周りの視線に羞恥心を覚えた涼子、ざまーみろとばかりに北叟笑む眞智子。

 

 「……さぁさぁ礼君、中学生を毒牙にかける色情狂なんて構ってないで、うちらは京都行きましょ」


 眞智子は涼子を他人の振りして僕の手を引き、改札へと向かおうとする。

 恥を掻かされた涼子は


 「ちょっと待ちなさいよ!」


と顔を真っ赤にしながら僕のもう片方の手をグイッと引っ張った。

 この僕がふらつくぐらいかなり強い引きである。

 眞智子は涼子が僕の手に触れたことでカチンと来たのかギロッと涼子を睨むが、どうも涼子は眞智子と喧嘩する為に僕の腕を引っ張って引き留めた……訳でもなさそうだ。


 「あの……あんた、切符の買い方教えてくれない?」


 「いいですけど……どこに行くんですか?」


 「京都に行きたいんだけど」


 彼女の意外な行き先に、僕と眞智子は顔を見合わしてしまった。

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