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神守君とゆかいなヤンデレ娘達  作者: 田布施 月雄
第3章 進学の美子
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第10話 もしかして、クビですか?


 「それって、誰かクビになるってことかしら?」


 皆、その発言があった方に視線を向ける……佐那美――ではなく、美子だった。


 「ばっ、馬鹿、察しろ! おまえは佐那美じゃないんだから!」


 ――と言ったのは僕ではない。眞智子である。

 彼女ら僕の先ほどの話から『誰かがクビになる』と勘ぐっている様だ。

 ただ、眞智子は場の空気を察してあえて黙っていた感じである。


 「はぁ? いいじゃん。どうせいつかはやめるんだもの。お兄ちゃんがクビになっても、クリオがクビになっても」


 ここで美子が佐那美同様、思った事を口にした所為で、眞智子が怖れていた事が起こる。



 「…………えっ、クビ? …………私……が。うそ……よね……ねえ、レイ……」



 クリオであった。

 美子の考え無しの発言で、クリオが絶句しながら尋ねてくる。


 「……たくっ、また面倒な子が動揺しちゃったじゃない……」


 眞智子が頭を抱えた。

 クリオはここではまともな部類であるが――彼女はヤンデレ娘のメンヘラちゃんである。

 ……というか美子と佐那美が悪目立ちしているので目立たない方であるが、一般的にこの子もかなりイッチャっている。

 今ではほとんどやらかさないが、日本に来る前はメールは一日100件は当たり前、「4んでやるぅ」発言は一日2回以上はあった。

 こっちに来てからは、他の連中のバカッぷりに、客観的に自分の行動を理解できるようになって大人しくなっていたが、心の弱さは健在である。

 ――さらに、ここで追い打ちをかける馬鹿がいた。



 「ふぁっきゅうーがクビかぁ……じゃあ仕方が無いわね。今までお疲れ様」



 佐那美である。

 そして、心ない言葉を投げかける。


 「あとはあたしが神守君となんとかするから、安心してお国に帰りなさいな」


 ――それで、なんでここで僕の名前を挙げるのかなぁ。

 この子、天然でからかっているのか? それとも『もっと頑張れ』と檄を飛ばしているの? ひょっとしてクリオを弄っている振りをして実は僕をからかっているの?

 色々と勘ぐってしまう。

 いずれにしても、メンタルが弱いクリオの心がポッキリ折れてしまったハズ。

 厭な予感がするので、クリオの様子を見る。

 クリオはテーブルに置かれたカトラリーボックスからステーキナイフを取り出し、それを右手で握り、手を震わせながら左手首裏側に押し当てている……

 


 ――いや、そんな物でリストカット出来ないから!



 ……とツッコみそうになるが、これは彼女なりの『かまってちゃんアピール』であり、この先発言を間違えると、どっかから刃物を持ちだし、本当にリストカットやりかねない。


 「クリオ、安心しろ。社長は『クリオはドル箱スター』って褒めていたから、君のクビはないから!」


 クリオの体から震えがピタリと止まり、彼女はそのステーキナイフをテーブルの脇にそろりと置いた。

 よかった。これでひとまず安心だ。

 すると、眞智子から――


 「自分を傷つけるのはやめな――あれってすっごく痛いらしいぞ」


 クリオがピクンと反応する。

 さらに眞智子が話を続ける。


 「それで血がドバァって吹き出るのよ、ドバァって……当然、血がドンドン抜けていくから意識が混濁していき、体温も下がっていくの――私と礼君がが懸命の処置を施すけど、クリオは手首の激痛と薄れていく意識の中、召されてしまうの…………そして――」


 うわぁ、グロい諭し方だな……

 クリオが既に血の気が引いて今にも気を失いそうだ。

 さらに眞智子がトドメを刺す。


 「――まぁ、それが私と礼君の初の共同作業ってなるみたいだから、おまえの死はけして無駄にはしないから」


 「……」


 沈黙続けるクリオ――っていつの間に話がすげ替えられているぞ。

 

 「う……」


 クリオがようやく一言発した。『う』って何を話そうとしているのか――そう思った時クリオが


 「うがあああああ」


と奇声を挙げ、何故か僕に襲い掛かり、彼女に羽交い締めにされた。


 「ちょ、ちょっとクリオさん……僕何もしていないしていない!」


 「頭きた! レイをアメリカに持ち帰って――」


 クリオが騒ぎ出したところ、


 「うるさい、囀るなメンヘラ女」


と彼女に向かっている女の子がいた。

 彼女はうちの美子である。

 立ち上がった美子が「ふんっ!」と荒い鼻息をあげながらクリオに頭突きを喰らわせ、彼女を撃沈させた。


 「人の男勝手に持ち帰るな――56すぞ」


 美子の目が死んだ魚のような目をしている――これはマジギレしている。

 頭突きを喰らったクリオは、元いた席で仰向けにひっくり返り、元気に目玉をグルグル回している……大……丈夫そうだな。

 ――ていうか!


 「美子さん、クリオは何もしていない。変な慰め方したのは眞智子さん、そして元を正せば佐那美さんが変な煽り方したから!」


 僕がそう彼女をフォローしたところ、美子は何故か僕の腕を引っ張り――通路に引き倒された。

 まさか、ここで何されるの? 庇ったから美子が怒ったのか?

 ――そう思ったら、美子は僕に見向きをせず、そのまま僕がいた席の方に進み、「おるらああああ!」という気合いとともに佐那美にクリオ以上の頭突きを喰らわせた。

 先ほどクリオにかました『ゴン……』という鈍い音よりさらに大きい『ガゴン!』という音が店内に響く。そして崩れたのは――



 頭突きを喰らわせた美子の方であった。



 「……痛いわね。なにするのよ。この基地外」


 佐那美はケロッとした表情で自分の頭をさすっている。

 一方で美子はクリオ以上に元気に目玉を回していた。


 ――えっ、あれだけ母さんにどつかれても平気な美子がぁ?!


 異様な空気を醸し出すヤンデレ娘達のテーブル。

 なんだか、帰りたくなってきた。

 そう思っていたら、僕の肩をトントンと叩く人物がいた。



――それから10分後。



 僕らはお土産を持たされ、佐那美宅へ向かうことになった。

 本来、お土産は注文していなかったものであるが、そこには僕らが注文したハズのオムライスとフライドポテトがそこに詰められ、店長さん自らがそれを持って僕らのテーブルに来たのだ。

 その時の店長は、表面上ニコニコしているものの、明らかに目が笑っていなかった……

 

 「追い出されちゃったじゃないの!」


 眞智子が真っ赤になって怒っている。そして眞智子の背中には追い出された元凶の1人、うちの美子が負ぶっていた。


 「あれだけ騒げば当然よね」


 そう言っているのは、元凶の親玉である『あの子』である。彼女は袋に入った3人分の持ち帰り弁当を持たされていた。

 ――なお、本当は罰として全員分を持たせるハズだったのだが、眞智子が「佐那美の馬鹿に全部持たせるとひっくり返されそうだから……」と難色を示し、残り半分を一美が持つことになった。

 

 「あぁ、あそこもう出禁(出入り禁止)かな~。それに思い出すだけで恥ずかしい……」


 一美はそう呟きながら、彼女も顔を真っ赤にしていた。


 「まぁ、あとでお店には地端の親父さんとうちの母さんに頭下げてもらうか。この場合はそれぞれの製造責任者が謝った方がいいかも」


 僕は今回の一番の被害者を負ぶって彼女らの前を歩く。

 歩く順番なんて本来ならばどうでもいいのだが、今回に限り僕は黙って彼女らの前を歩いた。その理由は僕の表情を彼女らに見せないための作戦である。

 実はこの時、僕の背中にクリオの胸がいい感じで密着しているからである。

 コレばっかりは男性が有する本能であるから、必死に抑えたとしても、照れくささはなかなか誤魔化しきれない。

 照れているくらいならまだいい。

 ここで僅かにでもスケベったらしい表情をしようものなら、僕は眞智子にガチ切れされ、責められる謂われのないクリオが、佐那美にネチネチと嫌がらせを受けかねない。

 だから、僕は無表情を装い彼女の柔らかさを脳内に焼き付けることにした。


 こんな感じで、それぞれの思いが沈黙を生み出す。

 今は黙ってくれると助かる。ついでにこのままクビ騒動も忘れてくれるとありがたい。

 

 ――そんなことを考えると、いつものトラブルメーカーが口を開く。


 「次どこで()()? うちでやるなら道場がいいと思うけど、もしソレが嫌だったら、眞智子の所の病室借り切る?」


 こんなおバカ発言をするのはあの子しかいまい……


 「良いわよ。丁度特別室が空いていわよ。あそこなら防音がしっかりできているのであんたみたいなおバカがトラブル起こしても大丈夫だから。でも、あそこタダという訳にはいかないわ――そうね、友達のよしみで今なら2倍増し料金で貸してあげるわ。当然、()()()()は佐那美のポケットマネーでね」


 眞智子は悪意ある笑みを浮かべて、いつもの様に佐那美をからかった。

 佐那美は「ケチ!」と頬を膨らませる。


 ――っていうか、結局さっきのお弁当代は僕が全額支払ったんですけど。


 何が、「あれぇ……あたしもお金出すんだっけ? さっき美子に頭突きを喰らったせいで忘れちゃったぁ」だよっ!

 最初からお金出すつもりなかったんだろっ!

 

 「悪いわねぇ、全額出してもらって」


 佐那美はご満悦の表情で僕を見る。

 散々大騒ぎして、結局尻拭いさせられるのは僕なのかよ。

 さすがの僕でもイラッときた。

 だから彼女に対してちょこっと意地悪をすることにした。



 「いえ、ご餞別――ん、じゃなかった、ほんの僕の気持ちですから」



 今の流れで、そこまで言えばどんな鈍い奴でも反応するはずである。

 さて、佐那美の奴どんな表情するのかな。

 佐那美は餞別という言葉の意味を理解していないのか、首を横に傾げている。

 眞智子は、グッジョブとばかりに素敵な笑みを浮かべている。

 その言葉に反応したのは、意図していないあの子だった。


 

 「えっ、もしかして、さっき話していたクビって私――ですか?」



 一美である。

 今にも泣きそうな表情で僕のことをジッと見ている。

 眞智子は「そういう線も否定出来ないか……」と意味深な言葉を呟き、佐那美に関しては――


 「あんた以外誰がいるって言うの? 神守君は私の右腕だし、ふぁっきゅうーはアレでもそれなりに人気あるから。あんたは人気も無いし、お金を稼がない。辛うじて評価できる踊りだけじゃないの。あんたみたいなストーキングアイドルは解雇よ解雇」


――とつれない一言

 これは言い過ぎ。慌ててフォローする。


 「僕は社長から一美さんをクビにするって話、一言も聞いていないんだけど」


 「えっ、だって、佐那美さんが……」


 佐那美は知らん顔をして「はて?」と誤魔化している。


 「もうやだあぁ、この子」


 一美は半べそを掻いて悲鳴を挙げる。

 そして、負ぶっていたクリオが朦朧としながらも「また、佐那美が何かしたのぉ……」と迷惑そうに目を覚ました。

 どうやら、僕がハッキリ言わないことで、皆、疑心暗鬼に陥ってしまっているようだ。

 ここは僕がある程度説明する必要があるかな。 

 僕は立ち止まり後ろを振り返る。

 


 「みんな、聞いてくれ。とりあえず、僕が言える情報をみんなに話しておく。間もなく人事異動の内示ある。そこでは所属アイドルや所属俳優の解雇はない」


 

 「へっ、あたし、何も知らないんだけど……」


 開口一番、佐那美が驚いている。さらに佐那美が僕に食い付いてきた。


 「あ、あたし、取締役広報人事部長なんだけど、そんな話聞いていないわ」


 「――ごめんよ、この発令は社長権限で執行される……だから――」


 僕は敢えてそこで話を止めた。

 いくら彼女でもそこまで言えばわかるだろう。



 「えっ、何ソレ――私の管理下にある権限が、私を介さずに行使されるというの……それって――もしかして」



 ――そう、今回の人事異動対象者は、取締役広報人事部長であるということだ。


 「あ、あたしが――このあたしが解雇なの? 社長の娘なのにぃ?」


 佐那美は僕が今まで見たことのない悲しい表情で尋ねてきた。そして手にした弁当が入った袋を一美に押しつけると、僕の胸ぐらを掴んで前後に揺すった。


 「今の僕は俳優だ。あとは社長からの発表を待ってくれ」


 「どういうこと!」


 「僕が今、言えるのはここまでということ。社長から『他言無用』と指示されている。さらに付け加えるなら、変な憶測で所属俳優やアイドルを疑心暗鬼にさせるないで欲しい」


 「えっ――嘘でしょ」


 佐那美がその場に崩れしゃがみ込んだ丁度その時、僕とクリオ、一美そして佐那美のスマホの着信音が一斉に鳴る。確認すると会社からの事務連絡メールであった。

 内容にはこう記されている。


 第一次人事異動内示

    (部署の分離)

     広報人事部を新たに広報部及び人事部に分割する

 

    (役職の廃止) 

     常務取締役広報人事部長 地端佐那美  広報人事部長の任を解く


    (採用)

     神守礼を取締役執行役員として採用する

     クリオ=ルーカス=バトラックスを採用する


    (異動)

     常務取締役人事部長 神守礼

     広報部長      クリオ=ルーカス=バトラックス

      なお、広報部長にあっては当面、外国語通訳を兼務とする     


…………


 「あ、あたし……クビになっちゃった……」


 佐那美はその場に這いつくばり、僕を見ながら呆然としている。


 ――まぁ、解任という言葉がトゲになるよね。それにしても、佐那子ママさん……何でもう少し柔らかい文章にしなかったの?


 クリオが僕の背中から降りると、目を丸くしながら「えっ、なんで?」と驚いている。


 「まぁ、内示があったので話しても問題ないか……実は社長は広報と人事を分けたかったんだよ。それに、うちって通訳さんいなかったから、うちらが勝手に通訳していたけど、だから広報も兼ねて君が採用されたんだよ」


 「それにしても私、話何も聞いていないんだけど」


 クリオは喜んでいる――というより困惑している様だ。

 実際、僕も常務取締役という役職まで与えられるとは思ってもみなかった。

 一方で、更迭された佐那美は、ポロポロと涙をこぼしてジッと僕を見ている。

 ――今の彼女を見るのは結構、辛いです。


 「あ、あたし――神守君と結婚するから、家庭に入れってことなのかな」


 ――今時、そんな男尊女卑的な理由で解任されません。


 「い、いや……それに結婚は――全然未定です」


 「あたし、まだ妊娠していないんだよ」


 「それは懐妊――」


 「じゃあ、忍者の……」

 

 「それはニンニン」


 「それじゃあ、学校の先生は……」


 佐那美の奴、相当混乱していると見え、訳の分からない話をし始めた。

 眞智子がすぐにフォローに入る。


 「うるせーよ、おまえ。それは担任だろ。第一――」


 眞智子はそこまで言うと言葉を止めた。さすがにこの先を言うのを躊躇ったのだろう。

 だが、空気が読めない子がもう一人いることを僕は忘れていた。



 「おまえ、パワハラしすぎたんだよ。おまえは露骨すぎるからな」



 美子である。美子は、眞智子の肩を叩き「なんであんたに負んぶされなきゃいけないんだよ――まあ、一応ありがとう」とぼやきながら降りる。


「どぉれ、あんたがクビになった内示でもみせてもらおうかしら」


 美子はニヤニヤしながら僕に掌を向けたので、僕のスマホを彼女に渡した。


 「うん。何も言わなくても素直にスマホを出してくれるとは、やましい心がないって素敵ですなぁ、感心感心――で、佐那美の馬鹿は」


 彼女は僕のスマホを「ふむふむ」と呟きながら内容を確認し始める。


 「あら、あらあら。あらあらあら……」


 美子は嘲笑うごとく、佐那美をチラチラ見て煽る――が、佐那美は完全にショックで放心状態。つまらないと判断したのか真顔でその人事内容の意図を読み始めた。


 「ねぇ、佐那美。あんたの元の役職って取締役の広報人事部長だったよね」


 「そう……だった……」


 「じゃあ、解任されたのは広報人事部長だけってことでいいよね」


 「……つまり、クビじゃん」



 「はぁ、やっぱりおまえは馬鹿だな。よく読みなさいよ。解任になったのは広報人事部長だけ。その取締役は何も記されていないでしょ!」



 「へっ?」


 やっぱり佐那美はそこを理解していない様である。

 佐那美は狐に抓まれた様な表情で首を傾げる


 「だからぁっ! 頭に付いていた役職である『常務取締役』はどこにも外れた旨の記述はないの! それに、クビって『懲戒』、『諭旨』のどちらかなの。会社から事前に連絡なかったんでしょ? だからあんたは残念ながらクビではないってことよ。会社役員だったらそれぐらい勉強しておけっ!」 


 そう言ってスマホを僕に戻した。

 だが――


 「あっ、お兄ちゃん。スマホには問題ないんだけど――なんでお兄ちゃんの体から女の……あっ、この臭いはクリオのだね。なんで彼女の体臭がお兄ちゃんの背中にこびりついているのかなぁ、ちょっと色々聞きたいから。あとで私の部屋に行こうか」


――と何故か僕まで巻き込まれることになりました。

次回更新は不定です。

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