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神守君とゆかいなヤンデレ娘達  作者: 田布施 月雄
第3章 進学の美子
38/63

第8話 ヤンデレ娘達の暴走、そして被害は甚大に

 土曜日のお昼過ぎ。

 一美を招いて、市内のちょっと高そうなファミレスで映画の打ち上げ会を改めて行う事となった。

 もちろん、正式な打ち上げパーティは都内の一流ホテルで済ませているが、そこは一部の関係者――うちらで言うと僕とクリオ、そして佐那美だけ。

 それ以外のうちの美子や眞智子はもちろんのこと、一美ですら招待されていない。

 

 本来、美子や眞智子は実質協力者であるし、一美に関しては映画に出演していたから招待されるべきところであるが、佐那美の「あのヤンキーと基地外、それにモブはいいや」との一声で招待しなかったのである。

 彼女らの扱いが酷いので、改めて彼女らを労うことになった。


 今回予約したファミレス前で美子と僕が到着すると、

 

 「わぁ、神守さんお久しぶりですぅ」


といって、僕の両手を握ってきた同世代のメガネっ娘がいた。一美である。

 一見すると、オタク女子風の目立たない服装であるが、その服から微かに漂う香水が明らかに高級ブランド物であったことから、普通の高校生ではないことがわかった。

 ただ、僕の横にいるのはヤンデレ妹だ。


 「わ……、一美さんだぁ……私が代わりに握手するね……」


 美子は死んだ魚の目で棒読みで話しかけると、彼女の両手を僕の手から引き剥がし、彼女の手を拘束するかのようにがっちりと掴んだ。


 「えっ、何この子怖いんですけど……もしかして私のファン?!」


 一美はちょっと引き気味に僕に確認する。

 その死んだ目の女が君のファンである訳がない、そいつは君の敵だ。


 「やあ、一美さん。安心して下さい、彼女はあなたのファンではありません。知っていると思いますが、彼女は妹の美子です。僕のボディーガードも兼ねています」


 さりげなく、一美に警告しておく。

 うちの美子は――マジでヤバい。だからこそ、彼女を僕の目の届く場所に置くため、ボディガード役として帯同させている。


 「いやぁ……握手会のスタッフよりも手を引っぺがすの上手よね。私まだ1秒しか握手していないのに」


 一美は和やかに、且つさりげなく嫌みを言った。

 当然、美子もまだ大人の対応は保てている様で――


 「ハイ、兄の握手券はお持ちですか? ――ないですよね」


――と冗談交じりに引きつった笑みで彼女の手をゆっくりと放した。

 美子の背後から何やら良くない何か――例えば瘴気みたいなのが滲み出てきている様な気がする……


 「で、では中に入りましょうか」


 僕が店の扉を開き中に入るよう促すと、一美は「どーも♪」と愛想良く店内に入っていく。そこはどこにでもあるファミリーレストランだ。

 だが、ここの客層は品の良いご年配で、育児世代は少なく、落ち着いた感じの場所である。

 多少、年配者特有の世間話等は耳に入るが、暇つぶしにドリンクバーで粘る学生らや、はしゃぐ子供を放っておいて雑談に勤しむ奥様層は少ないので、比較的ゆったりと食事を楽しめる場所でもある。

 そんな落ち着いた場所でも、いつものあの子が――



 「神守君! こっちこっち! 早くしないとクリオにハンバーグ全部食べられちゃうわよ~!」



と大声で僕を呼んだ。


 ……お店の雰囲気がぶち壊しである。


 それに、佐那美はいつもクリオのことを『ふぁっきゅうー』と愛称(?)で呼んでいるが、今日に限って何故か『クリオ』と呼んでいた。

 クリオは恥ずかしさの余り、体中が真っ赤になっており、その様子に満足したのか佐那美は大声でアハハハと笑う始末。

 店の客やスタッフが僕らに向ける冷たい視線が、無言の抗議に思えた。

 

 「えっ、アレ……佐那美さん?! 超恥ずかしいんですけど……」


 「……あいつの脳、蛆が沸いているのかしら」


 一美と美子が赤面した顔を隠すように下を向いて進む。

 僕はなるべく表情を変えずに無言で彼女の方へ向かったが、本当は恥ずかしくて恥ずかしくて今にも、他人の振りして逃げ出したかった。

 だが、以前そんなことをしたら、佐那美に「そこにいる神守君、あなただよ!」と腕を掴まれてしまい、死ぬほど恥ずかしい思いをさせられたので、今回あえて何事もなかったかの様に装う。

 

 恥ずかしい……頼むから、僕や皆を巻き込まないでくれよぉ……

 

 佐那美が待つ席に着くと案の定、赤面し涙目のクリオが無言で佐那美の胸ぐらを揺さぶっていた。

 もちろん、テーブルの上にはハンバーグどころか皿一つ置かれていない。

 ……わざとなんだな、わざとクリオをからかったんだな!


 ――クリオ、ご愁傷様。心の中で、彼女に手を合わせた。


 そして眞智子に関しては、トイレから出ようとした際にその惨事を目撃してしまった様で、出るに出られない状況でこちらの様子を覗っていた。


 「あのヤンキー、完全にタイミング失ったわね……」


 美子はツカツカと隠れている眞智子の元に行き、彼女の腕を掴んだ。


 「あんた、こんなところで様子見していたら、そのうち佐那美に『伝ヤン眞智子様が特大う〇こしていた』ってお店の中で大声で叫ばれるわよ」


 いつもなら眞智子を救うことはしない美子であるが、ここはうちでも利用しているファミレスなので、これ以上佐那美に大声を出されると、恥ずかしくてこのお店に行けなくなる虞があることから、彼女を救ったのだろう。


 「いや、それは困るけど……ちょっと私あそこには行きたくない……」


 「私だって行きたくないけど……クリオを弔ってやらないとダメ!」


 結局問答無用で佐那美の元まで連行されてしまった。

 佐那美のいるテーブルに皆揃うと、彼女は「クリオはともかくとして……皆なんで真っ赤な顔しているの?」と1人でケタケタ笑っており、何故皆が恥ずかしい思いをしているのか全く理解していない様子だった。


 「まあ、皆揃ったところで席順決めましょう」


 そう言って佐那美は僕の腕を引っ張って先ほどの場所に座った。

 

 「あのぉ……佐那美さん? 僕が君の脇に座るのは決定事項なのかな」


 僕の問いに彼女は当たり前の様に「そうでしょ」と答える。


 「何も既に終わった打ち上げを再びやろうっていうんだから、地端プロダクションの代表と発案者の神守君が一緒にいて当然でしょ?」


 ……いやいやいや、君は代表じゃないから。

 地端プロダクション取締役広報人事部長であっても、代表ではないから!

 案の定、眞智子から「おまえの親父はどうしたんだよ」とツッコミを入れられる。

 

 「いやぁ、お父さん今日はいないから。だからあたしが代表なの」


 「それを言うなら代表代理じゃない?」


 美子にツッコまれ、結局佐那美は「じゃぁそれで」と手短にその話を打ち切った。

 

 だが、納得していない女の子がいた――っていうか僕も含めてほぼ全員ですが……先ほど辱めを受けたクリオだ。

 顔を真っ赤にして悔しそうに親指の爪を噛むクリオ……するとハッと何かを思いついた表情をした後、眞智子と美子を呼び寄せ、そっと耳打ちをする。

 

 ニヤッと笑う3人……あぁ佐那美に何んらかの仕返しするつもりなんだな。

 先ず、アクションを起こしたのは美子である。

 

 「佐那美~ぃ、 お兄ちゃんに金出させるんだったらおまえは主賓ではないよな」


 美子は悪い笑みを浮かべて佐那美の肩をギュッと掴んだ。

 そして、クリオが佐那美の反論を言う間も与えず、こう提案をした。


 「そーだね。じゃあ――こうしない?  この店での食事代全部出す人がレイと同じテーブルに座れるってことでどう?」


 クリオの提案に、『えっ』と真顔で驚く佐那美。そして眞智子がすぐに次の行動に移す。


 「じゃあ、私がお金出す! どっちみち地端プロダクションに請求する医療費があるから、それに水増し請求すればいいだけのことだから」


 「はぁあ? 何ふざけているの! この前の映画でうちの事務所どれだけお金掛かったと思っているのよ! マジで傾き掛けたのよ!」


 佐那美はすぐに反応し、声を荒げた。

 流石は眞智子である。佐那美が一発で怒り出すワードをチョイスしてきた。

 眞智子の挑発に簡単にひっかかる佐那美、効果覿面だ。それに引き続き、クリオも……


 「それじゃあ、私も佐那美からぶんどったギャラで……」


 さらに美子も……


 「それだったら、私もお兄ちゃんが佐那美から巻き上げた会社の金で……」


 彼女らは眞智子同様、佐那美がトラウマになっている映画のギャラの話を持ち出した――っていうか美子、なぜそこに僕の名前を持ち出す!

 これでは僕まで佐那美の激怒に巻き込まれてしまうではないか?!


 僕はチラリと佐那美の顔を覗くと、彼女は下を向いて活火山噴火前の余震の如くワナワナ震えており、彼女がプッツンとキレる何分も要しないだろう――と思ったら、たった数秒後には佐那美は顔は真っ赤になり、額から青筋が浮き上がりブチ切れた。


 「ふざけるな! だったら私が出すわよ!」


 ――うん、コレ……どこかのコントネタだな。


 案の定、眞智子とクリオ、美子がここぞとばかりに「「「どうぞ、どうぞ」」」と一斉に佐那美に手を差し出し、結局はお約束に従った佐那美がお金を出す羽目になった。


 そうまでして僕の隣を勝ち取った佐那美は4人テーブル席の奥に座り、僕がその隣に座る事になった。

 いつもなら、僕の隣で得意げにニコニコしている佐那美であるが、彼女らに嵌めた所為もあり、不機嫌な表情で「またお金がぁ……」と不満を口にした。

 そして僕の前の席には今回のゲストである一美が座り、僕のすぐ隣、つまり通路挟んで隣4人テーブル席には、今回被害を受けたクリオが僕の直近に座り、対面で同じく通路側に美子、その隣を眞智子が座った。

 いつも僕にべったりの美子や眞智子からすれば、この席順に不満な点もあるだろうが、今日に限っては佐那美を指差しゲラゲラ笑っている。

 そして彼女らは僕と目が合うと、ゴメンねとばかりに両手を合わせた。 


――あれ……ひょとして僕は佐那美対策で人身御供にされたのかしら?


 「さて、打ち上げをしましょう」


 そう呼びかけるのは、佐那美――ではなくクリオであった。

 当然、佐那美は「なんでふぁっきゅうーが仕切るの!」とお冠である。


 こんな感じで打ち上げ会が開始したのであるが、先ほどからキョトンとしているのはゲストの一美である。

 いつも佐那美にパワハラされて振り回されている彼女であるが、クリオを始めヤンデレ娘が佐那美を徹底的に追い詰めている様子に驚いている様子だ。


 「あぁ、ビックリさせちゃったかな。うちの面子はこんな感じの連中なんで……」


 「はあ……ところで、神守さんはこの状況を止めなかったのですか?」


 …………うん、驚いているというより、僕の態度に呆れてしまっている様だ。


 「止めたらこのバランスが崩れるんで、極端に傾かない限り僕は手を出さないことにしています」


 「それって、何かズルいですよね」


 一美は僕の発言にガッカリした様子であったが、それは余りにも彼女らの事を知らな過ぎているだけ。

 僕は彼女に嫌われるならそれもいい――とそのくらいにしか思っておらず、敢えて弁解はしなかった。


 その脇では――


 「白黒ハンバーグ250gガーリックソースでトッピングに大エビフライ、それを2皿ずつを6セットで、セットでドリンクバーとスープはオニオングラタンスープで、ライスは大盛りでお願いします。えっと同じく6セットで……」


――と調子よく注文しているのは眞智子である。当然……



 「ふざけんるなぁあああ!」



……と佐那美が絶叫している。再び周りから注目を浴びてしまう。

 いやぁ~ずいぶん注文するなぁ。

 彼女らの食欲はケチケチ佐那美に痛恨の一撃を与えた。

 このままでは「神守君のせいでお金がなくなった。責任取って!」と佐那美がまた婚姻届を握り締めて僕の家に凸するだろう。

 それに、これ以上佐那美を煽っていると精神的に不安定になりそうなので、ここで僕は佐那美煽りを止めることにした。


 「眞智子さん、佐那美さんは5000円までで勘弁してくれませんか。あとは僕が出しますんで」


 そういうと眞智子は美子とクリオの顔を見て確認した上で、「あっ店員さん。さっきの注文一部訂正します。白黒ハンバーグは250gガーリックソースは1皿を6人分に変更お願いします。エビフライはなしでお願いします」と若干ではあるが加減した。


 だが、佐那美は納得していない。


 「なんでこんな高いお店で本気食いでするのよ。それでも1人あたり税込みで2387円するじゃないっ! 全部で14322円するんですけどっ! せめて日替わりランチ頼みなさいよっ」


 ――いつもはおバカなのにこう言う時には一瞬で計算できる彼女って『本当は頭がいいのではないか』と感心させられてしまった。

 一方で、注文をしている眞智子には言い分があった。


 「今日は土曜日だから、グランドメニューしかないの。ステーキ頼まなかっただけでも感謝して欲しいわね」


 それは眞智子なりの配慮だったようだが、クリオにしてみれば、こちらで妥協してもなお文句を言う佐那美に再度許せない気持ちになった様で「ハイハイっ!」手を挙げて話に割り込んできた。


 「眞智子ぉゴメン、私パフェも食べたい。追加注文お願い」


 クリオは『奢らされる佐那美』にではなく、『注文で手間掛けさせる眞智子』に対して謝った。

 ただ、このままやりたい放題にさせると、そのうちに佐那美が発狂しかねない。

 佐那美が発狂すれば、お店で大騒ぎしてしまい、最終的に全員出入り禁止を喰らって追い出されてしまう。

 ここは皆のお気に入りの場所であるが、それは僕や美子にとっても同じである。

 出禁を怖れた美子が慌ててクリオを止めた。


 「あんた、いくら佐那美の奢りだとはいえど、あの馬鹿がここで発狂したら、うちらここのお店利用出来なくなっちゃう。これ以上、煽るのやめてくれる」


 一見すると、美子は喧嘩の仲裁をしている様にも思えるが、実際には自分の都合を言っているだけで、佐那美を庇っている訳ではない。

 ソレを証拠に――


 「あんまり調子に乗って食べまくっていると眞智子みたいにおデブさんになっちゃって失業するわよ」


――と、どさくさ紛れに眞智子をからかった。

 美子の一言で慌ててクリオはマジマジと眞智子の上半身を確認する。


 「なっ、何見てるのよ」


 寝耳に水の眞智子は、『何か文句ある?』と怒り出すが、クリオは手短に


 「眞智子ゴメン――やっぱ注文なしで……」


と謝罪してパフェの追加を諦めた。

 これって眞智子の体型を…………いや、これはさすがに失礼だ。 


 「わ、私は太っていないっ、標準体型だから! あんたらが気にし過ぎだから!」


 確かに眞智子は他の子に比べるともっとも女性らしい体であるが、肥満気味という訳ではない。むしろ 問題発言の美子の方がBMI値が高――ゴホンゴホンっ……というよりもクリオと佐那美がモデル体型過ぎなのだ。

 それなのにデブ扱いは可哀想である――ていうか、人を見た目でからかうのは一番良くない事だと思う。


 「頭来たっ! 礼君、私もパフェ食べるから」


 そして、ここぞとばかりに僕に断りを入れる――これって僕に対して『太っても面倒見ろ』とでも言わんばかりだ。

 これにカチンときた美子も――


 「じゃあ、私も頼むか……」


――と『佐那美を煽るのやめろ』という言葉をすぐにひっくり返した。


 ガンガン注文を続けるヤンデレ3人衆。

 その度に佐那美のコメカミ辺りに青筋が浮き立つ。

 このまま注文し続けられると、佐那美が発狂通り越して憤死しそうだったので、僕が間に入り、全員有無も言わさずオムライスとドリンクバー、それと各テーブルに山盛りポテトに変更させ注文を終えた。

 美子が失敗したという表情で頭を抱えている。


 「眞智子とクリオが煽りすぎなんだよっ、タダでガッツリといいもの食べられたハズのになぁ……」


 ……おいおい。眞智子を煽った、おまえがいうな。

 そして何故か、佐那美がじっとりとした目で僕を睨む。

 何故、仲裁した僕が睨まれなきゃならないんだ?! ――そう思っていたら、彼女の不満は違うところにあった。


 「安くなったのはいいんだけど――9451円……あたしは5000円支払って神守君は4451円だけなのぉ、結局はあたしは上限いっぱいじゃん」


 おいおい、たった550円くらいの差で多い・少ないと文句を言わないで欲しい。

 それに僕が救いの手を差し出さなければ、君は1人で1万どころか3万円以上支払う羽目になったのだから、寧ろ感謝して貰いたいところだ。

 元を正せば、クリオにちょっかい掛けた君が悪い。



 そう思う反面……



 もし、3万以上支払う羽目になったら佐那美は間違えなく『家凸with婚姻届』を実行するだろう。

 たった3万で、こんなに大騒ぎする彼女に、元家が欲しがっていた10万超えのグラボ(グラフィックボード)を打診したら、『家凸with婚姻届』どころじゃすまないかも。それだったら、俺が買ってあげればいいかなぁ……


……と、そんなことを考えていると急に「ねえ、ねえ」と声かけられ、僕の手をギュッと握られた。

 僕が呆気にとられて握られた手の先をみる。僕の手を握ったのは一美であった。


 ――何があった?

 先ほどから皆に振り回され、思考が追いつかなくなってきたぞ。


 「すごーい。神守さんのいうとおりね。あれだけ『ジャンジャン持ってこい』って言う雰囲気があなたの一言で皆素直に従ったわ。すごいわね」


 「基本的に皆いい子だからね。片方だけの味方すると他の子は怒っちゃうからその辺も考えているから」


 「すごーい、すごーい」


 一美は握った僕の手を自分の方へ引っ張り。今度は両手で挟むように握り直した。


 「ちょ、ちょっと……」


 彼女としては、感心する余り、僕の手を握っただけのつもりなのであろうが、それはちょっと馴れ馴れしい行為である。

 フレンドリーなのは別に嫌いではないが、もう少し場の空気を呼んで欲しい。


 「――それで、僕が1人の女の子と親密になると、他の子にぶっ56されるかもしれないので……ほら、周り見てごらん」


 僕はそう言うと僕の脇にいる佐那美、美子、眞智子、クリオを順に指差した。

 皆、苛立った表情で一美を睨んでいる。


 「えっ、恐っ……」


 一美は慌てて僕の手を放した。

 それでも尚、先ほどから佐那美がずっとイライラしている。

 僕の隣の席をゲットしたいが為に、守銭奴なのにレストランの支払いを引き受け、他のヤンデレ娘らにガンガン注文をされた上、新人の女の子が僕にちょっかいを出す事態に、今すぐにでも堪忍袋の緒が切れそうである。

 この様子だと、間違えなく一美とクリオは彼女からパワハラを受けることになるだろう――そう思った時だった。


 「くへっ……くへへ……グヘヘ……」


 佐那美が変な奇声を上げ始めた。

 ヤバい、遂にぶっ壊れたか?! そう思い彼女の顔を覗き見ると、明らかに悪い顔してニヤついている……壊れたというより、先ほどのクリオ同様、何か悪い事を思いついた感じの表情であった。流石は日本版のクリオである。



 「あっ、そうだ。いい映画の企画を思いついちゃった……」



 こういう企画って大抵ろくでもない物が多い。

 クリオと一美は真っ青になり、眞智子と美子は『また佐那美の暴走が始まるのか』という表情で頭を抱えた。


 ……あっ、これ――僕も含めて間違いなく全員被害に遭うパターンじゃん……


 場の空気が一瞬で凍った。 

 前作映画の打ち上げ会はそのまま新作映画構想会へと変貌した。

次回更新は不定期です

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