第5話 初めてのこと
仕様に苦戦してしまい、なかなか進みません。
ハウザー軍が出発してからゼキス城の玉座の間にガーゴイルが飛び込んでくるまでに要した時間は、一日ほどであった。
「人間の軍が動きだした?」
ゼキスは聞き返す。軍が出てくるのは初の事態だ。
「は、はい!総大将はあのハウザー公爵です!」
「ハウザーか....」
ゼキスの額にシワができる。徹底した人間至上主義者であるハウザーは、和解案を難癖と屁理屈で突っぱね、散々妨害してきた面倒な男。傍にいたシュリ卿が聞いた。
「進路は?」
「南の、密林の方向です。」
「狙いは宝と薬草か。数は?」
「一万程度です。」
「意外に少ないな...ゼキス様!このシュリにお任せください!四千ほどお預けくだされば、勝利を掴んで見せましょう!」
シュリが鼻息荒く意気込む。
「ではシュリ!八千の兵をもって迎撃に当たれ!」
「八千!?二倍の数ですが....。」
シュリが戸惑う。
「お前を信じていないわけではない。このタイミングで仕掛けてくる奴らには秘策があるのかも知れん。人間を調子に乗らせんためにもこの戦い、敗走は許されん。絶対に勝て。シュリ。」
「サー・ゼキス!」
「それから、死ぬな。命令だ。」
「はっ!では私はこれで」
シュリは自分に加速魔法をかけ、高速で出て行った。ガーゴイルも退室し、ゼキスは一人になった。
「ガイランは残っているが、アングルは調査に行っている。三卿のままでは人手不足だな...。」
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バジア島の東南の端。渓谷に囲まれた集落跡地。
「ここがスライム族の隠れ里か。もはや廃墟だな。こんなことは初めてだ。」
調査を命じられたアングル卿は手勢数百とともにスライムの里に来ていた。
「本当に面倒なところにありますね。ここにくるまでに迷路やら、パズルやら。なんの意味があるんですかね?」
側近が言う。
「入り口自体は複数確認できている。しかしどれも肉体、精神、頭脳と何か並外れたものがなければここへは来れないように出来ている。そう、スライム族以外はな。それでは、調査開始だ。」
アングルがぱちんと指を鳴らすと、それを合図に手勢は散り散りになった。
「アングル様!家などはあらかた燃やされています!」
「アングル様!金品などはほとんど残っていません!」
「アングル様!足跡が少ないです!」
部下たちの報告をつなぎ合わせ、アングルはここで起こったことを推測する。
「盗賊でしょうか?」
「いや、それはない。」
側近の問いに即答する。
「野盗がここまで来られるとは思えん。それに、盗みに入るにはここはあまりにも効率が悪すぎる。」
環境が、砦の役目を果たしている。
「足跡が少ないのは数自体が少なかったのだろう。多く見積もっても数十人あたりか?」
「そんな人数で、村一つを!?」
「其奴らが卓越した肉体、精神、頭脳を持っていたとすれば、不可能ではない。金品を奪っていったのはは恐らくカモフラージュだ。家を燃やしたのは盗賊の被害に見せるか、効率的にスライムを殺すためだろう。ただ分からんのは...。」
「本来の目的。」
「そうだ。何か大事な一つのものを狙っていたことは推測できるが。」
「生き残りがいれば手っ取り早いんですけどねえ....」
側近はため息をつく。
「まあ、夜を待とう。そうしたらお前の出番だ。」
アングルはモノクルを光らせた。
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アレックスは、なんとも言えぬ気持ちで背の高い草原を歩いていた。背中の袋にはエストが入っている。結局あの後、彼女に泣き落としをくらい根負けしたのだ。まあバルームからはだいぶ離れていたし、仕方ないとも思った。一応孤独でなくなったのは嬉しい。だがまだエストは戦える状態ではない。早く代表者を探さなければ取り返しのつかないことになると、アレックスは気持ち急いだ。小高い丘の上まで登り景色を見渡す。風が草を揺らし、草同士のの擦れる音だけがある。
「ん?」
前の草原の中にやけに開かれた場所がある。土の色が全く違う。畑だ。すぐ近くに小屋もある。ちょうど人影が出てきたが、顔までは見えない。
「誰かいるな。」
アレックスは丘を下り、畑のそばまで行った。小屋から出てきた人影は、農作業に勤しんでいる。
「おーい!そこの人!」
アレックスは呼びかける。人影は振り向き、こっちに来た。足の異様な長さから、人ではないと分かる。彼は被っていた麦わら帽子を脱いで言った。
「おんや珍しいなあ。お前さん旅人かい?」
イナゴの頭をした男は口をパタパタ動かす。
「わしはこの先の村のもんじゃ。お前さん村にようかね?」
短いでしょうか?