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虹橋の向こう側  作者: 人生輝
7/13

予言的中。

昭和53年(1978年)という年は、水島雄一の年代であれば4月にあった”キャンディーズの引退コンサート”が、一番象徴的だったと思う。


その2月、年度末試験を前に、オレと松田の2人は、世田谷にある宮下の自宅に毎日のように通っていた。

何しろ、オレたち3人の成績が極端に違うのだ。宮下は何もしなくても、いつもクラスで1番。反対に松田は前期成績で学年最下位、年度末で同じ状態だと留年もあり得る。オレはと言えば、結局の所、どこへ行っても同じでクラスでも学年でもど真中。

そういうわけで、先ず、”松田の救済”が後の2人の使命にもなり、”環境の良い”宮下の家で共同勉強会を始めたのである。宮下もオレも松田に対して分かり易く教えて行き、松田もそれに答え必死になっていた。ただ、このことによってチョットしたことにオレは気づかされる。


「水島、お前の英語の教え方上手いな」と宮下。

「いや、本当だよ。確かに分かり易いよ。帰国子女の宮下より上手いよ」と松田まで言ってきた。

実際の所、他の科目は平凡だったが、英語は好きだったこともあり割と積極的に勉強をしていたのだ。なので、高校に入ってから英語だけは、上位に入ることは出来ていた。


「お前、TOEFL受けてみたら?」と宮下。

「なんだよ。その”とえふる”ってやつは」とオレ。

「知らないんだ。TOEFLは、アメリカの大学に行きたい英語圏外に住む奴らが受ける英語の試験だよ。点数によって、行ける大学のレベルが決まるだ。」

「へえ、そうなんだ。でなんでだよ。オレ別にアメリカ大学なんか考えてないし」

「じゃあ、何するの。高校出たら。」

「そりゃ、日本で大学行くつもりだけど」

「何処の大学?何がしたいの?」

「いや、それは・・・」

オレにはその時将来の夢自体がなかった。兎に角、今が続くこと、こいつらや久仁子達と楽しく生きていることだけ続けばいいと思っていた。

「そろそろ考えろよ、もうすぐ高校2年だぜ。オレは将来、爺さんや親父が作った会社に行くことしか考えてない。松田だって将来は又、役者に戻るつもりだし。」

「まあな。でも・・・」と言った所で宮下から、

「悪くないぜ。アメリカも。お前がもうちょっと頑張れば可能性があるよ!」

「俺は役者に戻る前に、高校2年にもなれないかも」と半笑いで松田が突っ込んだ。そんなことないと笑いながら、宮下。だが、オレは自分のだらしなさにも気づき、とても笑えることは出来なかった。ただ、この宮下のアドバイスが、その後のオレを決定づけた。


オレはこの頃、実は別の問題も抱えていた。オレの父親が転勤が決まり、4月から父親と母親は名古屋へ行くことになっていた。オレは、今の高校を辞めてまで両親についていく気は全くなく、結果、オレだけ春休み中に叔母の家に下宿することになり、叔母が住む代々木上原に引っ越すことになった。この年の3月31日から小田急線と千代田線が繋がり相互運行を始めることもあり、学校も通い易いことも決め手となった。

しかし、当然のことだが、”生まれ育った地元を離れる”デメリットがオレの頭を支配した。それは、久仁子と距離が遠くなることが一番だ。


引っ越しのことを説明するため、久仁子を虹橋に呼び出しのは、2月末、雨の土曜日の夜、宮下の家からの帰りだった。お互い傘をさしながら、諸々を久仁子に説明したところ、久仁子は、

「分かった。みんなにも言っておくよ」

「はあ、それだけ?」とオレ。

「それだけって、それ以外何かあるの?」

「いや、でも、久仁子と離れて暮らすことになるんだよ」

「離れるって言うけどさ。中学出てから1年経つけど、高校は別だし、今だって中学時代よりは離れてない?でもさ、結構中学の時より2人で遊んでるじゃない」

「まあな。」

「ワタシね。ユウに言ってなかったけど、高校で結構モテるようになったんだよ。」

それは分かっていた。松田が言っていたことが、正しかったこともこの時少し証明された。

「でも、一度もだよ。一度も、ユウ以外の男の子と遊んだことないよ。それは誓って変わらない!ただ、ユウが違う人が好きになったら、その時は考える。」

了解しました。これ以上、男が何か言うのは女々しい。逆に久仁子に押されて、前向きに引っ越しを進めた。ただ、久仁子と間で中学以来のルールを作った。


1.高校生だからデートは好きな時に好きな場所で2人で決めて行うこと。但し、時間には厳しく特に帰り時間は必ず守ること。

2.もし、大事な話がどちらかがあった場合は、どんなことがあっても雄一は地元に戻り、ここ”虹橋”で話すこと。


気が付けば、3月の年度末試験も終わっていた。

宮下は学年一番になり、2年は”特進クラス”に決まった。松田は、オレたちの”救済”に助けられ、何とかオレと一緒の”一般クラス”に進級した。


2年に進級したオレたちの周りでは、キャンディーズ最後のシングル”微笑み返し”がどこへ行っても流れていた。


そして6月、これもまた雨の土曜日の午後、久仁子から虹橋に来るよう言われ学校の帰り、久しぶりに”地元”に向かった。


「ワタシね。1か月前に原宿でスカウトされたの。でね、決めたのモデルになるって」


「え!」っと言葉で言ったオレだが、頭の中では、松田が去年の夏、初めて久仁子に会った時、オレに言った言葉が、今現実となったことの方がショックだった。確かに最近は特に「いつかあるかも」とは思っていた。それは間違いない。でも、オレにとってはかなり早い段階で来た”予言的中”だった。

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