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虹橋の向こう側  作者: 人生輝
3/13

彼女がいれば。

1975年、気が付けば夏休みが来る時期に差し掛かっていた。

プロ野球セントラルリーグは、ジャイアンツが安定した最下位をぶっちぎり、誰も予想もしてなかった優勝経験ゼロの広島東洋カープが安定して首位にいた。

その当時の国民の殆どが「今年は変な年だ」と思ったことだろう。


偏差値至上主義でもあったこの時代、オレも一般的な中学2年生同様塾に通っていた。ただ、成績は至って”平均的”なもので、1学期の中間テスト、そしてちょっと前に終わった期末テストも、良くも悪くもない、個性のない結果を出していた。その時、来年に控える「受験生」という言葉は。オレの辞書には全くなかった。


5月の祭りをきっかけに距離が近づいた、飯島久仁子とオレは、これもまた”平均的中学生レベル”での付き合いを始めていた。

ただ、”ちょっとヤバイ娘”の彼女は、オレに付き合うルールを強制した。


1.学校内で挨拶・会話禁止。

2.学校内で何かの都合で近いところにいた場合、気が付いた方がその場を離れる。

3.2人だけで会い、話をするのは土曜日の放課後、もちろん部活のあった場合はそのあと。基本的に帰宅後  の午後3時から5時の間で、場所は公園の虹橋の上。


要は、めんどくさい学校の連中に色々言われたくないということだったと思うが、会う場所、時間が固定されていれば、お互い、色々な事情で誰かに分かって仕舞う。しかもこの年の6月の土曜日午後は、何故か雨が多かった。野球のように”雨天中止”、”雨天順延”なんてことを、中学2年の男女カップルにはアイデアすらなかった。大雨の時、人気の無い公園の橋で2人でいれば、周りは不審に思うのは当然で、傘で顔隠せば隠すほど、相手は持たなくても良い興味を持ってくれる。

そんなわけで、井上に関してはかなり早い段階でバレていた。


7月19日土曜日、この日は1学期の終業式である。午前中、早い時間には学校は終わる。

取り敢えず、この日は2人とも部活がなかったこともあり、オレはもう少し彼女と早い時間から会いたかった、色々、そう色々考えることがあって。ルーズリーフノートの紙に「今日は2時に虹橋、ヨロシク!」と書き、隙を見て、彼女のカバンに入れた。「必ず、見てくれよ!」と祈る気持ちで学校を後にした。


午後2時、ただただ暑い南公園側から虹橋の袂に着いたオレ、北公園側から来る彼女を待つ。

待つ。

待つ。


彼女が北側から自転車でやってきたのは、”通常通り”の午後3時だった。


「おっせよ!」

「???なんで??」

「オレ、カバンに入れたじゃん」

「何を?」

「ってカバンの中みてねえの?」

「見なきゃいけなかったの?」


もういい、もうわかった、暑い。この時代の体育系の奴は水も飲めない。オレなんか、今ここに好きな彼女に来て貰えただけでも幸せだ。


「いや、いいんだ。いいの」

「ユウちゃん、何が言いたいわからないよ。たまに」


そう、その時には彼女から「ユウちゃん」と呼んで貰えてた。どんな過酷な状態でも毎週土曜日の3時にここに来たことは無駄ではなかった。そんなこんなあって、暑いことなんかどうでもよく、オレがその時彼女に言いたかった本題を話し始めた。


「久仁ちゃんさ、海行かない?まあ、お互いさ、部活や、塾の夏期講習とか色々あるけどさ・・・。その・・・、例えばさ、チョット横浜まで出ればさ・・・、三浦海岸ぐらいなんかさ・・・。そんな時間掛からないしさ・・・」

「海は嫌いだよ!行きたくないよ」


・・・なんだ。


「ユウちゃんには言うけど。ワタシね・・・。海で溺れかけたことあるの。保育園の時だけど・・・だから、海はダメなの」


そう、そうだったんだ。じゃあ、

「解ったよ。そうだよね。海は怖いよね。じゃあさ、区民プールに行こうよ!」


つまりだ、どうしても”初めての彼女”って存在と、水着で遊びたいという直接的な気持ちがその時には、”当然”として伝えたく、海がダメならプールにスケールダウンすることは、何の躊躇いもなかった。


「いいよ!行こ。じゃあ、夕子も誘うね!」


”夕子”・・・だよね。彼女の友達だ・・・。でも、その色々と”学校にとってお荷物な子”だ。

でもその時の気持ちは、彼女とプールに行けるための妥協案として飲まざる負えない。


「了解!じゃあ、井上も誘うよ。4人で行こうぜ!」


物凄く嫌がった井上君だったが、アイス2本で話をつけ、4人で行った区民プールの思い出は、井上自身を含め、オレもそして久仁子も夕子も、一生の思い出の一つになったと思う。


その時代では、当然のことながら全員スクール水着だったが、スレンダーでスタイルが良い久仁子、グラマラスな夕子。

最初、井上もオレも夕子に対して会話に困っていた。”有名暴走族のヘッドの女”、”将来のレディース幹部候補生”と言われた彼女。しかし、彼女の純粋な話をオレたちは反省した。彼女は小学校時代、5回の転校を経験し、どこへ行っても虐められたことから、自ら不良を演出していたことを語った。そしてこの街に来て、この中学に入学し、余計なこと喋らず、人の気持ちを大事にする久仁子に出会ったことで、本当の友達を見つけたられたとプールサイドで”普通の中学2年生の顔”でオレたちに話してくれた。


その帰り、井上と2人になった時、


「俺さ、なんか梶山を守ってやりたくなったよ。へへ」

「オレもだよ」

「お前はダメだろ、飯島が怒るぜ」

「いいじゃん。みんな友達ってことで」

「馬鹿野郎!」


オレはこの時、心から久仁子が人として好きになり、中学2年分際でも彼女が愛おしい存在なった。


しかし、久仁子のガードは固く、その後も”土曜日午後3時からのデート”を貫かれた。


だが、その年のクリスマスイブ、中高生カップルを招待するコーナーがある”公開ラジオ番組”にオレが黙って応募し、それが当たり、嫌々ながら行くことに同意した久仁子を連れて行ったところ、司会のDJが久仁子を気に入り話しかけ、彼女もノリノリに答えていた。

それに嫉妬したオレは、久仁子と帰る電車の中で大喧嘩となり地元に着いたが、


別れ際に、


「ユウ、ありがとう!おやすみ。来年も仲良くしてね!」と言い、オレの唇に向けてキスをしてくれた・・・。そうこれが、オレにとって忘れられない”初キス”で、翌日の2学期終業式を不覚にも遅刻してしまった。


***神様ありがとう!そして、来年もジャイアンツが最下位でありますように!***


そう祈りながら、昭和51年(1976年)に向かうオレだった!

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