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ブラック・シークレット  作者: 星乃宮りゅう
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序章

 15年前。あの日もしずかに、雪が降っていた。

 その白い結晶は、残酷なほどつめたく感じた。 

 そしてその時に誓った。

 誰にも気づかせるものかと、他の誰でもない自分自身に。

(私はあなたたちのようにはならない)

 決して、そして、絶対に。


 ふたりの幼い姉弟の、姉の名前は〝木原ゆり〟。

 そして弟の名前は〝木原りょう〟。

 ゆりが9歳、りょうが5歳のときのこと。

 ゆりの手には、1枚の写真が握りしめられていた。


「ただいま」

「あら、おかえり圭。時間ぴったりね」

 さすがよ、と出迎えた希はにこやかだ。圭が帰宅したのは午前2時。出かける前に告げていった時刻と寸分違わない。

「お疲れさま。これで一任務、ようやく終了ね」

「ああ。そうだな」

 表情を変えず、圭はみじかく答える。

「やっと休みかぁ。明日は何する予定?」

「…まぁとりあえず、報告書を作らないと。時間はできたんだし、ゆっくりやるよ」

 相変わらず生真面目な性格の相棒を、希は呆れたような感心したような表情で見やった。

 肩にかかる程度の色素のうすい髪からは、まだシャワーのしずくがしたたっていた。

「圭ったらあいかわらず真面目なのねぇ。あたしも見習わないと」

「また飲んでたのか?」

 頬に赤みのさしている希の顔を呆れたような目つきで一瞥すると、圭はボブショートの黒髪をほそい指でわずかにかきあげ、小さなため息をついた。本当に見習う気があるのか、と言いたげな口調だった。

「圭ったら、そんなに怒らないで。久々の休みだったんだし、飲みに行かなかっただけでも許してよ」

 そんな圭の不機嫌な表情もどこふくかぜで、希はけろりとして聞き流した。

「家で飲んでるなら同じことだろ」 

 酒を一滴も飲まない圭は一言そう吐き捨て、振り返りもせずに希を残してリビングを出て行った。白い首筋から、ちゃらり、と小さなネックレスが音を立てた。なにかアルファベットのような文字がかすかに反射したように見えた。

 家で飲んでいたと言っても、自分ひとりが『制裁』をしている時に呑気に酒を飲んでいた、ということは、彼女にとって外で飲み歩くことと大差ないことなのだ。いつものことだが、圭の態度はいつもにも増して素っ気ない。

 希は「やれやれ」と肩をすくめ、電気を消して自分もそのままリビングを出た。

 いつになったら一緒に晩酌できる日がくるのか、といういつもの思いが、ちらりと胸をよぎった。


 警察公認・制裁執行組合本部。

 時効が終わった、又は少年法などにより刑をまぬがれ、ブラックリストに載った人間を『制裁』していく警察公認の組織。だがその知識と頭脳は警察以上の者、そして『制裁』の腕に長けたエキスパートが名を連ねる。

 親を殺された者、殺した者。他人を殺された者。殺した者。

 そういう過去を持つ人間が復讐の腕を磨き、それを稼業にする。

 橘圭と黒崎希は、その組織の中でトップの実力を誇る実力者だ。

 パートナーを組んで7年。組合歴は圭の方が長い。コンピュータと拳銃を専門とし、時間を計算し、寸分たがわず計画を実行する。

 この組織の中で最も凄腕だと名高い圭は、組合の中で《黒豹─クロヒョウ》と称される。『制裁』に関しては15年にもなるベテランだ。

 月が明るい夜に舞う細身のしなやかな躰と、暗躍する姿を喩えてそう呼ばれているが、本人は知ってか知らずか、否定も肯定もしない。

 黒埼希は、組合歴7年。棒術の師範級の腕を持つ、艶やかな容姿を喩えられた呼び名は《揚羽蝶─アゲハチョウ》。本人は気に入っているようだが、圭いわく「決して褒められているわけではない」。

 組合ではパートナーを組んで『制裁』を行なう。そのためには、同じ屋根の下で生活を共にするのが基本。

 『制裁』には約準備期間として最低1ヶ月を要し、そして組合より決裁がおりた後、すみやかに実行。期限は1週間。

 失敗は絶対にゆるされない。極限のプレッシャーと緊張と戦うため、『制裁』の後は1ヶ月の休暇をあたえられる。

 それはごくまれな例外をのぞいての話。

 ほどなく漆黒の時。1通のメールが圭の下へとどいた。

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