最終話 点滅
最終回となります
夜の帳が下りた民家で財宝を探す遊びをしていた人工知能を有したロボット少女「アピ」。
偶然入った部屋に、自分を造ってくれたマスターの写真が入ったアルバムを見つける。
日中から遊び続け、夜にはヘッドライトを付けていた少女に残された時間は、あと僅かであった。
最終話 点滅
ダンボールに仕舞い込まれたアルバムを1冊取り出して、開いてみる。
キチンと制服に袖を通して、照れた笑みをしながらの写真。
ある偉人の真似をして、舌を出す写真。
バスで寝ている所を映された写真。
たくさんのマスターの姿がそこにはあった。
自分が造られる前のマスターは、優しそうで柔和な態度をしている。
「マスター••••••1回で良いから逢いたかった」
次のアルバムには、パソコンに向かい真剣な顔でキーボードを打ち込んでいる写真。
ドライバーでネジを締めたり、何かの機械を人型のモノに入れている写真。
少女を造っている所だ。
イタズラでもするかのような無邪気な笑顔。
「私って、マスターに喜ばれながら生まれたたんだ」
嬉しかった。全くメモリーにはないマスターがこうして自分の目の前に居てくれている。
少女は、夢中になってアルバムを広げていく。
まだ、赤ちゃんだった頃のマスターの写真も出てきた。
コタツに入り、お兄さんと一緒になって寝ている。バケツに入った水で遊んでいる。
雪の中でモコモコの服をきて不恰好に母親に甘えるマスター。
「可愛い!」
愛おしくなる程に無垢な笑顔に少女は、写真を大事そうに眺める。
これが私を造ってくれたマスター。
皐月がマスターの名前。
「マスター、皐月。マスター、皐月」
と奥まで染み入るように何度も声に出していた。
きっと、写真のマスターに負けないくらいの笑顔だったことだろう。
ワクワクしながら、次のアルバムに手にする。
「えっ!?」
次のアルバムには、病院のベッドで横になるマスターが映してあった。
痛々しい程の点滴の針が刺してあり、子供のマスターが力無く横たわっていた。
家族でお見舞いに来ているらしく、その時に撮られた写真のようだ。
子供のマスターはかなり病弱だったらしい。
それでも家族が来れば無理矢理の笑顔で迎えた。
別の写真には、立ち上がってテレビの上で何かを探している様子だが、次の写真の時に倒れるように横になっていた。
少女は、我を忘れてページを捲る。
もしかしたら、重い病だったのかもしれない。
大丈夫だろうか?
と思ったが写真中央左側にあった点滴の管に血のような液体が流入しているのが見えて、倒れた原因が点滴台よりも高くいたことによる血液の逆流であった。
貧血に似た症状で大人しく横になって寝ていれば逆流していた血液が元に戻り、回復する。
立つこともあまり出来ない子供時代。
きっとやりたい事、遊びたい事が一杯あったのだろう。
「!!そうか、私は••••••」
自分が造られた本当の意味を少女は理解した。
マスターは、子供の頃に病を患い
自由に遊ぶことも走ることも出来なかった。
その時の悔しさ、無念さを少女を造って晴らそうとしたのだ。
少女が自由に遊ぶ。
これがマスターの願いであり、夢だったんだ。
とうとう到達した。
自分の存在理由に••••••
少女は、何か吹っ切れたような顔を浮かべ、床に置いてあるアルバムを片付け始めた。
もっと、遊びたい
もっと、色々な事をしてみたい
そう決心してマスターが映ったアルバムを大事そうに持ち上げると
ヒラッ
写真が1枚、アルバムの間から落ちてきた。
「?!」
それは、明らかにマスターのいた時代とは、遥かに古い白黒写真。
雄大な山を背に多くの人々が映っていた。
集合写真のような気もするが、何かの記念写真のようにも見えた。
風化が激しく、個人の表情の識別は難しいが端っこに1人髪の長い人が後ろ向きに映り込んでいるのが見て取れた。
「何?この写真?」
異色を放つ写真に首を傾げていると
ザッ!
視界に一瞬、砂嵐が入った。
ヘッドライトの灯りが点滅を繰り返し、完全に付かなくなってしまった。
「えっ!?え」
ヘッドライトを叩こうとするが、上手く腕を動かすことが出来なくなり、キチンと置かれたアルバムの上に倒れこんだ。
バッテリー内のエネルギーが底をついてしまった。
「•••••••ぁ」
声を上げることも出来なくなり、視界に砂嵐が介入する回数が多くなる。
少女は、棒になった身体を動かそうとするが微震をするだけだ。
やっと見つけたのに
やっとマスターに逢えたのに
完全に少女の頭では映像を解析することが困難となり、夜とは比較にはならない程の暗黒の世界に落ちて行った。
少女「アピ」は、2度と起動することはなかった。
夜が明けて、朝になっても少女の瞳に光が宿る事はなくなり、静かに元からそこに居たかのように倒れたままだった。
少女は、エネルギーが無くなって行くことを自覚することは出来ない造りだった。
人類が滅んだ今、エネルギーを供給するのは
無理な事だった。ロボットは人間が居なければ生きていけない。
それは、少女を造った「皐月」の意志だった。
人間と同じように、自分が死ぬ時を最期まで分からないように設定し、人間と同じように死んで欲しいという我儘な願望だった。
最後まで読んでくれてありがとうございます。
最初から決めていた結末だったので、一気に書き上げていきました。
また、執筆活動を続けていきますのて、これからも宜しくお願いします。
もう一度ありがとうございました。




