勘違い
ある国が魔物に襲われ、多くの犠牲者をだした。
その国は、これを魔族の仕業だと考え、魔族の長である
「魔王」を倒すように、国一番の優秀な若者を勇者とし、
旅に送り出したのだった。
*****
「――――――こんばんは。勇者様。
今宵は、月が綺麗ですね。」
漆黒の髪を夜空になびかせ、その髪と同じ色の瞳をもつ少女は
太陽の光を集めたような輝く金髪をもつ勇者と呼ばれる少年を見て微笑んだ。
後ろには戦士のようにみえるがたいの良い男や、聖女のような神聖な雰囲気を放つ少女、
弓をもったエルフ族の少女がこちらを睨んでいる。
ここまでの長旅の中さまざまな危機をともに乗り越えてきた、
きっと彼のかけがえのない仲間なのだろう。
「貴様が魔王なのか。」
海のように青い瞳を漆黒の少女にむけて少年は尋ねる。
少年の瞳には正義という炎が燃え上がっていた。
一発触発の状態のようにみえた。しかし......
―――やるじゃないか少年よ。むさい男は除くとしても2人ともなかなかの美少女。
まあ、私には及ばないが。
欠点をあげるとすれば胸の大きさくらいか。まあ、私はぼんきゅっきゅっ!!だけどね。
それよりも魔王呼びはやめて!男っぽいじゃん!
こちとら可憐な、花も恥じらう乙女なんだからね!
というか、君の顔もそうだけど、そのバリトンボイス!!
たまんないんだけど!!!ストライクゾーンど真ん中!!!
少女は普通ではなかった。類いまれない力も、性格も。
少女は興奮をおさえ答えた。
「そのような呼ばれ方は好まないのですが.....。
まあ、そうなりますね。(できれば、できれば名前でよんで.....!!!)」
「そうか。なら問題ない。
.....私はお前を倒しに来た。」
「まあ!!」
―――やっば。今、私の事を(押し)倒しに来たって言ったよね!!
情熱的ぃ~。えっ、いつから私のこと好きなの!?
聞いてもいいかな!?やっぱ私って可愛いからぁ~。
ひとめぼれかな!?もう、私の可愛さ罪じゃん。
もうゴールインまで一直線じゃね?
いや、待て待て。待つのよ。こういうのは慎重にならなくちゃ!!
プッシュしまくるより、一回引いた方がいいと本で読んだし!
「その....まことにうれしいのですが....。
やはり、その、初対面ですし....。」
「は?」
「え?」
彼はまだ知らない。
魔族と魔物は全く別物であるという事を。
一緒と勘違いされることが多すぎて敵対していることを。
.....そして話を聞いた魔王様が激怒し、魔物をぎったんぎったんにすることを。
どうしてこうなった。
もっとシリアスになる予定だったのに。
補足
魔物
獣型で知能が低い。
魔族
人型で知能が高い。
ちなみに、魔王様のバイブルは『恋の駆け引き』
という本です。実在はしません。たぶん。