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2−3「ビドゥー」


(・ω・)「むちゃくちゃな振り仮名の技名とかに憧れてます」

「おう、とにかくお前らが魔導師以上であることは確かだ。でなきゃとっくに夢魔にやられてる」

「夢魔って、あの夢魔!?」

夢魔という言葉にリドルが驚いた。

この世界では夢魔とは人の夢に入り込んで、悪夢を見せて弱らせたあと魂を喰らう悪魔の一種である。

ある国では病として恐れられ、ある国では神の祟りとして恐れられている。

そして夢魔は一人を喰らったら次の獲物にまた乗り移る。


「こんなにたくさんの人が同時に・・・ってことは・・・」

それだけの数の夢魔が居るという事だった。

恐らく千や二千では済まない数なのだろう。リドルとシオンは恐怖した。

「だが、実際にこうしてそこら中に夢遊病みたいな状態の奴らがいるんだ。信じるしかねえだろ」

ビドゥーが親指で後ろを指差す。

彼の後ろでは呻き声をあげながらふらふらと歩き回る町の人間が数人いた。



「来るな来るな来るな・・・・あ、」


ビチャッ


また一人溶けて消えた。



「ゆっくりと夢魔が近づいてくる恐怖。夢の中で奴らが身体に触れた瞬間に身も心も溶けて消えちまうんだ」

ビドゥーが消えていく人たちを嫌なものでも見るようにして眺めていた。

「なんにしてもこの状況は異常だ、ここにいたら俺たちも危ねえしさっさと逃げ出したいところだが・・・」

ビドゥーが遠くに見える城を眺めていた。

シオンとリドルにはその眼は悲しそうにも、静かな怒りを秘めているようにも見えた。


「まあ、こっちの事情でそういうわけにもいかなくなったんだな」

シオンがその事情とやらを聞こうとしたが、ビドゥーの眼を見たら聞けなくなった。

少し涙が出ているのが見えた。


「ねえ、ビドゥーさんの仲間って・・・」

リドルが聞いた。とても嫌な予感がした。


カツカツと石畳の上を誰かの歩く音が響き渡る



「たす、たすけっ」


バチュンッ


町中に敷き詰められた石畳の道が段々と赤く染まっていく。

悲鳴と共に。呻き声と共に。


「・・・っ」

シオンが歯を食いしばっている。

悔しさをこらえているようだった。

「悔やんだところで止まったりはしねえよ」

シオンの様子を察したビドゥーがそう言った。

「逃げたきゃ逃げな。だが城門は閉まってるぜ、中からは開けられねえ」


何所からかまた呻き声が聞こえてきた。


「ねえ、さっきから気になってるんだけど・・・」

リドルがシオンを心配しながらもビドゥーに話しかけた。

「おう、なんだ」

リドルがそわそわとした様子で周囲を見回す。何かを探しているようだった。

そしてその“何か”は見つからなかった


「子ども・・・子どもがいないんだけど、あとお年よりも少ないし」

リドルの言うとおり、辺りにいるのは若い男女だけであった。年よりも殆どいない。

ビドゥーの方が自分たちより状況を把握していると思ってリドルは質問した。

本当は何となく答えが分かってはいたが、それが正解でないことを願いビドゥーの意見を求めた。


その話を聞いてビドゥーはゆっくりと溜息をついたあと、

「・・・多分だ、多分だがな」

ゆっくりと口を開く。表情が真剣だった。


「夢魔が喰うのは正確には夢じゃなくて人のココロ、精神だ」

ビドゥーが淡々と二人に説明をする。

「だからな、精神力の弱い奴ほど先に喰われちまうんだ・・・分かるか、言ってることが」




ビチャ




「あんた、平気なのかよ」

シオンがビドゥーに言い放つ。普段は使っている丁寧語が普通の話し口調に戻っていた。

「よくこの状況でそんなに冷静でいられるな」

ビドゥーは何も言わずにシオンを睨む。

「こんだけたくさんの人が死んでるんだぞ」

「死んでるんじゃねえ、吸収されてるだけだ」

「同じことだろっ!」

シオンが少しキレかかっていた。リドルが止めようとするが睨み合う二人の前に尻込みしてしまう。



「おい、シオン」

ビドゥーがゆっくりと口を開いて話し出す。

シオンは今にもビドゥーに殴りかかりそうな勢いだった。

「お前、俺が今・・・冷静だっつったな」

ビドゥーが拳を握り締めた。

「俺が今、この状況下で“平気”だと・・・そう言ったな」

更に強く握り締めた。

ビドゥーが急にリドルの方を向いた。リドルが一瞬驚いてビクッと震えた。

表情以上の強い怒りと、無念と、悲しさが感じられたからだ。

「リドルよぉ、さっき俺の連れがどうとか聞いてたな」

声を出すのも怖くなったリドルが首の動きだけでイエスと答える。


「俺の連れはよ、一人は昔から一緒に馬鹿やってたダチでよ。旅にでてから今までずっと何十年も一緒にやってきたんだ」

表情は少し穏やかになるが、握り締める拳からは血管が浮き出ていた。

リドルは気付いてしまった。

最初は彼らは理由があって別行動を取っていると思っていたが、それは間違っていた。




理由なんて無かった。でも、別行動を取っていた。

考えられる答えは、



「もう一人は・・・なんつうんだ、その・・・昔から俺とそのダチによく引っ付いてきて小言ばっか言いやがる口うるさい奴でよ。女なんだが俺たちが旅に出るときにどうしても付いていきたいって言うんだよ」



シオンも気付いた。

気付いてしまった瞬間にビドゥーに対する怒りが全てどこかに消えてしまった。残ったのは虚しさだけだった。



「足手まといにしかならなかったよ、正直。戦闘や力仕事は俺で、料理なんかは相棒がやっていた。その女は体術もできなければ家事もできなかった」

ビドゥーの表情が穏やかになる。拳を握り締める力も少しだけ弱くなる。

「でもな、それでも居てくれて良かったと思ってる。散々言い争ったりしたけども、よく考えたらガキの頃から三人で居ることが多かったんだよなぁ・・・」

ビドゥーが上を見上げた。ぼんやりとした灰色の空が広がってこの国を覆いつくしていた。

そのまましばらくビドゥーは黙って空を見続けていた。

何も言わず、ずっと。




「俺だけなんだ、魔導師だったのは」

ビドゥーがポツリと呟いた。




『魔力に対して抵抗力があるのは、魔導師以上の力を持った者だけ』


抵抗力の無い人間は




ビチャ



ビドゥーは再び強く拳を握り締めた。

その隙間からはポタポタと血が滴り落ちてきた。







ビドゥー「おう、鉄板をパンチで突き破れるぜ」

リドル 「貴方は化け物ですか」

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