2−1「夢の国」
バトルあり。死を比喩する表現あり。グロでは無いです
醒めない夢、悪夢
終わらない悪夢、恐怖
永遠の恐怖、死
まどろんだ世界の中、私は夢を見る
理想の世界、理想の国、理想の民
夢の中では私はその世界の王となり、全てが私の意のままに
その私だけの世界も、少しずつ・・・
蝕まれ、侵食されていく
飲み込まれていく・・・
消える・・・私の世界が、私の国が・・・
溶けて消える・・・
「不思議な国だ」
シオンが言った。
「不思議な国だね」
リドルが言った。
不気味なほどに人が少なくて、不気味なほどに静かで、不気味なほどに風も無く生暖かい空気が体に纏わり付いてくる。
とても、気持ちの悪い感じの国だった。
中に入ってしばらくすると、薄気味悪い感覚も和らいできて、代わりに微かな眠気が二人の表情に表れはじめて、ゆっくりとまどろみの世界に足を踏み入れる。
二人は“夢の国”と呼ばれる場所に来ていた。
国といっても広さは少し大きな町といったところで、中心部に城があってその周りを城下町が囲み、更にその周りを高い城壁が囲む。単純な構造だった。
「にしても何で“夢の国”なのかね」
リドルがぼやいた。本人はこの国をとても豊かな楽園か何かと思い込んでいたらしい。
「門番の兵士が言っていたな、ここは国王の夢が作り出した国だ・・・って」
「なんだそりゃ、随分と詩的だねぇ」
「いや、もしかしたら本当かも知れないぞ。この国は国王の見ている夢が具現化したもの・・・だとか」
「まっさかー」
二人は最初は冗談だと思っていた。
しかし、城下町を歩いているうちにこの国の異質な何かを感じ取った。
道行く人の顔を見てみるのだが、どうも皆元気の無さそうな表情をしている。すれ違う人の全てが下を向いて暗い表情を浮べて、よろよろと歩いていく。
「ど、どうしたんだろうね、この国の人たちは」
「皆揃って嫌な夢でも見たとか」
「まっさかー」
「・・・だよな、でも何かがおかしい。この国何かあるぞ・・・きっと」
「ま・・・まっさかー」
シオンが真剣な表情になったのを見て、リドルは不安になってきた。
門番と話したときから何かが妙だった。
城壁に囲まれた国の入り口で、たった一つしかない城門を二人の兵士が見張っていた。
遠くから見ると城門が陽炎のように時々歪んで見えたのだが、目の前まで来てみると城門はしっかりとそこにあるのが見えた。
「ようこそ」
門番がシオンたちを見ないで、どこを見ているのか分からない目をしながら言った。
「ようこそ」
もう一人の門番も口以外は微動だにせず、シオンたちに感情が全くこもっていない声で入国を歓迎するかのような台詞を喋った。
「この国は夢の国、王の夢が作り出すそこにあって、そこに無い国」
二人の門番が同時に、同じ声で、同じ喋り方で二人に言った。
言い終わると同時に大きな城門がまるで自らの意思を持っているかのように、勝手に開いた。
「あの、これって・・・入国許可ということですか?」
シオンが門番に聞くが、門番は全く反応しない。
「・・・ま、いいか」
「うーん、変な国だなぁ・・・。さっきから頭がぼんやりするし・・・」
「俺も、なんかだるい・・・・・・さっさと宿とって寝るか」
「さんせぇーい・・・」
二人が門をくぐって中に入ると、城門がゆっくりと閉まり出した。
「う、あ・・・ああ・・・」
門が閉まっていく中、二人の門番が呻き声をあげながらその場に蹲る。
「あ」
門が完全に閉まりガタンという大きな音を立てた瞬間に、二人の門番が一瞬で溶けて消えた。
鎧や服はそのままで肉体だけがいきなり赤い液体に変わって、ボタボタと地面に落ちる。
リドル「僕ね、いつか海賊王になるんだ」
シオン「そうか、まあ頑張れ」