1−2「これからできる町」
リドル「お茶と煎餅が好きです」
シオン「ラーメン、特に味噌」
「こんにちはっ」
リドルが元気よく男性に挨拶しました。
「やあ、こんにちは。旅人さんかな?」
男性も笑顔でリドルに挨拶しました。
「はい、といってもまだ駆け出しの身ですけどね」
追いついてきたシオンが代わりに答えました。
「この道はあなたが整備したんですか?」
シオンが聞いたら男性はまた嬉しそうな笑顔で答えます。
「ああ、私は・・・ここに町を作ろうと思っているんだ」
「町を・・・ですか?」
男性は頷いてシオンたちに話し出しました。
自分も遠く離れた国からここまでやってきた旅人だったということ、旅の目的は自分が住みやすい場所を探すためだったということ。
そして今は旅を止めてここでたった一人で町を作ろうとしていることを、シオンとリドルに話しました。
「若いころはね、ここは俺の居るべきところじゃない、もっといい所があるはずだ・・・ってあちこち旅して回ったんだけどね。どこの国や町、村も私には合わない感じがしてね・・・。結局何所にも移住しないでこうしてここで町をつくろうなんて馬鹿げた事をやってるわけさ」
「でもさおじさん、何でここに町を作ろうと思ったの。他にもっと条件の良さそうな所とかいっぱいありそうな気がするんだけど・・・。ここってほら、まず道がひどいじゃん」
リドルがあのでこぼこ道を思い出して、「もううんざりだ」と言わんばかりに嫌そうな顔をしました。
「ははは・・・そうだね、私も何を思ってこんな所に町を作ろうと思ったんだろうね」
男性は空を見上げながら少し考えました。
「うーん、そうだな・・・こんなところだから作ってみようと思ったのかも知れないな」
「はあ、物好きだねぇ・・・おじさんも」
「失礼だぞ、リドル」
「ははは、いやいいんだ。自分でもそう思うから、うん」
「しかし町を作ると言っても・・・一人だと難しいんじゃないですか?」
シオンが聞きましたが、男性は笑っていました。
「そうだな、下手したら私が死ぬまで町なんてできないかもしれない。でもそれでもいいんだ、いつかここに町ができれば・・・それで」
男性は遠くをじっと見て、そう言いました。
男性が目を細めるとしわが寄って、急に年老いたようにシオンには見えました。
「僕たちがここで旅を止めることはできませんが、ただ」
「・・・ただ?」
「いつかあなたが生きているうちに町ができることを願います」
「ありがとう、私が生きているうちに君たちが私の・・・いや、私たちの町に来てくれることを願うよ」
「次の町に着いたらここのこと伝えるよ、できるだけ多くの人に」
リドルがそう言うと男性は、
「ああ・・・ありがとう、本当に君たちはいい子だな。こんな私にそんなに優しい言葉をかけてくれたのは初めてだよ、ありがとう・・・ありがとう」
目からポロポロと涙を流しました。
「ここからだとあと二時間もしないうちに町に着くはずだ、私の作った道が途中まであるからそれを頼りに行くといい。道が終わる頃にはもう町が遠くに見えてくるはずだから・・・ああ、あとこの先に最近野盗が出るらしいから気をつけて」
「ありがとうございます、どうかお元気で!」
「何年かしたらまた来るよー」
「ははは、その頃には私はお爺さんだろうなぁー、きっと」
そう言って男性は手を振ってシオンたちを見送りました。
リドルもシオンも振り返ってしばらく男性に手を振ったあと、また前を向いて歩き出しました。
「いい人だったね」
「ああ、いい人だった。とても」
もうあの男性も、あの小屋も見えなくなった頃にリドルとシオンが言いました。
キレイな道を歩いていくと、遠くに町らしきものが見えてきました。あの男性に言われたとおりで、そこからは道がまたでこぼこしていました。
「うう、またこれか・・・」
「・・・少し、休むか」
リドルが驚きました。
「珍しい、雨でも振るんじゃないだろうか」
シオンが訝しげな顔をしてリドルを見ました。
「何だよ」
「いえいえ、お気遣い感謝します」
岩場に腰掛けて二人は少し遅めの昼食をとります。味気ない保存食と水ですが、無いよりマシなのでゆっくり味わうようにして食べています。
「しかし、よく一人で町なんか作る気になったよなぁ・・・」
「すごいよね・・・僕には真似できないよ、とても」
最後の一口を食べ終わったリドルがそう言って、水を一口飲みました。
「さて、じゃあ・・・そろそろ」
シオンが立ち上がって辺りを見回しました。大小様々な岩がそこら中に転がっています。
中には人ひとりが隠れられそうなほど大きなものもいくつかあります。
「出てきてくれませんか?」
リドル「読書が趣味です」
シオン「料理、こいつが好き嫌い多いくせに味に五月蝿いから」
リドル「こう見えても育ちがいいからね、ふふん」
シオン「なのにお茶と煎餅が好物なのか」
リドル「だってあれ美味いもん」
シオン「さいで」