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4−9「風の如く、駆け抜ける想い」



シオンたちは街中を駆け回って姉弟を探し回っていた

「ここも・・・っ」


氷付けになった人、切断された人

辺りは血で真っ赤に染まっていた

あまりの光景、鼻がつぶれてしまいそうなほどの悪臭にシオンは顔をしかめる


「早く見つけないと・・・」

シオンがそう促すが、リドルは動かない

「・・・リドル?」

声をかけても、黙って俯いたままである





数秒遅れて





「シオン」

リドルが顔を上げて返事をする

「僕、言ったよね。次はちゃんと戦うって」

そう言ったリドルの表情は何か腹をくくったようで、それでいて・・・


「止められると思ってた、まだ救えると思ってた・・・」

どこか儚げで、悲しげで

「でも・・・駄目かもしれない」

今にも崩れてしまいそうな、そんな気がした


「・・・もう、これ以上巻き込むわけにはいかない。だから・・・!」

シオンはリドルの覚悟を受け取って、そして

「ああ・・・分かったよ」

とだけ、返事をした








「ああ、愉しい。人を壊すって本当に愉しいわ」

「姉さま、そいつまだ生きてるよ」

セシルが地面に倒れているたくさんのの死体の中に、まだ息がある者を見つけた

「あらあら・・・それは大変」

見つかったことに怯えるその死にかけの獲物は涙でぐしゃぐしゃになった顔で、命乞いを始める。それを眺めてひとしきり愉しんだ後、セシルが脳天を叩き斬った


「鉄臭い血が私たちの揺り篭、断末魔の叫びが私たちの子守唄」

「もっと探そう、まだこのあたりに一杯隠れてるよ」

「ええ、そうねセシル。でも子どもは壊しちゃ駄目よ」


「うんっ」

そういいながら通路の脇に設置してあるゴミ箱のふたを開ける

「ひっ」

中には中年の男が一人隠れていた

「た、助け」

「あはは、本当にゴミみたーい」

言いながらセシルは剣を突き立てる。

二度、三度・・・

その度に男はピクピクと震えながら血を噴き出す


「広場にいた人間はこれで殆ど全員かしら」

「うん、殺したー」


話している二人の背後に、一人の男が現れた

「よくも私の・・・」

気が付いたディナが振り返る

「あら、さっき見た顔ね」

「逃がしちゃった奴だよ、姉さま」

ふーんと言いながら男を見つめるディナ


「よくも私の妻をぉぉぉぉ!!」

猛然と走りながらディナに向かってくる男。勢いよく拳を繰り出す


「触らないで下さる?」

ディナがそう言うと、男の拳がディナに触れる寸前で、凍りつき、一瞬で砕ける

「・・・・っ!!!」

男は声を出してもがこうとしたが、声を出そうとしても出せない

「ふふふ、中から凍らせるのも面白いわね」

「・・・・・・っ」

男はその場に崩れこみ、動かなくなる

「あらいけない、心臓まで凍らせちゃったわ」

ちっとも残念に思っていない様子で、ディナはクスクスと笑う




「・・・見つけたよ」

声がした。

ディナは驚いて声のするほうを向く。その先にはリドルとシオンが居た

「何故分かったの・・・?」


「沈黙の暗黒街」が発動している限り、悲鳴などの音がこの二人に届くことは無い。なのに何故こうも早く見つけられてしまったのか


「音とはつまり空気の振動。風の魔法を扱う僕にとって空気の流れを感じ取ることは簡単なこと」

つまり、空気の流れが止まっている場所・・・「音が全くしないところ」を探し出したというのだ


「ありえない・・・そんなのいくら魔法が使えるからって、到底できる芸当じゃ・・・」

この広い街の全体をそうやって探したというの?

だとしたら、また逃げてもすぐに見つかってしまう。それ以前に同じ手が通用するとも思えない。きっとまた白霧の魔法「金剛霧ダイアモンドダスト」で逃げようとしてもすぐに風で吹き飛ばされる・・・


「もう逃がさない。ここで君たちを仕留める」

リドルは剣を突きつける

「ふふ・・・いい眼をしているじゃない、貴方・・・」

ディナは両手をかざして、戦闘の態勢をとる。向こうもどうやら本気らしい


「貴方も私たちと同じ・・・暗い闇の中からでて来た者の眼・・・。しかも私たちよりも大分濁っている・・・それなのに何故そうやって居られるの?」

ディナの問いにリドルは答える

「そう在りたいと願ったから。また光の中で生きたいと願ったから。願ってくれる人たちが居るから」

「そう、貴方にはそういう人たちが居るから・・・でも、私たちには居なかった!!」

もの凄い冷気が迸る。周囲の建物が一瞬にして氷付けになってしまった


「何で私たちはっ!!どうして私たちがっ!!」

無数の氷の飛礫がリドルたち目掛けて飛んでくる

「はっ!」

シオンが剣を思いっきり振り、その剣圧で飛礫を振り払う

「何故私たちに冷たくするの?」

二人の頭上に巨大な氷柱が現れ、落下してくる


「だあああああっ!!!」

シオンは飛び上がってそれを両断する

「すごいねーその剣」

目の前にはセシルが居て、既に剣を振る動作に入っていた

空中では動作が僅かに鈍ってしまう、シオンの反応が僅かに遅れた

「ちょー・・・」

間一髪でシオンはセシルの剣を受ける

「だいっ!!」

もう片方の剣が襲い掛かる、だが

「ふわっ!!」

突如セシルが真横に吹っ飛ばされる


(本来ならありえない位置から突風・・・一体?)

リドルは地上に居た。そしてセシルは地上10メートルほどのところに居た

だがリドルの風の魔法は空中に居るセシルを、真横に吹っ飛ばした

通常の魔法は術者から放たれ、今のような位置で発動するなど在り得なかった


「・・・な!」

ディナが気付くとリドルはもう吹き飛ばされている最中のセシルに向かって飛んでいた

最初に見たときとは比べ物にならない速さだ。

このままでは氷の魔法で壁を作る前にセシルが攻撃を受けてしまう。そしてディナとリドルではディナの方が距離が近かった




選択肢はひとつ




ドス




「姉さま・・・?」

リドルが突き刺したのは、セシルではなくディナの肩だった。

剣を引き抜くリドル。

「怪我は無い・・・セシル」

「姉さま・・・血・・・」

「平気、私は大丈夫・・・」

セシルは両手の剣を強く握り締め、リドルの方を向いた

「姉さま、僕が守る」

「・・・セシル?」

「姉さまは僕が守る!!!!!」


セシルがリドルの方に突っ込んできた

「わああああああ!!!」

「止めなさいセシル!!」

ディナの声も聞かずセシルは剣を振り下ろす

だが、力任せの一撃はリドルにあっさりとかわされる。二撃目も難なく避けられてしまい隙ができる

「セシル!!」


力が抜けて動けない、集中力が落ちてしまっているから魔法もすぐには使えない




「姉さま、ごめん」




リドルの剣がセシルの心臓を貫く瞬間

そう聞こえた気がした。



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