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4−8「血染めの宴」



「ふふふ、どうしましょうかセシル」

人気の無い裏通りを走りながらディナが問いかける

「壊そう姉さま、いっぱい、いっぱい」


壊すんだ、何もかも


音も無く二人はただ走っていく

その歪んだ欲望を満たすための獲物を探すために



「ふふ、近いわ・・・」

出鱈目に入り組んだ通路を走っているように見えたが、二人の研ぎ澄まされた感覚は確実に獲物の臭いをたどっていた


少しずつ距離を詰めていく。相手はディナたちに気付いていないようだ


「5人くらい居るわ・・・良かったわね、セシル」

「うん!」






6人の若い男女だった。派手でだらしない格好で大手を振って歩いている

女の方が何か話すと、男の方が大げさな反応をする


ディナたちは後ろで彼らの様子を見ていてほくそ笑んだ

「浅ましいわね、がっつきすぎですわよ?」



その声を聞いた男たちが足を止めて、後ろを振り向いた



「・・・あぁ?」

三人の男はそれぞれ凄んでみせてディナを睨みつける

「子どもかよ・・・」

「餓鬼は早くママんとこに帰りな」


自分たちより身体の小さいセシルとディナを見て、男たちは確実に油断している

戦ったことの無いこの若者たちは、外見の強さでしか相手を測ることができなかった


「まるで自分たちが大人でいるつもりの言い草ね、セシル」

「そうだね姉さま。こいつら僕たちより弱いのに強い気でいるよ」

二人は示し合わせたように笑い出す



「・・・!」

男たちが一歩前に踏み出すのを見て女たちが

「ちょっとやめなよぉ」



「止めておきなさい、見栄のために命を捨てるなんて無意味よ」

「は?」

「駄目だこいつ・・・本の読みすぎだぜ、きっと」

「正義の味方気取りかぁ、ぎゃははは」



男たちは笑っていたが、少し脂汗のようなものをかいていた

どんなに鈍感な者でも、ディナとセシルがずっと殺意を向け続けていればすぐに気付くだろう

だが男たちはこの正体不明の不安が目の前の二人の子どもからの殺意だということに気付いていない



「下卑た笑い声、それで誤魔化しているつもり?」

「おい・・・あんまり調子に乗ると・・・」

わざとらしく男のうちの一人が拳を振り上げる



だが二人は笑ったままで全く動じない

「姉さま、こいつきっとカノジョの前だからカッコつけようとしてるんだよ」

「そうねセシル。弱い生き物は見せかけの強さに頼ることしかできないものね」


二人の安い挑発に男たちはあっさりと乗せられた





「てめ、このやろ・・・!!」




男が思いっきり拳を繰り出す




ザシュッ




「あははっ」

セシルが満面の笑みでその腕を切り捨てる




本体から離れた腕が赤い飛沫を撒き散らしながら宙を舞う

その間にセシルは続けざまにもう片方の腕を斬った

まだ男は斬られたことに気付いていない


そして右足、左足

最初に腕を斬ってからこれまでの動作は一秒に満たない僅かな時間で行われた




「・・・え?」

視界が急に下に落ちていくことで男はようやく自分の異変に気付いた


「ひ・・・・・・・」

後ろに居た女たちが

「いやああああああああああああ!!!!!!!」

悲鳴を上げる



「あ、あがが、はぐっ・・・」

四肢を一瞬にして失った男はもがく事もできずに地面にうつ伏せにナリ、苦悶の表情を浮べている


「ふふふ、弱いって愚かね。貴方が本当に強ければこうなることぐらい分かったはずなのに」

「ひ・・・!!」

男はビクッと怯える


今なら分かる、この二人はヤバイ

ただ強がって偉ぶっていた自分とは違う


声が、目つきが、動作の全てが恐ろしい

自分の常識の範疇を遥かに超えた、この二人


死に直面した今となって自分のか弱さを思い知らされる


「姉さま、こうつもう壊していい?」

「ひ・・・やめ、止めてくれ・・・」



後ろの五人に助けを求めようとしたが、既に五人はそこに居なかった

「・・・・・・!」

「逃げたわよ、あの人たち」

「そ、そんな・・・」

「当然でしょう、虎に捕まった一匹の鹿を助けに来るなんて・・・ねえ?」

「裏切りやがった・・・!」


その言葉を聞いてディナは大きな声で笑い出した

「あはははは、貴方・・・少し、足らないんじゃなくて?私たちから見れば貴方たちなんて所詮一人では何もできない弱者。だから群れている、けどお馬鹿な貴方たちはそれで自分たちが強くなったと勘違いするの」


ディナは思いっきり男の顔を踏みつけた

「はぐうっ」

「一人になった途端に随分と弱気になったじゃないの、ねえセシル?」

「うん、姉さま。・・・・いい?」

「ええ、どうぞ」



セシルが思いっきり剣を振り上げる



「わーい」

「待ってくれ、まだ俺」


振り下ろす






「ふふふ、おばぁ〜かさん」













五人の男女は必死で逃げていた

残された男のことなど全く気になどしていない

優先すべきは自分が生き残ること



「あっ」


女が一人躓いて転んだ。誰も助けない


「ちょっと・・・ちょっとぉ!!」

声は四人には届かない。急いで立ち上がろうとする

(やばいやばいやばいって・・・追いつかれたらあたし・・・!)

急いで走り出そうとする、その女の肩をやさしく触る者が居た


女の表情が凍りつく

「可哀想、見捨てられちゃったのね」

ゆっくりと振り返る、恐怖で両脚がガクガクと震える


「ふふふ」


振り返った瞬間見えたのは、満面の笑みを浮べるディナと、自分の横を猛スピードで通り過ぎていくセシルの姿


次の瞬間には女は凍りつき、その次の瞬間には粉々になっていた

同時にセシルの向かった先で男女の断末魔の叫びが聞こえた







「ああああああああああああ!!!!」

必死で逃げる3人。二人目の男は数秒前にセシルに細切れにされてしまった


残った二人の女のうち、後ろを走っていたほうの女が前を走る女の髪を掴んでグイと引き寄せた

「あっ・・・・!」

バランスを崩して女が倒れる。それを無視して髪を引っ張ったほうの女は走り去る


「何すんのよ!!!」

立ち上がりながら女が叫ぶ

「五月蝿い、あんたはそこで殺されてな!!」

酷い言い様だった、つい数分前には仲がよさそうに談笑していた者たちがこの様だ



「てっめえええええ!!ぶっころ」


言い終わる前に女は凍りづけになった

「駄目よ、レディーがそんな言葉遣い」

言いながらディナは凍り付けの女を指でピンと弾く。ガラガラと砕け散り、女が助かる可能性は0になる






「何なんだよ!!あいつら!!」

「知らないわよ!!」

残された二人の脚も限界が近づく、息も絶え絶えといった感じだ


「こ・・・これだけ走ってりゃ・・・」

男が後ろを振り返り、あの姉弟がもう追ってきていないかどうか確認しようとする


「振り切っ」


振り返ると目の前には跳び上がって剣を振りぬくセシルの姿が

「た」

その姿を確認したときには男の顔の、鼻の頭の辺りから上が吹き飛んでいた

それを見た最後の女は発狂したように走り出す


「あああああああああああああああ!!!」


突如目の前に氷の壁が現れ、女の行く手を遮る


「嫌、嫌・・・嫌ぁああああああああああああああ!!!」

ドンドンと女は壁を叩くが、全く壊れる気配が無い


「ふふふ、追いかけっこはおしまい」

「楽しかったー」


「やめ、止めて・・・」


セシルがゆっくりと一歩ずつ女に近づく

「止めて、止めて・・・止めてってば、あたしが何したって」



ブシュッと嫌な音がした後に、氷の壁が真っ赤に染まった




「何もしなくてもね、人は人を殺せるのよ」

「姉さま、僕もっと壊したいよ」

「ええ、そうね・・・まだまだ足りないわ」




セシルとディナは再び次の獲物を求めて走り出した

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