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4−7「沈黙の暗黒街」


「な、何だあれ・・・」

「水路が凍っている・・・」

「誰かいるわよ、船の上・・・っ」


白い霧が晴れたら周りに人だかりができていることに気が付いた


「人がこんなに大勢・・・いつの間にっ?」

誰かが近づくような音は聞こえなかった。

霧が晴れた途端に大勢の人、多くの話し声、足音、物音、ざわめき、雑音


これだけの、耳障りなまでの大きな音に今まで気付かないわけが無かった


普通ならば



「君の魔法だね」

リドルはディナの魔法によるものだとすぐに気付いた

「やっぱりアイツも魔法使いか」

シオンが確認するように言うと、リドルが頷く


「ふふ・・・賢いのね」


沈黙サイレント暗黒街ダーク

自分を中心とした一定の範囲の空間内の音を消し去る魔法

ただし術者は任意に無音化しない音を選べる

(今回の場合は霧の内外の音の行き来のみを対象に使用した)

この霧はディナの別の能力によるもので、「サイレントダーク」とは関係ない


ディナは周囲で騒いでいる人間たちを吟味するように見回した

その中で子どもを連れていた男女が水路の上の架け橋の上にいるのを見つけた。恐らく家族で祭りに来たのだろう


子どもはまだ5,6歳程度の幼い男の子だった

その子どもと目が合った瞬間にディナはニッコリと笑った


「セシル」


ディナが言った瞬間セシルが船の上から跳んだ。向かう方向はその親子の下


「あははっ」


親子はまだセシルがこちらに向かって跳んだことにすら気付いていなかった

セシルは父親の目の前まで来たら思いっきり持っている剣で思いっきり横に薙いだ





「・・・?」

手応えが無い・・・


見てみるとそこには腰を抜かして驚く父親と、それに寄りすがって泣きじゃくる子どもと母親

目の前にはさっきまで自分の近くに居た銀髪のアホ毛の少年


「させない」

リドルは自分の鞄から取り出した分厚い本でセシルの剣を受け止めていた



「何だよあれぇっ!」

「ひぃっっ!!」

ようやく状況を理解した周囲の人間たちが慌てふためいてその場から逃げようと走り出す


「うふふ、いい眺め」

逃げ惑う民衆を見てディナが微笑む

「・・・・・」

シオンはディナが何か企んだような顔をしているのを見て、警戒していた


自分まで戦闘に参加したらこの少女は何をするか分からない

それにあの少年は見る限り戦闘タイプ、特殊な魔法を使うわけではない

今のところは基本的な身体強化の魔法しか使っていない様子だった


警戒すべきはこの少女の魔法

今までで使ったのは音に関する魔法と冷気の魔法


どちらも範囲が広いが、一つ一つはそれほど厄介ではない

二つ同時に使われることこそが厄介なことだった


音が無いから目で見ないと分からない

常にあの動きに注意していないと、何をされるか分からない


気付かないうちに周りの人間が全員殺されていた、ということも有り得る

恐らく既にその能力で・・・





「邪魔ぁ・・・っ」

セシルはもう片方の手でまた剣をどこからか出してがら空きになってる反対側の横っ腹に向かって剣を振った



キン



また手応えが無かった

今度は剣で受け止められていた

セシルと同じで先ほどまではどこにも見なかった本が突如リドルの手に現れていた


「何でぇ・・・?」


セシルは何故リドルの持っている本には傷一つ付いていないのか、どこからリドルは剣を取り出したのかが不思議で仕方が無い様子だった


更にはリドルの持っている剣は、セシルのそれと比べるとかなり細身の剣だった

レイピアのような突きを主体として戦うための剣の腹の部分でセシルの大剣が受け止められるということは物理的には考えがたい



「さあ、何でだろうね」


言った直後リドルは魔法で突風を巻き起こしセシルを船の方へ吹き飛ばす

「うわっ」


体制を崩し風に飛ばされているセシルを、それより速い速度で飛んで追う


セシルに追いつくとリドルは突きを繰り出す

狙いは足


リドルはまだ命を取るつもりは無かった

足を狙って動きを止めるという考えで動いていた


「わぁー・・・」




ガキン



リドルの突きは突如目の前に現れた氷塊によって途中で止められた


「・・・」

剣を引き抜いてリドルはディナの方を見る


「安心してね、まだここにいる人間は誰も殺してないわ」

視線に気付いたディナは微笑みかける


「・・・!!」


リドルは目の前に弱めの突風を起こして自分を横に飛ばした

その直後に自分がいた場所に氷塊が現れる


「あら、残念」


アブソリュート・ゼロ

ディナのもう一つの魔法

自在に氷を出現させる魔法


先ほどの白い霧も、微細な氷が無数に空中を飛び回って作り出したものである



「うーん・・・」

ディナはわざとらしく考え込むような素振りを見せた後一言



「逃げましょうか、セシル」

「うん、姉さま」


セシルは言われるとすぐにディナの元に飛んでいった


「・・・リドル!!」



マズイ、逃げられたらあの姉弟を見失う



「分かってるけどっ・・・!」



近づこうとするとディナの氷が邪魔をする

仮に追いついたとしても、セシルとまともにやりあうことになる

正直接近戦では分が悪い


シオンならセシルには勝てるが、ディナの氷がそうはさせてくれない

標的をまだ逃げてない街の人間に向けられたら、リドルの反射速度では対応しきれない


周りの人間を庇いながら戦うというのは相当にやりづらいものだった



「ふふふ、では御機嫌よう」


二人は細い通路に逃げ込む

先ほどより更に濃い白い霧が辺りを包みだして、ディナとセシルの姿を隠す


「く・・・っ」


ここで逃がしてしまっては取り返しが付かない

リドルが強風を巻き起こして霧を吹き飛ばし、シオンがそこに突っ込む






だが既に姉弟は居なくなっていた


「くそ・・・っ」

悔しさからシオンが壁を叩く


「・・・・・・っ」

リドルがその場に力無く立ち尽くす





これではいつどこで「何をされても」音がしないので気付くことができない


物音も、悲鳴も全てディナのあの魔法でかき消されてしまう

入り組んでいてその上広いこの街でたった二人の人間を目だけで、すぐに見つけ出すのは不可能に等しい


更に悪いことに、シオンたちは知らなかったがディナの「サイレントダーク」ではディナとセシルだけは普通に音が聞こえるようにすることも可能だった



この魔法は相手の虚を突くことに関しては最高に優れた魔法である

一度目を離せばそこでおしまいだった




・・・普通ならば

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