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4−4「労働祭、影の都」


誤字脱字などありましたら・・・

優しく受け流してください(・ω・ )

そう、右から左へと

「ところであんた方、この街には観光にやってきたのかい?」

船主が尋ねる

「いいえ、僕たちは定期船に乗るために」

シオンがそう答えると、船主はそうかそうかと頷きながら

「じゃあ、この街で今日行われる祭りについては?」

シオンたちは首を横に振った



「そうかそうか、なら教えてあげよう。この街では毎年“労働祭”というものが行われるんだよ」

「何だかイヤーな名前・・・祭りなのに働かなくちゃいけないの?」

リドルは労働という単語が嫌いらしい。何とも将来が不安になる発言である

船主はぶっと吹き出したあと、大きな声で笑った


「あっはっは、逆だよ逆。名前で勘違いするかもしれないが、まあ・・・要するに普段汗水流して働いている者たちに対する労いの意味もあるんだ」

「むぅ・・・具体的にどんな内容なの?」

「主催しているお役所や貴族の人間が我々に食事なんかを振舞ういたって簡素なものだったんだがね、最初は。でもそのうち街の名物になるまでになって観光客も増えた。ありがたいことだよ、他の国には無いだろうな、うん」


船主は誇らしげにそう言った。

その様子をシオンはじっと見ていた

(濁ってる・・・)

リドルも何だかつまらなそうにしていた


「姉さま・・・」

船主の話にも全く興味を持たないセシルを見て、船主は

「きっとこの子も観光で来たんだろう。祭りはあと何時間かで始まるからそれまでに見つからなかったら会場に行けばいいさ」


気が付けばもうすぐ陽が落ちる時間である。

まだ宿をとっていないことに気付いたリドルが焦りだす

「このままじゃふかふかベッドがっ!」

シオンはそれはそれで構わないという感じだった。野宿すれば宿代が浮くからまあいいかという感じだった


「まあ、野宿でも俺は・・・」

「馬鹿っ、シオン馬鹿っ、そんなんじゃ旅の疲れは取れないよ、馬鹿馬鹿馬鹿っ」

休むことには全力で取り組むリドルはシオンの肩を掴んでブンブンと揺さ振った。


「それなら私が宿を紹介しよう、安いし食事が美味しいところだよ」

安上がりで済ますことに全力で取り組むシオンは、リドルの腕をパッと掴み

「じゃあそこで」

とだけ言った。



「ならすぐに行こう、私はその宿の店主とは知り合いだから顔が利く。もし満室でも予備の部屋があるからそこに泊めてくれるだろう」

「え、でも・・・まだ早くない?」

「遅いくらいだよ、今日はお祭りだからすぐに満室になっちまう。さあ行くよ」

まだ回っていないところがあるが、船主はすぐにでも宿にシオンたちを連れて行こうとした。

妙に焦っているというか、急かしているというか、どこか変な感じだった。


「姉さま」


セシルが建物と建物の間の細道の方を見て呟いた。


「・・・セシル、姉さまは悪いけどお祭りのときに」

「ちょっと待て、リドル」

シオンが何かに気付く。二人はセシルの視線の先に誰かが居る事に気付いた。


「探したわよセシル・・・心配したわよ、もう・・・」


その方向には、フリルのドレスを纏った金髪の少女が立っていた。

まるで人形のような整った、無機質な笑顔の少女がこちらを見ていた。


「えーと、この子のお姉さんですか?」

リドルが一応確認のために聞いてみる。

だが二人はこんな人気の無い所で、弟を探すためとはいえ女の子が一人で歩き回るのは不自然だと感じた。

何よりこの静かな場所で今まで少女の足音が全く聞こえなかったのも妙だった。


「ディナといいます。弟のセシルがご迷惑をおかけして申し訳ございません。ありがとうございます」

優しく笑ってディナという少女は一礼をした。

「あ、いやいや別に一緒に船乗って回ってただけだし気にしないで下さい」

リドルがほぼ同年代の少女に対して軽い感じで会話をする中、リドルとシオンは二人を警戒していた。


特にセシルの方に


「姉さま、僕もう我慢できないよ」


今まで賊やら何やらと何度か命のやり取りをしてきた二人だが、その中で分かったことがいくつかある

魔力を操り、魔具や魔法、魔術を駆使して闘うシオンたちにとって、普通の人間が相手ならば目を瞑っていても無傷で、相手を倒すことは可能である


「そう・・・我慢してたのね、偉いわセシル」

「えへへー」


ただ、魔法使いも魔力を使わなければ普通の人間と殆ど変わらない。だから普通の人間と思って油断していたら急に魔法を使ってきて思わぬ痛手を被ることがある


区別することは容易ではない。だが、今までの闘いの中で二人は僅かな違いを感じ取る


「弟さんが見つかって良かったな、ところで今晩の宿は?」

全く気付いていない船主がディナに話しかける


「まだなら私の知り合いがやっている宿を紹介しよう、さあ君も船に乗りなさい」

セシルはじーっと船主を見つめる。

しかし船主はディナの方を向いていてそれに気付かない


ディナはくすっと笑って

「その宿屋はさぞ素晴らしいものなのでしょうね」

声が聞こえてきた。恐ろしく冷たくて妖しげな声だった。

僅かに周囲の空気が冷たくなるのを感じる


船主が一瞬驚いたようにしていたが、笑いながら答える

「ああ・・・とても素晴らしいよ、保証しよう」

船主はいまだに気付いていなかった



ディナの眼に浮かぶ負の感情





殺意





「リドル」

「大丈夫」

シオンとリドルはそのやり取りだけで互いの意思を伝えた。


「んー・・・」

セシルは相変わらず無表情のまま船主を見ている


「どうした、乗らないのか。船が苦手なのかい、なら場所を教えるから・・・」

「いいえ、場所は知ってるわ。一度一度行ったことがあるから・・・奴隷として」


船主の表情が一瞬崩れる

「な、何のことかな」

「言葉の通りよ・・・一度私たちはあそこで売り飛ばされたのよ。奴隷商人さん」


「奴隷・・・?」

リドルが訝しげに船主を見る。船主の顔からは汗が滲み出ていた

(奴隷か、なるほど・・・)

「何を言ってるんだ、あまりでたらめなことを言ってると・・・」


急に周囲の空気がサーっと音を立てながら白くなっていった

「な、何だこの霧はっ?」

船主だけが慌てふためいていた


船主はこの白い空気を霧と言ったが、実際には違っていた。

「ふふふ、そこのお二方」

姿は見えなくなったが、ディナがシオンたちに声をかけてきた

「良かったわね、その男についていったら身包み剥がされてどこかの貴族に奴隷として売り飛ばされていたわよ」


水面が凍りつくほど空気が冷たくなっていた。

白い空気はパリパリと音を立てている

「何だこれ・・・さ、寒い・・・」

船主一人だけが寒さに凍える。恐らくは何らかの魔法によるものだろう。使っているのはおそらくディナ


「この街の忌まわしき過去って奴か・・・」

シオンが何か知っている風に言った


「あら、知っているの?」

相変わらず姿の見えない少女は少し残念そうに言う。

「いや、この人の話がどうにも腑に落ちなくて」

「それは僕も思った」

リドルが口を挟む。シオンはディナの方を見た


「どうぞ」

そう言われてシオンは話し出す

「労働祭ってのも結局のところ過去に奴隷だった人間たちにしてきたことに対する償いのつもりなんだろうなって思っていたよ。償われるべき人間はどうせ殆ど死んだんだろうがな」


「いい読みよ、でも少し違う」

船主が一人だけ凍えそうな表情をしている中、シオンとリドル、そしてセシルと(姿は見えないが恐らく)ディナは平気そうだった


「は・・・は、は・・・寒い・・・はひ・・・」

既に船主の身体は蒼白くなっているが、誰一人として気にかけることは無かった

セシルは全くその場から動かず、固まったようにしている


「そうか、自信あったんだけどな」


「は・・・はふ、かはっ・・・」

船主の身体の表面に霜が降りてきて、顔や手の皮はひび割れて血が滲んできた


「ひ・・・ひぬ、はふけへくへ・・・・」

船主が何と言ったかは分かったが、誰も船主を助けなかった




ぶしゅっ




身体のところどころから血が吹き出したが、一瞬でそれも凍りついた。

まるで真っ赤な無数の針が身体中に刺さっているかのような状態で、船主が呻き声を上げる


「だの・む・・助けでっ・・ぐれっ・・・かはっ」

必死で助けを求める船主。

「ああ、もう喋らなくていいわ貴方・・・口を閉じなさい」


「ぞんな、死ん・・じまっ」

「セシル」

「うんっ!」





ズシャッ





どこから出したのかセシルは真っ黒い刀身の両刃剣を抜いて船主の胴体を切断した。

血が噴き出すより凍りつくのが速かったので、飛び散るようなことは無かった。

上半身が凍った水路の表面にごろんと転がり落ちる


「さて、良かったら正解を教えてあげましょうか?」

「そうだな、できれば死ぬ前にお願いしたいね」









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