2−8「夢は醒めるもの」
「さあ、そろそろ終わりにしましょう・・・」
どちらが倒れるにしても、もう次の一手で全てが決まる
「死ぬ前に教えてあげようかしら、この国のこと。気になるでしょう・・・この国に入ってから感じる違和感、その正体が」
穏やかな笑みを浮べてアルプが語りかけてくる。
「この国は王の見る夢、王が見る夢を具現化した世界なの」
「・・・?」
三人ともいっていることをよく理解できないで居る。
「この国の王の能力は“夢可遊興”、夢で見たものをそのまま現実へと具現化する力」
「なるほど、とするとこの国の中は王の夢の中に等しいって訳か。どおりで夢魔であるお前が存在していられるわけだ」
ビドゥーが言うとアルプは笑顔で肯定を示す。
「王は現実に失望し、疲れていた。せめて夢の中では自分が王となり理想とする世界を求めた」
アルプはまるで思い出を語るように三人に話す。
「でもその王の望みも叶わなかった。この夢の国にも様々な欲望を持った人間がやってきた」
三人は警戒をしつつもアルプの話を聞いていた。
「王は絶望した、夢の中にすらも自分の求めるものが無いのだから。だから・・・」
そこでアルプは言葉を濁した。
「いえ、今更話しても変わらないこと」
右手に魔力を集中させる。
「ああ、そうだな。お前さんが何を考えているか、何をしたいか、それは俺たちには関係の無いことだ」
ビドゥーが言い放った。
「そうよね、あなたは私が憎い、憎くて仕方が無い・・・殺しても足りないくらい憎い」
「そんなんじゃねえよ」
しばらくの間静寂がその場を包み込む。
アルプもビドゥーも何かを悟ったような顔をしていた。
「さて、そろそろか」
ビドゥーがそう言ってアルプの方ではなくリドルの方を見た。
「・・・?」
アルプは訝しげにその様子を見る。そしてあることに気付く。
「・・・ああ、油断したわ」
アルプは身体を動かそうとしたが、全く動かなかった。
「何かしら・・・金縛りでもないし、やはり・・・大気の壁?」
「まあそんなとこ、大気を圧縮して両手両足を固定したからまず動けないよ」
少し長い時間をかけてリドルが発動した大気圧縮の魔法“空気結塊”がアルプの動きを封じていた。
「・・・ああ、あっけないものね。これで私は負けたのね」
それにしてはアルプは全く悔しそうなそ素振りを見せない。
「さて、俺はお前が降参しようがしまいがお前をぶち殺したいんだが」
ビドゥーが拳を構える。神経もボロボロになっているなか、僅かに残っている感覚を頼りに身体を動かす。
「そうね、私が降参しようがしまいがあなたの腕も、身体ももう・・・」
アルプはビドゥーの腕が既に使い物にならないことに気付いていた。
気付いていた上でわざと知らないような振りをしていたのだった。
「お前さんも相当来てるな、分かっててなぜ・・・」
「あら、あなたと同じような理由よ」
シオンとリドルは黙って二人を見ていた。
何となくだが手を出してはいけないような気がした。
「お前を千発・・・ぶん殴る」
腕はとうに限界を過ぎていた。
気力の問題だった。
「最期に言う事は」
ビドゥーが夢魔に尋ねる。
「そうね・・・」
夢魔はゆっくりと口を開く
あなたは人間、私は夢魔・・・だけど
「愛してる」