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チョコバーで英語、please

作者: WAIai
掲載日:2026/11/01

秋の風が冷たく感じる中、カフェのオーブンテラスに、2人の青年がいた。

1人は高橋友也といい、美容師で30代。

そしてもう1人は、上野文哉といい、食品関係の会社員だった。

まだ20代で、友也と比べると、初々しさが残っている。

今日は土曜日で休みなので、友也を誘って出かけて来たのだった。

2人ともちらちらと見られており、訳ありのイケメンのようだった。

「友也さん、今日は付き合ってくれて、ありがとうございます」

「どういたしまして」

カップを持つ友也は、西洋人のようにかっこよく、文哉は憧れを抱くのだった。

文哉も一口飲むと、冷め始めていた身体が、暖かくなるのだった。

ー友也さんは信頼できるし、頼り甲斐があるんだよな。

尊敬の眼差しを向けると、友也が聞いてくる。

「なんだ? 何かついているか?」

「いいえ。そうじゃなくて…その、かっこいいなと思って」

「何を言っているんだ。お前のほうが若くて、さっきから店員さんが気にしている」

「え…?」

ちらりと店内を見れば、2人並んだ店員がこちらを見て、盆で顔を隠す。

どうやら恥ずかしいらしい。

ー俺もまだまだだな。もっと周りを見ないと。

嬉しくなって手を振ると、店員が振り返してくれる。

後で連絡先を聞こうと思い、友也に話しかける。

「友也さんは? 結婚しないんですか?」

「余計なことは聞くな。結婚はな、人生の終わりじゃなくて、始まりなんだよ」

「そうなんだ…。すみません、変なことを言って」

「お前だから許す」

友也がはっきり言った途端、風が流れ、落ち葉が踊っていく。

友也の機嫌が悪くなったかなと思ったが、そうでもないらしく、彼は脚を組み替える。

いいな、様になってと思っていると、

「Excuse me(すみません)」

と声をかけられる。

金髪が太陽の弱い光でも眩しく、長身の美人だった。

文哉と友也は一瞬、固まったが、先に文哉が動き出す。

「Just moment please(ちょっと待ってください)」

そう言うと、リュックを引き寄せ、チョコバーを取り出す。

これは文哉専用で、彼は一口食べると、早めに嚥下する。

そして外国人の女性に向き合うと、話し出す。

「What wrong? (どうしたの?)」

「Wow!! Can you speak English?(英語が話せますか?)」

「Yes.Ofcours(はい、もちろん)」

にこりと笑った文哉は、チョコバーをもう一口、齧る。

それは魔法のチョコバーで、食べると英語が話せるのだった。

外国人の女性も文哉の英語の発音が良くなったのに気づいたらしく、リラックスしたようだった。

「おい、文哉、頑張れ」

友也は傍観するようで、テーブルに肘をつきながら、こちらを眺めている。

ここはいい男ぶりを見せなければと、意気込む。

「I want to go to postoffice. Are you OK?(私は郵便局に行きたいのですが、大丈夫ですか?)」

「I see.(分かりました)」

文哉は堂々と答えると、指さしながら案内を始める。

「Go straight and traffic light one to arrive turn left.And go straight to arrive postoffice.Do you understand?(まっすぐに行って、1つ目の信号機に辿り着いたら、左に曲がって、また進んでいくと、郵便局に到着します。理解できましたか?)」

「Oh!! Thank you very much!! That is lifesaver.(ありがとうございます。本当に助かりました)」

女性は表情を明るくすると、いきなりハグしてきて、頬にキスしてくれる。

文哉は驚いたが、役に立ったのが嬉しく、ハグし返す。

「Bye!!」

「Bye」

女性が手を振って去っていく。

文哉は残り香を楽しみながら、少しぼうっとする。

目を覚まさせたのは、友也が指を弾いたからだった。

「え? え? あ、友也さん、何ですか?」

「何じゃない。全く、鼻の下を伸ばして。連絡先でも聞けば良かったのに」

「あー!! しまった!! 今から…」

「もういい。とりあえず座れ」

文哉は女性の後ろ姿を気にしつつ、席に戻る。

残りのチョコバーを丸めると、大事にリュックにしまう。

「お前の魔法、いいよな。チョコバーを食べると、英語が話せるんだから」

友也が小声で言ってきたので、文哉も小さく返す。

「何を言っているんですか。友也さんだって、すごいですよ」

「まあな。便利で助かる」

「今度、髪のカット、お願いできますか?」

「いいよ。いつにする?」

2人で話していると、通り過がりの子どもが、何故か手を振ってくる。

文哉は可愛いその男の子に振り返すと、男の子の瞳がきらきらと輝き出す。

「ーこら、晴明」

手を繋いでいる男性が頭を下げてきたので、文哉も気持ち良く頭を下げる。

「…子ども、いいな」

見送っていると、友也が目の前で手をバチンと叩いてくる。

「あのな、子どもを育てるって、大変なんだぞ。お金はかかるし、身体と心のバランスも見てやらないといけないし。人間が人間を育てるなんて、甘くないんだよ。生まれなければ良かったとか言われたら、ショックだろう?」

「それは…。確かに」

文哉の人生を振り返ってみても、楽しいことは2割くらいで、辛いことや悲しいことが残りの分だった。

友也に会えたから助かったが、そうでなければ、自分は今、こうして優雅にティータイムなんて、できないはずだった。

ーそうか。人間が人間を育てるのは、甘くないか。それはそうだよな。言葉を教えて、字を書くのを教えてって、1から人生をやり直すみたいなものだものな。簡単に考えては駄目だ。

文哉は顔を引き締めると、カップに入った残りを、一気に飲む。

チョコバーが甘かったからか、口の中がまろやかな感じになる。

「さて、そろそろ行くか」

「行きましょうか。服を選んでもらうの、楽しみです!!」

「私に感謝しろよ? センスいいとか言われているんだろう?」

「えへへ。その通りです」

2人は立ち上がると、店員が「きゃあ」と声を上げたようだった。

また来ますと手を振ると、店員が振り返してくれる。

いい娘達だと思っていると、友也が服を引っ張ってくる。

「お前は優し過ぎる。ちょっと厳しくなれ」

「え? 俺、優しいですか? そんなことはないと思うんだけど…」

外国人の女性のキスの感触がまだあり、ゆっくりと触れてみる。

人助けも悪くないと思えるのだった。

「行きましょう、友也さん」

「おう」

2人は肩を並べると、木枯らしが吹く中、歩いていくのだった。


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