クリスマスに上司に彼女を寝取られた俺は自分に好意を持ってるという女性に出会ったのだが
「どれにしようかな?」
もうすぐクリスマス。
俺は自分の彼女のために指輪を選んでいた。
彼女の伊織とは同じ会社の同期として知り合い意気投合して付き合い始めた。
それから五年経ち俺も27歳となる。
彼女も27歳になっているので今後も彼女と付き合っていくなら今度のクリスマスに指輪を渡してプロポーズしようと考えたのだ。
「よし、これに決めた」
指輪を購入した俺はプロポーズするためのレストランも予約して準備を整えた。
後は彼女に連絡してクリスマスに会う約束をすればいい。
俺は携帯電話で彼女に連絡をした。
「もしもし、伊織?」
『あ、文哉? どうしたの?』
「今度のクリスマスにデートしないかなって思って」
『あ~、ごめん、文哉。クリスマスの日は休日出勤しないとなんだ。だから会えないわ』
「そうか……それならしょうがないな。また今度にしよう」
『うん。ごめんね~』
携帯電話を切り俺は溜め息を吐く。
伊織の部署は経理を担当するところで期日までにやらなければならない仕事があると休日出勤をする。
「あ~あ、レストランの予約はキャンセルしないとな」
俺はそう思いながら自宅へと戻った。
クリスマス当日。
伊織は休日出勤でも俺は休み。
彼女とも会えないし何をして過ごそうか考えた時に俺は名案が浮かぶ。
伊織の家の合鍵は持っているから彼女に秘密で夕飯を作って待っていれば伊織も喜ぶかもしれない。
何もプロポーズをするのにレストランじゃなくても自宅で二人でクリスマスパーティーをした後にしてもいいはずだ。
そう思った俺は食材をスーパーで購入した後に伊織の住むマンションに向かった。
合鍵で伊織の自宅の玄関を開けた俺はすぐに異変に気付く。
玄関に男物の靴があったのだ。
どうして男の靴が……?
そう思った時に奥の寝室から伊織の声が聞こえた気がした。
俺は嫌な予感がして音を立てないように寝室の扉を少しだけ開けて中を見る。
「やっぱり御木本課長は素敵ですわ!」
「ハハハッ! 伊織ちゃんの身体も素敵だよ!」
寝室のベッドの上で裸で絡み合っていたのは俺の彼女の伊織と上司の経理課長の御木本だ。
「伊織!」
「ひ! な、なんで、文哉がここに!?」
「え! ふ、文哉くんだって!?」
俺が寝室に踏み込むと二人は慌てて自分たちの裸体を毛布で隠す。
伊織の奴、休日出勤と嘘をついて御木本課長と浮気するなんて許せねえ!
「伊織! 御木本課長と浮気するなんて許さねえぞ!」
怒りで俺がそう怒鳴ると伊織の態度が変わる。
「悪いけど、御木本課長とは入社当時からの付き合いなのよ。文哉とはその後に付き合い始めたから浮気相手だっていうなら浮気相手は文哉の方よ」
「な、なんだって!? 俺の方が浮気相手だと!?」
「伊織ちゃんの言う通りだよ、文哉くん。私は独身だから伊織ちゃんと付き合っていても問題ないが立場というモノがあるから私が伊織ちゃんに私たちの関係を隠すカモフラージュのために君と付き合うように指示したんだ」
御木本課長も態度を変えドヤ顔で俺を嘲笑う。
俺は五年間も御木本課長に彼女を寝取られていたのか。
クソッ! 俺を馬鹿にしやがって!
「伊織! もう今後一切お前とは縁を切るからな!」
「かまわないわよ。むしろ縁を切られるのは文哉の方よ。ねえ、御木本課長」
「そうだね。私は文哉くんの上司とも仲がいいから君は我が社の戦力にはならないと進言しておくよ。ちょうど人員削減の話があるから君は真っ先には会社をクビになるだろうね、アハハハッ!」
俺をクビにするだって?
いいさ! 俺の方から辞めてやる!
「そんなの俺の方から辞めてやるさ!」
啖呵を切った俺は伊織のマンションを飛び出す。
外は既に暗くなりクリスマスのイルミネーションが輝き始めていた。
そんな道を俺は力なく歩く。
そして公園のベンチに座る。
勢いよく啖呵を切ったけどいきなり無職になったのは辛い。
だけど今更伊織も御木本課長も許す気はない。
「あれ、鷺沼さんじゃないですか。こんなところでどうかしたんですか?」
「君は……A社との共同チームで一緒だった槇原さん…だったっけ…?」
「そうですよ。A社の槇原のぞみです。覚えていてくれて嬉しいです。クリスマスなのに鷺沼さんはここで何をしてるんですか?」
槇原さんは俺の会社と共同である製品を開発する研究をしていた時のA社側の担当の人だ。
見た目が可愛いだけじゃなくその優秀さに驚いたので俺の中で強い印象が残っている。
俺は仕事の都合で途中から共同チームから抜けたけど彼女のことは覚えていた。
「いや、ちょっと、いろいろあってさ……」
「私で良かったら悩みごとや愚痴なら聞きますよ。私もクリスマスと言っても独り身で時間だけはあるので」
そう言って俺の隣りに座る槇原さんの優しさが身に染みる。
「それじゃあ、情けない男の愚痴を聞いてくれる……?」
「喜んで」
俺は槇原さんに伊織と御木本課長にされた仕打ちについて愚痴った。
槇原さんは黙って俺の話を聞いてくれていた。
そして俺が話し終わると槇原さんはニコリと微笑む。
「そんな酷い二人のことなんか忘れちゃえばいいですよ。それに鷺沼さんの再就職の件なら私の知人に会社経営してる人がいるのでそこに口利きしてあげます」
「え? 本当に?」
「ええ。鷺沼さんの実力は一緒に仕事をした私が一番よく知ってますから。ただし、ひとつだけ条件があります」
「条件って……どんな……?」
「私は共同チームで一緒に働いていた時に鷺沼さんのこと好きだったんです。だから私と付き合ってくれませんか?」
「え? でもちょっと……」
「鷺沼さんは彼女と別れたすぐに私と付き合う気にはなれませんか?」
「え、え~と、その、まあ、そうかも……」
「それなら今すぐでなく、一年後のクリスマスまでに鷺沼さんが私のことを好きになったら付き合ってください」
「う、うん……それなら、いいよ」
「約束ですよ!」
槇原さんはニコリと微笑む。
俺にはその微笑みが天使のように見えた。
槇原さんが一年待ってくれるなら俺もそれまでに気持ちを切り替えて槇原さんのことを前向きに考えよう。
それから俺は槇原さんの紹介である会社に転職した。
転職してから忙しい毎日だったがあっという間に一年が過ぎる。
もうすぐクリスマスだ。
槇原さんとはこの一年交流を重ね彼女がとても優しい人物であることが分かった。
伊織にされた仕打ちの心の傷も癒えてきたので俺は今度のクリスマスに槇原さんに交際を申し込もうと決意する。
そしてクリスマスの当日、槇原さんと会う約束をして俺は待ち合わせ場所のクリスマスツリーの前で待っていた。
すると俺の携帯電話がなる。着信相手は伊織だ。
そういえば伊織の番号を着信拒否するのを忘れてたな。
無視しようとも思ったがしつこく鳴り続ける電話に俺は仕方なく出る。
「もしもし」
『もしもし、文哉!? お願い! 助けて欲しいの!』
「はあ? なんで俺がお前のこと助けないとなんだよ。何があったか知らねえが御木本課長に助けてもらえばいいだろ?」
『それが御木本課長は投資で失敗してできた借金を返そうとして会社のお金を横領した罪で逮捕されちゃったのよ! 課長が逮捕されてから私は妊娠してることが分かって両親に誰の子供だって問い詰められてるの! お願い! 子供の父親になってよ!』
御木本課長が借金返済のために会社の金を横領して逮捕だって?
しかもその課長との子供を妊娠してるのが課長の逮捕後に分かるなんて伊織もざまあねえな!
俺を馬鹿にした天罰ってヤツさ! アハハハハッ!!
「自分の子供じゃないのに誰が父親になるかっての! もう電話してくるなよ!」
『ちょ、ちょっと、ふみ……』
俺は携帯電話を切り槇原さんが来るのを待つことにした。
御木本課長と伊織がざまあになるなんて気分がいいな。
これで槇原さんと無事交際できたら今日は人生最高のクリスマスになるだろうな。
そこへ槇原さんがやって来たので俺は槇原さんに交際を申し込む。
「槇原さん。いや、のぞみさん。どうか俺と付き合ってくれませんか!」
「鷺沼さん…ううん、文哉くん。喜んでお付き合いします。これからよろしくね」
やったあーっ!! ハッピークリスマスだ!!
神様、最高のクリスマスプレゼントをありがとう!!
「例の御木本という男は横領の罪で警察に逮捕されたようです」
「ご苦労さん。計画通りだな。あの男が偽の投資話にひっかかってくれて良かったぜ。借金返済を迫ったら会社の金に手をつけるのは目に見えていたしな」
男はタバコを吸いながら部下の男から渡された報告書を確認する。
すると男の携帯電話が鳴ったので男はその電話に出た。
「もしもし。俺からのクリスマスプレゼントは気に入ったかい?」
『ありがとう。文哉くんを苦しめた男と女を破滅させるというクリスマスプレゼントをくれて。おかげで文哉くんは上機嫌で私に交際を申し込んでくれたわ』
「幼馴染の君が幸せになってくれるならそれが俺にとっても幸せだからね。まさか君に贈る最後のクリスマスプレゼントにこんな厄介なモノを強請られると思わなかったよ」
『ごめんなさい。もうあなたに迷惑かけずに生きていくから。私はあなたと同じ世界では生きないっていうのが幼馴染だったあなたとの約束だもんね』
「そうだよ。俺はもう君とは別世界の人間だ」
『分かってるわ。無理なお願いは今回だけにするから。それよりもう仕事は慣れたの?』
「まだ親父の跡を継いで一年だからね。俺の時代はこれからさ」
『幼馴染のあなたがいつか関東最大の極道組織の頂点に立つことを願っているわ、フフフッ』
「ああ。のぞみも幸せになれよ」




