寸分違わぬ勇者の鎧
重々しい槌音が響くガンドールの街。ガランの案内に従い、アレンたちは裏路地にひっそりと佇む武具屋の暖簾をくぐった。
店内は鉄と油の匂いが充満し、壁という壁に無骨な剣や鎧が所狭しと立てかけられている。
カウンターの奥から、髭もじゃのドワーフの店主が顔を出した。ガランの顔を見ると、短く顎をしゃくる。
「ガランの旦那か。その後ろのヒョロいのが、噂の勇者様ってわけだ」
店主はアレンの頭からつま先までをジロリと一瞥した。
彼はそのまま店の奥へと引っ込み、埃の舞う倉庫から運び出してきたのは、古びた「重圧の木箱」だった。
長年封印されていたはずのその蓋がゆっくりと開かれた瞬間、アレンは息を呑んだ。
箱の中に鎮座していたのは、時の流れを拒絶したかのような、一点の曇りもない白銀の鎧。
「大昔からうちの倉で眠っていた『勇者専用』の特注品だ。どんな素材でできてるかも分からねえが、とにかく頑丈さだけは保証する。だがな、体格が合わなきゃただの鉄クズだぜ。着てみな」
金属の輝きは驚くほど瑞々しく、手に取ればたった今手入れを終えたばかりのような油の匂いが鼻をくすぐる。驚くべきことに、留め具の革もしなやかで、まるで昨日まで誰かが使っていたかのように指に馴染んだ
(何百年もこの箱の中で眠っていたはずなのに……。店主さんが、いつか現れる勇者のために、毎日、毎日、欠かさず磨き続けてきた証なんだ!その想い、絶対に報わなきゃ)
アレンは店主の「献身」に胸を熱くし、高揚感と共に鎧を身に付けた。
その瞬間、アレンは驚き、そして震えた。
革のベルトを締め直す必要すらない。肩幅、胸囲、腕の長さ、そして関節を曲げる位置に至るまで。
ミリ単位の狂いもなく、まるでアレンに合わせてあらかじめ成型されていたかのように、完全に身体にフィットしたのだ。
「すごい! 調整もしていないのに、最初から僕のためのオーダーメイドみたいだ!」
アレンは興奮気味に声を上げた。
何百年も前の、しかも使い古された防具が、今日初めて店を訪れた少年の身体にこれほど完璧に合うなど、あり得ない奇跡だ。自分が本物の勇者であることを、世界が祝福してくれている。アレンは純粋にそう信じた。
ガランは腕を組み、さも当然のことのように深く頷いた。
「ああ。よく似合ってるぜ、アレン」
その無骨な顔には、アレンの実力を認めるような、頼もしい笑みが浮かんでいた。
アレンの数歩後ろ。そこではリアがいつものように純白の法衣を揺らし、笑顔で微笑んでいた。
「ええ。さすが選ばれし勇者サマ。アレンにこそ、そのお姿こそが相応しいです」
ドワーフの店主もまた、満足げに鼻を鳴らした。
「さすがは勇者サマだ。鎧の方から、主を選んだってわけだ」
「みんな、ありがとう! 僕、この鎧と一緒に、もっともっと強くなってみせるよ!」
アレンは笑顔で応え、新しい鎧の感触を確かめるように、銀色の籠手を強く握りしめた。
ガシャリ、と冷たい金属音が店内に響く。
武具屋の暖簾をくぐり、表の通りに出たところで、ガランがふと足を止めた。
「さてと。防具も揃ったことだし、今後の話だがな」
ガランは無精髭をさすりながら、アレンとリアを交互に見やった。
「俺が前衛で盾になり、聖女様が後ろから治癒を飛ばす。お前がその隙を突く。今のところ悪くねえ形だが、これじゃあ遠距離からの決定打に欠ける。強力な攻撃魔法が使える奴が一人、欲しいところだな」
「魔法使いか。確かにそうだね。でも、そんな都合よく腕の立つ人が見つかるかな」
アレンの言葉に、ガランはニヤリと笑って東の空を顎でしゃくった。
「心当たりなら一つあるぜ。ここから東へ抜けた先にある『静寂の森』だ。そこに、若くして宮廷魔導師を追放されたっていう、偏屈な天才が隠れ住んでるらしい」
「ええ。彼女の名はセシリアですね」
リアが、ガランの言葉を継ぐようにして、どこまでも澄んだ声で言った。
「宮廷でも、彼女の魔法の腕は随一だと噂に聞いておりました。勇者様の旅路には、きっと彼女の力が必要になるはずです。さあ、静寂の森へ向かいましょう」
王都出身のリアなら宮廷の事情に詳しいのも頷ける。二人の淀みない完璧な案内に、アレンは「本当に頼りになる仲間だな」と目を輝かせた。
「すごいな、二人とも物知りだね! よし、次の目的地は決まりだ!」
アレンは無邪気な笑顔で、ガンドールのくすんだ街並みを歩き出した。
頼もしい仲間。手に入れたばかりの、自分に完璧に馴染む伝説の装備。
出来上がったばかりの完璧なパーティーは、一切の淀みなく、ただ真っ直ぐに東の森へと向かっていく。




