ガラン再開
焼けたリナスの村を後にした僕たちは、次なる目的地『鉄鋼の街 ガンドール』へと辿り着いた。
絶えず重々しい槌音が響き渡り、無数の煙突から吐き出される黒煙が空を焦がす、無骨な職人と荒くれ者たちの街。
前回と同じ道を辿り、僕は見覚えのある裏路地へと迷わず足を進めた。目指すは酒場『鉄の拳亭』だ。
(落ち着け。リアに言われた通り、前回と同じように振る舞うんだ……)
分厚い木扉を押し開けると、むせ返るような熱気と安酒の匂いが立ち込めた。
部屋の最奥のテーブル。そこに陣取る一際巨大な背中と、燃えるような赤毛を見た瞬間、僕の胸の奥で熱いものが弾けた。
(ガラン……っ!)
何度、その巨大な盾に背中を守ってもらっただろう。
何度、その豪快な笑い声に救われただろう。
駆け寄って強く抱きしめたい衝動を必死に噛み殺し、僕は努めて平坦な声を作った。
「あんたがガランか? リナスの村の長老から、紹介状を預かってきたんだ」
ジョッキを飲み干したガランは、鬱陶しそうに僕をにらみ据えた。
「なんだ、ヒョロガキが。勇者の紋章か何か知らねえが、戦場じゃあそんなおもちゃの印は何の役にも立たねえぞ。帰りな、坊主。火傷する前にな」
前回と全く同じ、冷たい突き放し文句。
(ああ、ガランだ。本物のガランだ……!)
内心の喜びに顔が綻びそうになるのを、僕は必死に奥歯を噛んで耐えた。
前回ならここでリアが前に出て説得してくれたはずだが、僕が不自然に口をつぐんでプルプル震えているせいか、リアは少し不思議そうな目で僕を見つめている。
沈黙が落ちた、その時だった。
『カンカンカンカンッ!!』
街の見張り塔から、けたたましい警鐘が鳴り響いた。
「魔物だッ!! 西門の防壁が破られたぞ!! オークの大群だァッ!!」
血相を変えた男が飛び込んでくる。悲鳴と共に店内がパニックに陥る中、ガランは無言で巨大盾と戦鎚を掴み上げ、誰よりも早く店を飛び出した。
僕も、リアとアイコンタクトを交わしてすぐに後を追う。
西門付近は、既に二メートルを超えるオークの群れによって蹂躙されかけていた。逃げ遅れた親子の頭上に、巨大な棍棒が振り下ろされる。
「どけェッ! 俺が『盾』になるッ!!」
怒号と共に、ガランが盾を地面に叩きつけた。凄まじい衝撃音が響き、オークたちの同時攻撃が弾き返される。
ガランがオークの体勢を崩した、まさにそのコンマ一秒後。
「はあああッ!」
僕はガランの巨体の脇をすり抜けるように飛び出し、聖剣を振り抜いた。
黄金の軌跡が、大盾に気を取られていたオークの首を正確に刎ね飛ばす。血飛沫は聖剣に触れる前に光となって消え去った。
「チッ、お節介な勇者様だ。足手まといになるなよ!」
「任せてくれ、ガラン!」
背中合わせになる二人。
(……最高だ)
僕は無意識のうちに、口角が吊り上がるのを止められなかった。
オークがガランの死角である右後ろから迫る。だが、僕には痛いほどわかっていた。ガランの癖、盾を振るタイミング、そして彼がカバーしきれない隙のすべてが。
ガランが右に踏み込むより早く、僕は彼の死角に潜り込み、オークの心臓を貫く。
ガランが豪快な『盾打撃』で敵を怯ませた瞬間には、既に僕の刃がその喉元を切り裂いている。
言葉を交わす必要すらない。まるで一つの生き物のように、僕とガランの動きは完璧に噛み合っていた。
為す術もなく、オークたちは次々と僕たちの足元に沈んでいく。
「……ふう」
最後の一体が地響きを立てて倒れる頃、僕は心底満たされた思いで息を吐き、聖剣を鞘に収めた。
歓声を上げる街の人々の中で、ガランは盾を背負い直しながら、ひどく怪訝な顔で僕をジッと見下ろしていた。
「おい、坊主。……いや、アレン」
「なんだい? ガラン」
ようやく再会できた嬉しさと、完璧な連携が決まった高揚感で、僕は自分でもわかるくらい満面の笑みを浮かべていた。
「お前……腕は確かに悪くねえし、初めて組んだとは思えねえくらいやりやすかったが……」
ガランは顔を引きつらせて、ボソリと吐き捨てた。
「血みどろの乱戦の中で、ずっとニヤニヤ笑いながらオークの首飛ばしてんの、控えめに言ってすげえ気持ち悪いぞ」
「えっ」
「なんかこう……俺の動きを全部先読みされてるみたいで、背中合わせで戦ってて背筋が寒くなったわ。お前、頭のネジ飛んでるだろ」
僕はハッとして両頬を押さえた。
しまった。ガランが無事で、また一緒に戦えるのが嬉しすぎて、完全に顔に出ていたらしい。
ドン引きしているガランの隣に、いつの間にかリアが静かに歩み寄ってきた。
「ガラン様。アレンは少し感情の表現が不器用なのです。でも、彼の実力は、認めていただけたのではありませんか?」
「……ちっ、まあな。金は要らねえ。俺も魔王の軍勢には借りがある」
ガランは頭をガシガシと掻きむしり、大きな溜息をついた。
「だが条件がある。お前の力がどこまで通用するか、俺が一番近くで見届けてやる。背中は預けるが、俺の足を引っ張ったら置いていくからな」
差し出された岩のような大きな掌。
前回の時と同じその不器用な気遣いに、僕はまた泣きそうになるのを堪え、力強く握り返した。
「ああ。よろしく頼む、ガラン!」
「だからニヤニヤすんなっての! 気持ちわりいな!」
ガランは悪態をつきながらも、どこか呆れたように笑った。
僕の変態的な立ち回りのせいで最初の出会いからは少しズレてしまったけれど、頼もしい前衛の要は、再び僕の隣に戻ってきてくれたのだ。




