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二度目の、初めての旅立ち

「……行きましょう、アレン。あなたの行くべき道は、光射す王宮よ」


リアに導かれ、大聖堂の重厚な扉がゆっくりと開かれる。

途端に、目も眩むような陽光と、耳をつんざくような大歓声が僕を包み込んだ。


「おおおおお!! 勇者様だ! 勇者様がお目覚めになられたぞ!!」

「万歳! 勇者アレン様、万歳!!」


白亜の石造りの家々が立ち並ぶ大通り。空を舞う無数の花びらと、熱狂する群衆。


(……すごい。前回もこんな感じだったっけ)


一度体験しているからこそ、僕は落ち着いてその景色を受け入れていた。記憶の中にある光景と目の前の現実が重なり、自分が「時間を廻ったこと」を改めて実感した。


「お兄ちゃん、がんばってね!」


人混みの中から小さな女の子が飛び出してきた。手には一輪の白い花が握られている。

前回はただ黙って受け取るだけだったが、今度は違う。僕は笑顔でしゃがみ込み、彼女の目を見てしっかりと頷いた。


「ありがとう! がんばってくるね!」


僕が元気に返事をすると、女の子はクルリと背を向けて、そそくさと人混みの中に消えていった。


(ふふっ。恥ずかしかったのかな。)


僕はもらった花を大切に握りしめながら微笑んだ。



その後、王宮の謁見の間へと向かった僕は、王から伝説の聖剣を授与された。

きらびやかなシャンデリアの光を反射して、黄金の剣が眩く輝いている。


前回は緊張のあまり、周りを見る余裕など全くなかった。だが今回は、視線を横に向けるだけの余裕がある。

僕は、壁際にずらりと並んだ近衛兵たちを見て、密かに感心のため息を漏らした。彼らは全員、ピタリと一糸乱れぬ動作で剣を掲げている。息遣い一つ揃っているかのような、完璧すぎる敬礼。


(すごいな……! きっと、この日のために何回も厳しい練習を重ねてきたんだ)


彼らの動作を、僕は純粋に尊敬のまなざしで見つめていた。



王都を出発し、賑やかな喧騒から離れた城門前。

静寂に包まれたその場所で、同行するリアがふと足を止め、真剣な眼差しで僕に向き直った。


「アレン。聖痕を通じて、あなたの歩んだ軌跡を見せてもらったわ」

「え……」

「前回、私はパーティの皆に『勇者には治癒魔法が効かない』と正直に告げてしまった。あれは失敗だったわ。そのせいで、皆の士気を大きく下げてしまったのだから」


リアは伏し目がちに、悔やむように言葉を続ける。


「だから今回は、仲間として合流した際に、私がこっそりと上手く説明するわ。……そしてもう一つ。あなたが『回帰』したことは、絶対に誰にも言ってはダメよ」

「どうして!? 自分が未来から戻ってきたって分かれば、みんなも――」

「勇者は、皆の希望なのよ」


リアの強い声が、僕の言葉をぴしゃりと遮った。


「魔王軍に惨敗して、逃げるように戻ってきた勇者……そんな事実を知れば、人々はどう思うかしら?」

「……っ。でも、仲間には! 危険が迫っているなら、事前に伝えるべきだ!」

「同行する仲間なら、なおのこと告げるべきではないわ」


リアは僕の手を両手で優しく、しかし逃げ場のないほどしっかりと包み込んだ。


「彼らは『勇者が魔王を倒すのは当然だ』と少しも疑っていないの。絶対に勝つと信じているからこそ、命を懸けてついてきてくれるのよ。だから、不安を与えるような真似はしてはいけないわ」


(……そうか。リアの言う通りだ)


みんなの希望であり続けるため。不安にさせないため。

僕はリアの言葉に深く納得し、自分が『回帰』したという真実を、胸の奥底に隠し通すことを決意した。


ただ、一つだけ気になったことがあり、僕はふと尋ねた。


「……ねえ、リア。僕の『軌跡』を見たなら……僕は一体、何回この旅をやり直したの?」


これほど過酷な死の記憶。自分は何度、あの魔王軍に挑んでは敗れてきたのだろうか。純粋な疑問だった。


だが、その問いを聞いた瞬間。

リアの顔から、ふっと感情が抜け落ちた。


困ったような、ひどく悲しいような――それでいて、どこか虚ろな表情。

彼女は僕と目を合わせず、明後日の方向へと視線を彷徨わせた。


「……」


僕は、『あまりにも残酷な真実を告げることをためらっている、聖女の優しさ』なのだと思った。

リアの瞳は、焦点が合っておらず、ただ虚空の一点をじっと見つめている。


(……言いにくいこと、聞いちゃったかな)


僕が気まずさに耐えかねて口を開こうとした……その時。


長く続いた沈黙を終え、リアはゆっくりと視線を戻した。

彼女は僕の右手――黄金に輝く『勇者の印』をじっと見つめて、静かに答えた。


「……あなたは、394番目よ」

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